タレントマネジメントという考え方が日本で普及しはじめてからしばらく経ちました。いまでは大企業の多くでタレントマネジメントという言葉は当たり前のものになっています。
しかし、言葉が普及した現在でもタレントマネジメントという言葉の解釈は人によって大きく異なります。例えば、人事制度ととらえる人もいれば、タレントマネジメントシステムのことだと考える人がいるのです。

あなたはタレントマネジメントとは何か、明確に説明できるでしょうか。そこで今回は改めてタレントマネジメントの意味を理解するとともに、導入方法、導入事例についてもご紹介します。

タレントマネジメントとは?

タレントマネジメントは何か特別な言葉に聞こえます。しかし、現在では人事として当たり前の言葉です。タレントマネジメントとは、具体的にどのような意味なのでしょうか。

タレントマネジメントの意味

タレントマネジメントとは、会社の事業戦略や組織の目標達成のために、あらゆる角度から包括的に人材を活用する仕組みと定義されます。様々な定義があるため、決まった定義はありませんが、どの定義にも共通しているのが「目標達成に向けて包括的に人材を活用する取り組み」であることです。

「タレント」はもともと英語では「才能」や「能力」を意味しています。そこから転じて「才能や能力を持つ人材」を示すようになりました。つまりタレントマネジメントには、組織の目標達成に向けて特定の才能や能力を持つ人材を活用するとともに、人材が持つ能力や才能を引き出す取り組みを意味しているのです。

定義によっては人事における特定のシステムや人材育成の取り組みを指す場合もありますが、本来の英語の意味から読み解くと、日本語でタレントマネジメントとは「人材活用」という意味であることがわかります。多くの企業では、タレントマネジメントは売上や企業戦略を達成するために行う、採用、育成、配置、解雇などのすべての人事的な活動として理解されています。

一般的にタレントマネジメントは従来の人事管理の考え方であった、人的資源管理(HRM)のアップデート版として、新たな人事管理手法の考え方であると言われています。

タレントマネジメントの定義

タレントマネジメントは抽象的な言葉ですが、現在普及している定義はアメリカの人事関連2団体が策定したものが主流です。

アメリカに本部を置く世界最大の人材開発・組織開発関係団体であるATDの定義では、タレントマネジメントを「仕事の目標達成に必要な人材の採用、人材開発、人材活用を通じて、仕事をスムーズに進めるための最適の職場風土、職場環境を構築する短期的/長期的かつ統合的な取り組み」と定義しています。

また、アメリカの人事関係者が集まる団体であるSHRM(全米人材マネジメント協会)は、2006年の調査レポートで「タレントマネジメントとは、採用、育成、配置が統合された人事機能や制度のことであり、組織能力を高めるための取り組みである」と定義しています。
両者の共通点として、タレントマネジメントは単に特定の活動や取り組みを示すのではなく、職場や組織の目標を達成するために人と組織の観点から統合的にあらゆる施策を行うことと定義しています。つまり、単に採用だけに取り組めばよいのではなく、組織の目標に合わせて採用から育成、配置までを一貫して行う取り組みがタレントマネジメントなのです。

参考:「How Do You Define Talent Management?」(ATD)
参考:「2006 Talent Management」(SHRM)

タレントマネジメントの効果とは?なぜ必要なのか?

タレントマネジメントはなぜ今、人事の基本的な考え方として定着しはじめているのでしょうか。なぜ今、タレントマネジメントは必要なのでしょうか。その効果を考えてみましょう。

タレントマネジメントは人事戦略上の重要課題

タレントマネジメントは現代の企業において人事戦略上の重要課題になっています。その背景には2000年代から本格的なIT社会が到来したことがあげられます。ITの発展により、多くの先進国では産業構造に変化が起こり、農業・漁業などの1次産業や工場などの2次産業で働く労働者の数が大幅に減少しました。

現代では、代わりに知的労働者と呼ばれる、専門性を活かして働く労働者が労働者のうち中心的な存在となっています。私たちの周りを見渡してみても、肉体労働者よりも、オフィスで働くオフィスワーカーの方が多いのではないでしょうか。こうした知的生産が中心の現代では、人材によって企業業績が左右されます。例えば最近のIT業界では、AIや量子コンピューターの開発が進められています。先進技術の開発では優秀なエンジニアが必要であることは、私たちにも想像できるはずです。

実際に、優秀なIT人材を数多く輩出するインドでは、工科大学の卒業生を採用するためにGoogleやFacebookなどの有名企業が世界中から集まります。優秀な人材を採用できれば、それだけ自社の成功は確実なものになるからです。つまり現代の企業では、なるべく優秀な人材を採用して育て、最大限のパフォーマンスを発揮させることが重要な経営課題なのです。

人的資源を業績貢献へつなげる

人、モノ、カネの経営資源の中で、人は唯一、潜在的可能性があります。人材によっては、採用後に能力が大幅に伸び、会社の業績を支えるほどの人材に育つこともあり得るのです。つまり人は誰もが潜在的な可能性を秘めていると言えるでしょう。潜在的な可能性や能力を一般的に人事用語でポテンシャルと呼びます。

企業はなるべく能力の伸びしろがある人材、つまりポテンシャルが高い人材を見極めて採用し、入社後にはそのポテンシャルが最大化されるように様々な取り組みを行う必要があります。ただしポテンシャルが高い人材でも、ポテンシャルを引き出す取り組みをしなければ、その潜在能力は眠ったままになってしまいます。

例えばどれだけ優秀なITエンジニアでも、サービス開発の機会を与えなければ、ただの事務作業要員で終わってしまうかもしれません。また、どれだけ創造性が優れた人材でも、創造性が必要のない仕事だけを与えられていては、その創造性が発揮されることはないでしょう。このように企業は単に人手のために人を雇うのではなく、本来、その人がもつ能力や才能を見極めて、それに見合った仕事を与えることで、少ない人数でも大きな成果を得ることができるのです。

タレントマネジメントはまさに、ポテンシャルを見極め、そのポテンシャルを引き出す人的資源管理の考え方と言えます。

タレントマネジメントの目的

タレントマネジメントの目的
タレントマネジメントが企業にとって重要な取り組みであることは理解できたのではないでしょうか。一方でタレントマネジメントは、どのような目的でどんな際に導入されるのでしょうか。

経営戦略の実現

タレントマネジメントの最も重要な目的は、企業の経営戦略を人材活用により達成することです。むしろ企業の戦略を達成するためにタレントマネジメントは生まれたと言っても過言ではありません。

例えばある企業が新しい製品やサービスを開発する戦略を発表したとします。その場合、人事部門では新製品開発ができる人材を集めてきます。まず社内から新製品を開発できそうな人材を探し、もし社内にいなければ社外から採用するでしょう。その際にもし万が一、社内にも社外にも適した人材がいなければ、その企業では新製品開発という戦略を実現することが不可能になります。

そのような事態を避けるために、人事部門は予め今後の企業戦略を見越して、早めにポテンシャルある人材を採用しておき、育成を通じて常に必要な人材を必要な時に供給できるようにします。タレントマネジメントは経営戦略の実現に向けて、将来的に必要な人材を予め確保しておく仕組みとも言えるでしょう。

中期経営計画の実現

企業には長期戦略、中期戦略、短期戦略があります。企業によって異なりますが、長期戦略は約5~10年単位、中期戦略は3~5年単位、短期戦略は数か月~1年単位です。多くの企業が長期戦略を立て、それに基づいて中期経営計画を策定しています。

中期経営計画は3~5年後にその企業が目指す姿を計画にしたものです。長期戦略よりも具体的で、実現可能性の高い計画が記されます。多くの日本企業では、この中期経営計画に沿って人材の採用、育成、組織変更を行います。上場企業であれば中期経営計画は対外発表されるため、必ず達成すべき目標となるでしょう。中期経営計画の達成には人材活用が不可欠です。

例えばある企業が中期経営計画で3年後までにアメリカに進出すると表明した場合、英語でビジネスができる人材が必要になります。人事部門は中期経営計画達成のために社員に英語教育を行うとともに、アメリカでのビジネス経験者を採用するでしょう。また、アメリカにおける人事制度運用の準備にも追われます。このように中期経営計画達成に向けて、あらゆる人事施策を通じて達成を目指す取り組みもタレントマネジメントなのです。

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