企業活動を語る中で「ダイバーシティ」という表現をよく耳にするようになりました。ダイバーシティは今後の企業戦略を左右する重要な概念でありながら、一方でもうひとつその内容が具体的にイメージできないと感じるケースもあるのではないでしょうか。そこでこの記事では、企業におけるダイバーシティとはどのようなもので、どのようなメリットや課題があるのかなどについて、詳しく確認していきます。
そもそもダイバーシティとは
ダイバーシティは、英語で「多様性」を意味する言葉です。社会生活の中でこの言葉を用いる場合は、個人と個人、あるいは個人と集団の間に生まれて存在する「違い」を指し示す意味として捉えられます。人が二人以上存在すれば、必ずそこに何らかの違いが生まれます。たとえば、年齢や性別、国籍といった違いのほか、障害の有無、宗教、学歴、価値観の相違など、観点の違いによって、その人の属性に何らかの差異が生まれてきます。このように、属性の異なる多種多様な人々のあり方をダイバーシティといいます。
ダイバーシティには、自分の意思では変えられない、または変えるのが難しい表層的ダイバーシティと、個人の内面的な多様性を示す深層的ダイバーシティとの2種類があります。表層的ダイバーシティは、年齢や性別、人種、障害などがこれにあたります。一方、深層的ダイバーシティは、個性やライフスタイル、宗教、学歴などが該当します。
ダイバーシティはもともと、アメリカ国内でマイノリティーや女性の雇用差別を排する社会的機運に端を発した言葉でしたが、次第に「多様な働き方を認める」といった内容にその意味を広げて使われるようになりました。日本では主に性別や価値観、障害の有無といった面に焦点を合わせてダイバーシティという言葉が使われる傾向にあります。
企業活動においてダイバーシティが注目されるようになった理由とは
多種多様な人々の在り方を認めようとするダイバーシティの概念は、企業活動の中にも取り込まれ「ダイバーシティ経営」といった言葉も生まれるようになりました。ダイバーシティ経営とは、多種多様な人材を活用して、その能力を最大限に発揮してもらう労働環境を整えることで、イノベーションを生んで、新たな価値の創造につなげていく経営の在り方をいいます。人材戦略の一環として市場での競争優位性を築く新時代の経営戦略として注目されている経営手法です。
企業活動においてダイバーシティ経営が注目されるようになった背景の一つには、「少子高齢化による労働環境の変化」があります。少子高齢化が進む日本の中で、労働人口が大きく減少していくのは明らかな事実です。総務省によれば、日本の労働力人口は2008年をピークに減少しており、今後加速して2065年には2020年対比で約61%まで減少すると予想されています。この慢性的な人材不足を解消するためには、高齢者や外国人の労働参加、女性の職場進出の活性化などが喫緊の課題となり、経営戦略においてダイバーシティの視点を取り入れることは不可欠となっています。
また「個人の価値観の多様化」も理由の一つです。従来の終身雇用、年功序列といった就労形態が次第に過去のものになり、新たな働き方が模索される時代となりました。リモートワークや副業が広まりつつある中、仕事と私生活を両立させるワークライフバランスを重視する働き方を選択する人が増えるにつれ、企業側も価値観の多様化に合わせたマネージメントを取り入れなければ、人材確保が困難な局面に入ってきたといえます。
このほか「市場のグローバル化」もダイバーシティ経営の増加を促している理由の一つです。販売市場や生産拠点を海外に広げる企業が増えてくる中、熾烈な国際競争を勝ち抜くためには、海外の顧客ニーズに対応できる優秀な外国人の人材確保が急務となります。そのため、国籍や人種にかかわらずどのような人材でも受け入れることができる経営体制を整えることが、グローバル企業として発展していくための基本的な条件となってきます。
ダイバーシティが企業活動に及ぼすメリットとは
グローバル化する企業活動において世界的な共通概念となったダイバーシティは、ビジネスでの競争優位性を勝ち取るために、もはや不可欠の経営視点となりました。ダイバーシティが企業活動に及ぼすメリットとしては、まず「優秀な人材の確保」が挙げられます。ダイバーシティを推進する企業は社員の労働環境を積極的に整備している印象を与え、求職者にとっては魅力的な志望先に映ります。その結果応募母数も拡大し、優秀な人材を確保できる確率もよりいっそう高まることにつながります。
「イノベーションの創造」もメリットです。従来通りの採用方法や人材育成を維持していれば、これまでと同じタイプの人ばかりが集まり、チームとして革新的・創造的なアイデアを生み出すことが困難になります。その反面、年齢も国籍もさまざまで、異なった価値観を持つ多彩な人材がお互いに意見を出し合えば、これまでにないアイデアが生まれやすく、多様化する顧客ニーズにも対応できる新たな価値の創造も可能になるでしょう。
また「グローバル化への対応」も見逃せないメリットです。海外の市場を開拓するためには、現地での購買意識や商品傾向、商売上の取引習慣などに精通することが必要です。その意味でもその国の文化や価値観を熟知した人材が欠かせません。外国籍の人や帰国子女など多彩な人材が活躍できる環境を整備することで、エリアに合わせた営業力の最適化を図ることができます。グローバル市場で勝ち抜く企業力強化にダイバーシティ経営の視点が大きく貢献してくれます。
ダイバーシティを推進するうえでの課題とは
ダイバーシティは企業に高い競争優位性をもたらしてくれますが、その一方で、様々なタイプの人材が集まる異質性の高さから生じる課題も生まれてきます。ダイバーシティを推進する以前は、組織は同質で均一の価値観のもとでまとまることができました。しかし、異質のタイプがチームを組むと、年代や性別の違い、国や文化の違いなど、様々な価値観の違いによる感情的な衝突を生み、認識の違いや無意識の中でのハラスメントも発生しやすくなってしまいます。その結果、チームのパフォーマンスが低下しダイバーシティが企業にとってマイナス要因となる恐れも生じてくるのです。
ダイバーシティに見られるこれらの課題を克服するためには、制度を推進する企業側の運営努力が欠かせません。ダイバーシティを効果的に推進するうえで、経済産業省は2017年に「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を策定し、具体的な7つの行動指針を示しています。すなわち、経営トップがその重要性を認識し、全社的な取り組みとするための推進体制を構築すること、取締役会による監督、ルールの整備、管理職や労働者の意識改革、市場への情報開示などを行うこと、などがその内容です。
これらの指針を実効性が伴うものとするためには、経営方針を明確にしたうえで経営側と従業員とが目的をしっかりと共有することが必要となります。そのうえで経営側は公平な人事評価制度を策定し、適宜面談を実施するなど、定期的にフィードバックを重ねながら制度の強化を図っていくことが求められます。多様な価値観を組織として維持していくためには適切なコミュニケーションは不可欠の要素です。
実効性あるダイバーシティの推進に向け、企業は確固とした取り組みを
少子高齢化と経済のグローバル化が進む中で、企業の中で多種多様な人材を活用して、その能力を最大限に活用するダイバーシティの発想が重要な経営視点となっています。ダイバーシティの推進は、優秀な人材の確保や新たなイノベーションの創造などのメリットを生みますが、多様性ならではの摩擦も生みがちです、これらの課題を克服するために、ダイバーシティを推進するうえでの仕組みを明確に制度化することが必要です。
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