組織の人材育成において、優秀な管理職を育てられるか否かは今後の事業に大きな影響をおよぼします。仕事ぶりを見て優秀なプレイヤーの中から、将来の幹部候補に見当を付けているところも多いでしょう。しかしここで大切なのは、優秀なプレイヤーが優秀な管理職になるとは限らないという点です。本稿では、管理職を育成するにあたっておさえておくべきポイントや新任管理職の心構えについて紹介します。

管理職とはどんな役職なのか、プレイヤーとの違いは?

まずは管理職がどのようなポジションでどんな役割を持っているのかを、プレイヤーとの違いも絡めながら改めて確認しておきましょう。

管理職の役割

組織において管理職は現場と経営層を繋ぐ役割を担っています。具体的に言うとトップ層が掲げる企業理念や経営方針を理解した上で、その実現のために現場で指揮を執るのが主な仕事です。また、縦断的な繋がりだけではなく、横断的な繋がり、つまり他部署との橋渡しも求められます。目の前の目標をクリアするだけでなく、目標達成の再現性がある仕組みを作り、それに沿って組織が動けるように「事業マネジメント」「コンプライアンスの管理運用」「部下育成」「現場のメンタルケア・健康管理」といったことも行う必要があります。

プレイヤーとの違い

通常、管理職はプレイヤーとして優秀な成績を収めた人材が抜擢されるケースが多いでしょう。プレイヤーは個人でしっかりと結果を出し続けることが大事ですが、管理職は「チームメンバーのパフォーマンスを最大限に活かして組織としての結果を追い求めること」が重要となります。

ドラッカーによる提唱

アメリカの経営学者であるピーター・ファーディナンド・ドラッカーはマネジメントの父とも呼ばれており、現代ビジネスにおける礎を築いた人物としても知られています。ドラッカーはマネジメントを「組織で成果を出すための道具・機能・機関」、その実行者をマネージャー=管理者と定義しました。ドラッカーが考える管理者の基本的な仕事は、次に挙げる5つです。

  • 目標設定:社会全体のニーズに連動した自社の目標を策定し、方向性を定める
  • 組織化:目標達成のための役割分担、人選、チーム作り
  • 動機付け:部下と双方向のコミュニケーションを取ることでモチベーションの源泉を把握し、維持・向上に努める
  • 評価:部下が組織全体の目標達成度や自分の仕事を理解するための評定、および改善のためのフィードバック
  • 人材育成:個々の「人」が持つ個性や強みを最大化させ、組織力の強化に繋げる

新任管理職に求められる「チームビルディング」

ドラッカーの提唱する5つの仕事をより円滑に進めるためにも、チームビルディングに取り組むことが重要です。ここではチームビルディングに関する基礎知識を押さえながら、新任管理職として心得ておきたいポイントを見ていきましょう。

チームビルディングについて

チームビルディングとは「チームメンバー個々の持ち味を活かし、共通の目的に向かって効率的かつ着実に進むための組織作り」のことです。チームビルディングの実現は、まずチーム全員が「当事者意識」を持つところから始まります。その上で、管理者を含めた個々人が「自分」「相手」「組織」のそれぞれについて理解を深めることが重要です。

  • 組織:チームがどういった目的や目標を掲げ、共有しているのかを把握する
  • 自分:自分自身の行動特性や能力を知り、どういった役割でチームに貢献できるかを把握する
  • 相手:各メンバーの行動特性や能力を共有し、理解し合う

このように、「組織」「自分」「相手」について理解した上で、なにを期待し、促し合っていくのかが重要です

結束行動の重要性

チーム内で役割分担して1つの仕事を成し遂げる際、適材適所で役割が与えられれば理想ですが、必ずしも各員に得意分野を割り当てられるとは限りません。場合によっては不得手な分野の業務を担当してもらうこともあるでしょう。その場合、チームとして最大限の成果を出すために重要なのが「結束行動」です。ここで言う結束行動は個々が与えられた役割と自分の行動特性や能力を理解した上で、組織として目標を達成するために行動特性や能力を最大限発揮することを指します。結束行動は「自己努力」と「相互扶助」を共存させることがポイントです。不得手な分野の業務や役割が与えられた際には、自己で不足分の役割を補うように努力するだけでなく、当該領域を得意とする他のチームメンバーが補完することが必要です。

このように、チーム全員が結束行動に基づいて仕事に取り組むためには、管理職による環境整備やサポートが重要となります。

新任管理者のチームビルディング

新任管理者がチームビルディングとしてまず初めに取り組む内容は、一般的に「チームの方針策定」「メンバーの特性把握」「役割の明確化」「メンバーのサポート」の4つになるでしょう。

  • チームの指針策定:会社と連鎖するチームビジョンを策定し、メンバー全員でのワークショプなどを行なうことで全員が理解できている状態にする
  • メンバーの特性把握:1on1面談などを通じてメンバーの特性を理解し、また自分自身についても開示をする
  • 役割の明確化:メンバーの特性を理解し、目標設定面談等を通して組織内でどういった役割を担ってほしいのかを伝える
  • メンバーのサポート:業務の進捗やチームの状況をショートタイムで共有し、メンバー同士で支援をする

こうしたところから、チームビルディングのアクションを起こしていくと良いでしょう。

即応性に重要な「権限委譲」について

スピード感が求められるこの時代に、組織が適正に機能し対応していくためには、部下への権限委譲が重要になります。

権限委譲の概要と必要性

部下への権限委譲が必要な理由は主に2つあります。

1つ目は、管理職としての仕事に注力すべきだからです。これまでお伝えしてきたような役割や仕事を、プレイヤー時代に行っていた仕事と並行しながら進めていくのは困難です。なるべく早い段階で、部下に現場の仕事や権限を委譲し、組織としての成果を追い求める取り組みに注力していきましょう。

2つ目は、スピード感を持って意思決定するためです。今の現場のことを1番わかっているのはメンバーです。状況が変化したときに、この対応がベストだとわかっていても、権限委譲がない、仕事が任せられていないといった状況では、報告して意思決定を仰ぐというプロセスが発生します。それに対して、上司が質問などを行なうと、さらに意思決定が遅くなってしまいます。スピード感の遅れが業務に影響を及ぼすため、できるだけ意思決定の回数を少なくしていくために権限委譲をし、行動までのスピードをあげられるようにしましょう。

権限委譲の具体的な方法

適切に権限委譲を行うためには、まず「委譲する権限の範囲」を決めます。ビジネスの基本となる5W1Hを軸にしながら、「任せること」「判断を仰いでもらうこと」を管理者と部下の双方で共有しましょう。なお、権限委譲は業務を丸投げするものではありません。部下の意思決定は管理者が承認したものであると見なされるため、権限を委譲した管理者と委譲された部下の信頼関係が大前提となります。

また、「下限設定」も成功のポイントです。仕事を任せた部下に「ここまでは成果を出して欲しい」と指示するのは上限を設けることを意味します。それによって、上司は達成度合いを細かく確認するようになり、部下は「信頼されていない」「自分の裁量で仕事ができない」と感じてしまう傾向があるので注意が必要です。むしろ「任せた仕事において下回って欲しくないライン」を下限として設定することで、部下は成果達成に向けて自由に取り組みやすくなります。部下には適宜成果状況を報告してもらい、申し出があれば相談に乗るようにしてください。下限を割り込みそうな兆候が見られる場合は、管理者側からテコ入れすることも視野に入れましょう。

タレントマネジメントの目的

部下育成における重要ポイント5

会社を成長させるためには、そこに所属する人の成長が必要不可欠です。

人材育成のステップは、知識定着期の「知っている」、実践期の「やっている」、習慣化した状態である「できている」の三段階に分かれます。この3ステップを着実に進めるには、以下に示す5つのポイントを参考にしてみてください。

時間の確保

管理者ともなると業務量も増えるため、特に新任のうちは忙殺されがちです。しかし時間がないことを理由に部下の育成を遅らせることは得策ではありません。そして、育成も他の仕事と同等です。「ないがしろにされている」と思われないためにも、スケジュールを工面して十分な教育時間を確保してください。

分かってもらえるまで何度でも

人材育成のゴールは「教わる側が内容を理解・実践できるようになる」ということです。教える側が一方的に教えるだけでは、部下を育成したことになりません。個々人には得手不得手があるので、一度だけで完璧に理解してもらえるとは限らないでしょう。一度指導しても変化が無ければ、何度でも根気よく指導し、何度指導しても身につかない場合は、管理者が教え方を変えてみるように心がけましょう。

観察を怠らない

仕事を教わる側は未知の情報を仕入れることになるため、不安を感じていることも珍しくありません。またそんな中でも、小さな成長や変化も繰り返しています。教える側が相手を観察して、心情や行動の細かい変化を捉え、必要に応じてその都度声をかけてサポートすることが大切です。

比較しない

結束行動の重要性でもお伝えした通り、人には「得手/不得手」がありますし、知識や能力のレベル差が存在します。そのため、自分ができることであっても、「教わる人」が同じレベルのものをすぐできるとは限りません。人を育てるということは「相手の能力や知識レベルや経験値に指導や助言を行なうこと」が鉄則です。

言葉には細心の注意を払う

「教わる人」との信頼関係を構築するためには、とにかく「誠実に」対応することが重要です。また、個人の価値観が尊重される現代では、どのような言葉が相手を傷付けてしまうか分かりません。性別・学歴・出身といった個人情報に関する差別的発言や、管理者の立場を利用した威圧的な発言、悪態や他人の悪口も信頼関係に良くない影響が懸念されます。どんな些細な発言にも注意しましょう。

まとめ

企業にとって管理職とは、きわめて重要な役割をになっています。まずは、視座を組織目線で見ること、視野を広げ自分の固定概念では見ないこと、あらゆる視点から様々な捉え方を試みること、この3つを変化させることからはじめてみましょう。

 

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