2023年2月15日の「新しい資本主義実現会議」で、岸田文雄首相が「自己都合で離職した場合の失業給付の在り方を見直す」と発言したことが注目を集めています。この記事では、今回の失業給付の見直し案のポイントや、なぜ見直しが必要と考えられているかの根拠となる現行制度の問題点、いつから始まるかという時期の見通しまで詳しく解説しましょう。

そもそも失業給付とは?支給開始時期や支給日数が人によって異なる

そもそも「失業給付」とは、一般的に雇用保険から支給される「基本手当」と呼ばれる給付金のことを意味します。企業などに雇用されて働いていた期間に雇用保険に加入していた場合、加入期間・年齢・離職理由によって決まる所定給付日数分の給付金を受け取れる制度です。受給するためには、就労時に雇用保険に加入していたことのほか、退職後に「就職したいという意思と能力があり、求職活動を行っているのに就職できない状態である」という支給条件があります。

離職理由は大きく分けて、1.会社都合による退職、2.自己都合による退職です。本人にはどうにもできない理由で退職が決まる会社都合に対し、自己都合では本人の意思による退職と捉えられて、制度上の取り扱いが多くの点で異なります。2つの離職理由による相違点が、失業給付の見直し案が出る根拠ともなっているため、詳しく解説しましょう。

1.会社都合による退職の場合

会社都合による退職とは、離職理由が解雇や倒産、契約更新を希望したものの更新できなかったなどの場合です。就労時に雇用保険への加入期間が6か月以上あれば、失業給付の受給資格を得ることができます。また、所定給付日数は原則90日~330日分と自己都合による退職時よりも多いため、長期間にわたって失業給付を受けられる可能性もある離職理由です。失業給付金も、自己都合退職より早く受け取ることができます。失業給付の受給資格の確認と決定の手続き後、「待期期間」と呼ばれる7日間が過ぎれば、給付期間の開始です。約1か月で初回の手続きとなる認定日があり、さらに1週間ほどで給付金が支給されます。

2.自己都合による退職の場合

自己都合による退職には、病気療養から転職やキャリアップまで幅広い理由があるため、会社都合以外の離職の場合と考えると良いでしょう。就労時の雇用保険の加入期間は原則12か月以上で、会社都合の2倍の期間が必要です。所定給付日数は原則90日から150日分となっています。また、失業給付の受給資格の確認と決定の手続き後、7日間の「待期期間」に加えて、「給付制限」と呼ばれる約2か月間の間は失業給付が受給できません。給付制限終了後、約1か月で初回の手続きとなる認定日があり、さらに1週間ほどで給付金が支給されます。

つまり、会社都合による退職では最短で約1か月半で最初の失業給付が受給できるのに比べ、自己都合による退職では最短でも約3か月半後の受給です。自己都合による退職の場合、給付までに時間がかかる理由は、失業給付の受給を目的として何度も就職と離職を繰り返すケースを防ぐためと言われます。しかし、3か月半という長期間、生活の保障がなくなることから、転職や退職を必要とする人がためらってしまうケースも多いでしょう。そのために「労働市場の流動性が損なわれている」という見方があり、今回の見直し理由の根拠のひとつとなっているのです。

失業給付の見直し案のポイントとは?

会社都合と自己都合による離職理由で、失業給付の取り扱いが大きく異なることがわかりました。ここからは、今回の失業給付の見直し案のポイントを解説しましょう。

見直されるのは「自己都合退職者」の給付制限期間

岸田首相が会議で発言した通り、見直し案のポイントは「自己都合で離職した場合の失業給付」です。2023年4月時点の現行制度では、自己都合で離職した場合に2か月の「給付制限」期間がありますが、政府では制限措置が必要かどうかを検討し、会社都合の7日間の待期期間と同水準にすることも視野に入れていると言われます。

見直しはいつから?

失業給付の見直し時期は、まだはっきりと決まっていません。2023年6月末に策定される政府の労働市場改革の指針で、方向性が発表される予定だと言われています。見直し内容となる給付制限も、緩和されて1か月になる可能性や、会社都合と同じ7日間のみになることも考えられるため、6月の発表に注目したいところです。

なぜ失業給付の見直しが必要?

岸田首相は、今回の見直しについて「労働移動を円滑化するため」、つまり転職しやすくするためという目的を挙げています。自己都合による離職の場合でも、会社都合の場合と同様に労働者の生活の保障をすることで、キャリアアップや転職のための退職を行いやすくする狙いです。労働者が転職しやすくなることで、今後の成長産業と目される、IT・デジタル分野や、温暖化対策・グリーンエネルギーを中心としたグリーン分野への人材移動を後押しします。

また、失業給付の取り扱いが異なることについては、雇用されている間に携わった業務が同じにもかかわらず、離職理由によって受給できる期間や金額、開始時期などの待遇に差がつく現行制度を疑問視する意見もありました。

商談

失業給付の見直しが労働市場に与える影響とは?

今回の失業給付の見直しが労働市場に与える影響では、「労働移動の円滑化」が起こる結果としての「労働市場の活性化」が挙げられるでしょう。失業給付の見直し案のほかにも、「リスキリング」を始めとした「三位一体の労働市場改革」や、「ハローワークの機能強化」といった対策を並行して行うことが検討されています。

「リスキリング」と「三位一体の労働市場改革」とは?

「リスキリング(Reskilling)」とは、学び直し、スキルをつけ直すことです。たとえば、失業給付に関連したものでは、受給中に就職に必要なスキルを身につけることのできる「離職者訓練」という制度があり、全国各地でさまざまな訓練が実施されています。失業給付を受けながら資格やスキルを身につけられるため、これまでの職歴とは関係のない未経験の分野にも挑戦しやすくなるでしょう。IT成長分野や人手不足の業界へ、別業界からの労働移動を促す制度としても期待されています。

「三位一体の労働市場改革」とは、岸田首相が2023年1月の通常国会の施政方針演説で語った、構造的な賃上げのための経済・雇用対策です。「リスキリングによる能力向上支援」、「成長分野への円滑な労働移動」、「日本型の職務給の確立」という3つの対策を並行して実施することで、産業構造を高度化して生産性を向上し、賃金引上げを図る内容となっています。なお、「日本型の職務給の確立」とは、従来の年功序列型の給与体系から、職務に応じたスキルの評価が賃金に反映される給与体系へ移行することを意味する言葉です。たとえば、日本型の「終身雇用」に対して「ジョブ型雇用」という、ジョブ(職務内容)を特定して雇用されて本人のスキル・実務経験・能力に合った企業で働くことで、結果的に国全体の生産性を向上させる雇用手法の促進も検討されています。

ハローワークの機能強化とは?

ハローワークの機能強化も、労働移動を促す措置のひとつとして検討されています。民間人材会社と求人情報を共有することで、転職希望者のキャリア相談に応じやすくするという、コンサルティング機能・職業紹介機能の強化です。労働者のITスキルの向上を図るリスキリングとあわせて、労働者のIT関連分野・職種などの成長分野への労働移動を促します。

失業給付の見直しによる労働移動の活性化に期待

これまで離職理由によって異なっていた失業給付の見直しにより、生活の保障がないために転職をためらっていた人も転職しやすくなる可能性があります。企業側からすれば、これまで市場に出てこなかった優秀な人材の獲得や人手不足の解消、労働者側でも退職時の生活を支える給付に加え、企業が必要な人材を確保しようとする結果賃上げにつながるという期待が持てます。まずは、6月末の労働市場改革の指針発表に注目しましょう。

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