人事のプロが切り開く、【シニア人材】のこれからとは?

2018年段階で、64歳未満の「生産年齢人数」は総人口の59.7%。1950年代以来の最高水準を記録し、日本の人材不足が浮き彫りとなっています。
しかし一方で、日本で暮らす60代後半の高齢者のうち、約65%は「まだ働きたい」と考えています。しかし、この年齢層での就業率は46.6%に留まり、企業と労働者の労働意識にズレが発生していることが伺えます。働きたいシニア人材が働く環境を得られず、働く意欲を無くしてしまう、あるいは働く意欲を維持するに十分な処遇が得られない理由とは一体何なのでしょうか。その現実、そして課題や対処法について「シニア人材のいま」を見ていきたいと思います。

シニア人材の現実


人材不足解消に効果的とされるシニア人材の雇い入れですが、実際問題としてこの制度には多くの課題が残されています。シニア人材の現実を知って、今後の雇い入れを成功させる参考にしていければと思います。

モチベーションの低下


現状、シニア人材のモチベーション低下は見逃せない大きな問題です。モチベーションが低下する原因は主に、希望する仕事ができないことと待遇への不満の2つです。
シニア人材の中には高い能力を持ち、仕事に対する貢献意欲も高い方も多くいます。彼らに対して制度一律のルールを制定してしまうと、せっかく持っている意欲を奪ってしまう恐れがあるのです。シニア制度を取り入れ、シニア人材を活用するには四角四面に制度のルールを守るのではなく、多様なニーズを持つ個々のシニア人材に適した柔軟な運用設計を作っていかなければなりません。

需給と企業施策


現状、企業の人材マネジメントはその構造上、パフォーマンス発揮への期待感の差(身体的能力の差)や、需給状況や活用のしやすさで扱いに格差を作ってしまうという問題があります。そういった格差によって働きがいを無くしたり、不適切な評価を受けたりといった、しわ寄せがシニア人材に集中していることが想定されます。

今後、労働人口の減少によって新卒採用や中途での既戦力の採用等、「入口戦略」による労働力の確保の難易度は上昇していくでしょう。企業はこの先の労働力確保について、その戦略を大きく転換しなければならない時を迎えているのです。

シニア人材の課題

では、シニア人材を活性化させるための課題、そしてその改善策にはどういったものがあるのでしょうか。シニア人材に対して持つ課題とそれぞれの対処法について見ていきましょう。

出口戦略の重要性


多くの企業では、採用や雇用期間に対する問題解決や対策には時間やコストを当てています。しかし、退職していく人材に対する「出口戦略」に対して注目している企業は多くありませんでした。日本型雇用の中心にある「定年制度」や「退職金制度」が、人材のリテンションに寄与してきたこともあり、多くの企業においてこれらの制度は、未だに人事制度の一つとして考えられています。

それゆえ、一定の年齢(いわゆる定年)になれば自動的に退職するために出口に対して特別な運用やしくみを講じる必要がありませんでした。年齢という誰にでも平等に訪れるものが基準になっているがゆえ、「考える必要」が無く”思考停止”状態に陥っていたと考えます。これまで企業は出口戦略に真正面に向き合ってこなかったのです。

このまま出口戦略を改善しなければ、会社の戦力となるシニア人材を逃してしまう原因となるでしょう。シニア人材に対しての様々な施策を検討・実施・整備していくことでスキルが高い人材を確保し続けられるという点に意識を向けていかなければなりません。

働きがいの創出と多様性


社員のリテンションを実現するには、「評価・処遇」は非常に大切です。しかし、それ以外にも社員の働きがいの創出や、雇用形態の多様性も欠かすことができないポイントです。例えば、年齢を重ねたシニア人材には多くのライフイベントや、人生観があります。その多様なライフイベントや、人生観を受容できない状況になれば仕事を続けていくことが困難になる可能性があります。

それがきっかけで仕事を辞めざるを得ないしくみを取り入れているのであれば、貴重な人材の流出、人材の持つ経験値、ノウハウ等のナレッジの流出となり、自社として戦力ダウンとなる可能性があります。こういったマイナス面を改善するためには、変化を受け入れ柔軟な勤務形態を提案できる制度が必要になります。

また、定年後も「働きがい」を持ち続け、成長したいと思えるような目標や仕事を提示することも重要です。業務を成功させた人材に対しては適切な評価を与え、さらに成長を促すための役割を与える流れを徹底すれば、仕事に対する意欲が失われず定年を延長したり、再雇用を受けたりして会社に携わっていきたいと思うシニア人材が増加するはずです。シニアの活躍は、処遇改善だけが全てではありません。「仕事の成果は次なる仕事を与える」という「仕事の成果は『仕事』」といった考え方がシニア人材の活躍に導くポイントになると思われます。

適切な処遇


企業では、常に社員への適切な処遇が課題となります。それは、定年後再雇用したシニア人材でも同様です。人材に合ったポジション・役職への登用を行い、それに基づいた報酬の徹底を行わなければなりません。そのためには成果や生産性を透明化し、正しい評価ができる環境を作ることも大切です。

シニア人材が納得する処遇を定めるには、人材マネジメントと人事制度によって、等級・報酬・制度といった三つのパートをバランスよく考慮していかなければならないのです。

モチベーション低下を防止する効果的対策

モチベーションとのトレード


企業側はシニア人材のモチベーションに対して、何をトレードできるかに注視する必要があります。例えば、責任のある役職や専門性の高い仕事を与えることができればシニア人材のモチベーションを高く保ち続けてくれることに期待できます。万が一トレードできるものが無い場合には、周囲にシニア人材のモチベーション低下が悪影響を及ぼさないような防衛策も考えていかなければなりません。

シニア人材の選択肢の拡充

シニア制度を考えていく上でのポイントの一つに選択肢の多様性があります。多様な考えを持つシニア人材は画一的な処遇ではなく、個々の考えに合った多様なコースをつくり「選択できる」ことが大切になります。自己選択したものであれば「与えられたもの」、「やらされるもの」ではなく「自ら望んでやるべきもの」となり、モチベーションの維持・向上に寄与します。

選択肢を提示する際には自己選択と会社選択の2通りが想定されますが、モチベーション維持に努める場合にはなるべく自己選択での要望に合わせて職務内容や処遇を定めていくことが肝要です。
選択肢を会社側から提示する場合、シニア人材の希望に沿った内容では無いとモチベーション低下に繋がる恐れがあります。その際には、処遇や給与を安定した状態で提示するなど別の対処法も取り入れましょう。

▼処遇の形態(イメージ)

セルフアカウンタビリティ型 コーポレートアカウンタビリティ型
特徴 ・自己選択による仕事
・職務選択
・受け入れ部門の面接あり
※フリーエージェント制/ジョブ公募制
・会社からの与える役割を限定
・会社の期待する限定的な責任。職務を遂行
※本人と面談は実施
職務内容 ・自己の選択した仕事(モチベーションは高い) ・会社の期待する限定的な責任・職務を遂行
処遇 ・受け入れ部門の専門性に合致する場合:高報酬(現役時代と遜色ない)
・受け入れ部門のコスト感により安い場合もある(外注などとの比較)
・単年度契約:アンマッチがあれば失職
・限定業務になるため減額
・単年度契約だが、原則65歳までの継続雇用可

役職任期制・役職定年制


シニア人材のモチベーションには「役職」も大きく関わってきます。役職定年制とは、定年時、あるいは55歳、58歳等定年前の一定年齢を基準にもともと付いていた役職をはく奪され、低い役職で働かなければならないためシニア人材のモチベーションが低下する一因となりがちです。

そのため、特定のシニア人材を役職者として継続的に任用したい場合、受け入れる企業では例外的に役職定年制を無くす処置を取る場合もあります。役職を維持すればシニア人材のモチベーションは維持されますが、一方で若い世代の社員がいつまでも上のポストに行かれないことになり働く意欲を失ってしまうという問題が発生します。

また、役職定年まで残期間が短い時期にさしかかると、たとえパフォーマンスが低下してきた場合でも軋轢を生む役職の解任を選択せず、役職定年の到来を待つケースも発生します。いわゆる役職年齢までが「通行証」となり、役職(ポスト)の滞留をまねくパラドックスが発生します。

役職任期制とは役職に対して一定期間の任期を設定し、能力や実績で役職入れ替えを行う制度です。一定レベル以上の人材には誰にでもチャレンジする機会があれば門戸が広がります。シニア人材であれリベンジのチャンスがあるような設計も可能です。この制度の場合、例え再雇用されたシニア人材であっても貢献度によっては役職を維持することが可能となり、働くことに対する意欲を高まりやすくなります。

また、若い社員も努力次第では自身にもチャンスがあるとモチベーションを高く保てるでしょう。
ただし、正しい評価・判断基準が設けられていない場合には制度が適切に稼働せず、結果的に表面だけの制度に陥る恐れもあるので注意が必要です。

まとめ:実現すべき3つのバランス

シニア人材のモチベーションを高め、スキルを活かして活躍してもらうには

  • 役割や責任と処遇のバランス
  • キャリアパスや人生観・仕事観(就労観)とのバランス
  • 望む仕事と与える仕事のバランス

を細かく調節し、制度全体で一律のルールを設けるのではなく個人を分析し、それぞれに適切な提案をする必要があります。

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