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近年、デジタルトランスフォーメーションが注目されています。デジタル化の急速な進展やデジタルを活用した新たな産業の台頭など、デジタルトランスフォーメーションの重要性がますます高まってきているのです。こうした事情を背景に、デジタルトランスフォーメーションが遅れている日本企業でも本格的な取り組みが始まろうとしています。

特にデジタルとは無縁だった人事部門にもデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せています。人事ではどのようにデジタルトランスフォーメーションに取り組めばよいのでしょうか。今回は人事におけるデジタルトランスフォーメーションについて解説します。

デジタルトランスフォーメーションとは?

デジタルトランスフォーメーションという言葉をいつの間にかよく耳にするようになった方も多いのではないでしょうか。しかし、デジタルトランスフォーメーションの本当の意味を理解している方はどれくらいいるのでしょうか。まずはデジタルトランスフォーメーションの意味を考えてみましょう。

デジタトランスフォーメーションの意味

デジタルトランスフォーメーションは、単にデジタル化を意味する言葉ではありません。デジタルを通じて、産業構造そのものを変革させることと定義されています。デジタルトランスフォーメーションという言葉自体は、スウェーデンの大学教授であるエリック・ストルターマンが提唱した概念です。ストルターマン教授はデジタルトランスフォーメーションを「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」であるとしました。

また、総務省は令和元年度版「情報通信白書」の中で「デジタルトランスフォーメーションは、単にICTを利活用して企業のビジネスを改善する取組ではなく、企業に組織やビジネスモデル自体の変革という非連続的な進化を求めるもの」と定義しています。ちなみに、デジタルトランスフォーメーションとよく混同されやすい言葉にデジタライゼーションがあります。

デジタライゼーションは直訳すると「デジタル化」という意味です。デジタライゼーションは、単にテクノロジーを活用する取り組みを意味しています。一方でデジタルトランスフォーメーションは、既存の仕組みそのものをテクノロジーによって根本的に変える取り組みなのです。

日本におけるデジタトランスフォーメーションの現状と課題

日本では、欧米諸国と比較してデジタルトランスフォーメーションが進んでいないとされています。経済産業省では、2018年にデジタルトランスフォーメーションに向けた研究会を立ち上げ、日本のデジタルトランスフォーメーションにおける現状と課題をまとめた報告書「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」を作成しました。

報告書では、日本企業のITの活用は進んでいるものの、部門ごとにシステムが構築され、過剰なカスタマイズが行われてきたことにより、データが企業内に分散してデータを集約することが難しくなっている現状が指摘されています。また、日本企業の経営者はデジタルトランスフォーメーションの必要性を認識してはいるものの、実際の取り組みには大掛かりな経営革新が必要であるため、なかなか実行に踏み切れない状態にあるそうです。

このように日本企業は、既存システムや組織の事情によりデジタルトランスフォーメーションに取り組みたくても取り組めないジレンマを抱えているのです。一方で経産省は、こうした日本企業の現状を放置した場合、日本がデジタル敗者になるだけではなく、2025年以降年間最大12兆円の経済損失が出る可能性があると危機感を募らせています。

なぜ今デジタルトランスフォーメーションなのか?

最近、ますますデジタルトランスフォーメーションが注目を浴びています。なぜ今、デジタルトランスフォーメーションが必要なのでしょうか。

デジタトランスフォーメーションが求められる背景

いまデジタルにより、私たちの暮らしは大きく変化しています。例えば買い物であれば、アマゾンや楽天などのECサイトを使用することが当たり前になっているのではないでしょうか。他にもカーシェアリングやQRコード決済など、従来のサービスのあり方を変える仕組みが次々と登場しています。特にGAFAと呼ばれるアメリカの4大IT企業の存在感はますます大きくなってきています。

GAFAとは、Google、Apple、Facebook、Amazonの4社のことです。あなたもこの4社のサービスを使わない日はないのではないでしょうか。今では誰もがGoogleで情報を検索し、Androidを搭載したスマートフォンを使用します。Appleであれば、iPhoneやiPadを一度は使ったことがあるはずです。Facebookで友人とコミュニケーションをとり、Amazonで買い物をすることは世界中の多くの人にとって日常になっています。しかし、このような生活をする日々が訪れることを10年前に想像できたでしょうか。

それだけ私たちの生活はITやデジタル化によって大きく変化を遂げています。いまやテクノロジーの進化は、私たちの日常そのものになっているのです。つまり、デジタル化は特別なことではなく、すでに世界の常識になっています。世界のテクノロジーの水準に合わせて産業構造や収益モデルを変化させていかなければ時代に取り残されてしまうことは簡単に想像できるでしょう。

デジタルトランスフォーメーションに取り組むことは、まだデジタル化に取り組んでいない企業にとって生き残りを賭けた変革なのです。

ニューノーマル時代の到来

新型コロナウィルスの影響により、デジタルトランスフォーメーションはますます加速しています。多くの飲食店が休業を余儀なくされる中で、UberEatsをはじめとするフードデリバリーのサービスは活況を呈しています。中にはあえて店舗を持たず、デリバリー専門店として新たに開業する飲食店も生まれるほどです。

飲食店以外でも、アミューズメントのあり方が自宅で楽しむゲームやe-sportsにどんどんシフトしています。2020年3月に発売された任天堂の「どうぶつの森」が国内だけで発売から3日間で188万本を突破したことは記憶に新しいでしょう。任天堂をはじめ、ゲーム会社はこのコロナ禍の中で着実に業績を伸ばしています。

また、私たちの働き方も急速かつ急激に変化しました。これまでオフィスワークが当たり前だったはずが、今では大企業を中心にテレワークが中心の働き方になっています。都心オフィスの面積削減や、フレックス制度や時差出勤などが定着したことで、通勤時の交通機関の混雑も緩和されつつあります。

仕事の進め方もチャットやWEB会議ツールを使用したものに変化。会社に一度も行く必要がなくても、上司と直接顔を合わせることがなくても仕事ができるようになってきています。私たちのかつての日常は、もはや過去のものなのです。

これからは新しい日常である「ニューノーマル」に合わせた生活をしなければなりません。こうした新たな時代への移行を背景に、デジタルトランスフォーメーションはますます重要性を増してきています。

アフターコロナ時代の人事とは?

新型コロナウィルスの影響により、働き方が大きく変わる中で、企業の人事部の役割も変化しつつあります。人事部はこれからどのように変わっていくべきなのでしょうか。

人事の戦略エージェント化

テレワークが普及する中で、人事部でも在宅勤務が当たり前になりつつあります。これまで人事部では、書類の交付や契約書の取り交わし、入社手続きなど多くの事務作業で押印や紙での対応を必要としてきました。

こうした物理的な事務作業は大企業の人事部では日常業務のかなりの割合を占めています。労務管理以外にも採用や研修に伴うイベント準備や会場手配など、付加価値の低い業務が人事部の仕事でした。しかし、新型コロナウィルスの影響下でテレワークが普及する現在は、人事部が行ってきた物理的な事務作業の実施が困難になっています。

そこでこの機会に大企業の人事部では、業務の棚卸を行い、押印の電子化やITツール活用による業務の自動化を進めています。こうした業務整理を行い低付加価値な業務を削減あるいは自動化することにより、人事部は付加価値の高い業務へ移行することができます。

特にこれから社会環境が大きく変わる中では、組織体制や獲得する人材、社員に必要な能力が大きく変化していくでしょう。人事はこのような社会変化をもとに自社に必要な資源を獲得していく必要があります。同時に削減した工数をもとに、より現場に足を運んで現場のニーズをくみ取る取り組みも必要でしょう。

変化の激しい現代では、現場で目の前に起きている課題に対処することが強く求められます。このように、これからの人事は経営陣に対しては社会変化に対して人・組織面から助言を行い、現場に対してはニーズをヒアリングして問題解決を行う戦略エージェントへと変貌を遂げることが必要なのです。

データやテクノロジーの活用

人事部が戦略エージェントになるためには、データの活用が欠かせません。これまでの人事部では、事実や数値などのデータに基づいた分析や助言が難しい状況にありました。なぜなら人や組織の状態をデータ化することが難しかったからです。

しかし、近年になって状況は変化しつつあります。テクノロジーの発達により、データの収集、分析が非常に簡単になってきました。さらにHRテックの発達により、人や組織に関するデータを容易に見える化することもできるようになっています。最新のタレントマネジメントシステムを使用すれば、従業員のエンゲージメントやモチベーションの状態を簡単なアンケートデータをもとに見える化することができます。また、ツールによっては組織の最適な配置をシミュレーションする機能も搭載されており、組織パフォーマンスが向上する配置を精度高く実現することも可能です。

これからのアフターコロナ時代では、テレワークが当たり前の働き方になります。物理的に従業員の様子を確認できない状況では、従業員ひとりひとりの状態や各部署の状態を見える化することが不可欠です。そのため、これからの人事部はこうしたHRテックを活用してデータを日々収集・分析し、異常があればすぐに対処していくようなあり方が求められるでしょう。

デジタルトランスフォーメーションによる人事総務部門の業務変革

PC入力
デジタルトランスフォーメーションが進展し、社会環境が変化する中では人事部自体もデジタルトランスフォーメーションしなければなりません。単にデータやテクノロジーを活用するだけではなく、デジタルトランスフォーメーションにより人事部の業務を変革するにはどうすればよいのでしょうか。

人事業務の変化

デジタルトランスフォーメーションとは物事の仕組みをテクノロジーによって根本的に変えることです。人事部のデジタルトランスフォーメーションも、デジタルによって仕事の構造自体を変えなければなりません。例えば研修・教育部門では、これまで対面集合型の階層別研修が業務の割合の多くを占めていました。しかし新型コロナウィルスの影響により、対面で集まる形式での研修は実施できなくなっています。

そのため、研修はオンラインで行うことが当たり前になりました。また、在宅勤務中心のテレワークでは社員の家庭の事情などで全員が同じタイミングで研修を受講することが難しくなってきています。そこでラーニングマネジメントシステム(LMS)を活用して動画とクイズやテストを組み合わせたeラーニング形式の学び方を導入する企業がでてきました。

e-ラーニングへの移行はこれまで会場手配や毎年のルーティンで研修運営していた研修部門の業務をコンテンツ作成や社員のITツール活用促進に変革することになったのです。このように、人事部のデジタルトランスフォーメーションでは、社会環境や会社のデジタルトランスフォーメーションに合わせて業務の在り方を変える必要があります。

定型業務の省人化

こうした新たな活動を行うには、人事部員の知識の獲得とともに新たな活動のための工数を確保する必要があるでしょう。そこで必要になるのが定型業務の省人化です。ルーティンで行われてきた業務をなるべく自動化あるいは外注化することで、新たな活動へ人手を配分することができます。

最近ではRPA技術が進化してきており、毎月のルーティン業務である給与計算や勤怠管理程度であれば一部RPAでも担えるようになりました。また、人事部のルーティン業務は人事系アウトソーシング業者に外注化することもできます。また、定型業務の中にはオフィスワークだからこそ発生していた業務もあります。

例えば請求書の処理や郵便物の振り分けなどです。こうした低付加価値で物理的な対応が必要な業務は電子化してどんどん削減していくのがよいでしょう。このように、まずは定型業務を圧縮していくことで、人事は新たな活動に注力する準備ができるはずです。

人事におけるデジタルトランスフォーメーションの可能性

人事部がデジタルトランスフォーメーションを実現すると、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。最も人事のデジタルトランスフォーメーションが進んでいる企業の一つにGoogleがあります。Googleの人事部の業務は、日本の人事部の業務と全くことなります。

Googleが取り組んだ有名なプロジェクトとして「プロジェクト・アリストテレス」があります。「プロジェクト・アリストテレス」は、どうすればGoogleの組織生産性が上がるのかをデータ分析と従業員へのヒアリングから明らかにしたものです。

Googleのピープルアナリティクス専門チームは、社外の心理学者などの専門家と協力しながら生産性向上に最も重要なのは「心理的安全性」であることを最終的に突き止めたのです。プロジェクトチームが結論に至るまでは、あらゆるデータを分析し、パフォーマンスの高いチームを様々な角度から比較していきました。いまでは「心理的安全性」はチームビルディングの基本としてGoogle以外の企業でも浸透しています。

このように、デジタルトランスフォーメーションによりデータ分析力を向上させることができれば、自社において本当に生産性を向上させる要因が何かを突き止めることも可能になり、人事部が打つべき施策も明確になるでしょう。

まとめ

 
今回はデジタルトランスフォーメーションの用語解説とともに、デジタルトランスフォーメーションが広がる背景、そして人事部におけるデジタルトランスフォーメーションの可能性について解説しました。ご紹介したように、デジタルトランスフォーメーションは単なるデジタル化ではありません。

デジタルによって仕事のあり方そのものを変える取り組みです。今回の新型コロナウィルスの影響により、多くの方は仕方なく業務にデジタルを問い入れたかもしれません。しかしデジタルはすでに私たちの生活の常識なのです。単にリモートワークをするためだけにデジタル活用をするのではなく、これからの時代の生き残りを賭けて仕事のあり方そのものを変えていきましょう。

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