多くの企業が昔から時間をかけて新入社員研修を行ってきました。大手企業では研修期間を1か月以上も設定することが慣例化しています。しかし本当に必要な期間について検討が行われることは稀です。なぜなら新入社員研修は時間をかけて実施するもの、という固定観念がそのような会社の人事部に染みついているからです。では新入社員への研修期間はどのくらいが適切なのでしょうか。今回は研修期間について解説します。
新入社員の研修期間は何か月が正解?
新入社員の研修期間は何か月が最も有効なのでしょうか。
残念ながら正解はありません。なぜなら企業によって異なるからです。
例えば、そもそもスキルアップは自分で行うものという考えの強い外資系企業では研修期間がない場合もあります。一方でものづくりに強みがある日本メーカーでは技術の習得のため1年をかけて研修を行うことがあります。
また、営業部門が強い企業であれば早く新入社員を戦力化するために、座学での研修を数週間行い、あとは現場でのOJTに取り組むこともあるでしょう。
つまり基礎的な日本の商習慣やビジネスマナーを習得させた後は、それぞれの企業事情によってOJTや技術実習など必要な知識やスキルの習得を行うのがよいのです。
このように新入社員の研修期間は狙いや、企業文化によって大きく異なります。
学習と習得は違う
研修は期間を長くとればよいというものではありません。学習と習得は異なるからです。
新入社員研修でありがちなのが、新入社員に教えたい内容が盛りだくさんになってしまうことです。内容を詰め込みすぎてどんどんコマ数が多くなり、気づけば2か月以上になっている場合もあります。会社のことを何も知らない新入社員にひたすら知識のみを教えても理解度は深まりません。無理に全てを詰め込むよりも、なるべく習得につながるようなOJTやシミュレーション、ワークなどの実践の場を合間に入れながら研修を設計するとよいでしょう。
会社が教えたい内容ばかりが多くなってしまい、新入社員が結局なにも習得できなかったというのは本末転倒です。充分な研修期間をとりながらも、知識のインプットだけでなく成果発表などのアウトプットの場を設けながら本当に習得できているのかを確かめましょう。
新入社員研修に必要な期間の決め方
では、実際にどのように研修期間を決めればよいのでしょうか。知識やスキルの確実な習得につながる研修期間の決め方をご紹介します。研修期間は大きく4つのステップで決めます。
研修終了後の到達イメージを決める
まずは新入社員が研修終了後にどうなっているべきかを検討しましょう。すぐ仕事ができる状態なのか、まずは会社になれてもらうのか、それによって内容は大きく異なります。自社の業界特性や大切にしている価値観に加え、直近の経営課題や現場からの要請も考慮しながら検討しましょう。
新入社員の現状について仮説を立てる
次に受講者である新入社員の現状を考えましょう。あらかじめ内定者の集まり等で、入社してくる新入社員の様子を確認しておくとよいでしょう。また、選考時のエントリーシートや面接での応対も重要なデータです。新入社員研修実施時までになるべく多くのデータをもとに仮説を立てるようにしましょう。
ギャップを埋める内容について検討する
最初に設定した到達イメージと新入社員の現状を見比べてどうすればギャップを埋められるかを考えましょう。例えば論理的思考が自社の必須のスキルであるとしたら、新入社員のSPIデータから論理的思考の特性に関する現状を把握しましょう。数学的な論理力なのか、国語的な論理力なのかで打ち手が異なるはずです。課題を明確にしたうえで、どうギャップを埋めるか検討しましょう。
習得するための期間を検討する
ギャップが大きい場合は研修期間が長くなります。反対にギャップが小さければ、そこまでの期間や内容は必要ないでしょう。とはいえ、配属先からの要望も考慮するとあまり時間がとれない場合があります。その場合は配属後にもフォローを行うなど習得度合いを高めるくふうをしましょう。
このように新入社員研修は、新入社員の課題や配属後のOJTも考慮しながらどれくらいの期間が適切かを判断しましょう。
そもそも研修は必要か?
これまで日本企業では、当たり前のように新入社員研修が行われてきました。しかし、そもそも研修は必要なのでしょうか。
最近の新入社員は近年の終身雇用制がなくなりつつある人事制度の影響からキャリアアップ志向や成長意欲が高い傾向にあります。彼らは集合研修よりも実践の場を求めています。また昨今の人出不足から配属される現場側も早期の配属を求めています。このような背景を考慮すると、研修は内定後~入社前までにある程度済ませてしまい、OJTを中心に新入社員研修を設計し、早めに配属するのがよいでしょう。
また最近では教育研修分野でもITが進化し、一人ひとりに合わせた研修設計ができるようにもなっています。座学で済むような知識のインプットや、知識の習熟度を確かめるテストなど、e-ラーニングでも代替できるものは、研修運営の効率化のためにも積極的にデジタル化していきます。
新入社員研修は不要ではありませんが、なるべく実践に近い形式で実施をして早期に配属へとつなげましょう。
職種や業務内容に応じて新入社員研修の期間を決めよう
ここまでご紹介したように、新入社員研修は配属先の職種や業務内容によっても研修期間が異なります。
技術系の新入社員であれば、会社固有技術への理解やものづくりの勘所を知るために少し長めに研修期間をとるのがよいでしょう。反対に営業職であれば、お客様対応に慣れることが重視されるので早期にOJTに取り組むほうがよいでしょう。
管理系職種であれば、基礎となる法律や経理に関する知識が必要になるでしょう。管理部門では、初期は知識の習得や会社組織への理解を深める座学を中心に構成するとよいでしょう。
このように職種や業務内容に応じて、個別に研修期間を設定するのも重要な考え方です。
一律に1か月という研修期間ではなく、自社の課題や新入社員の状況なども考慮して最も効果的な研修期間を決めていきましょう。
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