日本企業では、企業内部へのノウハウ蓄積を目的として人材育成に取り組んできました。特に、労働市場がほぼ完全雇用状態にある現在の日本では内部人材を活用することは重要な経営課題です。一方で、人材育成の重要性を理解していてもなかなか取り組めないと悩む企業も多いのではないでしょうか。どうすれば、効率的かつ効果的に人が育つ仕組みをつくることができるのでしょうか。出労働政策研究・研修機構が発表する「人材マネジメントのあり方に関する調査」(2014年)をもとに、企業における人材育成の課題と対策をご紹介します。
参考:労働政策研究・研修機構「人材マネジメントのあり方に関する調査」(2014年)」
多くの企業が悩む人材育成の課題
日本では多くの企業が人材育成に悩んでいます。出労働政策研究・研修機構の「人材マネジメントのあり方に関する調査」(2014年)で、調査によって日本企業は人材育成において以下のような悩みがあることがわかりました。
業務が多忙で人材育成の時間的余裕がない
人材育成の悩みとして企業から最も多くよせられた回答が「時間的余裕がない」でした。能力開発や後輩育成の重要性は理解していても、つい目の前の業務に追われてしまい気づけば育成の機会を逃してしまう。そんな経験をあなたもお持ちではないでしょうか。
上司の育成能力や指導意識が足りない
次に多かった回答が「上司の育成能力・意識の欠如」でした。特に30代以降の中堅層が上司の育成能力不足を実感しているようです。同時に、6割以上の企業が「管理職に欠如している能力・資質」の設問に対する回答として「部下育成能力」をあげています。
人材育成が計画的・体系的に行われていない
3番目に多く挙げられた回答が「人材育成が計画的・体系的に行われていない」でした。日本企業は昔から内部からの人材調達に取り組んできましたが、意外にもその育成方法は計画的ではないようです。調査では特に管理職の計画的な育成に課題があることが示されました。
まずはこのように人材育成の実態を調査したうえで、課題をきちんと整理することで対策が立てられます。では、課題に対してはどのように対処すればよいのでしょうか。
人材育成3大課題への対策
前項で人材育成の3大課題を紹介しました。一方で肝心なのは、このような課題が自社にとって本当に取り組むべきことなのかを検証することです。同時に自社固有の課題も探す必要があります。そこで、先ほどの3大課題を例に対策方法をご紹介します。
①「人材育成の時間がない」
まずは時間がないという問題に対して、自社にとってどんな意味があるのかを考えます。
短絡的に時間を確保すればよいというものではありません。なぜ時間がないのかを分析すると、個人の業務負荷にかたよりが発生していたり、業務フローが実は非効率的であることが判明する場合もあります。問題の背景や理由を深く分析しましょう。
②「上司の育成スキルがない」
育成スキルがないという問題に対しては、まずはどのような育成スキルが足りないのか分析しましょう。例えば上司に部下育成スキルがないことで、部下への評価にバラツキが出ることや組織のチームワークに影響が出ることが考えられます。影響の出方に応じて、評価のトレーニングを行う、あるいはチームビルディングを行うなど最適な対策を検討しましょう。
③「計画的・体系的な人材育成が行われていない」
後継者不足や管理職不足などの人材不足が事業に影響を及ぼしている場合は、直近の候補者を早期育成するとともに、早急に数年先までの後継者育成計画をつくるようにしましょう。そもそも、人を計画的に育成するのは難しいものです。だからこそ想定外のリスクも踏まえた上で育成計画を練ることが重要になります。
このように、一見この3つの課題が取り組むべき問題のようでも、課題をさらに分析すると最適な対策が変わってくることがわかります。
ではさらに自社固有の課題を深掘りするにはどうすればよいのでしょうか。
自社の人材育成の課題と向き合うには?
人材育成はとても成果が見えづらいものです。そのため本当の課題が何かわからないことがよくあります。しかし、様々な問題解決の手法を用いて実際に起こっている現象を分析すると、取り組むべき問題がはっきりと見えてきます。
人材育成は成果がよく見えないからこそ、自社の課題と向き合う際には定量的、定性的なデータをもとに分析を行う必要があります。なぜなら研修や教育の分野は比較的、汎用的な分野であるため、「どのような研修を行うか」など手法の議論になりがちだからです。
そこで、まずは前年までの研修での発表内容や受講者のディスカッション内容、育成施策実行後の組織の変化など、結論を裏付けるために必要な事実やデータを収集しておくべきです。同時に人材育成によってどのような経営課題を解決したいのかを検証する必要があります。人材育成は目的ではなく、企業に必要な人材を調達する手段の一つでしかありません。
検証した結果、人材育成では人員を補えないことがわかった場合は研修等の施策よりも採用に資金と人員を投入しましょう。こうした判断ができるようになることが、自社の課題と向き合うことなのです。
日本企業では、人材育成の課題に対して「とりあえず研修をやる」という慣習が続いてきました。しかしその研修が本当に経営課題を解決したのかを検証してきた企業は多くありません。実際に研修を熱心にやっていた企業でも、後継者不足や人材のスキル不足の問題が発生しています。
テクノロジーの進んだ現代では、ITツールを駆使して業務効率化を実現し、育成のための時間をつくりだすことや、人材の見える化によって効果的な人材育成施策を検討することが容易にできるようになってきました。こうしたデジタルツールの活用も検討しながら、自社の経営課題を本当に解決する人材育成施策を実行していきましょう。
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