実際のところ、現在の日本企業ではタレントマネジメントの考え方に沿って、人材マネジメントを行っている企業はどの程度あるのでしょうか。タレントマネジメントの源流である欧米では、多民族国家であるがゆえに、人権意識が高く、個人を単位に社会が成り立っていることが前提にあります。
その結果、個々人は自分のキャリアを自分で作っていくことを意識し、そのため転職を繰り返し、社会もそれを認めているといっても過言ではありません。またそのような状況を前提として、転職のための仕組みやヘッドハンティング会社などの活動も盛んで、転職市場と呼ばれるマーケットも発達しています。
個人にフォーカスしたマネジメントが求められている
ダイバーシティもアメリカで進んだ概念です。多民族国家であり、人種、性別、年齢などによる差別や区別には敏感に反応します。日本の履歴書に相当する職務経歴書には、写真も年齢も掲載しません。その代りといっては何ですが、職務経歴書には職歴だけでなく、大学のインターンの経験やボランティアなどの社会的活動等、就職するに当たってアピールできるものは書きます。
一方、日本ではどうでしょうか。これまで日本では、企業という組織に就職し、そこで長く過ごす終身雇用が主でした。一律に採用され、同じ教育を受け、同じ基準で評価されるのが当然でしたが、そのような日本にも労働市場の変化から、個人にフォーカスした人材マネジメントが求められてきています。およそ欧米の10数年遅れで、タレントマネジメントに対する注目が集まっているのが現状です。
欧米では、様々な背景により、10数年前からタレントマネジメントの考え方が広がっています。そして、そのタレントマネジメントの運用を補完する、個人のタレントを管理するシステムが普及しています。日本でも大企業を中心に、人材管理のシステムを導入しているところがあります。
ただこれらは、タレントマネジメントを意識して作られ、運用されているわけではなく、評価制度、報酬制度、あるいは福利厚生制度の利用率などを管理・運用する仕組みとして導入されている場合が多いのが現状です。最近になり、ようやくタレントマネジメントを目的としたシステムが日本の市場にも出てくるようになりました。
これらのシステムを導入し、社員のタレントを可視化できることのメリットは大きいと言えます。しかし、そのメリットは、タレントマネジメントを推進する明確な目的を持ち、適切な手順を踏み、初めて効果をもたらします。
ここで思い出して欲しいことは、タレントマネジメントは人材マネジメントの考え方であって、システムそのものではないということです。しかし、タレントマネジメントシステムを提供するシステム会社が増えてくると共に、タレントマネジメントは人材マネジメントの考え方であるという本質を見失っている場合も少なくないのではないのでしょうか。
タレントマネジメントの考え方を企業に取り入れ、実現していく上では、この本質を理解し、タレントマネジメントを通して、実現したい明確なゴールを設定することが欠かせないと言えます。
タレントマネジメントはシステムに非ず
タレントマネジメントは人材マネジメントの考え方であって、システムそのものではありません。このことは前述の通りです。真のタレントマネジメントを実現するためには、会社の経営戦略を念頭に置き、有効なビジネスの仕組みを作るために人材、つまりタレントを揃えることが必要です。
次に始まる新規事業のためだけでなく、5年後、10年後に会社が携わっているであろう、主要な事業を動かすための人材、また次の経営を担える人材を今から育成・開発するのです。
現在有しているタレントだけでなく、可能性も広く考慮して、人材を採用し、教育の計画を立てて、異動などを繰り返し、多くの職種を経験させ、タレントを磨く。社員ひとりひとりの成長を見守りつつ、それを経営戦略とリンクさせ、事業全体を成功に導いていくことが、タレントマネジメントの本質です。
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