少子高齢化による人材不足が急拡大する日本では、優秀な人材を採用する難易度が徐々に高まっています。このような環境の中では、社内の人材を有効活用することがとても重要な経営課題です。人材のスキルや能力を見える化し、それを最大限活用できるように戦略的な人材配置や育成、採用を行うマネジメント手法である「タレントマネジメント」は、これからの日本企業に必須の取り組みになるでしょう。では、どのような項目をKPIとして人材の見える化やタレントマネジメントに取り組むべきでしょうか。今回はタレントマネジメントを運用するためのKPI項目について解説します。

タレントマネジメントとは?

まず、「タレントマネジメント」とはどのようなものなのでしょうか。

タレントマネジメントの定義

タレントマネジメントは、一般的に人材が持つ能力や経験などの情報を見える化し最適な配置や能力開発を行う仕組みと定義されています。90年代にアメリカで導入が進み、現在はITツールを活用したより効率的な手法が生み出されています。

タレントマネジメントの目的

日本におけるタレントマネジメントは、様々な目的を達成するために使用されていますが、主に以下の4つの目的・取り組みがあります。

  • 人材の適材適所を目的とした人事ローテーション計画
  • 能力開発や組織生産性向上を目的としたスキルの見える化
  • 後継者育成計画
  • 上記の仕組みをサポートするITツール(タレントマネジメントシステム)の導入

企業の人事や経営者とタレントマネジメントの話題になった場合には、上記4つのうちいずれか、または全てを意味することが多いです。このように、タレントマネジメントは、企業によって様々な目的や取り組みがあるため、何を目的として導入しているかによって取り組みの定義や内容が異なります。もしあなたが、タレントマネジメントの仕組みを導入したいと考えるなら、ここでご紹介した4つの目的・取り組みを参考に何のために導入するのかを検討しましょう。

タレントマネジメントの導入が進む背景

タレントマネジメントの導入が進む背景には、ITの進歩による世界的な人材獲得競争があげられます。SNSにより世界中の優秀人材にアプローチができるようになり、特に優秀なITエンジニアは世界各国から引く手あまたの状況です。実際にビジネスSNSのLinkedinでは、マイクロソフトやGoogleなどの大手IT企業のリクルーターが毎日のように優秀人材へアプローチしています。

こうした人材獲得競争の中では、社外から人材を獲得することが時に困難であるため、社内でポテンシャルのある優秀な人材を育てるニーズが高まっているのです。タレントマネジメントの考え方には、ポテンシャルのある人材を早期育成することも含まれます。

また、以前と比べると現代は変化の激しい時代になりました。新型コロナウィルスの影響のように、昨年までは不要だったITスキルが急に今年になって求められるようになることもありえます。そんな環境変化の急変に備えて、社内にどのようなスキルを保有する社員がいるのかを見える化することの重要性が高まっています。このように、企業を取り巻く環境と時代の変化とともにタレントマネジメントは現代の人的資源管理において欠かせない重要な考え方となっているのです。

タレントマネジメントとピープルアナリティクスに必要なデータ項目

タレントマネジメントシステムに取り入れるデータ項目はどのようなものがよいのでしょうか。

まずはデータ項目の前に、自社の人事課題を明確にし、何を解決したいのかゴールを設定しましょう。最適な配置を行いたいのか、後継者育成を行いたいのか、事業上の課題として人材や組織に関することで何がネックになっているのかを検討することがスタートです。次に、解決したい課題を因数分解してKPIを決めます。例えば後継者育成であれば、自社にとっての経営者の人材要件がKPIになりうるでしょう。このように解決したい問題を特定し、ゴールとKPIを考えることからタレントマネジメントの取り組みは始まります。

具体的なタレントマネジメントのデータ項目を考える際には、ロジックツリーやKPIツリーなど問題解決の手法が役立ちます。幸いなことに世の中には、優秀なコンサルタントが書いた問題解決の参考書が多く出版されています。こうした書籍を読むだけでも、自社のタレントマネジメントのKPI項目をどのように分解すればよいかが理解できるでしょう。
例えば「人材最適配置により組織の生産性を向上させる」ことが取り組みたいゴールであれば、以下の項目が評価するKPIとなります。

  • 異動させるポジションに必要な人材要件
  • 対象人材の保有スキル、資格、知識
  • 対象人材の業務の経験年数
  • 対象人材の性格適性検査の結果
  • 対象人材の直近評価

上記はあくまでも一例なので、自社の課題に応じて最適な項目を検討しましょう。このように、タレントマネジメントのKPI項目を考えるには、論理的な考え方が不可欠なのです。

タレントマネジメントの失敗事例とデメリット

タレントマネジメントはこれからの時代に必要不可欠な考え方である一方でデメリットもあります。デメリットと失敗事例をご紹介します。

タレントマネジメントのデメリット

タレントマネジメントは、実現までに非常に手間がかかる点が大きなデメリットです。その取り組み内容は、人材が持つ能力や経験などの情報を見える化し最適な配置や能力開発を行う仕組みを構築することですが、まず人材情報の見える化を実現するだけでも工数がかなり必要です。

具体的には、どのような人材情報を見える化したいのか設計をすることから始まり、見える化するための測定ツールの導入、タレントマネジメントシステムの導入といった大掛かりな取り組みが必要になります。運用開始までは最低でも3か月以上かかるだけでなく、導入にかかる金銭的、時間的コストも大きなものになりがちです。そのため、タレントマネジメントを行うよりも、必要なスキルを持つ人材を必要なタイミングで採用する方が簡単である場合もあるでしょう。

また、ある程度、人材に投資できる体力のある企業でなければタレントマネジメントを運用できません。中小企業には向いていない人的資源管理方法と言えます。このように、タレントマネジメントはコストがかかる取り組みなのです。

タレントマネジメントの失敗事例と注意点

タレントマネジメントの導入には失敗事例も多くあります。ある大手IT企業の例をご紹介します。大手IT企業A社では、タレントマネジメントシステムを導入しました。A社が自社開発した自社専用の製品でした。社長肝いりのプロジェクトで失敗は許さない中、無事にシステムの導入が完了しました。しかしその後、2-3年ほどたってタレントマネジメントシステムはほとんど活用されなくなったのです。実はA社ではそもそものタレントマネジメントの概念を人事部や管理職が理解せずに、システムの導入だけが先行してしまいました。そのため、タレントマネジメントの導入よりもタレントマネジメントシステムの導入が目的化してしまい、システムの導入が完了した一方でタレントマネジメントそのものの運用が検討されていなかったのです。

A社のような失敗はどの企業でも起こり得ます。特に最近では安価で簡単に利用できるクラウド型のタレントマネジメントシステムが多く提供されており、誰もが気軽にタレントマネジメントシステムを利用できるようになりました。しかし、A社のように目的やタレントマネジメントシステムの概念を理解せずに「タレントマネジメントシステムを導入すれば全てうまくいく」と考えていると導入は失敗します。あなたも、もしタレントマネジメントシステムの導入を考えているなら、まずは導入する目的を改めて考えてみましょう。

タレントマネジメントの導入事例

最後に実際のタレントマネジメントの導入事例をご紹介します。

導入事例①:日立製作所

日立製作所は2014年からグローバルでのタレントマネジメント導入に取り組んできました。グローバルで約30万人もいる日立製作所の従業員の状態を見える化するとともに、優秀な人材を次世代経営層として育成することが目的でした。日立製作所はまず人材情報を見える化するために、人事情報システム(HRIS)を導入。世界中の人財のスキルなどの情報を可視化することに成功しました。

また、優秀人材を選抜して育成する選抜育成プログラムも刷新し、優秀人材を子会社の役員として育成。そして子会社役員の中から本社役員を選ぶ取り組みを行いました。さらには人事部改革も行い、グローバルにタレントマネジメントに取り組む人事担当者に日本人だけではなく、外国籍社員もアサインしています。このように、日立製作所は単なるシステム導入ではなく、見える化から育成、人事部改革まで、タレントマネジメントの導入に合わせて従来の仕組みを刷新している点が高く評価できる点です。

導入事例②:日産自動車

日産自動車は、日本企業の中でも以前からタレントマネジメントに取り組む先進企業の一つです。「タレントマネジメント部」という部署がタレントマネジメントを担い、部に所属する「キャリアコーチ」が世界中の社員の中から優秀な人材をスカウトして幹部候補生として登録します。さらに、幹部社員を登用するための人材検討委員会が設置され、本社役員や本社部門長、海外拠点長といった重要なポストへ配置する人材を検討しています。

人材情報は半年~1年単位で更新され、優秀な人材に関する常に新しい情報が入手できるようになっているのです。日産自動車の事例は、タレントマネジメントシステムだけに頼らず、キャリアコーチという社内スカウトを活用した、人の目利きによる優秀人材の見極めが行われている点がとてもユニークです。

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