近年、リスキリングまたはリスキングという言葉をたびたび聞くようになったという方は少なくないようです。では、リスキリングとは何でしょうか?リスキリングはダボス会議で発表されましたが、どんな意味を持つのでしょうか?喫緊の課題であるDX人材を育てるうえでも、リスキリングはカギになりますが、どのように実践していけばよいのでしょう。経営者や人事担当者がリスキリングを主導していく際の注意点も考えます。

リスキリングとは何かと必要とされる理由

リスキリングとは、人材の再教育や再開発を行うこと。技術革新やビジネスモデルの変化によって生じる新たな業務に対応するため、必要になるスキルや知識を学んでもらう取り組みのことを指します。リスキリングが初めて提唱されたのは、2018年の世界経済フォーラム、通称ダボス会議です。この年のダボス会議で「リスキル改革」に関するセッションが開かれ、2021年には「リスキリング」「リスキング」という言葉がメディアを通して聞かれるようになりました。ダボス会議には、世界で発言力を持つ国家元首クラスの要人や、国際機関の高官、学術機関やシンクタンクのリーダーなどが参加し、世界経済や環境問題など、今後重視すべき点が論題として取り上げられます。将来を占う会議にアジェンダとして取り上げられたという事実は、リスキリングが重要かつ喫緊の課題として認識されたことを示しています。

人材の教育や開発は、多くの企業で実施してきたかもしれませんが、リスキリングはこれまでの教育の定義と異なる点に注意が必要です。リスキリングと混同されがちなのが、OJTやリカレント教育です。例えばOJTは、実務を行いながら仕事の流れややり方を覚え、スキルを培っていく方法です。OJTは企業活動に不可欠な教育方法として定着していますが、これまで踏襲されてきた仕事のやり方を覚えるための教育であって、再教育という意味合いとは異なります。またリカレント教育は、現状の業務を改善するために必要なスキルや知識を学びなおすことを指します。業務改善という意味では効果的ですが、新たな仕事を生み出したり、現時点で担える人がいない業務を行うスキルや知識を身につけるのとは、明らかに違います。

リスキリングが必要とされる理由

リスキリングが求められる理由はいくつかあります。その一つが、新型コロナウイルスによりビジネスの在り方が変化したことです。リモートワークや在宅勤務が推奨されたのは、東京オリンピック・パラリンピック開催時の渋滞の緩和などのためでしたが、その準備は新型コロナウイルス感染症流行時に役立つことになりました。突然起きる災害やパンデミックへの対処をするなかで、まだ見ぬ将来の懸念材料に柔軟に対応できる人材の確保が急がれます。そして、新型コロナウイルスの流行は、物事の価値観や働き方を大きく変えるきっかけとなり、ビジネスで求められるものも変化しています。新たな課題に向き合う点で、リスキリングが役立つと期待されます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進すべきことも、リスキリングが必要とされる理由です。今まで技術を持つ人に頼ったり、アナログ処理してきた部分を、デジタル技術を使い業務効率アップや生産性向上に結び付け、新たなサービスや付加価値を生み出すことが企業には求められています。この工程を実践していくには、まずはデジタル技術を扱える人材が必要です。既存の従業員がリスキリングにより必要なデジタル技術を習得すれば、これまでの経験を活かしつつ、さらなる活躍が期待できます。

リスキリングのメリットと注意すべき点

リスキリングのメリットの一つは、斬新なアイデアが生まれやすくなることです。新たなスキルや知識を身につけると視野が広がり、気づきや発見が生じます。それらをもとに新規事業を立ち上げたり、製品やサービスにアイデアを盛り込めると、多角化によるリスク分散が可能になり、継続的な成長につながります。新しいアイデアの創出は、企業を取り巻く環境が変わったり、ビジネスモデルが変化したときにも、素早く対応していける力になるでしょう。

リスキリングは新しいものを作り出したり変化に強いだけでなく、人材の定着や企業文化の継承にも役立ちます。ある転職サイトが実施したリスキリングに関する調査では、ビジネスパーソンの半分以上が何らかの形でリスキリングに取り組んでおり、そのうちの約4割が個人的に行っているとの回答が得られました。DXが推進され、デジタル化による作業効率化が進む中、自分のスキルや強みを模索する方が増加していることは明らかです。リスキリングに積極的に取り組む企業には、能力や意欲がある人材が集まる傾向が見られます。自社文化や風土を理解する従業員がリスキリングで力をつければ、自社の強みを生かした新たな事業展開を成功に導くことができるに違いありません。

良い点が強調されがちなリスキリングですが、取り組む際に気を付けたい点もいくつかあります。その一つが、会社として取り組む姿勢がポイントになるということです。「自己責任」が強調される現代ですが、従業員一人一人の努力に依存してしまうと、リスキリングによる成果が、会社全体を巻き込む大きな力に発展しない可能性が出てきてしまいます。リスキリングに関しては、罰則規定よりもインセンティブを付与したり、発表の場を設けるなどの積極的な方策を取っていくことが大事になります。

また、企業によってリスキリングの方向性が異なることを理解しておくと、費用対効果が見込めるコンテンツ提供ができるかもしれません。リスキリングの目的やゴールをあらかじめ定めておくと、必要ないリスキリングコンテンツを選んで、投資が無駄になることを防げるでしょう。

リスキリングで社内のDX人材を育成するには

DX人材を社内で育成するリスキリングは、段階を踏んで行う必要があります。最初のステップとして大切なのが、リスキリングの目標と展開を考えることです。自社ではどんな分野でDXを進めるべきか、方向性を見極め、経営陣や情報システム部、現場で共通認識を持つことが大切です。加えて、重視すべき事業戦略も考えます。事業については、投資が必要な新規事業と、既存事業の改善や見直しの両方をバランスよく考えるとよいでしょう。また、DXの推進をどの部門から開始するかを考慮します。できれば、効果が明らかになりやすい部門や業務から取り組むのがおすすめです。成功体験が生まれることで、横展開がしやすくなるからです。

目標と展開を決定したら、現状把握に入ります。既存の社員が持っているスキルや社内で経験してきた業務を調査し、やる気や適性を鑑みたうえで、DX人材になりうる方を選びます。DXに参加する人材には、IT関連の検定や資格取得をしてもらうなどして、求めるレベルに達する力があるかどうかの判定も必要でしょう。それと並行して、DX推進にあたり、どんなスキルが必要か、リストアップする作業も行います。その際、DX人材すべてが持っておくべきスキルと、担当部門別に期待するスキルに分けて考えると、それぞれの仕事を進めるうえで、過不足ないリスキリングが可能になります。

スキルを選定したなら、具体的な育成プログラムやコンテンツを決定していきます。DX人材のためのリスキリングは、IT企業などでは社内で対応できるかもしれませんが、それ以外の事業所は外部の教育機関やオンライン講座などを利用するとよいでしょう。リスキリングはあくまで手段なので、実践する機会があるスキルを優先して身につけると活用が進むはずです。これらの一連の流れは、企業全体では3年から5年要することが多いため、ポイントごとの理想の形や到達目標を決定しておくとよいかもしれません。

ダボス会議で提唱された意味を踏まえたDX人材育成のためのリスキリングとは

リスキリングは、世界経済の動向や将来の環境問題を見据えたダボス会議で発表されたことを考えると、真剣に取り組む必要性を理解できます。ビジネスモデルが変化し、DX人材が企業の成長に欠かせない状況になっているため、ターゲットを見据えた計画的なリスキリングが重要です。リスキリングとは手段であって、目標ではありません。活用してこそのものなので、人材育成と実践の機会をセットで考える必要があります。

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