人事のプロが【同一労働同一賃金】制度のポイントについて語る!

2020年から施行(中小企業は2021年)される「同一労働・同一賃金」とは、同じ職場で同等の仕事をしている正社員と非正規社員の待遇・賃金格差を無くすという考え方の制度です。これは、それぞれの正規/非正規といった「立場」では無く「仕事」、つまり”ジョブに基づいた処遇を実現せよ”という政府から企業に向けたメッセージなのです。

しかし、同一労働・同一賃金を実現するには、契約形態による各企業の是正や最低賃金の全国一律化、ダイバーシティの促進など多くの課題が残されています。また、「仕事」基準の賃金体系は、モバイルワーク、スマートワークの推進や、地方創生の実現をうながします。今回はその一環である同一労働・同一賃金について、施行の背景や課題について見ていきたいと思います。

同一労働・同一賃金の背景

「同一労働・同一賃金」が施行される背景には、国の深刻な人材不足と労働者の格差差別が挙げられます。それぞれの背景を詳しく見ていきたいと思います。

3つの"ない"


今、日本の労働人口では3つの“ない”が深刻な課題となっています。まず、国内では2012年から2030年にかけて若者労働人口(15歳~29歳の就業可能人口)が17%減少するといわれています。全体数が減少する状況で若者労働力を確保するのは確実に難易度が高まっていくと思われます。

また、その対策として期待が高く近年積極的に取り入れられている外国人雇用の推進ですが、外国人人材に関しても言語の壁や、世界的な人材獲得競争の激化などで安定した供給は見込めません。特に、今後人材の供給源として期待されているアジア各国でも、急速な発展による人材需要の高まりや高齢化等により労働力の海外への供給力が低下することが想定されます。

したがって、グローバル化に対応した一部企業以外では、国外からの人材を豊富に確保することは難しい状況なのです。最近注目を集めているダイバーシティ化が進んでいないのも労働者が確保できない原因です。また、女性の活躍や障がい者、LGBT人材の導入には未だ多くの課題や改善点があり、今後の人材不足を解消するまでには長い時間が必要となるでしょう。

非正規雇用の割合が上がっている


もともと日本では、非正規社員は正社員の補完的人材として位置づけられ、正社員と非正規社員に対して賃金や待遇、福利厚生などで差をつける制度が一般的でした。

しかし現状、労働市場の3分の1以上が非正規社員という状況にあります。にもかかわらず格差社会の是正が行われていないため、非正規社員として働いている労働者は自身が置かれている境遇の不遇さや賃金の格差を受け入れなければならない状況に立たされています。不遇な扱いは人材のモチベーションやキャリアアップに対する意欲を奪い、結果的に会社の生産性や組織力を低下させる原因となる深刻な問題です。

人事制度の改修・是正のポイント

では、同一労働・同一賃金を目指すにあたって、改修していかなければならない人事制度のポイントとはどういったものが挙げられるでしょうか。

均衡処遇と均等処遇の理解


まず課題について考えた時、意識しなければならないのは均衡処遇と均等処遇の違いです。

均衡処遇とは、働き方が異なる場合にはそれに応じた適正なバランスで処遇を決定するという考え方です。例えば、正社員が100の成果を求められることに対して非正規社員が50の成果を求められる場合、賃金や処遇も求められる成果の割合に基づいて決定します。あるいは、正社員が業務上のトラブル対応等にも対応する責任を負う、等の責任の差に基づいて処遇の差が設定されています。

一方で均等処遇とは同一の責任下で同一の仕事を行っている場合、例え正社員と非正規社員という立場の違いがあっても賃金・処遇に格差をつけてはいけないという考え方です。この2つを適正に取り入れることで、仕事の内容に応じた同一労働・同一賃金が実現し、立場に応じて発生する不合理が解消されるのです。

実際に労働条件が不合理か否かを判断するには、以下の3つの基準を参考にして検討します。

  • 「職務の内容が同じ」かどうか
  • 「人材活用の仕組みや運用が同じ」かどうか
  • 「職務に対する責任やトラブル発生時の対応責任が同じ」かどうか

この3つが同等であった場合、「職務内容は同じである」と判断し、賃金・処遇について見直す必要があるとされています。また、職種が一緒でも中核業務や責任が異なる場合には、均衡処遇によって適正なバランスで賃金や処遇を設置することが求められています。

報酬制度の設計ポイント


正社員と非正規社員の間に賃金の格差を作らないようにするには、3つの方向性から報酬制度を設計していく必要があります。

一つ目は、単純に非正規社員に対しても正社員と同等の手当を付随する「非正規社員の処遇改善方式」です。これは非正規の処遇が上がる分、人件費等がアップします。
二つ目は、正社員につけていた格差による手当を無くし非正規社員と同等の基本給を支払う「正社員の処遇変更方式」です。これは正社員の処遇を切り下げることになるため、正社員には不利益変更が発生します。

最後の三つ目は正社員についていた手当を非正規社員にも割り振り、同等の金額の手当を支給する「正社員、非正規社員のイーブン方式」です。正社員、非正規社員も同等の処遇になるためイーブンですが、正社員には不利益変更が発生します。
このうち、「正社員の処遇変更方式」および「正社員、非正規社員のイーブン方式」は正社員にとっては給与が減額されるため、決定は企業側の一存では行えず労使との話し合いと合意が必須条件となります。

同一労働・同一賃金を進化させるポイント

同一労働・同一賃金を促進し進化させていくには、企業が真剣に制度改革に取り組まなければなりません。では、同一労働・同一賃金を進化させるには何を意識すればいいのでしょうか。

本質的・抜本的な議論が必要

同一労働・同一賃金を実現するためには、単に処遇差を埋めることがゴールではありません。同一労働・同一賃金を検討する際には、本質に立ち返り、方向性を定める議論が求められます。議論を避け、表面上だけで処遇の改善を行うと単純な賃金改定を行うだけの検討に留まるでしょう。

そもそも「非正規社員を単なる補佐的業務、あるいは正社員の補完人材としてとらえるのか」、または「事業を推進していくための貴重な戦力としてとらえるのか」といった位置づけを明確にしてから各論を論じる必要があります。

そして、検討の際には、まず「仕事の内容と人材の役割」の本質を分析し、どの人材にどの役割を与えるべきか、どの程度の職務の差をつけるか等を見直していかなければなりません。また、検討するべき「基本給」や「手当」等の項目についても、合理的に処遇を決定できる指針を作り、それに伴った制度の改正を行う必要があります。

同一労働・同一賃金という考え方は、「全員に同じ処遇をする」ということではなく、「それぞれの仕事(ジョブ)に合った適正な処遇を与える」という目的があることを意識して議論を重ねることが肝要です。

まとめ:改めて仕事と報酬のバランスの見直しを


同一労働・同一賃金とは、本来正社員のみではなく「すべての従業員の指針である」と考えるべきものです。これまでも一定のルールは制定されていましたが、具体的な制度の活用がなされず曖昧になりがちでした。

今後、全ての従業員に「正しい処遇」をもたらすために、法改正された同一労働・同一賃金の施策の一環として「パートタイム・有期雇用労働法」が始まります。大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月19日から適用されるので、その前に人材の活躍のベースとなる処遇のシステムとして有効に機能するか、人事評価を適正に行える効率化ツールとして十分かを検討しましょう。

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