効果的な評価制度の設計方法

評価制度には様々な考え方や仕組みがあるため、一律に「これが正解」といえる評価制度はありません。自社の課題に合う評価制度を選ぶことがとても重要です。では、どうすれば効果的な評価制度を設計できるのでしょうか。

人事戦略を考える

まずは会社の戦略に合わせて人事戦略を考えましょう。冒頭に少しご説明したように、人事戦略とは経営戦略を実現するために特に重要な人事の取り組みとその方向性を戦略としてまとめたものです。人事戦略を考えるためには、まず会社の理念や方針、戦略を読み解きながら、外部環境や内部環境の変化を考慮する必要があります。 例えば日本の銀行業では、急速な窓口業務再編が進んでいます。コンビニATMの普及やキャッシュレス化の影響により、銀行窓口を利用する人が減少しているからです。こうした過去の実績が通用しなくなる市場変化の中では、新たなことを生み出す人材が評価されるべきではないでしょうか。このように、人事戦略を考え、環境変化の中で企業業績を向上させるためには、どのような評価制度が必要になるのか、想像を膨らませましょう。

評価思想を考える

人事戦略の次に重要なのが評価思想です。評価思想とは、その会社がどのような人材をどのような時に評価するかを定めたものです。評価制度は企業が求める行動を促す仕組みであるため、まずはあなたの会社でどのような行動をする人材が評価されるべきかを考えましょう。 例えば最も単純な評価思想は会社業績に直接的に貢献した人材を報いることです。もしくは、人事戦略の中で育成を重視したいのであれば、会社が求める能力やスキルを持つ人材を高く評価します。このように、どのような人材を評価したいのかを評価思想にまとめることは評価制度の設計の中で最も重要な工程と言えるでしょう。

優秀人材の定義と割合を考える

評価思想を検討したら、次はあなたの会社における優秀人材の定義を考えましょう。あなたの会社の中で最も評価できる人材はどのような人材なのかを定義するのです。例えば業績をあげていれば、多少、性格や素行が悪くてもよいのでしょうか。 それとも人格的にも優れた人材を優秀人材として定義するべきでしょうか。どちらかの定義を採用するかは、あなたの会社の文化や事業によって異なります。また、全員が優秀な人材であれば組織のパフォーマンスが向上するとは限りません。 人は人数の多い組織に所属することで、サボる人が生まれるからです。また、人材獲得競争の激しい現代では優秀な人材自体が希少資源になりつつあります。こうした問題に目を向けながら、自社にとってどの程度優秀な人材がいれば企業成長を実現できるのかを考えましょう。そして現実的な報酬予算を考慮しながら、優秀な人材が一定数入社しても耐えうるだけの評価制度を検討するのです。

分布と段階を決める

評価の仕組みは、大きく2の方法に分かれます。高い業績をあげた人全員を評価する絶対評価と、一定の高評価者と低評価者の割合を予め定めるのが相対評価です。日本企業では相対評価を採用する企業も多く、相対評価の場合は7段階評価や5段階評価など、業績に応じた評価者をそれぞれの段階ごとに割合を設けています。 3段階評価で多く採用されているのが高業績者を2割、中位の業績をあげた者を6割、低業績者を2割とする、いわゆる「2:6:2」の方法です。このように、優秀人材の定義と評価方法、そして評価の割合を考えることで徐々に評価制度は形になっていきます。

評価制度の最新トレンド

時代に合わせて評価制度は変化してきました。ここまでご紹介したように、1950年代に生まれたMBOから始まり、OKRや9ブロックといった評価制度が生まれてきました。では、これからの評価制度はどのようなものになるのでしょうか。評価制度の最新トレンドをご紹介します。

ノーレーティングとは?

特に最近注目を浴びているのがノーレーティングです。9ブロックを開発したGE社が2016年に9ブロックを廃止するとともに打ち出した評価制度です。ノーレーティングの大きな特徴は、段階評価などのランク付けを行わない点です。 社員のランク付けを廃止する代わりに、マネージャーに評価と報酬の分配権を権限移譲してマネージャーが部下の報酬分配を行います。上司は月に数回のフィードバックを行い、部下の行動や考え方を改善していきます。部下は上司からのフィードバックをもとに、上司からの評価や組織への貢献度を高めるために行動改善を行うのです。ノーレーティングは、マネージャーが最も部下のことを知っているという前提のもと、より現場的な視点で評価を運用する仕組みと言えます。

ノーレーティングの事例

日本ではまだ馴染みが薄いノーレーティングですが、外資系企業では評価方法の主流となりつつあります。実際のノーレーティング事例をみてみましょう。

GE

ノーレーティングの元祖であるGEは、かなり特徴的なノーレーティングの運用を行っています。特に面白いのがリアルタイムフィードバックです。リアルタイムフィードバックとは上司が部下に対して、フィードバックすべきタイミングでフィードバックを行う仕組みです。 従来の評価制度では、四半期や半期などの決まったタイミングでしかフィードバックを行っていませんでした。四半期以上の長いスパンでフィードバックを行っても、本人はフィードバックされた行動について覚えていない可能性もあります。 また行動改善が数か月後に行われるのでは現在の激しい環境変化の中では遅すぎるのです。そこでフィードバックすべきときにすぐにフィードバックを行うことで、早い行動改善につなげる仕組みがリアルタイムフィードバックです。GEではリアルタイムフィードバックの専用システムを導入しており、例えばミーティングや資料作成などの細かいタスク単位でフィードバックを行った履歴をシステムに残せるようになっています。 こうした細かいフィードバックとシステム上での記録により、段階評価を行わなくても部下は上司からの期待や評価を理解することができるのです。GEのノーレーティングは上司からのフィードバックとリアルタイムフィードバック、そしてフィードバック履歴を残すシステムが連動した仕組みといえます。

アドビ

「イラストレーター」や「フォトショップ」で知られるアドビシステムズ社(アドビ)もノーレーティングを採用した企業です。アドビでは、3か月に一度マネージャーとの面談を行い、目標達成に向けた改善点やこれまで成長した点について上司と部下が話し合います。 面談では上司からだけでなく、部下から上司へのフィードバックも行うそうです。また、上司であるマネージャーには面談方法のトレーニングも実施しています。アドビでは上司と部下が相互に話し合うことで、段階評価を行わなくても評価や報酬分配への納得感を高められるように取り組んでいます。

パフォーマンスマネジメント評価とは?

ノーレーティングを含む、近年の評価思想がパフォーマンスマネジメント評価です。パフォーマンスマネジメントは、従業員のモチベーションや能力を高めることで組織業績を高める考え方です。従来のMBOなどの評価制度は長年の運用で形骸化してしまい、評価することが目的になっている側面がありました。 また、評価サイクルが半期単位や年単位と長いサイクルであり、変化の激しい現代社会には合わなくなってきていました。そこで新たに定着し始めているのがパフォーマンスマネジメントです。パフォーマンスマネジメントでは上司と部下の1on1を通じて高頻度かつタイムリーなフィードバックを行うとともに、従業員の強みにフォーカスを当てて、その従業員が持つ能力を最大まで引き上げます。 従来の段階評価や年次評価ではなく、改善のサイクルを早くすることで従業員の評価への納得感とパフォーマンスを同時に向上できる仕組みといえます。

パフォーマンスマネジメントの事例

スターバックスコーヒージャパンでは、パフォーマンスマネジメントの考え方のもと目標管理を行っています。4ヶ月ごとの面談を通じて、上司から本人に気づきを促し、本人のやりたいことを引き出していきます。こうした取り組みを通じて仕事の自分事化を促しながら、モチベーションを高めていくそうです。スターバックスのどの店舗でも素晴らしい接客を受けられるのは、こうしたパフォーマンスマネジメントの結果と言えるのではないでしょうか。

評価制度の事例

評価制度の事例 ここまでご紹介したように、評価制度は企業の課題や目指したい姿によって大きく変わることが理解できたのではないでしょうか。最後に評価制度の事例をいくつかみてみましょう。

ピジョンのポイント制評価

哺乳瓶メーカー大手のピジョンでは、ポイント制評価を採用しています。上半期と下半期で面談を行い、目標達成状況によって上半期と下半期で各15ポイント、年間で最大30ポイントを付与する評価制度です。昇給や賞与配分には1ポイントあたりの単価を定め、ポイントに応じた報酬分配を行っています。 また、昇格には一定ポイントをクリアすることを定めています。さらにユニークなのがマネージャー以上の目標を全従業員がイントラネットで確認できることです。マネージャー以上の目標を公開することで、会社の目標設定に対する透明性や従業員の納得感を高めています。

Yahoo!のバリュー評価

IT大手のヤフージャパンでは、会社が大切にする価値観を軸としたバリュー評価を採用しています。ヤフージャパンの価値観である4つの「ヤフーバリュー」から、それぞれの達成度を評価します。 4つのバリューとは、「課題解決」「爆速」「フォーカス」「ワイルド」です。また、360度評価を採用してこうした4つのバリューの達成度を上司だけではなく同僚や部下からも得られるようにしています。さらに評価項目を10個以内に収め、そのうち8個は業績評価に関する項目、2個はバリュー評価に関する項目に設定。目標設定や評価の負担を減らすことで「目標設定倒れ」にならないように工夫しています。

サイボウズの多様な評価

以前からダイバーシティや働き方改革に取り組んできたサイボウズでは、とてもユニークな評価制度を採用しています。雇用制度をワーク重視の「PS制度」とライフ重視の「DS制度」に分け、それぞれの制度で評価方法も別々のものを運用しています。 具体的には、「PS制度」では5段階評価を採用し、絶対評価と相対評価を組み合わせて、成果を重視する評価を実施。「DS制度」では、3段階評価を採用し、相対評価によって成果よりもプロセスを評価するそうです。このように、サイボウズでは従業員が自らの働き方を選ぶという思想のもと、評価制度も従業員の働き方に合わせた運用を行っています。

まとめ

今回は評価制度について解説してきました。大企業でお勤めの方は評価制度といえばMBOを思い浮かべるかもしれません。しかしその設計思想や導入目的は企業の課題によって全くことなります。また、同じMBOであっても企業の課題に応じて運用される内容が大きく変わるのです。 今回は様々な企業を例に評価制度を解説してきましたが、どの企業もひとつとして同じ評価制度がないことに気づいたのではないでしょうか。評価制度は企業によって変わるとても多様性のある仕組みであり、組織業績に影響を及ぼす重要な仕組みだと言えます。今回ご紹介した事例も参考にしながら、ぜひあなたの会社の評価制度がどのような評価思想のもと、どのような仕組みになっているかを考えてみてはどうでしょうか。  

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