近年、人材獲得の難易度が上昇する中で企業内部の人材を活用する重要性が高まっています。一方で人員的・資金的な体力がある大企業と比べ、中小企業は人材活用に苦戦を強いられています。中小企業の中には、人材育成に取り組もうと思っても、なかなか日々の業務に追われ腰を据えて取り組むことが難しいと感じる経営者も多いでしょう。また、そもそも社内に人材育成のノウハウがない場合もあります。中小企業ではどのように人材育成に取り組めばよいのでしょうか。中小企業における人材育成の課題と工夫の方法をご紹介します。

中小企業における人材育成の難しさ

一般的に、中小企業では人材育成にかける余力が少ない状況が存在しています。時間的にも資金的にも人員的にも人材を育成するほどの経営資源がありません。

 日経「スマートワーク調査」によれば、従業員一人当たりの年間研修費平均は71,336.1円(2016年度)です。しかしながら、企業規模別で見ると社員数500名未満企業の平均が43,519.4円であるのに対して、3,000~5,000名未満の会社は88,944.6円と、2倍以上の費用となっています。

業種によっても研修の性質や費用は異なりますが、企業規模が大きいほど一人当たりの研修費も増加する傾向にあることがわかります。そのため、中小企業は限られた予算の中で工夫しながら人材育成に取り組む必要があります。
参考:スマートワーク調査「日経「スマートワーク経営」調査解説」

 それに加え、人材育成にかける人員も大企業と中小企業は異なります。売上高1兆円以上の規模の大企業では、人材育成専門部署を持つと同時に、研修事業を行う子会社を持つ企業が少なくありません。一方、中小企業では多くの場合、人事は総務の仕事も兼務しており数名で両方の仕事を行っているケースもあります。本当は人材育成に取り組みたくても、資金も人員も少ない状況ではどうしようもない、というのが中小企業の本音なのではないでしょうか。

このように、大企業とは資金的にも人員的にも体力が異なる中小企業は、どのように人材育成に取り組むべきなのでしょうか?

コストがかからない人材育成の取り組み方

 人材育成というと、つい研修などのOff-JTを想像しがちではないでしょうか。研修という「手段」から人材育成を考えると、どうしてもコストがかかりますよね。では、コストをかけずに人材育成に取り組むにはどうすればよいのでしょうか?

 まずは自社人材の課題から人材育成を考えてみましょう。例えば、コンサルティング業のような労働集約型で専門性の高い業種であれば、能力開発の時間を確保することと顧客ニーズに合った専門性の向上が人材育成のテーマになり得ます。また、部品メーカーのような労働生産性の高い業種であれば、技術力を高めることが重要です。
まずは研修という「手段」ではなく、どこに時間とお金をかけるべきかを検討しましょう。

その上で、時間的・資金的にコストをかけずに人材育成に取り組む方法として以下の方法が考えられます。

助成金を活用する

 厚労省では、労働生産性の向上を目的として人材開発支援助成金を積極的に支給しています。中小企業にとって特に有利な内容です。こうした助成金を視野に入れておけば、中小企業の懸念点であった資金的な体力不足を補うことができるので積極的に活用しましょう。

社員の自己学習支援を行う

 労働集約型、かつ人員的に不足のある中小企業では、時間的余裕が少ないため社内で集合研修を行うことは難しいでしょう。そこで、社員の自己学習への支援、具体的には、書籍代や外部資格取得補助を行う方法があります。

社員のツテやコネを利用する

 人材育成に取り組む中小企業の中には、社員の友人、知人などのネットワークを活かして格安で研修を実施している場合もあります。特に役員の友人、知人であれば他企業でも活躍しているプロ人材や社外講師に研修をお願いできる場合もあります。コストが限られているときは、人脈の活用も検討してみましょう。

 知恵を絞れば中小企業でも人材育成に十分取り組むことができます。まずは自社の人材育成における課題出しをしましょう。そのうえで、自社にとって最適な手段を選びましょう。

人員リソースに頼らない人材育成の取り組み方

人員リソースに頼らない人材育成の取り組み方
 一方で資金力があっても、社内に部下を育成できる人材やノウハウがない場合があります。また、なかなか人員的な余裕がなく、社員同士で教えあうこともままならない企業もあるでしょう。このような企業はどのように人材育成に取り組めばよいのでしょうか。

こうした人員的余裕が少ない企業では、積極的に以下のようなITツールを活用することがおすすめです。

eラーニングを活用する

 最近は格安で使えるeラーニングツールが増えてきました。eラーニングであれば、知識のインプットだけでなくテストの出題やレポート提出も実施できるため、比較的実践的な学習も可能です。

タレントマネジメントシステムを活用する

タレントマネジメントシステムを使用すれば、人材のスキルや経験の見える化や人事の定型業務の自動化ができます。また、見える化によって、どの人材を強化すればよいかわかるようになります。また、定型業務の圧縮によって人事が人材育成を行うことも可能になるでしょう。

 このようにITツールを活用することで、人員的コストをかけずに効率的かつ効果的な人材育成が可能になります。
なお、中小企業におけるIT化に対しては「IT導入補助金」も利用可能です。こうした助成金も積極的に活用していきましょう。

人材育成の基本はOJT

 ここまで中小企業における人材育成の課題と対策についてご紹介してきました。
一般的に人材育成というと、研修やOff-JT中心というイメージがありますよね。しかし最近の研究で、これらの手法は効果が限定的であることがわかりました。

 米国のリーダーシップ研究の調査機関であるロミンガー社の調査によると「実践:他社とのかかわり:研修等のOff-JT」の効果的な割合は、7:2:1であることがわかりました。つまり、研修やOff-JTだけに頼らず、より現場に近いOJTを活用すれば十分に人は育つのです。

 大企業よりも経営資源や時間的余裕の少ない中小企業では、OJTを基本にしながら自社に合った人材育成の取り組みを構築するとよいでしょう。ただしOJTが効果的なものになるように、常に工夫をしなければなりません。マニュアル作成や自己学習の支援など、社員の生産性が高まるような仕組みを考えましょう。自社に合った人材育成の仕組みを整えれば、あなたの会社はもっとよい会社になるでしょう。

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