近年、従業員のエンゲージメントやコンプライアンス向上を目的にクレドが注目されています。VUCA時代と呼ばれる世の中の環境変化の激化の中では、変化を乗り越える強い組織文化が求められているからです。強い組織文化をつくり、従業員の組織エンゲージメントを高める手法としてクレドは有効な手段の一つと言えます。そこで今回はクレドについて概念の説明から具体的な作成・活用方法までをご紹介します。

クレドとは?

クレドとはどのようなものなのでしょうか。まずはクレドの概念について考えてみましょう。

クレドの由来

クレド(Credo)はラテン語で「私は信じる」という意味です。今日では英単語として「信条」という意味で使われます。企業などの組織においては企業理念など、組織の価値観を明文化したものとして定義されます。

もともと「信条」という意味だったクレドを企業の価値観として初めて使用したのは、アメリカの大手医薬品メーカーであるジョンソンエンドジョンソンでした。ジョンソンエンドジョンソンのクレドは、1943年に当時の最高経営責任者(CEO)だったロバート・ウッド・ジョンソンJrが取締役会で初めて発表しました。それ以来、ジョンソンエンドジョンソンではクレドを全従業員が持つ共通の価値観として経営を行ってきました。

そしてジョンソンエンドジョンソンのクレドによる経営の成功から、ほかの企業へとクレドの取り組みが波及していったのです。今日ではクレドはアメリカだけではなく、日本をはじめとする世界中の企業で導入されています。

クレドと企業理念、ミッション、ビジョン、バリューとの違いは?

クレドはよく企業理念やミッション、ビジョン、バリュー(MVV)と混同される場合があります。それぞれの概念とクレドはどう異なるのでしょうか。

クレドは企業の従業員が共通して持つ価値観であるため、実は企業によっては企業理念やMVVそのものをクレドと呼ぶ場合もありますが、厳密には、企業理念やMVVがあり、それらについて書き記したカードやツールがクレドだと定義されます。

また、日本のビジネスシーンでクレドについて話す場合と、外資系企業でクレドについて話す場合では概念が大きく違う場合があるので注意しましょう。

クレド導入のメリットとは?

様々な企業がクレドを導入しており、多くの企業が導入するのには何か理由があるはずです。そこで次はクレド導入のメリットについて考えてみましょう。

なぜクレドを導入するのか?

クレドは組織に所属する従業員の考え方や価値観、そして行動を統一するために重要なツールとしての役割を果たしています。例えばあなたの会社の社員があなた一人だけであれば、クレドを導入する必要はないでしょう。しかし企業は大きくなればなるほど多くの従業員が所属し、会社としての基本的な考え方や価値観への共通認識を持つことが難しくなります。

さらには当然ですが、人は一人ひとり異なった価値観を持っています。異なった価値観を持つ人材が同じ会社で働くためには共通のルールや価値観を理解することがとても重要です。特に、共通のルールや価値観は意思決定の際に重要な判断基準になります。こうした組織の共通ルールや価値観を浸透させるためにクレドは重要なツールなのです。

クレドが組織の一体感を生み出す

例えば、クレドに「スピード重視」と書かれている企業と「スピードよりも品質重視」と書かれている企業では、判断のスピードや提供する品質に大きく差がでるはずです。また、もしこうした判断基準が明文化されていない場合、従業員は自分の考えで勝手に判断してしまうかもしれません。

もし従業員が勝手に判断した場合、ある従業員はスピードを重視し、ほかの従業員は品質を重視してしまい、企業としてお客様への対応に差が出てしまいます。そこで会社として求める考え方、価値観、行動を明文化したクレドが必要なのです。

クレドの活用がきちんと定着していれば、従業員は同じ意思決定を下しやすくなります。同じ意思決定ができれば、最終的には上司が判断しなくても各従業員が自らベストな判断ができるようになるでしょう。その結果、経営効率や顧客への対応品質が上がり、売上や利益の成長につながるのです。

つまり企業の組織運営において、クレドは組織の一体感を生み出し、意思決定の標準化と効率化を実現するツールとして機能していると言えるでしょう。

クレドによるマネジメント

具体的かつわかりやすい内容のクレドが浸透していれば、上司は部下にいちいち指示を出す必要がなくなります。例えばある飲食店では、お客様に対してどのような接客をするべきか、その優先順位がクレドカードに明記されています。
挨拶をすることや飲み物のオーダーをお客様の着席後すぐに行うことなどです。こうした具体的なルールがあれば、従業員はその場で自ら考えて行動できます。クレドはマネジメントツールとしても非常に有効な手段なのです。

このように、クレドはきちんと活用すれば、組織の一体感を生み出し、従業員の行動の効率化や標準化によって企業の成長を後押ししてくれます。

有名企業のクレド事例

では実際の企業におけるクレド活用事例をみてみましょう。

ジョンソンエンドジョンソン

冒頭にご紹介したように、クレドを語るうえでジョンソンエンドジョンソンの事例は外せません。ジョンソンエンドジョンソンのクレドに関するエピソードで最も有名なのが「タイレノール事件」です。

1982年に、アメリカでジョンソンエンドジョンソンが発売する鎮痛薬「タイレノール」を服用した人が突然死する事件が相次いで発生しました。事件発生直後、まだ事件の原因もわからない状態にも関わらず、当時のジョンソンエンドジョンソンのCEOは「何よりもまずはお客様を守る」という判断を下しました。

同社に責任があるかないかもはっきりしないにも関わらず、ジョンソンエンドジョンソンはマスコミを通じて自社製品であるタイレノールを購入しないように呼びかけたのです。その後、事件の状況が落ち着いた後も、ジョンソンエンドジョンソンは社を上げて信頼回復に努め、見事に世間の信用を取り戻しました。

こうした社会に対して責任ある対応ができたのは、クレドが深く浸透していたからだとされています。クレドが浸透していれば、時代や経営者が変わっても、正しい判断ができることをジョンソンエンドジョンソンは教えてくれます。

リッツカールトン

大手高級ホテルチェーンであるリッツカールトンもクレドを導入する代表的な企業として有名です。クレドにはお客様に満足いただくための接客の心構えや行動について記載されており、ホテルスタッフである従業員は毎朝、朝礼でクレドの読み合わせをします

リッツカールトンにはクレドに関する有名なエピソードがいくつかあります。ある宿泊客がリッツカールトンに宿泊した際、廊下で掃除をしていたホテルスタッフに声をかけられたそうです。その時、その宿泊客は何気なく次の日が自分の誕生日であることを話しました。

するとその宿泊客が部屋に戻った際に、部屋にバースデーメッセージとともに花束が届けられていました。このように、リッツカールトンでは全てのホテルスタッフがその場の判断で最善の行動をします。その判断のもとになるのがクレドなのです。

KDDIとJAL

日本企業の事例では、KDDIとJALが有名です。大手通信会社と航空会社であるこの2社には一見、共通点がないように思えます。しかし、両社とも日本を代表する経営者の稲盛和夫氏がかかわった企業です。

稲盛氏は経営理念の浸透を何よりも大切にしていました。そのため、KDDIでもJALでも経営理念を記した手帳を社員に持たせ、社員が自ら考えて判断できるようしたのです。また、経営破綻したJALでは稲盛氏は真っ先に企業理念の見直しを行い、「JALフィロソフィー」をつくりました。JALフィロソフィーは従業員の参画のもと作成され、いまではJALの従業員にとって大切な考え方として浸透しています。

その結果、JALは見事に復活を果たしました。KDDIでは、KDDとDDI、そしてIDOの3社合併によって現在のKDDIが生まれる際にKDDIフィロソフィーが作られました。KDDIフィロソフィーは、価値観の異なる3社合併を見事に成功させ、現在はKDDIの共通の価値観として浸透しています。

このように、クレドは企業の再生や合併など、組織を強くしなければならない際に、企業が目指す方向性を示し価値観を統一する有効な手段として機能しているのです。

クレドの作成方法

ここまでのご紹介をもとに、実際にクレドを導入したいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。ここからはクレドの作成方法について解説します。
クレドの作成方法は、大きく分けてトップダウンによる作成とボトムアップによる作成の2種類があります。

トップダウンでの作成

トップダウンによる作成は、経営者や役員が自らの考えや会社のあるべき姿を言語化し、社内に浸透させる方法です。多くの場合、経営陣が集まってオフサイトミーティングを行い、会社のあるべき姿や、会社が大切にしている考え方、価値観を洗い出していきます。

そして最終的にいくつかのわかりやすい言葉にまとめていくのです。作成されたクレドは、役員自らが実践しながら部下へと浸透させていきます。トップダウンでの作成方法は、経営陣のコミットメントを高めるだけではなく、会社の成長スピードを加速させることができます。
特に企業が急速に成長を続けている際に会社のあるべき姿を示す手段として有効です。一方で従業員が多い企業では、従業員からの納得感が得られにくいというデメリットがあるので注意しましょう。

ボトムアップによる作成

近年のクレド作成方法としてよく用いられているのがボトムアップによる作成です。特に大企業ではボトムアップでの作成が行われるケースがよくあります。ボトムアップによる作成方法もいくつかのパターンがあります。

一つは本当に全従業員から意見を募集する方法、もう一つは各部門から代表者を集めて作成する方法です。前者は従業員数が少ない企業におすすめの方法です。後者は従業員が多く、全従業員の意見を集めることが難しい企業におすすめです。いずれも従業員の意見から、会社にとって重要な価値観、ルール、考え方をクレドにまとめていきます。

最初は従業員が日々の仕事の中で大切にしていることを、キーワードとしてなるべく多く集めていきます。そしてある程度集まった時点でキーワードをまとめ、各キーワードに共通する要素をグルーピングしていきます。するといくつかのグループに集約されていくはずです。そのグループに名称を付け、さらにその名称を文章化していくことでクレドが作成できます。

ボトムアップによる作成

クレドを効果的に導入する方法

クレドは作成して終わりではありません。作成後に活用しなければ意味がないでしょう。そして活用のためにはクレドを社内に浸透させていく必要があります。作成したクレドは、社内にどのように導入すればよいのでしょうか。

クレドを社内に浸透させるステップ

クレドを導入する際は一気に進めるのではなく、段階的に手順を追って進める方法がおすすめです。もし一気に導入しようとすると、従業員に対して価値観を押し付けることになり、クレドを理解しようとする従業員のモチベーションを低下させてしまう恐れがあります。そこでクレドを導入する際には4つのステップで進めていきましょう。

①クレド推進チームの立ち上げ

まずはクレドを自ら率先して実践しながら社内にクレドを推進するクレド推進チームを立ち上げます。クレド推進チームがクレドの導入から定着までの業務管理を行うのです。できれば、クレド推進チームの責任者には社長または担当役員が就任するべきでしょう。

経営陣がリーダーになれば、強制力が働き社内での実践度が高まります。なお推進チームの所属部門は経営企画、人事、あるいは部門横断プロジェクトが一般的です。従業員のクレドへの参画意欲を高めたいなら部門横断プロジェクトがよいでしょう。

②クレド導入ワークショップの実施

クレドを全従業員に浸透させる効果的な方法がワークショップです。ワークショップではクレドを作成した背景、作成したクレドの内容紹介を行います。またクレドをもとに、実際の仕事の中での日々の行動について参加者同士でディスカッションします。こうすることでクレドへの理解や納得感が深まり、従業員のクレドへの認識が統一され、クレドの実践へとつながっていくのです。

③クレドによるベストプラクティスの共有

ワークショップを実施した後は、実際に日々の仕事の中でクレドを実践した様子を従業員からヒアリングします。ヒアリングを行うことでクレドの活用状況がわかるでしょう。
同時にクレドの活用によって生まれた成功事例を集め、成功事例の中でも特に優れた事例をベストプラクティスとして認定します。そしてベストプラクティスを社内に共有するのです。ベストプラクティスを示すことで、クレドに沿った良い行動の例を具体的に伝えることができます。

④クレドを習慣にする

クレドは継続的な活用がとても重要です。単に導入期にクレド浸透の取り組みを盛り上げるだけではなく、クレド活用を仕事の習慣にしていくのです。クレドの習慣化には、仕組化がおすすめです。

例えば稟議や決裁の判断項目にクレドを採用すれば、意思決定の際に必ずクレドを参照することになります。また、評価制度にクレドに関する項目を取り入れることができれば、クレドに沿った良い行動を評価できます。こうした意思決定の仕組みや人事制度にクレドを取り入れれば、従業員も次第にクレドに沿った行動をするようになるでしょう。

クレドの具体的な活用方法

クレドの導入に成功したら、クレドを積極的に活用していきます。具体的にはどのようなクレド活用方法があるのでしょうか。

朝会などでの日々の読み合わせ

どの企業でも行われているのが、朝会や会議で毎日クレドを読み合わせる取り組みです。今回事例としてご紹介したリッツカールトンやKDDI、JALも毎日クレドの読み合わせを行っています。特に仕事が始まる前である朝会にクレドの読み合わせを取り入れることで、その日に行う行動をクレドに沿ったものにすることができます。クレドを風化させないためにも、毎日の読み合わせは欠かさず実施するのがよいでしょう。

クレドカードの活用

クレドを持ち運べるカードサイズに印刷したクレドカードは、代表的なクレド活用方法の一つです。クレドが浸透している企業の多くがカードまたは手帳としてクレドを従業員に持たせています。クレドカードをつくることで、常に従業員がクレドを「持ち歩く」ようになり、クレドと従業員自身との一体感を作り出すことができるのです。

また企業によってはクレドカードに書き込みができるようにしている場合もあります。日々クレドについて実践したことや感じたことをクレドカードに書き込むことで、よりクレドの実践度合いを高めることができます。単にカードを作成するだけではなく、クレドカードの活用方法も考えながらカードを作成するとよいでしょう。

全社大会の実施

クレドの実践を高めるには、クレドに沿った行動を褒めたたえる方法が有効です。従業員を褒めたたえ、クレドに沿った行動を奨励する手段として全社大会の実施があげられます。全社大会では、その年の従業員の行動で特にクレドに沿って成果を上げたものを表彰します。例えばオムロンでは、年1回、創業記念日の日に「TOGA(トーガ)」という全社大会を実施しています。

TOGAではオムロンの全世界の拠点からエントリーを募り、企業理念に沿った行動を表彰します。トーナメント形式で実施され、最後は本社のある京都に勝ち残った従業員が終結して経営陣へプレゼンをしたうえで優秀者を表彰するそうです。このように、表彰することで従業員のモチベーションが高まるだけではなく、全社的にクレドに沿った行動を広く知らしめることができるでしょう。

まとめ

今回はクレドの有効性と作成方法、活用方法をご紹介しました。クレドは世界中の企業で活用されています。そして永続的に良い商品やサービスを提供する企業ほど、クレドを活用しています。クレドはトップダウンでもボトムアップでも作成できますが、従業員が多い企業ではボトムアップの作成方法がよいでしょう。

そしてクレドは作成して終わりではなく、日々従業員がカード等で持ち歩いて実践するものです。あなたも自社ならではのユニークなクレドを作成して、従業員の一体感を高め、会社の永続的な成長を実現しましょう。

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