「持続可能な開発目標」を指すSDGsによって、多様性(ダイバーシティ)が注目を浴びています。人材に多様性を持たせ経営の成長につなげる「ダイバーシティ経営」なども話題になり、推進を図る企業が増えている取り組みです。この記事では、企業にとってメリットのある多様性をもった人材の活用や、導入を成功させるポイントについて解説しています。

SDGsが指す「多様性」とは?

SDGsには17の目標が設定されていますが、多様性は目標に含まれていません。しかし、「誰一人取り残さない」という基本の理念があり、多様性を受け入れる社会の実現は、SDGsを支える根幹といえるでしょう。多様性の概要は以下のとおりです。

多様性には2種類ある

多様性には2種類あります。1つは、性別や国籍などの外見で判断や推測ができる「表層的な属性」です。もう1つは、価値観や言語、宗教などの外見からは判断が難しい「深層的な属性」です。多数派と少数派、どちらの属性も尊重され受け入れる社会の在り方を、多様性や多様化と表現されています。

 似た言葉の「インクルージョン」との違い

多様性を指すダイバーシティに似た言葉に、「インクルージョン」があります。混同しがちですが、インクルージョンは、1980年代に欧州で福祉の概念として生まれた言葉です。当初は社会的弱者を社会全体で支える考え方を指していましたが、教育の分野にその考え方が提唱されるようになり、働き方にも浸透しました。ビジネスシーンにおいては、性別や年齢、国籍や障害の有無に関係なく、多様な人材が能力を発揮できる職場環境の状態を指します。「ダイバーシティ」は、多様性のある人材を企業が受け入れた状態です。「インクルージョン」はその先の、多様性のある人材が能力を発揮し、企業の推進力に成長した状態を指します。

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日本の企業にとって多様性が重要になった背景

多様性のある人材の採用が、日本の企業の成長にとって重要になった背景には、以下の4つの理由があります。

 労働人口の減少

少子化によって労働人口が減っています。人材の確保が難しくなっており、優秀な人材であれば確保はさらに難しいでしょう。経営の維持や成長に欠かせない人材を確保するために注目されたのが、これまで採用の対象にしていなかった人材です。男性しか採用していなかった企業であれば女性の人材を、日本人だけを採用していた企業なら外国人の人材を受け入れることで、人材の確保につなげる動きが増えています。

 働き方の多様化

テレワークやサテライトオフィスの導入など、働き方も多様化が進んでいます。テレワークの導入によって、在宅の勤務やリモートの業務を希望する人材の採用が可能になりました。また、インターネットの普及でサテライトオフィスを導入する企業も増え、本社や支社への通勤が難しい人材も採用できるようになっています。1日の労働時間を自由に決められる「フレックスタイム制」などの多様性のある勤務形態の導入も、さまざまな人材を受け入れることができる理由の1つです。

市場のグローバル化とDX

通信網と輸送網の発達により、市場は日本国内にとどまらず、世界に広がりました。言語や国外の市場のニーズに対応するために、外国人の採用に取り組む企業が増えています。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によって、事業のデジタル化に取り組んでいなかった企業も、エンジニアなどの技術者が経営に必要になるケースも増加傾向にあります。たとえば、伝統工芸を扱っていた職人気質の会社が、新たにオンラインで販路拡大を図る場合、ネット上で商品を販売するECサイトの制作やマーケティングなどを担当する人材が必要になるでしょう。

多言語に対応したサイトを作るなら、そのための人材の確保も必要になります。市場のグローバル化とDXによる業務の変化が、人材の多様性を推進しています。

顧客のニーズが多様化

インターネットの普及やライフスタイルの変化によって、顧客のニーズも多様化しています。インターネットの普及で情報や娯楽が増え、楽しみ方や入手方法は多様化しています。また、働き方が変わったことでライフスタイルも変わったので、顧客のニーズが多様化しました。そのため、提供する企業側にも柔軟な発想や対応が求められるようになったのです。多様化した顧客のニーズに対応するために、多様性のある人材の確保が必要になっています。

多様性のある人材がもたらすメリットは4つ

多様性のある人材は、企業にとって4つのメリットがあります。

人材を確保しやすい

採用の対象の分母が大きくなるため、人材を確保しやすくなります。テレワークやサテライトオフィス、フレックスタイム制などの多様な働き方の制度を整え労働環境の改善を実施すれば、離職率の低下にもつながるでしょう。

 リスク回避能力の向上

単一の属性しか採用していない企業は、リスク回避能力が低くなる可能性があります。たとえば、日本人の特徴として主張性の低さが指摘されますが、「暗黙の了解」や「同調圧力」などにつながるケースがあり、非効率的な決定や取り組みを見逃してしまう可能性があります。これは「グループシンク」とも呼ばれ、事業の成長を妨げる要因の1つです。人材が多様化すると、考え方や意見などが増えます。主張しやすい環境を作ることでグループシンクの予防になり、企業の成長を妨げるリスクを回避する能力が向上するでしょう。

生産能力の向上

多様性のある人材は、それぞれの知識や経験を生かすことによって、事業の効率化や新たな事業展開につながる可能性があります。「令和元年度 年次経済財政報告」の第三節によると、多様性のある性別を採用している企業の方が業績は上がっています。人材の国籍が多様化すると、業績はさらに上がっており、人材の多様性が企業の生産能力の向上につながっていることを示しているのです。

外部の評価の向上

多様性のある人材を採用することは社会貢献にもなり、企業のイメージアップになります。顧客や取り引き先の企業からの評価が高くなれば、経営の成長につながる可能性があるでしょう。また、企業のイメージの良さは、人材の確保にも有用です。

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多様性のある人材採用を成功させる4つのポイント

多様性のある人材採用を成功させるには、以下の4つがポイントになります。

事前に企業全体で多様性のある人材を採用することへの理解を深める

国籍や人種が違えば、言語や思想も違います。文化多様性への理解を深めておかなければ、人間関係の問題や離職率の上昇につながり、多様化への取り組みは失敗する可能性があるでしょう。文化多様性は意思疎通が難しくなるケースがあるので、相手を理解しようとする気持ちの重要性を企業全体で共有することが、成功のポイントです。

コミュニケーションの重要性

「暗黙の了解」や「言わなくても分かる」は、人間関係や経営のトラブルにつながる可能性があります。単一の属性では問題ない場合もありますが、多様性のある職場環境ではコミュニケーションが重要です。

働き方の改革

さまざまな人材を募集するには、働きやすい職場環境を整える必要があります。ライフスタイルや仕事への取り組み方も多様化しているので、企業側は受け入れるために働き方を改革しなければいけません。リモートワークやサテライトオフィス、フレックスタイム制の導入など、自分に合った働き方を選べるように制度を整えることで、多様性のある働き方に対応しましょう。

 公正な評価制度

人材が多様化した際に重要になるのが、仕事に対する評価の基準です。性別や人種によって仕事の評価が変わり、進退に影響があるとモチベーションは低下し、離職につながるでしょう。透明性のある公正な評価制度を定めることが大切です。

多様性のある人材をダイバーシティ経営に生かす

人材を確保しやすくなる以外にも、生産能力の向上や新たな事業展開につながるのが多様性のメリットです。多様性を活かしてビジネス展開に取り組む「ダイバーシティ経営」は、人口減少による人材確保の問題やニーズの多様化を打破する戦略の1つです。SDGsで注目度が高くなっている多様性を経営戦略に取り入れる際には、メリットや成功のポイントを参考に検討してみてはいかがでしょうか。

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