新型コロナウィルスの影響により、2020年頃から企業でテレワークが急速に普及しました。特に上場企業では政府のテレワーク導入に対する要請を受けて、在宅勤務での働き方が当たり前になりつつあります。テレワークが普及する中で、研修のあり方も変化してきており、従来の対面型集合研修ではなく、オンライン研修が主流になりました。そこで今回はオンライン研修の実施方法、失敗しないための注意点について解説します。

オンライン研修とは?

オンライン研修とは、オンラインで実施する研修手法の総称です。Zoomなどのオンライン会議ツールを使用して実施するリアルタイム研修だけでなく、後から録画映像を配信する映像視聴や、テストを実施するeラーニングなど、インターネット回線を使用した研修すべてが含まれます。

オンライン研修と対面型研修の違い

オンライン研修は、対面型研修と大きく異なる点がいくつかあります。
まず、当然のことですが、オンライン研修は時間と場所に関係なく自由に受講できる点が対面型研修と違います。対面型研修では、必ず全員が同じ時間に同じ場所に集合して研修を受講する必要がありました。場所と時間に制限があるため、多くの場合、対面型研修は終日または半日といったまとまった時間を確保するのが主流でした。

しかしオンライン研修は時間と場所の制約がなくなります。録画形式やeラーニング形式のオンライン研修であれば、時間に関係なく受講でき、コンテンツによっては短時間で受講が完了します。

また、従来の対面型研修では会議室など全員が集合できる場所を必ず確保する必要がありました。リアルタイム型のオンライン研修では受講者は自宅や任意の場所から参加できるため、全員が同じ場所に集まる必要がなくなるのです。

そのため、従来の対面型研修では出来なかった短時間での研修を繰り返す日程を組むなど、柔軟なスケジューリングが可能です。またオンライン研修と対面型研修と組み合わせて、メイン会場とオンラインの両方で参加できるハイブリッド型研修も実施可能になります。このように、オンライン研修は対面型研修と比べて柔軟性が高いことが大きな違いです。

なぜいまオンライン研修なのか?

もともとは新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、2020年に上場企業を中心に新入社員の入社式や新入社員研修を急遽オンラインで実施したことからオンライン研修は広まっていきました。その後、長期化する新型コロナウィルスの影響により、テレワークが普及。それとともに研修もオンライン化が進んでいきました。

また、テクノロジーの進化により、オンラインならではの効果的な学習をサポートするツールが普及してきたこともオンライン研修の普及を後押しする一つの要因です。近年の学習サポートツールである、ラーニングマネジメントシステムは、学習者の個々のスキルに合わせて、学習コンテンツをおすすめするレコメンド機能や学習後に理解度を測定する採点機能など便利な機能が搭載されています。さらには、YouTubeをはじめとするオンライン動画文化が普及してきたこともオンライン研修を後押ししています。

例えばYouTubeでは学習コンテンツが豊富にアップロードされており、実際にYouTubeの学習コンテンツを視聴して大学受験や資格取得に成功した人も出てきているそうです。こうしたオンラインを活用した学習文化の普及は、今後ますますオンライン研修を当たり前のものにしていくと考えられます。

オンライン研修のメリットとデメリット

これからオンライン研修の企画や実施に本格的に取り組む方は、オンライン研修にはどのようなメリットやデメリットがあるのか気になっているのではないでしょうか。

オンライン研修のメリット

時間と場所の柔軟性が飛躍的に向上する

まず何よりも大きなメリットが時間と場所の制約から解放されることです。例えば対面型研修の場合、海外からの受講者がいる研修では、受講者に長距離移動が発生していました。移動時間の間は職場を離れることとなり、研修参加により大きなタイムロスが生まれることがデメリットでした。

しかし、オンライン研修ではたとえ受講者が海外にいたとしても、時間を合わせればリアルタイムで研修が可能です。録画配信やeラーニングであれば時差も考慮しなくて済むようになります。

研修担当者の工数が大幅に削減される

研修担当者の工数が大幅に削減されることもオンライン研修の大きなメリットです。従来の対面型研修では会場の手配から受講者のスケジュール調整、受講者の宿泊場所や食事場所の手配など、研修内容とあまり関係のない準備で担当者が忙殺されてしまうこともありました。

しかし、オンライン研修であれば一度コンテンツと接続環境を用意してしまえば、会場手配などの物理的な準備に追われることがなくなります。物理的な工数が減ることにより、研修担当者がより学習効果を高めるための施策に時間を割ける点もオンライン研修の効果と言えるでしょう。

オンライン研修のデメリット

インターネット回線がなければ研修が実施できない

まず、インターネット回線がなければ研修を実施できないのが最大のデメリットです。どんなに素晴らしい研修コンテンツがあったとしても、インターネット接続環境がなければ受講者は受講完了することができません。

インターネットが普及している現代社会でも、インターネットが使用できない環境は存在しています。時間と場所に柔軟に対応できるオンライン研修でも、インターネットがなければそのメリットは全く発揮されなくなるでしょう。

常に接続不良のリスクがある

オンライン研修はインターネット回線が必要だからこそ、常に回線不良により受講が中断されるリスクがあります。どんなに高速なインターネット回線を使用していたとしても、トラフィックの混雑などで物理的に通信速度の低下または切断されることがあり得るのです。

また、インターネット環境だけでなく、PCやスマホなどの端末の不具合や使用するソフトウェアの動作によって、受講を続けられなくなることもあるでしょう。オンライン研修は常に接続不良との戦いであることを認識しておくべきです。

オンライン研修実施時の注意点

オンライン研修を成功させるには
オンライン研修は便利な反面、注意すべき点もあります。注意点に対して予め対策を講じておけば、オンライン研修はより学習効果の高いものになるでしょう。どのようなことに注意すればよいのでしょうか。

接続環境の確保

まずは受講者側も配信側も接続環境を確保しましょう。高速で安定的なインターネット回線を確保するだけでは不十分です。受講者が多い企業ではトラフィックの急増に備えて、配信側では専用線を引くなどの対策が必要です。

また、受講者が使用する端末もなるべくハイスペックなものにしましょう。性能の低い端末ではメモリ不足で映像が止まる可能性もあります。受講者側、配信側の両方で回線から端末に至るまで確実に受講できる環境を確保するべきです。

受講者が集中できる時間を考慮する

在宅勤務者を対象にオンライン研修を実施する場合、特にリアルタイム研修では実施する時間帯に注意が必要です。時間帯によっては、育児や介護をされている方がご家庭の都合で参加できない場合もあります。また学校の夏休みや冬休みシーズンでは日中にお子様がいて集中できない場合もあるでしょう。なるべく受講者に配慮した時間設定を行うのがおすすめです。

ハイブリッド型研修の注意点

オンライン研修と対面型研修を組み合わせると、会場で参加できない遠方の受講者に対応できるほか、会場の人数制限を超えて受講者が参加することが可能です。オンラインと対面を組み合わせた研修をハイブリッド型研修と呼びます。

ハイブリッド型研修ではオンライン参加者に会場の様子が伝わりづらいため、会場の様子を実況するなどの工夫が必要です。またグループワークを行う際は、なるべくオンライン参加者同士と会場参加者同士のグループにわけるようにしましょう。

このように、オンライン研修ならではの注意点を理解しておけば、より効果的な研修を実施できます。

オンライン研修を成功させるには?

初めてオンライン研修に取り組む方にとって、オンライン研修は対面型研修と比べてハードルが高く感じられるかもしれません。しかし、コツを押さえればオンライン研修は確実に成功させることができます。オンライン研修を成功させる3つのコツをご紹介します。

オンラインファシリテーションのコツ

まず何より、オンラインでのリアルタイム研修では高度なファシリテーション力が求められます。オンラインでは対面型研修と異なり、複数の人が同時に話すことができず、相手の雰囲気やしぐさを読み取りづらいという難しさがあります。オンラインファシリテーションでは、話し手が被らないように交通整理しながら、なるべく受講者全員に発言機会を与え、場の活性化を行っていきます。

Zoomであればブレイクアウトルームを活用してグループで話す機会をつくると良いでしょう。また、「反応ボタン」やチャット機能を使用して、受講者に時折問いかけをして、反応を返してもらう双方向なファシリテーションが大切です。

ツールを活用して学習効果を高める

オンライン研修では、ラーニングマネジメントシステム(LMS)を導入するすると飛躍的に学習効果を高めることができます。LMSには学習コンテンツのおすすめ機能、クイズ機能や出欠管理機能などが搭載されており、場合によっては対面型研修よりも効果的な学習ができるのです。

リアルタイム研修の場合でも、LMSを使用すれば、研修中に資料を受講者に配信できるだけでなく、講義の進行に合わせて問題の出題や簡単なレポートを提出してもらうことも可能です。また録画配信の場合は、視聴履歴を管理できるため、受講者全員が受講したかチェックもできます。このように、LMSを使用すれば、オンライン研修の学習効果を大幅に向上できるでしょう。

コンテンツの見直しを行う

オンライン研修ではコンテンツの見直しを行うことでより学習効果の高いコンテンツを作成できます。LMSなどのツールを使用すれば、リアルタイム研修でも録画配信でも、受講者の反応を記録できます。オンライン研修では研修を録画しておき、どのシーンで受講者の反応がよく、どのシーンで反応が悪かったのかを分析しましょう。録画配信ではLMSを使用すれば、どのコンテンツが受講完了までに時間がかかったのかを分析できます。このようにコンテンツの見直しを定期的に行い、人気のないコンテンツは改善点を検証するのがオンライン研修成功のコツです。

効果的なオンライン研修の設計方法

対面型研修と異なり、オンライン研修ではどのように研修設計を行えばよいのでしょうか。

インストラクショナルデザインで設計する

オンライン研修では、インストラクショナルデザイン(教育設計学)の考え方で設計すると、効果的な研修が設計できます。インストラクショナルデザインとは、受講者の学習意欲を高めながら学習効果を最大化する教育を設計する方法です。

最も大きな特徴は、教える側の「教えたいこと」から教育を設計するのではなく、学ぶ側の「学びたいこと」(学習ニーズ)から教育を設計する点です。オンライン研修では、PCなどの画面上で学習を進めるため、どうしても学習が単調になりやすく、受講者が離脱してしまうリスクが常にあります。そこでインストラクショナルデザインの考え方を用いて、学ぶ側のニーズからコンテンツを設計することで学習効果の高いオンライン研修を設計できるのです。

ADDIEモデルとTOTEモデル

インストラクショナルデザインには様々な手法がありますが、今回は最も代表的なADDIEモデルとTOTEモデルを紹介します。

ADDIEモデル

ADDIE(アディー)モデルは、より効果的な学習コンテンツを設計するためのフレームワークです。5つの言葉の頭文字から生まれました。①~⑤の手順に沿って設計を行えば、受講者のニーズに合った研修を設計できるようになります。ADDIEモデルの大きな特徴は、教育研修はあくまでも学習者の課題を解決する手段であるという考え方が示されていることです。

  1. 分析(Analysis)・・・受講者や組織における能力開発上の課題や受講ニーズの分析
  2. 設計(Design)・・・課題やニーズに合わせた学習目標の設定、目標を達成するための手順設計
  3. 開発(Develop)・・・講義内容、テストなどのコンテンツ開発
  4. 実施(Implement)・・・講義の実施
  5. 評価(Evaluate)・・・目標到達度の分析、学習全体の問題点の洗い出し

TOTEモデル

TOTE(トート)モデルは、受講者の選定をして本当にその学習コンテンツが必要な受講者にだけ届くように設計するフレームワークです。受講前のテストにより受講者のレベルを測定し、合格基準であれば学習不要、合格に達しない知識やスキルがあればその部分だけを学習するようにします。TOTEモデルを活用すれば、全員一律に同じ学習コンテンツを受ける必要がなくなり、本当にそのコンテンツが必要な受講者にだけ研修を提供できるでしょう。

  1. TEST・・・事前テストを行って受講者のレベルを把握
  2. OPERATE・・・事前テストの不合格者にだけ研修を実施
  3. TEST・・・確認テストを行い、不合格の受講者には補講を行う
  4. EXIT・・・確認テスト合格者に修了判定を行う

オンライン研修を実現するツール

オンライン研修を実現するツール
最後にオンライン研修を実現するために必要なツールをご紹介します。特に重要な3つのツールを解説しますので、ぜひ活用してみてください。

ラーニングマネジメントシステム(LMS)

ラーニングマネジメントシステム(LMS)は受講管理ツールです。代表的なツールにソフトバンクが提供するCloud Campusや、世界大手のLMSであるコーナーストーンがあります。LMSは、オンライン研修の基盤となる基本ツールと言えるでしょう。

LMSでは教育カリキュラムの表示、講座情報の登録、講座の配信、テストの配信など、大学の授業で提供しているような一連の学習の流れを一元管理できます。高機能なLMSであれば、受講者の能力やスキル、学習傾向を分析して受講者ひとりひとりに合わせた学習コンテンツをおすすめしてくれます。

また学習コンテンツの配信からテストの実施、学習コンテンツの評価や受講者同士の交流まですべてがオンライン上で完結できるのも大きな特徴です。受講者はいつでも好きな時にLMSにアクセスするだけで、学びたいときにいつでも学ぶことができます。管理者もリアルタイムで受講者の様子を観察する必要なく、学習コンテンツの改善や管理が可能です。まず何からオンライン研修を始めたらいいかわからないという方は、まずLMSの導入を検討してみてはどうでしょうか。

参考:「Cloud Campusとは?」(Cloud Campus)
参考:「コーナーストーンオンデマンド|人材管理プラットフォーム」(コーナーストーンオンデマンドジャパン株式会社)

オンライン会議ツール

リアルタイム研修には当然のことながら、オンライン会議ツールが必要です。代表的なツールにZoomやMicrosoftのTEAMS、CiscoのWebexがあります。

オンライン研修でオンライン会議ツールを使用する場合、学習に便利な機能があるツールを選ぶと良いでしょう。例えばZoomであれば、ブレイクアウトルーム機能で受講者のグループ分けができます。「投票」機能を使えば、講義中に簡単なアンケートも可能です。

また、TEAMSのクラスルーム機能を使用すれば、受講者全員が教室の席に座っているような画面に設定でき、講義の一体感を高めることができます。オンライン会議ツールは多くのツールが出回っていますが、受講者にとってアクセスが簡単で学習効果が高まるツールを選ぶのが良いでしょう。

オンラインホワイトボード

対面型研修と異なり、オンライン研修では大勢の人で同時にホワイトボードが使用できないことが難点です。しかしオンラインホワイトボードを使用すれば、対面型研修とほぼ同じように、受講者が同時にホワイトボードに書き込みながら議論できます。

代表的なオンラインホワイトボードであるmiroは、複数の人が同時に同じホワイトボードにアクセスして書き込み・編集できます。オンラインホワイトボードの最も便利な点は、簡単に保存ややり直しができることです。現実世界のホワイトボードでは、一度書いた文字や図形を消してしまうともとには戻せません。

しかしオンラインホワイトボードは間違えて消してしまっても、書いたことを復活できます。また現実世界ではペンを持った人だけがホワイトボードに書き込めますが、オンラインホワイトボードであれば複数の人が同時に編集可能です。オンラインホワイトボードを画面共有しながらディスカッションすれば、対面型研修と同じような議論ができるようになるでしょう。

まとめ

今回はオンライン研修のメリット、デメリットから実施のコツ、ツールまでをご紹介しました。対面型研修しかやったことのない方にとって、オンライン研修は少しハードルが高く感じます。しかし、予めコツを知って、ツールをうまく活用すれば対面型研修よりも効果の高い研修を実施できるでしょう。また、オンライン研修はまだ決まった手法が確立していない分野です。ぜひ色々と試行錯誤しながら、あなたならではのオンライン研修ノウハウを蓄積していってください。

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