企業が人材育成のために使うプログラムに、CDP(キャリアデベロップメントプログラム)があります。中長期的に企業が求める人材を育成できるキャリアプログラムです。今回は、そのCDPについて、どのようなプログラムなのか、導入する際のメリット、導入の流れ、注意点などを解説します。人事施策の一環として、CDPの導入を検討しているなら参考にしてください。
CDPとは何か
CDP(キャリアデベロップメントプログラム)とは、従業員を育成するための中長期的な取り組みです。グローバル化や働き方改革など企業を取り巻く環境は目まぐるしく変わっており、雇用も流動的になっているため人材育成に時間をかけることが容易ではなくなっています。しかし、将来も企業を成長させたいのであれば、中長期的な視点で人材育成を行い企業活動の基盤を固める試みも必要です。従業員のキャリア形成を数年から数十年後まで考えるCDPならば、それが可能になるため注目されています。
具体的には、企業が従業員から中長期的なキャリアの目標を聞き、本人の能力・適性を見ながら目標実現に必要な能力の獲得や資格習得ができる研修や配置転換などの人事施策を行います。なお、年功序列制度や終身雇用制度が当たり前の時代のCDPは、企業が主体となり従業員は言われるがまま研修や資格習得をしていれば良いという風潮でした。しかし、仕事の評価基準が変化しつつあり、労働に対する価値観も多様化している時代のCDPは、従業員が主体となって取り組み、企業は支援するだけというのが一般的です。
CDPを導入するメリット
CDPを導入するメリットは、企業と従業員、双方にあります。企業側のメリットについて見ていくと、従業員が自主的に自分の中長期的なキャリアを考え、企業が必要な人事施策を行えば、両者に強固な信頼関係が構築されエンゲージメントが向上します。エンゲージメントは、従業員が企業に対して抱く愛社精神や愛着心を意味する言葉です。ロイヤルティと似ていますが、企業と従業員の関係性が違うので明確に区別できます。
エンゲージメントにおいて企業と従業員は対等な立場です。「企業のために貢献したい」という気持ちは、両者の間にある強い信頼関係が裏付けとなります。一方で、ロイヤルティにおける企業と従業員の関係性は、主従関係です。強い力を持つ企業に従業員が従う関係性が、従業員の心に「企業に身も心も捧げたい」という気持ちを生み出します。
ロイヤルティも、従業員が会社のために尽くしてくれるという点でメリットが大きいのですが、受身の姿勢となりやすく、良し悪しに関わらず企業の言い分をそのまま受け入れてしまう恐れがあります。それに対して対等な関係性であるエンゲージメントは、従業員に主体性があり会社の誤りに対しても異議を唱えられます。企業がCDPを通じて従業員のエンゲージメントを向上させたいのであれば、その点をよく理解し常に適切な人事施策を打ち出せるように努力しなければなりません。もし、期待通りに従業員のエンゲージメントを向上できれば、従業員は熱意を持って仕事に取り組むようになり生産性も向上するでしょう。結果として、企業の業績は上向きになります。
続いて挙げる企業側のメリットは、離職率の低下です。従業員が離職する理由には、将来自分が企業でどのような役割を果たせるのかわからない、どうやってキャリアパスを描くのかわからないと言う不安があります。CDPは、従業員が希望する中長期的なキャリアの目標設定、目標実現に繋がるキャリアパスの設定を企業がサポートしていくので従業員の不安を払拭できます。目標を実現するために、どのように能力を磨き資格を取得するべきかがわかれば、迷いなく日々の仕事に取り組めますしエンゲージメントも向上するので、転職という選択肢を考えなくなるでしょう。
主体性を持った従業員が育つというのも、企業側のメリットです。従業員が中長期的なキャリアの目標を設定するにあたって、自身のキャリアと向き合い今後どうなりたいのかを考える必要があります。それは、従業員が主体性を持って取り組まなければならない作業です。また、キャリアの目標を設定したあとには、研修や配置転換などを通じて従業員の能力を最大限に逃します。従業員が自主的に知識や経験を得ようという姿勢がなければ、会社が用意した成長の機会を活かすことができないでしょう。以上のようにCDPの導入は、主体性を持った従業員の育成に役立ちます。
狙い通りに従業員が主体を持って自らのキャリア形成に取り組めるようになれば、指示に従うだけの人間ではなくなるでしょう。責任感を持った行動を取れるし、失敗した経験から多くのものを学ぶようになります。それは、従業員の仕事の質を高める結果に繋がります。すべての従業員が主体性を持つようになり、仕事の質が高まれば企業の得る利益を増大させることも可能です。
他には、従業員の設定した目標・キャリアパスを企業が把握できるというメリットもあります。従業員を支援するべく企業が様々な人事施策を打ち出すには、従業員一人ひとりの目標・キャリアパスをヒアリングしておかなければなりません。通常は、従業員だけが把握している目標やキャリアパスを可視化できるようになるので、これまで以上に人材を管理しやすくなるでしょう。
CDP導入の流れ
企業がCDPをどのようにして導入するのか、それを理解できるようにおおよその流れを解説していきます。最初は、従業員からのヒアリングです。従業員一人ひとりと、人事部の担当者や上司が面談をして、今後のキャリアをどのように考えているのかを聞き出しましょう。続いて、企業がどのような組織になりたいのか、そのためにはどのような人材が必要なのかを考えます。必要となる人材の職種や職位に合わせて、ふさわしいスキル・資格・経験、価値観などを設定していきましょう。
従業員と企業の理想を確認できたら、双方のすり合わせをしていきます。すり合わせがうまくできれば、双方の希望を満たすキャリアパス制度の構築ができ、必要な研修制度や経験の習得、人員配置などがわかります。やらなければならない人事施策が明らかになれば、それに従い人材育成や配属・昇格、外部への出向などを行います。CDPが狙い通り機能しなかったり、企業を取り巻く環境に大きな変化が生じたりするので、定期的にCDPを評価し軌道修正できるような仕組みもあらかじめ用意しておきましょう。
また、月日が経てば従業員の目標が変化することもあります。最初にやった面談も、半年後、一年後に実施し、変化がないのかを確認する必要があるでしょう。もし、面談で目標が変わった場合には、CDPの軌道修正で人材育成を継続できます。
CDP導入の注意点
CDP導入が上手くできれば、企業と従業員の双方に大きなメリットがもたらされます。しかしながら、導入にあたって注意するべきこともあり、雇用の流動性が高い状態では育成途中に対象の従業員が離職する可能性は否定できません。CDP導入からある程度の年月が経てば、一定の従業員が離職するだろうという前提で最適な人材育成のやり方を模索していかなければならないでしょう。また、CDPを導入しても、従業員が納得する配置転換が難しい、形成したキャリアが人事評価に繋がらない、といった問題も起きることがあります。人事配置制度、人事評価制度がCDPの障害となるようであれば、抜本的な見直しをしなければならないでしょう。
CDPを中長期的な視点で行うために、採用が滞り人材不足になることもあります。優秀な人材が育つまでには何年もかかるので、その間に人材不足のために競合他社との競争に負けてしまえば、企業の存続が危うくなります。ときには短期的な視点から考えて、会社の競争力を高めるために採用を実施する必要があります。
CDPを導入して会社を発展させよう
従業員の抱くキャリアプランと企業が求める人物像をすり合わせ、双方のニーズに合った中長期的なキャリア形成をしていくCDPは、将来的に企業を発展させる人材育成の手法です。上手くCDPを導入できれば、労働力の減少やグローバル化に伴う競争の激化などに苦しむ企業は、生き残りの可能性が高まるでしょう。中長期的な人材育成のやり方で悩む経営者、人事担当者は、様々な注意点も踏まえてCDP導入を検討することをおすすめします。
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