高校や大学へ進学する際、奨学金制度を利用する人は珍しくありません。奨学金は学びの機会を確保するために重要な制度ですが、その一方で学生本人の将来に返済負担が回るというのもまた事実です。働く上で経済的な不安を払拭するためには、奨学金以外の選択肢を視野に入れてもらうことも大切になります。本稿では、大学進学費用に関する基礎情報や、将来に負担をかけない学費の作り方などを見ていきましょう。

大学の学費を取り巻く現状

日本の進学率は?

文部科学省が公表した「2023年度学校基本調査」によると、同年度の大学進学率は55.7%という結果になりました。この数字は前年度比で1.1ポイント上昇しており、統計では8年連続で過去最高を更新したとされています。さらに短大や専門学校を含めた高等教育機関への進学率も84.0%で過去最高をマークしているのです。結果について文科省は「就学における経済支援策の周知が進んだことが要因」という見方を示しました。

学生や保護者の意識

他方で、株式会社ガクシーでは「奨学金に関する実態調査2023年」を実施しています。学生および保護者を対象として奨学金に関する調査を行ったところ、奨学金に対して「借金なので怖い(48.4%)」「制度が難しい(28.2%)」といったネガティブなイメージを持つ人が多いことが分かりました(複数回答可)。ポジティブなイメージとしては「家計の負担軽減(27.8%)」「進学の助けになった(18.0%)」「やりたいことを実現できる(12.1%)」などが挙げられています。なお、奨学金を受給していない学生のうち70.7%が「借金だから」という理由でした。

日本の奨学金制度には大きく分けて「貸与型」と「給付型」の2パターンがあり、民間が提供しているものを含めるとその種類は約1万6000件に上ると言われています。しかしガクシーの調査によれば、給付型の奨学金を十分に認知していたのは全体の29.1%に留まりました。さらに「給付型奨学金の存在は知っていたが、何種類もあるとは知らなかった(32.8%)」「自分の子ども(あるいは自分)が給付の対象になるとは思わなかった(21.4%)」など、給付型奨学金への理解が進んでいないことを示す回答が目立ちました。「給付型奨学金の存在を知らなかった(16.5%)」という層が一定数存在していることからも、奨学金制度の認知・理解が十分に行き届いているとは言い難い現状が浮き彫りになっています。

奨学金を返済している労働者の実情

労働者福祉中央協議会が2022年に行った「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」は、独立行政法人日本学生支援機構の奨学金利用者で返済中の人を対象にしたリサーチです。同調査では貸与型奨学金の借入額は平均約310万円、毎月の返済額は平均約1万5000円、返済期間の平均は14.5年という結果になりました。返済における負担については「何とかなっている(45.9%)」「苦しい(44.5%)」となっており、苦しいと回答した人の中でも「かなり苦しい」とした人は20.8%にも上ります。「返済に余裕がある」と回答したのは、全体のわずか9.6%でした。奨学金の返済で延滞経験がある人は26.9%で、経済的な圧迫感が見て取れます。

学費の返済を将来に回すリスクとは

就職への影響

「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」によると、奨学金の返済が「仕事の選択肢に影響した」と回答した人は全体の46.1%におよんでいます。奨学金の返済は平均して15年前後で、毎月の返済額も平均1万5000円と安くはありません。そのため、ある程度収入にゆとりを持たなければ生活水準にも影響が出てしまいます。また、雇用が安定していなければ返済を続けていく上での不安が大きくなるため、比較的景気や流行に左右されない無難な業界を選ぶ人が多いのです。

貯金ができない

毎月の返済負担が大きければ、当然貯蓄に回す余裕も少なくなっていくでしょう。毎月1万5000円の返済を1年間続けると、その合計は18万円にも上ります。調査によれば「奨学金の返済で貯蓄に影響が出ている」と回答した人は 65.6%でトップ項目となっていました。

結婚や出産の躊躇

奨学金の返済が影響している項目は「結婚(37.5%)」「出産(31.1%)」「育児(31.8%)」なども目立っていました。これらは大きなライフステージの変化であり、産休や育休で一時的に仕事を休職せざるを得ない人が多いと言えるでしょう。休職によって収入が減ったり子どもの誕生で新たに費用が発生したりしても、原則として奨学金の返済は継続していきます。少子高齢化や晩婚化の原因としては「若者の経済負担が大きい」という点が指摘されていますが、奨学金の返済もその1つと言えるでしょう。

新しいことにチャレンジしにくい

資格取得・趣味・転職・独立開業・留学など、新しいことへの挑戦はある程度自分の置かれている状況が落ち着いてから手を付けるという人が多いでしょう。しかし奨学金の返済がネックになって新しいことへの挑戦に踏み出せないというケースも珍しくありません。小さな目標やスモールスタートであれば問題ないかもしれませんが、何か大きなチャレンジであれば一定期間仕事を休む必要もあるでしょう。奨学金の返済という毎月の負担がフットワークを鈍らせてしまい、将来に希望を持てなくなってしまう人も少なくないのです。

大学で勉強するためにかかる費用の内訳

私立大学の場合

私立大学の学費は各校が独自に設定しており、学部によっても必要な金額が異なってきます。しかし学費の内訳はおおむね共通しており、「入学金」「授業料」「施設設備費」の3つがメインです。このうち初年度だけ必要になるのが入学料で、授業料と施設設備費は毎年納入することになります。大学や学部によっては別途「実験実習費」などが求められるケースもあるので留意しておきましょう。文部科学省が公表した「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」によると、私立大学の平均入学料は24万806円、平均授業料は95万9205円、施設設備費は平均16万5271円でした。4年制大学を卒業するまでにかかる費用を算出すると、4(授業料+施設設備費)+入学料でおおよそ440万円ほどになります。比較的学費の高い学部も含まれているためあくまで目安ですが、奨学金の平均利用額を100万円ほど上回っているのです。

国立大学の場合

国立大学では基本的に施設設備費が必要なく、授業料と入学金が主な学費となります。また、国立大学の学費は文部科学省が基準額を定めており、多少の差異こそあれどほとんどの国立大学がこの基準に沿って学費を設定しているので留意しておきましょう。令和3年時点での基準額は入学料が28万2000円、授業料は53万5800円でした。4年制国立大学の卒業までには、およそ240万円必要という計算になります。なお、文部科学省の「国公私立大学の授業料等の推移」によると令和3年における公立大学の平均入学料は39万1305円、平均授業料は53万6363円で卒業までの目安学費は約250万円です。

学費を確保するための工夫

早期からの積み立て

小さなお子さんを抱えている場合は、早いうちから大学進学の学費を計画的に積み立てておくことで将来の負担を和らげることができます。単純に貯金として蓄えていくだけでは途中で別の用途に回してしまう可能性もあるため、各種積み立てサービスを利用するのがおすすめです。例えば定額を定期的に預金する「積立定期預金」、任意の金額を期間が終わるまで預け入れておく「定期預金」、毎月の給与から設定した金額を自動的に積み立てしてくれる「一般財形貯蓄」などが挙げられます。

副業での収入アップ

現状で貯蓄に回す経済的な余力がない人なら、副業で収入アップを狙うという方法もあります。働き方改革の後押しもあって、副業を推奨する企業も増加傾向です。一見すると人材流出や労働力低下に繋がりそうな副業ですが、従業員当人が節度をわきまえてくれればスキルアップや新しい価値観の流入など企業にとってのメリットもあります。子どもの学費捻出に悩んでいる従業員にとって、副業もまた有用な選択肢の1つとなるでしょう。

教育ローン

子どもが奨学金を利用することに抵抗感がある人は、教育ローンへ申し込むというのも有効でしょう。奨学金が「学生本人」へ貸し付けを行うのに対して、教育ローンは「保護者」が貸し付けの対象となります。そのため、子どもが将来働き始めてから返済に苦しむ心配がありません。また、教育ローンは子どもの入学前であっても借り入れが可能であり、基本的に借入金全額を一括で受け取れる場合が多いです。一方で返済能力の審査や利息については注意が必要になるでしょう。国が運営している教育ローンは1.8%の固定金利ですが、民間の教育ローンは1%後半~3%後半とやや幅があります。

奨学金返還支援事業

既に奨学金を借りて大学を卒業した人でも、奨学金返還支援事業を活用すれば経済的な負担を軽減できる可能性があります。これは条件を満たした人の奨学金返済を一部企業や自治体が肩代わりするもので、人材確保や職場環境整備の観点から注目を集めている施策です。自治体によっては制度導入企業に対して補助金を交付している場合もあるので、自社で取り組めるかどうか検討することも視野に入れてみてください。

従業員の学費に関する不安を払拭して、働きやすい環境を整えよう

奨学金制度は確かな有用性がある一方で、その問題点も度々指摘されてきました。生き方が多様化してお金の大切さが増した現代社会においては、企業も従業員の学費問題について真摯に向き合う必要があると言えるでしょう。学費の確保には様々な選択肢がありますが、何が適切かは従業員や家庭の事情によって異なります。個々の問題に寄り添ったアドバイスができるよう、学費問題に関するノウハウを蓄えておきましょう。

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