まだキャリアを積んでおらず、年収も低い若者にとって奨学金の返済はかなり大きな負担です。そのため、企業の中には優秀な人材を確保する目的で、奨学金の肩代わり制度を設けていることがあります。奨学金は数百万円程度とかなり大きな金額なので、企業にとってこの金額を肩代わりするのは大きな負担ではあるものの、それでもメリットの方が大きい制度と言えるでしょう。ここでは企業の奨学金の肩代わり制度について解説します。

若者の奨学金事情とは?

日本でも学歴至上主義が進み、企業も採用条件の最低ラインを大卒以上とするケースが増えていることから、大学に進学する学生は多いです。しかし、大学の学費は4年制だと国公立で250万円、私立で500万円程度が必要です。加えて特に地方出身の学生は学費だけでなく生活費も必要になります。そのため、親の収入だけで大学卒業までにかかる費用を賄うのは難しく、約半数近い学生が奨学金を利用しています。

20代の毎月の平均の手取りは20万円弱と言われています。それに対して東京都内で一人暮らしをするにあたって、家賃の平均は6万円程度、食費は4万円程度、光熱費が2万円程度、通信費が1万5,000円程度、保険医療費が1万5,000円程度、交通費が2万円程度、交際費が1万円程度とすると、手元に残るのは2万円です。自由に使えるお金がこれだけしか手元に残らないのはただでさえ大変でしょう。日本学生支援機構が発表した奨学金の毎月の平均返済額は1万6,880円。まだ収入が低い20代の内から毎月この金額の返済を滞りなく行うのはかなりきついと言えるでしょう。実際に日本学生支援機構が発表したデータによると、平成25年度から30年度の6年間の間で発生した年間延滞発生件数の平均は7.65%、つまり12人〜13人に1人の割合で滞納が発生しているとわかります。

加えて奨学金の返済が滞って個人信用情報機関に事故情報が登録されてしまった場合、5年もしくは10年間その情報が消えず、クレジットカードなどお金が関わる契約を結ぶのが難しくなります。しかも奨学金は数百万円単位の借金です。事故情報が消えるのは借金の返済が完了してから5年〜10年後と言われています。そのため奨学金の返済を終えるのは40代前半になるケースが多く、万が一滞納を繰り返して個人信用情報機関に登録されてしまった場合、事故情報が消えるのはそこから5年〜10年後。つまり40代後半〜50代になってしまいます。

奨学金の代理返還制度って何?

奨学金には代理返還制度と言って、奨学金を借りている本人に代わり、その人が働いている企業が肩代わりする制度が存在しています。この制度は2021年から始まりました。それまでも企業が奨学金を肩代わりして、当人の負担を減らす制度を企業が独自に設けているケースは存在しました。しかし、この場合は給与に奨学金分のお金を上乗せする形式が一般的であり、その分所得税が上乗せされてしまうのが難点でした。それに対して2021年から始まった奨学金の代理返還制度は、企業が直接日本学生支援機構に奨学金の返済を行うものであり、奨学金を借りている当人は返済免除となります。この方法だと課税対象から外れるので、社員にとっては奨学金を会社に肩代わりしてもらえるだけでなく、それによって本来なら発生していたはずの所得税をはじめとする税金を支払う必要がなくなるという2つのメリットがあります。

ただ全額負担となると莫大な金額になってしまうので、奨学金全額を肩代わりする企業は限られており、一般的な奨学金の代理返還制度は肩代わりする金額の上限額を決めたうえで、毎月数万円を返済する形式が一般的です。そのため、奨学金を借りている社員にとっては毎月の返済額を軽減できるものと考えましょう。

奨学金の代理返還制度を導入するメリットは

奨学金の代理返還制度は企業にとっても社員にとってもメリットが大きいです。まず企業にとっては優秀な人材を確保するための大きなアピールポイントになるでしょう。奨学金を借りるということは、10代後半〜20代のうちから数百万円の借金を抱えることと同じです。しかもまだ年収の低い若者からすると、ただでさえ奨学金の返済が無くても毎月の生活は大変なのにそれにさらに奨学金の返済が上乗せされるので、できるなら奨学金の返済は免れたいものでしょう。しかし奨学金は自己破産をしても返済の義務が残るものであり、いくら生活が苦しくても返済しなければいけません。返済が難しくなった場合一定期間返済を先延ばしにできますが、大半の人は利息が発生する第二種奨学金を借りる人が多く、利息が増えるのも嫌でしょう。そこで奨学金の代理返還制度を導入している企業で働けば、少しはお金に余裕のある生活が送れるようになります。

加えて少しでもお金に余裕のある生活を送れていれば、心にも余裕ができます。心に余裕があれば仕事中にイライラしなくなったり、仕事に集中しやすくなったり、仕事面でのパフォーマンス向上も期待できるでしょう。そして企業全体の雰囲気が良くなり、働きやすい環境づくりにも繋がります。

加えて奨学金は高額な借金なので、肩代わりしてもらうことで会社に対して感謝の気持ちや愛着が強くなる人が多いです。現代はどの企業も人材不足に悩まされている状況であり、今の職場が合わない、仕事がつまらないと感じて短期間で新しい職場に転職する人は若年層を中心に増えています。奨学金の代理返還制度を導入した場合、5年〜10年程度の間毎月企業が奨学金を肩代わりするので、この期間は企業で働くメリットが大きく、少なくとも代理返還制度を利用している間は自社で働いてもらえるでしょう。このように短期離職を防ぎ、企業で長く働いてもらうためにも奨学金の代理返還制度を導入するメリットは大きいです。

このように奨学金の代理返還制度を導入すれば、優秀な人材を集めやすいかつ長く働いてもらいやすいうえ、会社全体にも良い影響が出ることが期待できます。

奨学金の代理返還制度のデメリットとは

もちろん奨学金の代理返還制度にはデメリットもあります。企業が全額を肩代わりするシステムなら関係ありませんが、一部を肩代わりして社員と一緒に返済していくシステムの場合、代理返還制度が廃止されたときに新たな返還方法を検討しなければいけません。

また、企業が奨学金の返済を怠っていると、個人が返済している場合と同じく延滞4ヶ月目で個人信用情報機関に事故情報が掲載されてしまいます。先ほど解説したように、個人信用情報機関に事故情報が掲載されるとクレジットカードやローンなどお金が関わる契約を結ぶのが難しくなってしまいます。しかもトラブルが原因だったとしても個人信用情報機関に一度掲載された事故情報を取り消すのは難しいです。そのため万が一企業側の延滞が原因で社員の個人信用情報に傷が入ってしまった場合、法的なトラブルになることも考えられます。

しかも奨学金の代理返還制度は一般的には口座引き落としではなく、企業が毎月日本学生支援機構から送られてくる払込票を使って振り込むものです。そのため、担当者が奨学金の支払いを忘れる可能性も高いでしょう。したがって、奨学金の代理返還制度を導入するなら、企業側が社員の人生を背負っていることを自覚したうえで導入しなければいけません。

奨学金の代理返還制度で優秀な人材を集めよう

高額な奨学金の返済に悩まされている若者は多く、その悩みを解決し、人材を集める目的で奨学金の代理返還制度を導入する企業は増えています。企業は長く働いてもらえる人材を確保できる、若者からすれば借金の返済を肩代わりしてもらえるもしくは手伝ってもらえると双方にとってはメリットの大きい制度でしょう。このように奨学金の代理返還制度は魅力的であり、優秀な人材を確保する手段の一つとしてぜひ検討してみてください。

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