組織開発とは
組織開発とは、究極的には「ビジネスとして成果(業績)を継続的に上げ続ける組織をつくる」ことになります。ただ、通常「組織開発」といった言葉を用いる場合には、「成果・業績」だけでなく、「ビジネス創造が推進できる組織」「強いコミットとスキルをもった人材が集う組織」など、組織そのものの強さなどを包含したものを想定している場合が多いと思います。すなわち、やみくもに「成果創出組織」を作り上げることではなく、組織やチームでの一体感を高め、組織の「活性状態」を実現し、生き生きと働くことができる職場にしていくための取り組みと言えます。
組織開発としては、組織そのものが持つ(活用する)リソース(ヒト・モノ・カネ・情報・時間など)の最適化や活性化など、「組織そのもののストラクチャーとしての在り方」を模索するものと、組織の中にいる人材のチームビルディング、モチベーションの在り方、エンゲージメントの状況などにフォーカスを当てた「組織を構成する人材の在り方」に分けることができます。
近年は、労働人口の減少などによる「労働力不足」「労働供給制約社会」の到来もあり、組織の人材面にフォーカスした議論が多く注目を集めています。特に、人材の表面的な状況のみならず、「組織人材の内面に着目したアプローチ」も多数開発されており、「組織や職場で起きている目には見えにくい人間関係やプロセスの側面にも目を向け、原因の見える化」が推進されています。加えて、その解決に向けた取り組みも、明確なソリューションを用いて構造的に改革していくといったものだけでなく、メンバー間の対話と協働などにより、「目的や意味を分かち合い、共通の目的に向かって走っていける状態になる」、「今まで以上に、力を結集し、自律的に成果に向かっていく状態になる」などの組織の活動面や人の意識面、組織風土を“じんわり”と変化させ、組織活性化に繋げていく取組みも増えています。
人材開発が、個々の人材の能力開発に焦点を当てているのに対して、組織開発は人と人との間の関係性やプロセスに焦点を当てていることが違いですが、共通の目的に向かって自律的に走っていくチームをつくり、組織を活性化し、生産性を高め成果を出していくためのものとして、「人材開発」と「組織開発」双方の差異は小さくなってきている状況にあります。いわゆるこの2つが有機的に融合して機能することこそが組織が大きな変化や成長を遂げる(あるいは成長を維持する)ためには必要と言えます。
なぜ組織開発が注目を集めているか
現在、いまだかつてなく組織やチームで一体感を醸成し、共通のベクトルに向かってマネジメントしていくことが困難な時代になっています。理由は大きく3つ挙げられます。
1つ目は、労働人口の減少により、補完的に推進された多様性、すなわち多様な人材の労働参加が進んでいることです。
みなさんの職場を見渡していただくと、育児や介護をしながら働く人材、シニア人材、外国籍の人材、そして新卒で入社した人材もいれば、中途で入社した人材もおり、多種多様な人材がいる状況にあると思います。
それぞれ年代も異なれば、歩んできたキャリアも違う。経験も異なっており、それぞれの多様な働く価値観を背景に、ますます共通の目的に向かった合意形成が難しくなってきていると思います。
2つ目は、ビジネスの難度が上がってきている環境において、仕事の質がより専門化・細分化してきています。一方で、ビジネステーマが高度化・複雑な課題の解決などが求められるため、より組織的取り組み、チームでの取り組みによる成果創出が必要にもなります。そのために、メンバーひとりひとりが専門性を活かして自律的・主体的に課題解決・目標達成に取り組むとともに、組織全体で支援し協働して、コラボレーションを実現することが求められます。すなわち、個々の取り組みを通じて、組織を包含する取り組みに昇華させるマネジメントが必要になります。
3つ目は、パンデミックを背景に、多様な働き方、特に環境的・物理的な面で「分散型ワークスタイル」が急速に「進んでしまった」ことです。あまりにも急速に進んだことで、旧来型のコミュニケーションスタイルが維持できない状態になってしまったことが挙げられます。
デジタルツールなどの進化も相まって、コミュニケーションがツールの活用を含めてバーチャルになったことにより、組織やチームのマネジメントには自ずとフラストレーションが出てきがちです。これらの理由により、「組織的」といったものが「渇望」されているにもかかわらず、今まで以上に「お互いが理解し合い、分かり合う」ことの難しさが増し、「すれ違い」「認識の齟齬」が出ているような状況も散見されます。結果として組織の活力が失われ、遠心力が働いてしまうことにもなりかねません。
難度が増した状況下こそ「求心力を高め、組織やチームのメンバーが共通の目的やゴールに向かって走っていくことができるようにする取り組み」が相対的に重要性にフォーカスされ、組織開発が強く求められるのです。
組織開発が機能するポイント
では、どのようにしたら組織開発が機能するかという点については、以下がポイントです。
- 組織開発における働きかけのベースとして、重視している価値観(パーパス・ビジョン・社会的価値などの共通の価値観)があるかどうか
- 価値観を主軸とした実践的組織開発に取り組めているかどうか
これらのポイントを押さえつつ、推進にはさらに以下の事項を念頭においた取り組みを行う必要があります。
性善説に立った取り組み
組織人材は基本的に善い方向に考え行動するものであり、適切な場が与えられれば善処する(善い方向に物事を進める)と考えること
自律的取り組み
組織人材は、自ら考え取り組む自律性が備わっているため、適切な方向やゴールを示すことができれば、自律的・自発的取り組みが行われると考えること
双方向性の高い議論を経た取り組み
物事を決定し推進する際には、できる限り多くの人が議論に参加し双方向の議論を経て納得のある取り組みとすること(双方向性の議論の結果、質も高まる)
関与者がそれぞれ当事者意識をもった取り組み
組織開発は誰かが中心になって取り組みが行われるのではなく、自らが「当事者」として取り組む必要があると考えること
つまり、組織やチームのひとりひとりが自律的かつ主体的に活動することで、結果として「組織開発」が実現します。また、「組織開発を促進する『取り組み』『プロセス』」が『組織開発』そのものであり、『組織開発』を推進することにつながります。
組織開発の実践
では、組織開発としてはどのようなステップで実施していくべきでしょうか。組織開発にはたくさんの手法が存在しています。ただし、いずれの手法であっても、進め方のステップには共通点があります。
組織開発の共通する3つの事項
見える化(What?)
見える化とは、同じ物事であっても人によって捉え方や見え方が異なる現状を「共通の“見え方”にする」最初のステップです。誰しも物事を自分の見たいように見て、解釈をしています。それは、生まれ育って身についたそれぞれの価値観やモノの見方、ビジョン、置かれた環境などにより、見え方や解釈が異なっているものです。お互いの見え方の違いを浮き彫りにし、お互いの捉え方の違いに気づくことが見える化であり、最初のステップになります。平たい言い方をすると「スタート地点を合わせること」です。
例えば、「見え方が合っていない」ケースなどを考えてみましょう。「組織開発」の例ではありませんが、会議でクレーム処理を検討する場面を思い浮かべてください。
お客様のクレームに対して、Aさんは「部品に問題があったのではないでしょうか」と話し、Bさんは「お客様の使用方法が想定と異なっていたのではないでしょうか」と話をするなどといった場面があったりします。
この2人の議論がかみあっていないのは、発生した事象や事実が正しく“分かっていない”から発生しているといえます。原因を追究する議論をする前に、「何が起こったか」を正確にかつ共通認識としなければ議論もかみ合いません。まさに「現状の認識が合っていない」状況にあります。
組織開発も同様です。このようなスタート地点を合わせられなければ解決の糸口も異なるのです。
ガチンコでの対話(So What?)
ガチンコでの対話(ガチ対話)とは、その言葉通り、関係者全員が一堂に会して、真剣勝負でガチンコに対決・対話をしていく組織開発の中核プロセスです。何が根本的な原因かを認識していくステップです。人は日々、客観的事実の中に生きているのではなく、それぞれ自らが見えている範囲の事実や事象をベースに物事を捉え、意味づけした主観の中で過ごしています。真剣な対話をしてみると、気が付かなかった認識の差や視点の差など思いもよらなかったことが見えてきます。普段は直視せずに見ないでいた都合の悪いことや伝えてこなかった自分なりの解釈や認識、自分だけが知っている事実など様々なものがあります。それらを俎上に載せて真剣勝負の対話をしていくわけですから、そこはリアルな本音が飛び交う場になります。
このような共通認識ができてくるようになれば次のステップに行くことができます。
この議論は、時間内で結論を出すのではなく、時間の許す限り探求を深めていくことが大切です。多角的な視点をすり合わせ、共通認識が醸成できた「見える化」が実現すると、まさにスタート地点が一緒になったといえます。
未来づくり(Now What?)
これからどうするかを関係者一同で決めることです。物事を考えるときやはり向かうべき方向性の認識が合っていることが大事です。
先ほど同様、会議でクレーム処理を検討する場面で考えてみましょう。
お客様のクレームに対して、Aさんは「原因は何でしょうか?原因を追究して根本原因から解決しましょう」と話し、Bさんは「まずお客様に対処することが先でしょう。すぐに謝罪に伺いましょう」と話をするなどといった場面があったりします。
この2人の議論がかみあっていないのは、発生したクレームを検討するこの会議で、「原因を明確にして、再発防止策を構築する」ことと考えているのか「まず、次にとるべき“一次対応”を明確にする対処行動を決める」ことと捉えているのかの違いです。まさに「これからどうするかが一致していない」状況にあります。
組織開発においても同様です。抜本的な風土改革など時間をかけて、根本から作り直すための議論を図り、方策を導きだすことを標榜しているのか、あるいは、まず何か打ち手を打って、少しでも組織開発が動きだしている胎動を感じてもらうことで組織にいる方々に“影響”を与えていくことを標榜しているのかなど、ネクストステップの認識やゴールイメージを共有しなければなりません。
まとめ
言われてみると当たり前の取り組みであり、「何だそういうことか」と感じるかもしれません。しかし、この当たり前をきちんとひとつひとつ確実にステップを踏んで行うことが意外と難しいものです。検討するメンバーが変わってしまったり、推進する際の後ろ盾になっていた役員が変わったり、状況の変化により継続的にステップを踏むことは難しいものです。最初の掛け声はよかったが、組織の中で意思疎通や関係性のズレから機会を逸失し、その結果しりすぼみになってしまうといった例は多いものです。
また、十分な時間をとり、「共通認識」を醸成しないまま進めることにより、表面的な差異のみが噴出して、推進チームがギスギスしまってうまくいかないといったことも多いと思います。特に最近の傾向としての組織開発が「人」にフォーカスしていることを勘案すると、明確な仕組みやルール、制度などによるものより『時間』を『共有』することによる変化などの方が重要である場合も多いです。目では見えない『時間』を味方に付け、進めるためにもこれまで示してきたポイントやステップを一つひとつ丁寧にクリアしていくことが肝要です。
当たり前ですが、心の火が点くと、人は走り出すものです。組織開発とその結果である組織の活性化に関心があるのであれば、人事制度の構築など人材マネジメントの仕組みを整えることに取り組むことは効果的です。またそれと同時に、個々の人材の内面と関係性にフォーカスをあて、組織開発に着手することにもチャレンジしてみるのはいかがでしょうか。
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