Z世代が社会人となり、これまでとは異なる人材育成方法が求められています。コロナ禍で広まったテレワークは若手人材に好評な一方で、毎日顔を合わせて様子を確認できなくなった企業は、離職防止に頭を悩ませるようになりました。この記事では、新たな若手人材育成方法として注目される「オンボーディング」について、どういうものかという基本定義から、目的やメリット、成功させるポイントまで詳しく解説します。

オンボーディングとは?

「オンボーディング」とは、英語の形容詞「on-board(船や飛行機に乗っている)」から生まれたビジネス用語です。会社などの新入社員をスムーズに組織の一員として定着させ、早期戦力化させるための取り組み全般を意味します。入社後に一般的に行われる実務研修のOJT(On the Job Training)と異なる点は、職場環境に適応するためのサポートやフォローも含まれることです。新卒・中途採用者を含め新人全般が対象であり、入社直後の新人研修だけでなく、長期的な育成プログラムまで考えて実行します。

Z世代と現代の若手を取り巻く環境

少子化と人手不足がますます進むと予想され、ワークライフバランスという言葉も定着した現代社会では、「仕事や企業中心の生き方」よりも「個人の人生と組織の利益を両立させる働き方」を求める人が増えたと言われています。中でも世代の特徴として、承認・金銭・競争など外から得られる動機よりも、社会貢献・自己成長・やりがい・仲間といった内側で感じる価値に重きを置く世代と分析されているのが、Z世代です。

変化の速いビジネスの現場では、指示待ちの人間ではなく自発的・自律的に学び、試行錯誤を含めて行動し成長できる人材が求められます。Z世代は協調性の高さという強みを持ちながら、「自発的に行動する」ことや、「失敗するリスクを踏まえて試行する」ことが苦手という分析もあり、従来とは異なる人材育成方法が必要です。職場環境に適応するためのサポートやフォローも含まれるオンボーディングは、Z世代の特徴に合わせた、新しい人材育成方法としても注目されています。

オンボーディングの目的とは?

オンボーディングの目的は、主に3つあります。

新入社員を既存社員となじませ、早期の即戦力化を図る

新入社員には、組織のルール・社風・職場のシステム・人間関係など、覚えて適応する必要のある内容が数多くあります。慣れない環境では不安や心配を感じやすく、ストレスがかかって実力を発揮できない状況が起こりがちです。オンボーディングによって組織と職場環境への順応を促すことで、安心して仕事に取り組んで能力を発揮することができれば、戦力として早期に成果を出すことが可能になるでしょう。特に社会に出るのが初めての新卒採用者には、オンボーディングでコミュニケーションを取って長期的に良好な関係を築くのが効果的です。

早期の離職防止と人材定着

早期離職の大きな原因として、人間関係の不満や、「思っていた仕事内容と違う」というミスマッチがあります。オンボーディングでは、チームや先輩・上司とのコミュニケーションを充実させて、適切な目標の設定を行い、企業のビジョンへの共感を促し、組織への帰属意識を生じさせることを目指します。モチベーションの向上により早期離職を防止し、人材を定着させるのが目的のひとつです。

部署による教育格差を防ぐ

新人育成を部署ごとに行うと、トレーナーの能力や部署での取り組み方による格差が生まれがちです。オンボーディングは、企業全体で人材育成の取り組みを実行するため、部署による教育格差を防ぐことができます。人事部が体系的な施策を検討すれば、面談やメンター制度、テレワーク下でのオンライン実施、部署を超えた研修といった新たな育成施策を導入することも可能です。すべての部署に共通して求める一定の目標を設定して、全体の底上げを図ることもできるでしょう。

オンボーディングのメリット

オンボーディングのメリットにはどのようなものがあるのか、代表的な3つをご紹介します。

早期離職を防止し、採用コスト・育成コストを削減する

企業は毎回多大な求人コストをかけて、新入社員を採用します。新卒社員であれば社会人としての教育から、中途採用でも職場になじむための研修を行うなど、社員ひとりを育てるためには一般的に数十万円を超えるコストが必要です。新人と指導係だけでなく、部署全体で業務に適した人材育成を行うための人的・時間的コストも無視できません。せっかく採用して育てても、早期離職が起こるとかけたコストが無駄になってしまいます。一方、離職を防いで人材定着が叶えば、かけたコスト以上に価値のある戦力になるでしょう。業務遂行能力と組織への愛着心を持ち、長期的な目標やビジョンを共有する人材になることが期待できるからです。

新人のモチベーションを高め、全体の組織力を向上させる

オンボーディングで、新卒社員が環境にスムーズに慣れて早期に実力を発揮すれば、業務を覚える前に感じやすいつまずきや落ち込みを予防できます。成長とやりがいを感じられれば、モチベーションが高まります。自分が会社に貢献しているという実感によって、組織に対する愛着心も育ちやすくなり、「ますます能力を発揮して貢献しよう」という自発性を促すこともできるでしょう。部署を超えた多様な人との交流により、全社的な情報共有が活発になり、組織全体の結束力が高まるメリットも期待できます。

従業員満足度を向上させ、生産性を高める

オンボーディングは、下記に挙げる出来事が起こることを促し、従業員満足度と生産性の向上が同時に実現する手段になりえます。
・組織内での情報共有が活発化することで、社員同士の助け合いや横のつながりが強化される。
・社内の繋がり強化で、従業員の心理的安全性が向上し、自由に意見交換できる土壌が生まれる。
・新入社員の早期戦力化で、教育係の社員が本来の自己業務に集中できる。
・育成方法の仕組み化によって業務効率が改善される。

向上

成功するオンボーディングの進め方とは?

メリットの多いオンボーディングですが、ただ導入すれば結果が出るわけではありません。ここでは、成功させるために重要な4つのポイントを解説します。

信頼関係の土台となるコミュニケーションの構築

オンボーディングでは、特に新入社員へのコミュニケーション面からのサポートが欠かせません。入社前に人事担当者と話す機会を設ける、入社前のウェルカムメッセージを送るなどのコミュニケーションを行うのは、信頼関係を築く有効な手段です。入社後は、人間関係の構築を重視し、組織内のメンバーがどのような役割を持っているかを早めに伝えましょう。気楽な雰囲気の歓迎会や同期会の開催、上司との定期的な面談、メンター制度の導入、チャットなどITツールの活用も効果的です。

業務以外でもささいな疑問や不安を気軽に相談できる相手がいることで、仕事への意欲が高まります。新入社員の定着のカギは入社後90日と言われるため、人事部と配属部署が協力して集中的にサポートするのがおすすめです。

教育体制の充実、トレーナーの育成

オンボーディングの成功には、教育体制の強化とトレーナーの育成も不可欠です。入社前から既存社員間で育成方針の共有を行い、育成担当係を決定して指導研修の準備を完了させましょう。自社向けにカスタマイズした入社研修と、オンラインの外部研修を積極的に活用することをおすすめします。テレワークでのオンボーディングの場合は、WEB会議システムやビジネスチャットツールの導入で環境を整えるのも重要です。

トレーナー育成では、研修プログラムやワークショップを通じて、指導力やコミュニケーションスキルの向上を図りましょう。マニュアルを作成して教育担当者間での教え方を統一するほか、定期的なフィードバックや評価で、トレーナー自身のスキルアップとモチベーション維持に努めるのもおすすめです。トレーナーのモチベーションが高ければ、新入社員のモチベーションを高める重要な役割を果たすことができます。

スモールステップ法を取り入れる

スモールステップ法は、目標を段階的に細かく設定し、その細分化した目標を達成しながら、最終目標到達を目指す手法です。入社間もない新入社員は、仕事で成果を出すプレッシャーを感じやすく、成果が出るまでに長い時間を要する場合は、ストレスから目標を見失いがちな傾向があります。スモールステップ法を活用して、容易に達成が期待できる目標を細分化して設定し、周囲が細分化した目標達成をバックアップすることで、成功体験を積み重ねるのが有効です。

具体的には、新入社員にも簡単なタスクから始めて徐々に難易度を上げていき、成果を出しやすい段階を設けましょう。目標を達成した際に、適切なフィードバックと肯定的な評価を与えることも重要です。新入社員が自身の成長を実感し、自信をつけて次のステップに取り組む意欲を育むことができます。

新入社員と企業の期待値を合わせる

新入社員が組織に対して様々な期待を抱く一方で、企業側にも社員に期待する内容や、求める成果があります。お互いの期待がずれてしまうと、新入社員が不安やストレスを感じる原因となり、成果を上げることが難しくなるでしょう。そのため、オンボーディングの初期に、新入社員と企業が期待値を合わせることが重要です。

具体的には以下の3点を意識するとよいでしょう。
・率直なコミュニケーションでお互いの求めることを明確に伝え合う。
・入社前に会社の文化や価値観・業務内容について詳細な情報を提供する。
・オンボーディングのプランを共有して、スケジュールと明確なゴールを示す。

新入社員のサポートを超えて、組織全体の成長をもたらしてくれるオンボーディング

Z世代の人材育成に新たな展望をもたらし、テレワーク時代の離職防止にも有効な手法として注目されているのがオンボーディングです。部署ごとに行う新人研修とは異なり、企業全体で取り組むため、新入社員のサポートになるだけでなく、一体感の醸成と生産性のアップを促して組織全体の成長をもたらしてくれる可能性があります。自社に適したオンボーディングを作成し、実行してみてはいかがでしょうか。

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