近年、エンゲージメントやモチベーションなど組織と個人との関係が注目されています。特にGoogleによる生産性向上における「心理的安全性」の必要性の再発見以降、組織活性化の取り組みの重要性が世の中に広く認識されるようになりました。また近年の日本では採用と離職防止の観点から魅力的な組織づくりのニーズが高まっています。

このように、「組織活性化」は一見当然取り組むべき課題に見えます。しかし、その言葉に抱くイメージは人や企業によって様々です。そこで今回は、最近注目される「組織活性化」の取り組みと課題についてご紹介します。

組織が活性化した状態はどのような状態か?

組織活性化には様々な目的や定義がありますが、一般的に組織が活性化した状態とは「組織に所属するメンバーそれぞれが自らの持つ能力を最大限に発揮するとともに、チームとしても良い相乗効果が生まれている状態」と定義できます。

人は1人の時と集団でいる時とでは、行動が変化することがグループ・ダイナミクス(集団力学)の研究で判明しています。例えば、フリーライダーと呼ばれる必要なコストを支払うことなく利益を享受する、いわゆるサボる人が発生することや、集団合議で良い決定をすることよりも何かを決定することに意識を向け、考えが浅くなってしまう集団浅慮といったネガティブな現象が起こることもあります。このような現象が発生すると、組織の労働生産性が下がるほか、場合によっては組織の存続が危うくなる場合があります。

こうした現象以外にも、人と人の価値観の違いやコミュニケーションのすれ違いといった人間関係から起こる問題も生産性が低下する要因です。
企業は組織だからこそ起こるこうしたネガティブな現象について、排除または改善することで組織の生産性を上げたいと思っています。また、SNSや口コミサイトが普及している現代では、こうしたネガティブな現象を放置すると長期的に企業のレピュテーションリスク(風評被害)にもなり得ます。

このように組織であるからこそ起こる問題を解決して、組織の生産性が向上している状態が組織が活性化した状態といえるでしょう。

組織活性化の難しさ

「組織を活性化する」と一言で言っても、そう簡単ではありません。そもそも組織が活性化するとは、どのような状態なのでしょうか。
組織活性化には様々な定義があります。今回は集団とチームの違いを例に、組織活性化について考えてみましょう

世界中のビジネススクールで読まれている組織行動学の教科書、スティーブン P.ロビンス著『組織行動のマネジメント』では、集団(グループ)はある目的を共有した単なる個人の総和であるのに対し、チームは協調を通じてプラスの相乗効果を生み出すとあります。また、グループは情報共有が中心で、助け合いがないのに対し、チームは互いの協力によって1人の力よりも大きな成果を達成することができます。
実は多くの企業が、組織をチーム単位で運営しているのは、少ない人員投入量で高い成果を出すためなのです。組織を単なる大きなグループではなく、小さいチームに分割することも組織活性化の取り組みの一つと言えます。

このように、最近の流行りであるモチベーションやエンゲージメントを向上させることだけが組織活性化なのかといえば、そうではありません。

論文「組織活性化の理論に関する研究」(財賀礪至、1984)によれば「組織活性化」は統一された定義はなく、研究者によっても言葉の使い方や目的が異なるとされています。

組織活性化には様々な要素や考え方があるため、最も大事なのは、自社における「組織活性化」とは何なのかを明確にすることです。では、実際に自社で組織活性化に取り組むには何から始めればよいのでしょうか。

組織活性化の効果的な取り組みとは?

残念ながら多くの企業では、「組織活性化」の目的や背景が理解されていません。最近の流行にのって、エンゲージメントやモチベーション向上などの手法のみの取り組みが増えています。

「組織活性化」に取り組むには、まず自社における解決したい課題を明確化することが重要です。例えば、ある部門で従業員のモチベーションが下がっているという事実がわかったとします。次にモチベーション低下により、離職や仕事の納期の遅れが頻繫していることが判明したとしましょう。すると、多くの組織活性化の担当者はこの段階でモチベーション向上施策を実行しようとします。ワークショップでチームづくりを行い、理念の浸透を図ろうとするかもしれません。

しかし、この段階での施策実行はあまり効果的ではありません。組織活性化の施策をより効果的に実施するには、もう一段階掘り下げて真の原因を探る必要があります。上記の例であれば、さらによく調べてみると部門トップの言動がモチベーションを下げていることが判明することがあります。その場合は、トップに振る舞いを改めてもらう施策や、トップを入れ替えるといった施策が効果的です。

このように自社の課題を真因まで掘り下げ、組織活性化の目的、達成基準、成果物を決めて実際の施策を実行することが重要です。このようにゴールやKPIを決めて取り組むことで、「とりあえずワークショップをやる」という効果的ではない取り組みを防ぐことができるでしょう。

具体的な組織活性化の取り組み方

具体的な組織活性化の取り組み方
最後にまとめとして、組織活性化の施策立案の手順をおさらいします。組織活性化は、以下の手順で実行するとよいでしょう。

【組織活性化の手順】

①現状把握
まず、アンケートや社員へのヒアリングから自社の現状を把握します。この際、定性的なコメントだけでなく売上高や営業利益、離職率など可能な限り定量的なデータも収集するようにします。

②課題分析
次に、データから組織に起こりうる課題を検討します。課題は、組織の現状を放置するとどのようなリスクが起こるのか、という観点から考えるとよいでしょう。

③仮説立案
課題が導きだされたら、仮説を検討します。あらかじめ「きっとこんな施策を実行することで、改善する」という仮説を立てることで、闇雲に施策を実行することを防ぎます。

④施策立案、実行
仮説を立てたら、具体的な施策を検討して実行します。

⑤モニタリング
最後に施策を実行した結果、改善されたのかどうか、仮説が合っていたのかどうかを検討します。もし仮説が違っているようであれば、別の施策を検討しましょう。

このように「組織活性化」という抽象的な言葉に惑わされず、問題解決のプロセスに則ってロジカルに取り組むことで自社にとって意味のある取り組みができます。今回ご紹介した内容を参考に、ぜひ効果的な組織活性化に取り組んでみてください。

組織活性化の取り組み例

組織活性化は様々な企業で取り組まれています。実際の取り組み事例を見てみましょう。

ビジョンづくり

多くの企業で行われている組織活性化の取り組みの一つがビジョンづくりです。ビジョンづくりは、これから組織が向かう方向性や「あるべき姿」を言語化、イメージ化する取り組みです。企業が新たな方向性に向かいたい時や、停滞感のある組織を活性化する際に取り組まれています。ビジョンづくりは、ビジョンをつくることが目的ではなく、組織の現状と課題、そしてあるべき姿を議論することで、組織への参画意欲を高めることが目的です。

企業の次の成長を議論するために、経営トップが役員とともにビジョンづくりを行う場合もあれば、チームがメンバーの実現したいことを明確にするためにビジョンづくりを行う場合もあります。ビジョンづくりは成果物として「ビジョン」という分かりやすいものが出来上がるため、人気のある組織活性化の取り組みです。

サンクスカード制度

縦割りの組織が強い企業で、部署間の垣根を超えたコミュニケーションを活性化したい際に行われるのがサンクスカード制度です。サンクスカード制度は、仕事の中でお世話になった相手に感謝の気持ちをカードに記してやりとりする仕組みです。感謝といっても大それたことではなく、日常業務の些細な出来事に感謝することが効果的であるとされています。

例えば、誰かが自分の代わりに仕事をしてくれたことや、依頼に対して快く引き受けてくれたことなど、「こんなことでも感謝されるんだ」と思えるようなことに対して感謝するとともに、感謝の気持ちをメッセージカードにして感謝する相手に届けます。こうすることで従業員同士が互いを大切に思う気持ちが育まれ、より組織のパフォーマンスが高まるとされています。

 

 

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