近年は、働き方改革が進んだ影響で企業環境が大きく変化しています。例えば、雇用の方法にも変化が見られます。従来型のメンバーシップ型雇用だけでなく、ジョブ型雇用による採用をしている企業も少なくありません。このような働き方の変革の中で、人事評価制度の変更を必要とする企業が増えています。ここでは、人事評価制度を新しく採用した会社の事例をご紹介します。

人事評価制度はどのように変化してきたのか

新しい人事評価制度といっても、その手法はさまざまです。しかし、従来通りの手法を踏襲するだけでは、時代や社会の流れに取り残されてしまいます。日本における人事評価制度は、年代に応じて変化してきました。高度成長期から重視されてきた年功序列型は、1980年代に職能主義型へと変化しました。終身雇用で年齢と勤続年数で給与が保証される制度ではなく、個人の能力が成果に反映されるべきだという考えが広まった結果と言えます。1990年代になると、職能主義型はより結果を求める成果主義型へとシフトします。これにより、日本の雇用制度は大きく変化しました。

一般的に、成果主義型の人事評価制度では労働者のモチベーションが維持しやすく、評価の公平性は高まったと言えます。一方で、個人主義に走る労働者や企業内での評価の差に悩む労働者が多数排出されたのも事実です。この影響によって、雇用形態自体が従来とは大きく変化し、転職を希望する労働者や流動的な雇用を望む企業が増えました。2000年代に入り、この成果主義を見直す形で登場したのが役割主義型の人事評価制度です。

役割主義型では、労働者に仕事の成果を求めるのではなく、企業が求める役割を示します。そして、役割の達成度合いで人事評価をする制度です。この制度では、評価判断が仕事の成果だけに縛られません。多方向から人物を判断した人事評価ができます。2010年以降では、役割主義型の人事評価制度を見直し、それぞれの企業形態にあった人事評価制度を採用する企業が増えてきました。成功する会社ほど、その企業の実態に適した人事評価制度を採用しています。その結果、「OKR」「バリュー評価」「360度評価」といった評価方法を採用する人事評価制度が次々と登場しています。

株式会社メルカリが使っている人事評価制度

株式会社メルカリ人事評価制度
OKRとは「Objective and Key Result(目標と主要な結果)」の略で、業績を評価する方法の1つです。目標達成度を測定する基準はSMARTで判断し、最終的には組織全体の生産性を向上させることを目指します。高めの目標を設定し、他の労働者たちと共有する目的範囲を広く捉えることで、達成率が100%に至らない場合でも最適な人事評価を与えられます。Google LLC(グーグル)やFacebook, Inc.(フェイスブック)などの最大手のIT企業で使われていることで有名になった評価方法です。

日本では、株式会社メルカリがこの制度を使っていることで知られています。株式会社メルカリは、フリーマーケットのアプリで有名になったIT企業です。同社は人事評価制度の変更について、「今までの人事評価制度が決して悪かったわけではないということです。当時のメルカリグループの“らしさ”を体現していました」と語っています。しかし、企業規模の拡大とともに、従来の方法では待遇や給与に納得感が低下していきました。そのため、正確で公平な人事評価制度を導入することは同社の成長には欠かせないことでした。同社の人事評価制度の変更は、会社の成長に見合った適切な制度へのアップグレードであると言えるでしょう。

また、同社ではOKRだけでなく「バリュー評価」と呼ばれる評価方法も採用しています。OKRは業績の目標を達成できたかを判断する定量評価です。対して、バリュー評価は企業が示す行動規範や価値観に沿った行動をしているかで判断する定性評価です。この評価では結果だけでなく、そこに至るまでの過程も評価します。普段の行動や発言などを通して、企業理念にあった人材であるかが判断材料になります。価値観を共有し、企業スタイルにあった労働者を育成できる評価方法であるといえるでしょう。これら2つの制度を用いることで、株式会社メルカリは同社の価値を体現する仕事に高い評価を与え、成果主義に寄り過ぎない人事評価を可能としました。

株式会社ジャパネットは「MBO」で意欲的な労働環境を作る

株式会社ジャパネットは「MBO」で意欲的な労働環境を作る
企業が成長して成果を上げ続けるためには、労働者がそれぞれで目標を設定して、それを達成しようと努力することが必要です。このためのモチベーションを維持するためには、人事評価制度に適切な目標管理の制度を用いることが重要です。株式会社ジャパネットの人事評価制度では、目標管理制度である「MBO」を採用しています。MBOとは「Management By Objectives and Self-Control(目標と自己管理によるマネジメント)」の略称です。同社はこの制度によって部署ごとに、主体的に、目標へと取り組めているかを評価し、業務プロセスの見直しや業績の判断をしています。

MBOはともあるとSelf-Control(自己管理)の意味が抜け落ちて、Management By Objectives(目標による管理)と解釈される場合があります。しかし、MBOという評価方法は、本来Self-Control(自己管理)こそが重視されます。企業で働く労働者全員で目標を共有し、それに沿った自発的な行動を促せるようにすることこそ、重視される制度です。株式会社ジャパネットではSelf-Control(自己管理)に着目しており、MBOを採用する意味を「一人ひとりが、実現可能な範囲で最大限に背伸びしたチャレンジ目標の達成を意欲的、かつ自律的に追い求める仕事の進め方」と捉え、同社の進歩の源泉としています。

同社ではMBOの制度を社員に理解してもらうために社員研修を行っています。誤った考え方でMBOを理解していると、事業目的や目標値を狭く捉えてしまう原因となりがちです。また、公平で正確な人事評価が難しくなります。社員教育によって目標の設定の仕方や業務のプロセスの立て方などを教えることで、企業内にMBOに適した評価環境が作られるでしょう。

「360度評価」によって社員を評価するヤマト運輸株式会社

「360度評価」によって社員を評価するヤマト運輸株式会社
ヤマト運輸株式会社では、よいサービスを現場で実践している人こそが高く評価されるべきであるとの考えの元で、人事制度改革がなされました。その一環として、セールスドライバーが互いの成果を評価する「360度評価」が採用されています。360度評価は関係する複数の人によって評価を判断する評価方法です。従来的な人事評価制度では、主に労働者の上司による判断で評価が決まりました。しかし、これでは多面的な価値に気づきにくく、評価に対する納得感も得られにくいものになりがちです。

また、離職や中途採用が増え、人材の流動が激しい現代では人物をよく知るまでの時間が足りません。そのため、労働者の評価は困難な業務となっています。評価制度の見直しによって、年齢や就業年数で単一的な判断を下すことはできなくなり、管理職の負担が過剰となっている企業も少なくありません。評価に納得感が得られず、管理職の負担が大きい会社は離職率も高くなると言われています。360度評価は人事評価への納得感を高め、管理職が評価判断に費やす労力を減らす評価方法です。ヤマト運輸株式会社の人事評価制度は、360度評価と目標達成評価の2つを組み合わせて行われています。

360度評価は、現場の視点を利用して人を育てることに向いている手法です。評価を参考にした客観的な意見を持って、労働者に対してフィードバックができるからです。ヤマト運輸株式会社でもフィードバックによって良い点と足りない点を明らかにして、スタッフの成長を後押ししています。

360度調査によるフィードバックを利用する会社は少なくありません。例えば、株式会社ディー・エヌ・エーは新しい人事評価制度「フルスイング」の中に360度評価を採用しました。「フルスイング」では、フィードバックプログラムというマネージャー養成の人事制度が組み込まれています。マネージャーに対して、メンバーが実名を記名して評価をします。本来、360度評価では評価する者の名前を公開しません。しかし、株式会社ディー・エヌ・エーでは、メンバーとマネージャーとの間の信頼感を高めることを目的に、記名式での評価にしました。なお、この評価は人事評価ではなく、あくまでフィードバックを目的として利用されています。

課題と目標を明確にして新しい制度にチャレンジしよう

人事評価制度は、ただ新しい考えを採用すれば良いものではありません。今回ご紹介した会社は自社の問題点に着目し、目標を持って人事評価制度の変更にチャレンジしている会社です。人事評価制度の変更に挑戦するのであれば、これらの会社のように目的を明確にし、その運用方法について十分な考察をすることが大切です。その上で、さまざまな人事制度作りに挑戦してはいかがでしょうか。

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