大学生の半数近い人数が利用する奨学金。「独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)」によれば、奨学金とは『経済的理由で修学が困難な優れた学生に学資の貸与を行い、また、経済・社会情勢等を踏まえ、学生等が安心して学べるよう、「貸与」または「給付」する制度』を指します。しかし、「給付」となるケースは多いとはいえず、その対象拡大が求められています。

奨学金にはどんな種類があるの?

奨学金のタイプは3つ。それぞれ「貸与型」「給付型」「免除(減免)型」に分けられます。

貸与型奨学金とは?

一時的にお金を借りて、後に返済する必要がある奨学金は「貸与型奨学金」と呼ばれています。貸与型奨学金は、あまりに学業がおろそかになっているなどの理由がない限り、在学中には返済する必要がありません。しかし、奨学金とはいえお金を借りているので、学校を卒業した後は自分で働いて返済しなければなりません。貸与型奨学金には、利子が付くものと、無利子のものとがあります。例えば、日本学生支援機構の奨学金であるなら、利子が発生しない「第一種奨学金」と利子が発生する「第二種奨学金」とに分かれています。

なお、入学金や入学時に必要な費用を賄うための奨学金なども存在しますが、後に返済しなければならない奨学金であるなら、それらはすべて貸与型奨学金です。

給付型奨学金とは?

給付型奨学金とは、一般的に「返済不要」とされている奨学金です。支給される金銭は、一定の留保は付くものの、返済の義務がありません。近年では貸与型奨学金の返済が困難となる人が増え社会問題化しています。そのため、給付型奨学金の拡大を訴える声が大きくなっています。

免除型奨学金とは?

奨学金は必ずしも金銭が付与されるとは限りません。入学金や学費といった就学にかかる費用を免除あるいは減免するタイプの奨学金は「免除型奨学金」と呼ばれています。免除型奨学金で得た利益は、通常、返済する必要はありません。

奨学金の利用者は増加傾向にある

奨学金の受給者数は増加傾向にあります。日本学生支援機構の調査では、大学昼間部における奨学金の受給状況は1996年の時点で21.2%。そこから上昇を続け2012年には52.5%まで増加しました。2020年度には49.6%と若干下がりますが、過半数に近い学生が奨学金を受給していることがわかります。なぜ、奨学金の利用が増えているのでしょうか。

高騰する学費と増えない収入

文部科学省の発表したデータによれば、1983年の入学金と年間学費の合計は国立大学で336,000円、私立大学では652,000円でした。2011年になると国立大学では817,800円、私立大学なら1,127,000円となっています。双方ともに約48万円増額したことになります。また、国税庁のデータによれば、民間給与は1997年の467万円が最大額です。その後は減少傾向をみせています。2012年には408万円まで下がりました。学費は上がるのに対して収入は増加しない。このような状況が奨学金の利用に拍車をかけているといえるでしょう。

貸与型奨学金の問題

貸与型奨学金を利用したならば、卒業後に長期間かけてお金を返済しなければなりません。しかし、働き始めて間もない頃は、多くの給与を得ているわけでもなく、その返済に困っている方は少なくありません。また、奨学金返済の負担は、若年層の貧困化を増進し、晩婚化や少子化を促進させる理由となり得ます。このような問題を解決するために、給付型奨学金や免除型奨学金の対象拡大を望む声が大きくなっています。

給付型奨学金の実現と対象拡大

貸与型奨学金の問題が広く認識されるにつれて、徐々に給付型奨学金の必要性が社会で認められるようになりました。

2017年、ようやく国は給付型奨学金の実施開始を決定します。2020年と2023年には給付型奨学金の対象拡大が決まりました。特に2023年の対象拡大はインパクトのある内容となっています。世帯年収380万円未満でなければ利用できなかった給付型奨学金制度の上限が600万円(ただし、扶養する子が3人以上の世帯)になったからです。さらに理工農系学部の学生についての奨学金制度もスタートしました。これらの対象拡大によって、給付型奨学金の受給者は20万人増加すると見込まれています。しかし、2023年の時点においては、奨学金の支給の多くは貸与型奨学金が占めています。

実質的に給付型奨学金を対象拡大させる制度がある?

日本学生支援機構によると、奨学金事業の年間事業費は1.1兆円にも上るそうです。そのすべての額面を給付型奨学金に切り替えることは容易なことではありません。では、給付型奨学金のさらなる対象拡大は諦めた方がよいのでしょうか。この問題に対処するため、2021年4月より、日本学生支援機構では「企業の奨学金返還支援(代理返還)制度」の制度を開始しました。この制度を利用すれば、仮に中小企業であっても大きな負担を背負わずに、実質的な給付型奨学金の対象拡大に貢献することができます。

企業の奨学金返還支援(代理返還)制度の概要

簡単に言うならば、奨学金受給者に代わり卒業後に就職先となった企業が、日本学生支援機構に貸与型奨学金の返済をする、代理返還の制度です。この制度を利用すれば、奨学金受給者は自らお金を返済する必要がなくなります。そのため、あたかも貸与型奨学金から給付型奨学金に切り替えたかのような結果となり、奨学金受給者は返済の負担から解放されます。

主な返還方法

企業の奨学金返還支援制度における代表的な返還方法は2通りあります。1つは企業が奨学金返済義務を持つ者の代わりに、毎月決められた額を日本学生支援機構に支払う方式です。もう1つは、一定の就労期間が過ぎた後に、未返還分の奨学金の全部もしくは一部分を、まとめて企業が返済する方式です。もちろん、返還方法はこの2つに限られているわけではありません。それぞれの企業によって支援の条件や方法は異なります。

企業の奨学金返還支援(代理返還)制度を利用するメリットとは?

企業の奨学金返還支援制度は奨学金受給者・企業の双方にとってメリットがある制度です。

奨学金受給者のメリット

企業の奨学金返還支援制度が登場する以前にも、企業による奨学金の代理返還は存在していました。しかし、企業が直接に日本学生支援機構にお金を支払うことはできなかったため、奨学金受給者に返済金を支払う必要がありました。ですが、この方法では、奨学金受給者の所得が増えることになるので、税金や社会保障費が増額することになります。企業の奨学金返還支援制度を使えば、企業が直接に日本学生支援機構に支払いができるので、税金や社会保障費が増える心配がありません。

また、企業管理の下で確実に奨学金の返済が進められるので、返還が遅れてしまうこともありません。

企業側のメリット

1つ目のメリットは、私企業であっても、直接学生の支援ができることです。奨学金という形で支援するためにはまとまった資金が必要になるだけでなく、どのような人物に奨学金を与えるか精査する手間がかかります。それゆえに、私企業が奨学金という形で社会貢献をするのは、とてもハードルが高い難しいものでした。しかし、企業の奨学金返還支援制度を使えば、日本学生支援機構が精査した奨学金を受給するに値する人員に対して資金援助が可能になります。

2つ目のメリットは、人材採用において優位に立てることです。貸与型奨学金の平均借入額は約200万円とされています。卒業と同時に200万円の負債を抱えて社会にでるのは、新卒者にとって大きな重荷といえるでしょう。代わりに奨学金を返還してくれる企業があるなら、奨学金受給者にとってそれは入社の決め手となるかもしれません。実際に企業の奨学金返還支援制度を導入した企業では説明会参加率が上昇するそうです。人材確保に悩む企業にとっては、大きなメリットと言えるでしょう。また、採用した人員の離職率が低下し、企業への定着率が上昇する効果も期待できます。

貸与型奨学金が多い今はチャンス!企業の奨学金返還支援制度で人材獲得を目指そう

2017年に制度が始まって以来、給付型奨学金の対象拡大は進んでいます。しかし、2023年の時点では、貸与型奨学金が多い状況が一変することはないでしょう。ですが、貸与型奨学金が多いという状況は人材獲得の大きなチャンスといえます。企業の奨学金返還支援制度を利用し、給付型奨学金の実質的拡大に貢献しながら、優秀な人材の獲得を目指してみてはいかがでしょうか。

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