最近、働き方改革の浸透とともに「ワークスタイル」という言葉が聞かれるようになりました。日本では、さまざまな要因によって長い間ワークスタイルが変化しなかったために、これまで働き方のスタイルを考える機会は多くありませんでした。しかし最近ではワークスタイルを考えることが当たり前の時代になっています。ワークスタイルとはいったい何なのでしょうか。今回はワークスタイルについて解説します。

ワークスタイルとは何か

ワークスタイルとは直訳すると「働き方」です。しかし単に「働き方」と言われていないのはなぜなのでしょうか。

これまで日本では単一的な働き方が中心でした。その特徴は「長時間労働」「会社への拘束」「男性中心」の3つです。
しかし長期的な不景気や産業構造の変化、グローバル化などの影響で、こうした単一的な働き方では市場の競争力を維持できないことや、個人の価値観が多様化し、より自分らしく働くことが重視されるようになったことにより、新たな働き方が求められています。

政府も2007年に策定した「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章」の中で、人それぞれに合った多様な働き方を認める「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の推進を提唱しました。

このように、近年のワークスタイルの特徴は「多様化」「自由化」がキーワードです。具体的にはそれぞれの事情にあわせてテレワーク等の在宅勤務、時短勤務や副業、育児と仕事の両立、定年後の再就職など、働き方や暮らし方を選べる機会が広がっています。

このようにワークスタイルとは、単一的な「働き方」ではなく「自分らしい働き方」や「個々の事情に合わせた働き方」を意味していると考えられます。

なぜ今「ワークスタイル」なのか?

では、なぜいま「ワークスタイル」が注目されているのでしょうか。その背景について考えてみましょう。

日本型人事制度の崩壊

日本型人事制度は、「新卒一括採用」「年功序列型賃金」「終身雇用」の3つに代表されます。しかし2018年に経団連が「新卒一括採用」にともなう就活ルールを廃止したことや、昨年、経団連の中西会長やトヨタ自動車の豊田社長が相次いで終身雇用制度の見直し・廃止について発言したことで明らかになったように、旧来の日本型人事制度の崩壊が目前まで迫っています。一つの会社で長く勤めるワークスタイルは明確に変化しつつあります。

少子高齢化によるによる労働力不足

有効求人倍率はリーマンショック後の2009年以降上昇傾向にあり、2018年11月から2019年の3月までは1.63倍を維持し、新規求人倍率や正社員有効倍率も2019年に過去最高水準となるなど、高い水準で推移しています。

グラフ

出所:労働政策研究・研修機構「完全失業率、有効求人倍率」

このような人手不足の中で、労働力の確保が重要な課題となっています。そこでシニアや女性の活躍推進など、多様な人材が働ける環境を整えることを政府が推進しています。

価値観の多様化

IT技術の進化により、インターネットがあれば場所も時間も関係なく仕事ができる時代になりました。こうした技術の発展は働く価値観そのものを変えています。
このようにワークスタイルは日本社会の変化とIT技術の進歩を背景に注目を集めるようになりました。

ワークスタイルはどう変わってきたのか?

ところで日本のワークスタイルはこれまでどのように変わってきたのでしょうか。

戦後の日本

戦後から高度経済成長期にかけて年功序列の人事制度が始まりました。また、現代の大手一流企業はこの当時、まだ黎明期にありました。この時の日本では戦後復興に向けて全員一丸となって働く雰囲気が漂っており、ベビーブームも追い風になる形で男性が働き、女性が育児をこなすワークスタイルが定着していきました。

バブル期の日本

好景気を背景に男性中心に深夜まで働くワークスタイルが中心でした。朝から深夜までバリバリ働いてタクシーで帰る。タクシー代は会社が負担するという時代でした。日本の海外進出も進み、サラリーマンではなく「ビジネスマン」という言葉が定着しはじめた時代です。

平成の日本

企業のグローバル化がさらに加速しました。日本だけでなく、海外でも働けることが重視されるようになりました。日本では成果主義が導入され、リストラも行われました。一方、自由な生き方を望む若者がフリーターと呼ばれ、正社員ではない働き方が広がっていきました。

現在の日本

現在はさらにワークスタイルが多様化しています。性別も関係なく、テレワークの推進で働く場所も自由化が進んでいます。2018年からは副業が解禁され「どこでも誰とでも働ける」ワークスタイルが少しずつ広がっています。カフェなどあらゆる場所の中PC1台で仕事する「ノマドワーカー」が当たり前の時代になってきました。

このように、ワークスタイルは日本の経済成長とともに大きく変化してきました。

ワークスタイルを変えるには?

ワークスタイルが徐々に変化してきた一方で、日本企業ではまだまだ旧来型のワークスタイルも中心的な存在です。ワークスタイルを変えるにはどうすればよいのでしょうか。

ワークスタイルを変えるには思い切ってやることが重要です。
人は変化を嫌うものです。しかし一度変化してしまえば、それが当たり前になります。
例えば座席のフリーアドレス化を進める場合、場合によっては個人の荷物をかなり削減する必要があります。最初は不満の声が多く発生するでしょう。しかしフリーアドレス化によりコミュニケーションの活性化など新しいメリットが実感できるようになれば人は徐々に慣れていくものです。

ワークスタイルを変えるには思い切って変えるとともに、新たな環境でのメリットを示す必要があります。

ワークスタイルはこれからもっと多様化する


ワークスタイルはこれからさらに多様化していきます。副業ブームが広がっており、多くの企業で副業を解禁するほか、副業支援サービスも増えてきました。
またテレワークの浸透により在宅勤務や時差出勤、週休3日制度など新たな制度も広がっています。さらにはAIやロボットの技術発展により、人間の仕事をAIやロボットが担うことが予想されています。

その一方でユーチューバーやデータサイエンティストのような新しい職業もどんどん生まれています。最近ではe-Sportsの職業化により、以前は娯楽でしかなかったゲームをすることがプロゲーマーとして仕事になる時代にもなりました。

以前は存在しなかったワークスタイルが当たり前の世の中になりつつあります。これからの時代はさらに個々の生き方に合わせたワークスタイルを選択すること、それを可能にする環境づくりが重要となるでしょう。

ワークスタイル変革に取り組む企業の事例

最後にワークスタイル変革に取り組む企業の代表的な事例をご紹介します。

カルビー株式会社

カルビーは2014年から全社員一斉テレワークや、16時退社などの働き方改革に取り組んできました。2020年7月からはニューノーマルの働き方として、「Calbee New Workstyle」を開始しました。新しいワークスタイルは、原則としてリモートワークでの働き方が中心になるほか、単身赴任者はリモートワークで問題ない場合は単身赴任を解除できます。また、通勤手当を廃止し、代わりに「モバイルワーク手当」としてリモートワークで必要な環境を整えるための手当を支給しました。カルビーは常に時代に対応した新しいワークスタイルを導入しています。

サイボウズ

ワークスタイル変革の先進企業といえばサイボウズの右に出るものはいないでしょう。サイボウズでは、「100人いたら100通りの働き方」をコンセプトに社員それぞれが望むワークスタイルを実現できる取り組みをしています。もともとサイボウズは2005年に離職率28%を記録していましたが、現在は働き方に配慮した制度を導入したことで離職率は3%程度まで低下したそうです。

具体的には2018年に「働き方宣言制度」を導入し、社員が自由に働きく場所や時間を決められるようにしました。サイボウズの最も特筆すべき点は、全社員画一の制度をやめて社員の働き方に応じた選べる9つの評価・報酬制度を導入したことです。また2012年からは副業(複業)許可制度を導入し、会社資産と関係のないものであれば、上司への申告なしに自由に副業(複業)ができる仕組みを整えました。

このようにサイボウズは従業員数800名を超える上場企業でありながら、社員一人ひとりが望むワークスタイルの実現を叶えています。

まとめ:テレワーク時代のワークスタイル

2020年の新型コロナウイルスの世界的な大流行の影響で、現在ではテレワークが当たり前の時代になってきました。テレワークでは在宅勤務を中心にしている企業が多く、会社に通勤する機会が少なくなっています。以前のように満員電車に揺られながら会社に毎日通うことなく、朝起きてパソコンの前に座れば出社というワークスタイルへと変化しています。

さらに最近はワーケーションのように、自宅を離れて旅行先で仕事を行うワークスタイルも誕生。働く場所と時間の自由が確実に拡大しています。あなたも、いつか「昔は電車に乗って会社に通っていたんだよ」と後世の人に語る日がくるかもしれません

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