コロナ禍でまさに世界は混乱の様相を呈している。今までの当たり前の日常は失われ、人々は制約のなかでの生活を強いられている。コロナ禍は、人々の生活だけではなく、世界経済にも多大な影響を及ぼしていることは言うまでもない。グローバルでのサプライチェーンは分断され、製造業はモノが容易に作れない状況に陥った。居酒屋やレストランなどの外食業界も危機的な状況だ。ビフォアーコロナでは、シェアリングエコノミーが盛り上がりを見せていたが、その代表格のAirbnbは赤字に転落した。2019年には東京オリンピックに向けて日本全体が盛り上がっていたが、2020年には一気に暗転し、全く先の見えない状況に置かれている。

拙著『VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件』は、2019年に刊行した書籍であるが、まさに先の見えない不確実な時代の到来とその時代を生き抜くためにビジネスパーソンが持つべきキャリアをテーマとして取り上げた。皮肉にも現在のコロナ禍の状況を予見するかのような内容になってしまった。

予想できないことが起こるということを前提に

アフターコロナを生き抜く人材の条件
私たちを取り巻く世界は不確実に満ちており、予想できないことが起こるということを前提に物事を捉えなおさなければならない。今であれば、よりリアルに実感してもらえるだろうが、盤石とされている優良企業・名門企業であっても、永続的に繁栄し続けるわけではなく、大きな環境変化によって苦境に立たされるリスクは多いにある。しかし、人はどこかで安定を求めるため、自身の所属する企業があたかも今後も存在し続けるように信じようとする。この不確実に満ちた世界で、この考え方はリスクでしかなく、ビジネスパーソンは「会社はいつ無くなってもおかしくない」とマインドセットを切り替えるべきである。

日本企業は、新卒一括採用・終身雇用・年功序列という独特の労働慣習を長期に渡り、維持し続けてきた。これは、高度成長期における日本企業の躍進を支えた大きな要因とも言える。昭和の時代では、作れば売れる時代であり、人海戦術で事業を拡大してきた。新卒入社から定年まで社員を丸抱えする人材マネジメントが正解の時代だったと言えよう。

企業価値向上に繋がる時代へと変化

しかし、平成・令和の時代になり、事業環境は大きく変わった。インターネットとデバイスの普及により、新たなサービスが次々と生まれ、既存の産業を塗り替えていった。社員ひとりひとりにPCが貸与され、社員の知的生産の量・質ともに大きく変化した。かつては、社員ひとりひとりの付加価値の違いは誤差の範囲内であったが、今や数十倍、数百倍の違いがある。標準的なエンジニアを100人採用するよりも、天才的なエンジニアを1人採用する方がよっぽど、企業価値向上に繋がる時代へと変化したのは言うまでもない。

トヨタ自動車の豊田章男社長や日立製作所の中西会長が、終身雇用の維持に対する懸念を表明したのは記憶に新しい。新卒一括採用・終身雇用・年功序列といった従来型の日本型雇用で厳しい事業環境を勝ち残るのは難しいことの表れでもある。

では、この不確実な時代に私たちビジネスパーソンが持つべきキャリア観は何かと問われれば、「会社に依存しないキャリアを志向する」ことに尽きる。所属する企業が、存続する保証が無い以上、所属する企業という限られた世界のなかで出世を志向することの意味は少ない。明日、会社が無くなったとしても、生き残れるように、私たちビジネスパーソンは政策的にスキルや経験を身に着けていくべきである。

企業をうまく利用する思考が求められる

そのために、「企業に雇用を守ってもらう」という思考ではなく、「企業は自分を輝かせるための舞台のひとつであり、うまく利用する」という思考を持たねばならない。大企業に在籍するビジネスパーソンは、大企業に所属するということに満足せず、大企業でしか出来ないダイナミックな機会を積極的に求めることが良いだろう。また、中小企業やベンチャー企業に在籍するビジネスパーソンは、幅広い業務経験や意思決定に関わる機会を積極的に求めると良いだろう。このような野心的で挑戦的な経験を積んだ人材は、会社が無くなったとしても、それらのスキル・経験が消えることはない。良質なスキル・経験を積んだ人材が、次の環境でも生き残れる確率が高いのは言うまでもない。

不確実な時代に成功するリーダーの要件

不確実な時代に成功するリーダーの要件
筆者の所属するコーン・フェリーではグローバルに展開する組織・人事のコンサルティングファームであり、豊富なアセスメントデータから不確実な時代に成功するリーダーの要件を抽出している。本稿では、そのなかでも重要な3つの資質「ラーニング・アジリティ」「内発的動機」「リーダーに適した性格特性」について紹介したい。

ラーニング・アジリティ

「ラーニング・アジリティ」とは「機敏に学ぶ力」のことであり、未知の状況下で経験から素早く学び、現場で適用・実践し、学びを加速させることで適応していく力である。「ラーニング・アジリティ」はIQとの相関性は無く、従来の頭の良さとは全く異なる概念である。学歴エリートが必ずしも変化に強いというわけでは無いことからも明らかであろう。不確実な世界では、従来通用した法則や定石が当てはまるわけではない。変化に対応するためには、従来の法則や定石に関する知識量や深さ大切なのではない。幅広い知識や好奇心をもとに、未知の状況に対する試行錯誤を繰り返しながら新たな手法を確立していく力が重要なのである。

レジャー業界は今回のコロナ禍で甚大な影響を受けている産業のひとつだが、星野リゾートの星野社長は、いち早くこの苦境に対応している経営者のひとりである。三密を回避するために、フロントを使わない部屋でのチェックイン・チェックアウトや屋内施設の混雑状況のモニタリングと情報提供、ブッフェスタイルの朝食提供の見直しなど、安全・安心を確保するために様々な取り組みをいち早くスタートさせており、ロールモデルと言えるであろう。環境が変われば、環境に合わせて自らを変えていくしか、生き残りの道は無い。「ラーニング・アジリティ」は変化の激しい時代を生き抜くビジネスパーソンにとって、生死を分ける力と言っても過言ではない。

「ラーニング・アジリティ」を高めていくためには、大きく2つの方法がある。1つは、常に自分の周りにおいて創意工夫を続けることだ。社内の仕事の多くは、ある程度のやり方が決まっている。なかには前任者の引継ぎや先輩社員の指導どおりに行っている仕事も多い。しかし、世の中は刻々と変わりつつある。現在おこなっている業務を当たり前にこなすのではなく、別の方法を試してみたり、新たなソフトや技術を適用してみたりすることが良い。

「ラーニング・アジリティ」の阻害要因のひとつは、前例主義だ。前例に倣うことが染みついていると変化に対する恐れが出てしまう。環境変化に併せてアップデートを続けることを習慣づけることが、能力開発のポイントである。もう1つの方法は、視野を広げることだ。職場外に目を向け、様々な刺激を受けることが重要である。「社内の常識、世の非常識」とは良く言ったもので、社内で当然とされていることが、世の中では一般的では無いことも多い。

他業界の方式を柔軟に取り入れていくことが、大きな変革に繋がることもある。コロナ禍において、韓国でおこなわれたドライブスルー検査などは、他業界の方式を取り入れた好例と言えるだろう。特にビジネスの世界では、異なるものを組み合わせることで大きな価値を生み出すことが多い。このような発想をするためには、様々なインプットが必要になる。職場と家庭の往復だけでは、なかなか着想を得にくい。仕事外の趣味の時間を充実させることや、異業種交流会に出席することなどで、外の空気に触れることが有効である。

コロナ禍では物理的に外に出ることは難しいが、様々なジャンルの書籍を読んだり、オンラインセミナーで業界のトップランナーの話を聴講したりすることも大きな刺激になり得る。外からインプットを得て、社内や仕事でアウトプットするサイクルを回していくことが、「ラーニング・アジリティ」の向上に有効なため、ぜひ試していただきたい。

内発的動機

 次は「内発的動機」について、紹介したい。動機とは「外発的動機」と「内発的動機」に分かれる。「外発的動機」とは地位や金銭的報酬など外的要因によってもたらされる動機であり、「内発的動機」とは心の底から湧き上がる欲求などの内的要因によってもたらされる動機を指す。成功したリーダーに共通する特徴は動機の強さである。優れた経営者の講演を聞くと、その目指す目標の高さや達成に向けた熱量を感じることがあるであろう。

この動機の強さは、「外発的動機」によって動機づけられた人よりも、「内発的動機」によって動機づけられた人の方が遥かに大きい。自分が心の底からコミットできる大義をもって取り組む人ほど、大きな熱量で挑戦することができる。

ビジネスパーソンが「内発的動機」を高めるための有効な方法のひとつは、仕事の意味付けをおこなうことである。自分の仕事は何のためにあり、なぜ自分は現在の仕事を選択したかを突き詰めることで、仕事に自分なりの意味を持つことができる。人によっては、自分の知識や技術の向上に喜びを感じる人も居るだろう。また、人によっては、顧客満足や社会的意義に対して喜びを感じる人も居るだろう。

自分の動機の源泉を理解し、自分の仕事に自分で意味を与えていくことが「内発的動機」の向上に大いに役に立つ。特に先行きが見えない不確実ななかで生き残っていくためには、自身の核ともなり得る「内発的動機」をきちんと理解することが重要である。例え、逆境に合ったとしても、「内発的動機」が自分の心の強い支えとなり得るだろう。

リーダーに適した性格特性

最後に「リーダーに適した性格特性」について紹介したい。性格特性とは、その人物が生まれつき持っているもの、あるいは後天的に身に着けたパーソナリティを指す。コーン・フェリーの調査では、特に不確実な世界を生き抜く人材に求められる性格特性は、「大局性」、「曖昧さの許容」、「積極性」とされている。目先のことばかりに拘るのではなく、大局的に物事を捉える。不確実で曖昧な状況を拒絶するのではなく、認めて受け入れる。リスクを認識したうえで、大胆な一手を打つ。不確実な世界を生き抜くためには、このような性格特性が大きな武器になるということである。

日本が誇る屈指の経営者である日本電産の永森会長は、日経新聞で次のようなコメントをしている。「どんなに経済が落ち込んでも、リーマンの際は『会社のために働こう』と言い続けた。だが、今回は自分と家族を守り、それから会社だと。従業員は12万人以上いる。人命についてこれほど真剣に考えたことは無い。(中略)自国にサプライチェーンを戻すのはリスクを増すだけだ。

40カ国以上に工場を持ち、リスクを分散したと思っていたが、部品のサプライチェーンにまで思いが完全には至ってなかった。猛省している。もう一回コロナ感染が広がったらどうするのかを考え、数年かけて作り替える。」まさに、曖昧さを許容し、大局を捉え、次の一手を積極的に打とうとしており、まぎれもなく真のリーダーと言えるであろう。リーダーとしての強さは、不確実な環境を受け入れてなお、前向きに立ち向かう内面の強さである性格特性も大きなウェイトを占める。

これらの性格特性を身に着けるためには、「挑戦の総量を増やす」ことが有効である。優れたリーダーの成長の軌跡を追っていくと、必ずしもリニアに成長していくものではない。緩やかな成長と飛躍的な成長を繰り返しながら、紆余曲折を経ながらリーダーになっていくのである。飛躍的な成長の前には、多くの失敗と挑戦を行っていることが多い。修羅場体験とも称される経験である。このプロセスで悩んだり、もがいたりすることで、リーダーとして深く内省し、人間力を高めていくのである。

もともと、人間が失敗を恐れるのは本能的なものである。しかし、試行錯誤を行い、失敗を乗り越えていく成功体験を積み重ねることで、不確実な状況に対して前向きに捉えていく精神的なタフさを身に着けていく。また、失敗に対する内省の繰り返しが、大局観の形成に繋がっていく。性格特性は一朝一夕で身に着けられるものでは無い。しかし、挑戦と努力の積み重ねによって、人はリーダーへの成長を遂げることができる。

自らを変化していける企業・人材が生き残る

 世界全体が混沌とした予測困難な時代に突入したいま、企業だけではなく、個々人も大きな岐路に立たされている。コロナ禍を耐え抜き、アフターコロナの時代を生き抜く企業や人材に求められる要件は「変化に強い」ことである。進化論を提唱したダーウィンは、次のような言葉を残したとされている。「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き残るのではない。唯一、生き残るのは、変化できるものである。」

 今まさに、人類はウィルスという脅威にさらされ、大きな変革を求められている。私たちビジネスパーソンも、環境変化を受け入れ、新しいニューノーマルに向けて、自らを変えていかなければ生き残れないということを強く認識しなければならないであろう。

投稿者登壇のセミナー情報

不確実な時代を生き抜くキャリア戦略
現在、コロナ禍のもと、世界の不確実性は急速に高まっています。医療崩壊、世界的な消費の減退、国際交易の急減など、その影響は全ての産業に及びます。日本においても、リモートワークが急激に進むとともに、今までの日本的な働き方も大きな見直しが迫られています。

昨年、コーンフェリーでは『VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件』を刊行し、不確実な世界のキャリア戦略本として大きな反響をいただきました。今回は、著者3人を講師とし、不確実なコロナ時代を生き抜くためにビジネスパーソンに求められる条件を解説します。キャリアについて悩まれている方や更なるキャリアアップを目指される方のご参加をお待ちしています。

【日時】6月3日(水) 20:00~21:00
【参加費】無料
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