売上や収益を伸ばしていくためには、組織全体の生産性向上が大きなポイントとなります。また、生産性の向上には、従業員個々のスキルアップ、あるいはスキルアップに伴うパフォーマンスの向上が欠かせません。さらに、従業員が積極的にスキルアップに励むことは、パフォーマンスの向上だけでなく、それぞれのキャリア自律(自らの力で自身のキャリアを切り拓くこと)にも繋がります。これらを踏まえ、今回は従業員のスキルアップを促すための施策について掘り下げていきます。

注目を集めている「リスキリング」とは

現在、会社経営者や人事担当者の間では「リスキリング」というワードに注目が集まっています。まずはこのリスキリングについて理解を深めていきましょう。

リスキリングの概要

リスキリング(Re-Skilling)とは「今後の業務で必要になる知識・スキルを習得してもらうこと(あるいは自発的に習得すること)」を指す言葉です。変化の激しい現代社会における事業展開において、不足している知識やスキル、あるいは、新たに必要となった知識やスキルを身につけるという概念になります。

なぜ注目されているのか

リスキリングが大きく注目を集めるのは、ビジネス界全体にDX(企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること)の波が訪れたためであると言われています。ITの発達に伴って、業務効率化やサービス品質向上のために積極的にデジタルツールが活用されるようになりました。しかし業界を問わずそれらを駆使して、DXを推進できる人材の確保は難航しており、多くの企業でDXが進んでいない状態になっています。そこで採用だけに頼らず、自社でDX推進を担うことができる人材を育成するアプローチとしてリスキリングが注目されるようになったのです。

リスキリングの重要性は全世界で認知されています。例えばスイスのジュネーブを本部とする非営利財団である世界経済フォーラムが開催した2020年のダボス会議では、リスキリング革命と題して2030年までに世界中で10億人をリスキリングするという目標が宣言されました。これを受けて日本政府でも202210月、個人のリスキリングへの公的支援として、5年間で1兆円を投入することが表明されています。

リカレント教育とリスキリング

リカレント教育とは、「学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返す」ことです。日本では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれ、社会人になってから自分の仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため「社会人の学び直し」とも呼ばれます。海外においては、一度休業や退職をしたうえで「学び直し」、また職に就くという繰り返しが行われることから、「リカレント教育とリスキリングは異なる概念だ」と見る向きもありますが、自身の仕事のために「学び直す」という観点においては、同義と言えます。それよりも重要なのは、これからの時代、生涯にわたって働き続けるにあたって何を学ぶのか(どのような知識・スキルを身につけるのか)ということです。そこを見誤ることなく、自身のキャリア形成に役立つ学び直しが重要な視点と言えます。

リスキリング施策推進のメリット・注意点

リスキリングによって従業員がスキルアップすると、企業にとって様々なメリットが期待できます。その一方で気をつけておきたいポイントもいくつか存在するので、その双方をしっかり把握しておくことが重要です。ここからはリスキリング施策推進のメリットや注意点について紹介します。

メリット1 業務効率化

従業員のスキルが向上すれば、普段の業務をより一層効率的に行うことができる可能性が高まります。特にDX関連のスキルは作業時間の短縮や不要な業務の削減に大きな効果が期待できます。リスキリング施策を上手く運用し続けていれば、生産性向上や業務時間の削減にも繋がっていくでしょう。

メリット2 中途採用コストの削減

リスキリングは企業の中途採用コスト削減にも有効です。新しい人材を採用するには人件費・広告費・会場費など様々なコストがかかります。DX推進や新規事業の立ち上げに際してノウハウを持った人材を中途採用するとなると、必要となる採用コストは莫大になります(そもそも市場にそのような人材が少ないことから、ベース年収を上げなければならない等)。リスキリング施策を進めることは、採用コストをかけず、自社に必要なスキルを持った人材を確保することができるというメリットが生じます。

メリット3 新しいアイディアの創出

スキルを身に付けてできることが増えると、視野が広がって今までとは異なる視点で物事を考えられるようになります。社内で多様な意見が飛び交うと、斬新なアイディアが生まれやすい土壌が整いビジネスチャンスも広がるのです。リスキリングは「現状で必要なスキル」ではなく、「これから必要になるスキル」に重きを置いているため従業員の自発的な思考・行動を促す効果もあります。

メリット4 キャリア自律の促進

従業員の持つスキルが増えると、各人が自分のキャリアを能動的に模索する「キャリア自律」が促されます。従業員としては将来の選択肢が広がり、企業としては人材配置の柔軟性が増すため従業員・企業の双方に恩恵があると言えるでしょう。社内のキャリアチェンジで活躍してもらえれば、育成した人材の社外流出防止効果も期待できます。キャリアの幅を広げることができる企業は従業員満足度が高く、優秀な人材が定着しやすいのです。

注意点1 準備段階が重要

リスキリング施策はいきなり実施して効果を得られるものではありません。大切なのは入念な準備を行い、従業員の不安や混乱を避けることです。まずは従業員に施策(制度)導入の周知を徹底し、現場の理解を得ることが重要です。必要があれば従業員からの意見を聞き取って運用方法を調整しましょう。また、スキルアップに取り組むためには心身が健康であることも重要です。ストレス過多で心にゆとりがない状態では、新しいことに取り組む気力も湧かないでしょう。リスキリングの導入に際しては、健康経営(従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること)についても注力することをおすすめします。

注意点2 従業員の自発性とモチベーション維持

リスキリング施策は、企業側からのアプローチであるものの、最終的に重要なのは従業員が「自ら積極的に学習する」ということです。新しい知識の吸収にはそれなりの負担が伴います。リスキリングは仕事と並行してスキルを身に付けていくため、会社からの指示で「やらされている」状態が続くだけでは学習効果が上がりません。本人が希望するキャリアプランを尊重し、何故スキルアップが必要なのかを理解してもらうことが重要です。動機づけをしっかりと行うことで、自発的かつ積極的にスキルを学び続けてくれるようになるでしょう。

ポータブルスキルについて

リスキリングで学ぶ知識やスキルは人それぞれですが、先々のキャリアを広げるという意味では「多岐にわたって活用できるスキル」であることも重要です。職種を問わず活用できるスキルは「ポータブルスキル」と呼ばれ、ビジネスパーソンとしての基礎を強固にするものとして重要視されています。リスキリングで身に付ける選択肢となり得るポータブルスキルの一例は次の通りです。

ロジカルシンキング

ロジカルシンキングは、物事を筋道立てて考え、適切な意思決定を行う基礎となる能力です。話に説得力を持たせる効果もあるため、プレゼンテーション能力の向上にも繋がります。一朝一夕で身に付くスキルではないため、継続的に磨きをかけましょう。

課題解決能力

ビジネスにおいて問題が発生することは付き物です。そのような時に役立つのが課題解決能力です。課題解決能力を高めることで、「何が解決すべき問題か」を見抜く力が養われます。さらに、根本的な原因にフォーカスして対処することができるようになるので、手戻りすることなく、職場の課題を解決することができるようになります。

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルは、ビジネスにおける基本中の基本とされていますが、それゆえ改めて学ぶ機会が少ないスキルでもあります。自分が話したいことを正確に伝える力はもちろん、相手の意図をしっかり汲み取る「聴く力」も重要です。また、言葉によるコミュニケーション(バーバルコミュニケーション)以外にも表情や仕草等でニュアンスを伝えるスキル(ノンバーバルコミュニケーション)も求められます。

セルフマネジメント

与えられた仕事を確実に行うためには、セルフマネジメントで自分自身を管理することが重要です。一般的にセルフマネジメントと言えばスケジュール・タスク・健康の管理などが知られていますが、判断の瞬発力やストレスに対する忍耐力もここに含まれています。

リスキリング施策の導入

リスキリング施策を導入するためには、一般的に以下のようなプロセスを踏みます。

必要スキルと対象従業員の明確化

リスキリングでは従業員の希望を汲むことも大切ですが、まずは自社の今後の業務に必要なスキルを身に付けてもらうことが先決です。事業内容や経営戦略から必要なスキルを洗い出し、身に付けて欲しい人材をピックアップしてください。この段階で対象となる従業員とは話し合いの場を設けて、リスキリングについて理解を得るようにしましょう。

教育プログラム・コンテンツの選定

従業員にスキルを身に付けてもらう方法は研修(オンライン・オフライン)・eラーニングなど様々です。身に付けてもらうスキルの特性や社内環境を考慮して、最適なものを選んでください。社内に対象スキルを持つ人材が居れば教育係を担当してもらうのも1つの選択肢ですが、教育係を担う従業員に負荷がかかるため、外部のコンテンツやプログラムを利用している企業が多いのが現状です。

環境構築と学習

仕事と学習を両立させるリスキリングでは、従業員に過度な負担をかけないことが重要になります。普段の業務に支障が出ず、就業時間内で学習できる環境を構築しましょう。日常業務に使用しているアプリやツールを利用して、学習コンテンツにアクセスしやすくするといった取り組み例もみられます。学習時間の調整が難しければ、従業員が任意の時間帯に学習できる方向で考えてみてください。

実践での知識運用

知識やスキルは身に付けることが目的ではなく、実際に仕事で活用して初めて意味を成すものです。リスキリングでスキルを身に付けた従業員には、新しい活躍の場を提供してあげることを心がけましょう。実践でのスキル運用に慣れないうちは、都度、フィードバックを行って改善に努めてください。リスキリングにおいてもPDCAサイクルが重要な役割を果たします。

従業員のスキルアップはリスキリングを起点に!DX関連知識・スキル以外にポータブルスキルという選択肢も

従業員のスキルアップは、本人・企業(勤務先)双方に恩恵があり、ビジネスシーンでその重要性が再認識されています。企業側からアプローチをかけるには、働きながら無理なくスキルアップする施策の運用が有用です。 

また、DXや新規事業の立ち上げに関わる専門知識を身に付けてもらうケースも多いですが、従業員の将来性や可能性を考慮するとより活躍の幅が広がり、前述の専門知識を運用するベースとなる“ポータブルスキル”のリスキリングもおすすめです。事前準備や環境構築を徹底して、従業員のリスキリングを成功させましょう。

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