【対談】OODAループが機能する組織づくり。 マネージャーが取り組むべき「仕組み化」とは。

不確実性の高いVUCA時代と言われる昨今、コロナ禍の影響も相まって経済の仕組みや社会の価値観は目まぐるしいスピードで変化しています。このような状況を察知し臨機応変な対応をしていくために、近年注目されているのが「OODA(ウーダ)ループ」です。
経営層やリーダーがOODAループによるマネジメントで成果を上げていくために留意すべき点は何でしょうか。日本におけるOODAループの第一人者、原田勉教授(神戸大学)と、組織人事領域を専門とする大野順也氏(株式会社アクティブ アンド カンパニー代表取締役社長兼CEO)がOODAループを利用した人材マネジメントの本質に迫ります。

プロフィール

原田勉 氏

神戸大学大学院経営学研究科教授。1967年、京都府出身。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 大野順也 氏

株式会社アクティブ アンド カンパニー代表取締役社長兼CEO1974年、兵庫県出身。大学卒業後、株式会社パソナ(現パソナグループ)で営業を経験後、営業推進、営業企画部門を歴任し、同社関連会社の立ち上げなども手がける。後に、トーマツコンサルティング株式会社(現デロイト・トーマツコンサルティング株式会社)にて、組織・人事戦略コンサルティングに従事。2006年、株式会社アクティブ アンド カンパニー創立・設立。著書に『タレントマネジメント概論』(ダイヤモンド社)、編書に『HR Standard 2020 組織と人事をつくる人材マネジメントの起点』(ダイヤモンド社)がある。

なぜ今、OODAループが必要なのか。

大野順也(以下、大野)
原田教授はOODAループに関する書籍を出版なさっていますが、OODAを研究されるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

 原田勉(以下、原田)
私の研究内容は、一言で言うと「イノベーションについて」です。これまで経営学や経済学の面からアプローチしてきましたが、近年はより実態に沿った研究をするため脳科学や心理学的側面からも分析をすすめています。
OODA
ループとの出会いは、イノベーションを起こす確率を高めるために、マクロやミクロの視点以外にも、現実的・具体的なアプローチによって現場の組織課題を解決する必要性があると思っていたときでした。

大野
つまり山頂にイノベーションがあるとして、その分析には経済学、経営学、脳科学、心理学などさまざまなアプローチがあり、そのひとつにOODAループがあるという構造ですね。OODAループにはどのような特徴があるのでしょうか。

 原田
OODAループとは、「Observe(観察)」「Orient(情勢判断)」「Decide(意思決定)」「Act(行動)」を繰り返し回すことで、迅速な対応をしていくという行動モデルです。
よく比較されるのがPDCAサイクルですが、この2つを比べると、PDCAPDCAのプロセスを崩せないのに対して、OODAOAをほぼ同時に行うという違いがあります。相手がテニスボールを打ってきたら、直感的に判断してすぐに対応するくらいの速さが特徴です。もともと米空軍が撃墜率を調査するなかで生まれたモデルですから、判断してすぐに行動に移すことが鍵になります。

PDCAでは追いつけないマーケットに対応するためには。

大野
戦闘の現場から生まれたOODAループをビジネスの現場に置き換えると、たとえばディズニーランドやリッツカールトンといった一流サービス企業において、現場のスタッフが裁量権を持ち、臨機応変なサービスで話題になることがあります。これはOODAループを回している結果と理解していいでしょうか。

原田
そうだと言えます。某有名映画の中に「事件は会議室で起きているのではなく現場で起きている」というセリフがありますが、まさにあのような現場対応力がOODAです。

大野
我々の会社では、研修サービスとして「OODAループトレーニング」を提供しているのですが、「事件は現場で起きている」というくだりはまさに常套句です(笑)。
そもそも私がOODAループに興味をもった理由は、昨今のマーケットの変化にPDCAサイクルでは追いつけないと感じたからです。これまでウォーターフォール型が主流だったシステム開発などもアジャイル型になり、現場でトライアンドエラーを繰り返すことでマーケットにフィットさせていくという手法に変わってきています。
たとえば、富士フイルムがフイルムの主成分であるコラーゲンに着目し美容業界に参入したときは大きな話題となりましたが、あのようなマーケット転換の背景にもOODAのような思考があるのではと思うんです。この思考を各企業がインストールすれば、どんなイノベーションが起きるのだろうと期待しています。

原田
富士フイルムの場合、自分たちの資産を「フイルムそのもの」ではなく「フイルム技術」と捉え直したことが画期的でしたね。そしてもう一つのポイントは、やはりスピードでしょう。一昔前のビジネスは、コストやブランド力があれば勝つことができましたが、今はスピードという軸で勝つ必要があります。どれだけ費用と時間をつぎ込んでも、ライバル会社に先を越されては元も子もないですから。その点、富士フイルムは迅速だったと言えます。

お客様の裏をかく、ビジネス的「機動戦略」。

大野
私は富士フイルムの美容業界参入のような、発想の転換による成功事例に興味があるのですが、たとえばポスト・イット®を開発した3Mは、それまで強粘着であればあるほど良いとされてきたものをあえて弱粘着にすることでヒットを生み出しました。そこには、勤務時間の15%を自分の好きな研究に費やせるという独自の社内制度なども影響していると思うのですが、この成功事例もOODAループに照らし合わせて考えられるように思います。

原田
まさにそうですね。先ほどもお話ししたように、OODAはもともと戦闘の現場で見出されたモデルで、特に「機動戦略」に活かされてきました。刻一刻と変わる戦況を即座に判断できれば、相手の裏をかいて優位に立つことができるわけです。
これをビジネスに置き換えると、お客様の裏をかいた商品、まだ世の中にないけれどあったら嬉しいサービスを生み出すことと言えます。とはいえ、ただ単に15%の自由時間を設ければ魅力的な商品が生み出せるというわけではありません。3Mの場合、自由なプロジェクトのための費用は自ら営業するなどして確保する必要があります。仕組みでコントロールを利かせているのです。

OODAループを機能させるのはPDCAサイクル。

大野
「仕組みでコントロールする必要がある」とのことですが、仕組みづくりをする際に留意すべき点はありますか。

原田
矛盾しているようですが、OODAループを機能させるには、マネージャー側がPDCAサイクルを回す必要があります。
これを予算に例えると、予算計画、予算執行、確認、差異を修正するという流れはPDCAサイクルですが、決められた予算内で試行錯誤していく現場の動き方はOODAループと言えるでしょう。
このときマネージャー側が回すPDCAサイクルは通常と違い、「Planに具体的なやり方を含まない」、「Doは現場に委ねる」という点に留意することがポイントです。その他は通常通り「期日が来たらCheck」し、「差異があればActで修正」します。このような管理があって初めて、OODAループが機能するのです。

大野
マネージャーはOODAの入り口と出口を設定したら、あとは現場に委ねて介入しないということですね。非常に興味深いです。ただ、介入しないとはいえOODAループの中身にもある程度のコントロールは必要だと感じます。ここを工夫することはできるのでしょうか。

原田
OODAの最初のステップ、O(観察)に着目することで可能になると思います。観察は、OODAのなかでも特に重要なので、ここが仕組み化できれば効果的なループが回るでしょう。
例を挙げると、きわめて高収益なキーエンスというセンサーメーカーがありますが、彼らの強みは優れた企画開発力です。たとえば従来の蛍光顕微鏡は、解像度やメモリー容量を増強する「一元品質」で競い合っていましたが、キーエンスは今までになかった“暗室でなくても使える蛍光顕微鏡”という「魅力的品質」で勝負し、他との差別化に成功しました。
なぜこのようなアイデアを生み出せるのかというと、彼らは情報を「営業情報」と「開発情報」に分類し、組織全体で「開発情報」の収集に力を入れているからです。開発者が営業訪問に同行し、ある商品の使用現場をよく観察して問題課題がないか情報収集しています。情報の質が良いので、直感の質もおのずと良くなるという仕組みです。

大野
OODAループには、大きく2種類あるのではないでしょうか。一つは企画・研究開発などが観察の質を高めて良い直感・判断に繋げていく「質」のOODA。もう一つは、業務改善の現場や営業などが短サイクルでトライアンドエラーを繰り返す「量」のOODA。こう整理できると思うのですが、、いかがでしょうか。

原田
なるほど面白いですね。おっしゃるように、質と量という見方はできると思います。ただ、量の中にもある程度の質は必要です。闇雲にループさせるのではなく、「なぜこういう結果になったのか」を考える感性をもって軌道修正ができれば質も高まると思います。

成功事例の共有で権限委譲をコントロールする。

大野
OODAループを回すうえで「権限委譲」は大切なポイントですが、個人の習熟度によっては委譲することが難しい場合もあるはずです。実際に、権限委譲に抵抗感をもつ企業も多く、外側の制度を整える以外の内面的な仕組み化が必要だと感じています。

原田
たしかにそうですね。私は現場のOODAを支える施策として「成功体験の共有」を推奨しています。情報共有することで判断材料が増えれば、現場での試行錯誤がしやすくなるはずだからです。
またこの際に、恵まれた環境ではなく悪条件下で良い結果を出している人から学ぶ「ポジティブデビアンス」を意識することも有効です。大企業の成功例から学ぶだけではなく、今いる環境で成果を出している人を見つけ、その行動特性を観察してみるのです。詳しくは私が翻訳させていただいた『POSITIVE DEVIANCE(ポジティブデビアンス)―学習する組織に進化する問題解決アプローチ』(東洋経済新報社)を参考にしていただければと思います。

大野
一見目立った成績でなくても、限られた環境下で実は結果を出している社員から学ぶということですね。

原田
そうです。たとえばある企業は、愛想が良いわけでも突出した実績があるわけでもないが、部下から慕われている中間管理職を見つけ、行動を観察しました。その結果わかったのは、「会議が終わっても5分間ほど席に座ったままでいる」こと。たったこれだけだったのです。会議後すぐに出て行く先輩より座ったままの先輩のほうが話しかけやすいということでしょう。本人が無意識にしている何気ない行動にヒントがあるわけですから、注意深く観察することが重要です。

大野
ここまでお話を伺って、私なりに権限委譲の方向性が見えてきた気がします。マネージャーは組織内の「成功事例」を集める仕組みを作り、現場側はその事例を参考に試行錯誤を回していく。たとえ事例内容が権限の枠を越えたものだったとしても、それが良い事例であるなら委譲のハードルは低くなり、行動につながるはずです。成功事例やノウハウを可視化し蓄積していくことからはじめれば、権限委譲しやすくなるかもしれませんね。

原田
まさに、おっしゃる通りだと思います。

OODAループをどう評価するのか。時代の変化と評価体制。

原田
しかしここで新たな課題なのですが、OODAループは結果主義なのでリスクを避けようとする心理が生まれやすくなります。となると、ただでさえブラックボックス化しやすい営業職などは尚更プロセス評価しづらくなるはずです。くわえて昨今はテレワークも増え、部下の働き方が見えにくくなりました。評価に関しては大野社長の専門分野になると思うのですが、OODAループとプロセス評価は両立できるでしょうか。

大野
テレワークだと評価できないとお困りの組織はたしかに多いですが、我々がお付き合いさせていただいている企業では「役割型」の評価制度にシフトする傾向にあります。役割型とは簡単に言うと「役割を果たしているか」という視点の評価で、メンバーシップ型とジョブ型の中間のような手法です。
役割をどう見ているかというと、たとえば営業職の場合、OKROODA1on13点セットを回します。OKRで目標設定し、OODAループで試行錯誤しながら臨機応変に見直していき、そして見えない部分を1on1で把握するという流れです。10分や15分、定期的1on1ミーティングを設け、そこでは業務的な側面が大きい面談とは違い、仕事以外のプライベートな話題に触れても問題ありません。もちろん部下のほうから切り出した話題に限られますが、不安要素を共有することで部下に心理的安全性を持ってもらい、同時に管理者は評価要素を汲み取ることができます。
とはいえマネージャー次第なところが大きいので、見る目が問われていると感じますね。

 原田
マネージャーには見えていなくても、横のメンバー同士なら見えることも多いと思いますが「ペア評価」などの手法はどう思われますか。

大野
ペアや360度評価などもちろん有効です。しかし組織が成熟していないと崩壊するケースも考えられるので、組織の成熟度と照らし合わせて検討するべきだと思います。
時代の変化にともなって新しい評価の考え方もどんどん生まれてきていますから、それこそOODAループをヒントにして、柔軟な発想と試行錯誤を重ねていく必要があると感じます。

本日は非常に興味深い話ばかりで、多くのヒントをいただけました。ありがとうございました。

 原田
こちらこそ貴重な時間をありがとうございました。

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