テレワーク環境下では、社内のコミュニケーションの形も大きく変わります。対面よりも非対面でやり取りが行われることが多くなり、仕事上必要な会話以外のいわゆるインフォーマルな会話は減少する一方です。この結果、上司は部下の悩みや負荷に気づきづらくなり、部下のマネジメントは難しくなります。その対応策として注目されているのが1on1のミーティングです。今回は、1on1ミーティングについて、様々な切り口から解説します。
テレワーク環境下で、1on1のコミュニケーションが重要となる理由
先述したように、テレワーク環境下では部署内のコミュニケーションが希薄になりがちです。そのため、上司は部下の悩みや負荷といった状況の把握がしづらくなり、上手くマネジメントができなくなってしまいます。対面で仕事をしている時にはほんの僅かな雰囲気の変化などを目で見て確認することができますし、ちょっとした雑談を行うことでコミュニケーションを円滑に進め、和気あいあいとした雰囲気を部署内に作ることが可能です。これらは、テレワーク環境下では全くできなくなるか、できたとしてもその頻度が減少してしまいます。
1on1のコミュニケーションは、この問題の解決や緩和に一役買うものです。上司と部下が1対1でコミュニケーションを取ることで、部下が抱えている悩みを共有したり、目標の設定やモチベーションの確認、タスク状況の把握などをしっかりと行うことができます。対面での仕事を行っていた時は無意識のうちに行っていたコミュニケーションを、1on1ではより強く意識して行うことになります。
言い換えれば、1on1のコミュニケーションは、テレワーク環境下で減ってしまったコミュニケーションの機会を補う目的で行われます。部下と腹を割って話し合う機会を増やせば、おのずと上司は部下の置かれている状況や心理を把握しやすくなり、人材の育成やマネジメントを対面で仕事をしていた時以上にスムーズに行うことが可能となるでしょう。
1on1のコミュニケーションは部下が主役
部下との1on1のコミュニケーションを行う際、1対1の面談形式となるため評価面談のような雰囲気で進めてしまいがちですが、これでは部下とのコミュニケーションが長続きしません。何故ならば、評価面談は上司から部下に対して評価という形で一方的にコミュニケーションを行っているに過ぎないからです。「もっとこうして欲しい」「こう変わって欲しい」ということを部下に伝えるだけでは、部下からのフィードバックは何ら得られません。よって、まずはこの認識を改めるべきです。
1on1のミーティングを実施する際、主役となるのは部下です。上司は基本的に聞き役に徹しましょう。部下の話を受容的に聞くことで、部下は上司に「話をちゃんと聞いてくれている」という安心感が得られます。それは違う、と口を挟んでしまいたくなっても、まずはぐっと我慢して部下の話を聞くようにしましょう。その上で、部下の発言から把握できる人柄やあり方を肯定しつつ、部下が捉えている現状に対してどう感じているかの疑問を投げかけるのです。
部下は自分の発言から人柄や考え方を上司に認めてもらえることで上司に対する信頼を深め、より積極的に発言をしてくれるようになります。また、現状に対して疑問を投げかけ、上司と一緒になって考えることで、上司は部下の考え方を知ることができ、部下は新たな気付きや自分の認識の再確認を行うことで成長の機会を得られます。この「聞き役に徹する」「人柄やあり方を認める」「現状に対してどう感じているか問う」の3要素は、コーチングにおける基本的な要点でもあります。この3要素を心がけることで、部下が自律的に考え、行動することを促進することに繋がります。
1on1ミーティングの頻度を増やして緊密なコミュニケーションを
1on1のミーティングは、頻度も重要です。週に1回以上の短いサイクルでコミュニケーションを取り、部下の状況の把握に努めましょう。密なコミュニケーションを頻繁に取ることで、状況の細かい変化に気が付きやすくなります。また、対面で仕事をしている時よりもコミュニケーションが減少している分を補う意味でも、高い頻度での1on1ミーティングは効果的です。1人あたり15分から20分の短い時間で構わないので、1週間で全ての部下と最低1度はコミュニケーションを取るようにすると良いでしょう。
また、部下の成長度合いや状況に応じてミーティングの時間や内容を変えていくのも大事です。十分に自立して仕事が出来ている部下に対しては現状把握に留め、逆に細かい指示を要する部下に対してはミーティングの時間を長く取って課題設定や振り返りなどを行いながら徐々に自立した仕事が出来るように成長を促していきます。1on1ミーティングで重要なのは、高い頻度で部下の全員とコミュニケーションを密に取ることです。期間が空いてしまうと、1on1ミーティングの効果はそれだけ減少してしまうことに注意しましょう。
1on1のコミュニケーションで話す内容
1on1のコミュニケーションを行う中で、どんなことを話せば良いかわからない、部下と会話が続かない、という悩みを抱える上司は少なくありません。これらの悩みは、1on1の目的が見えなくなってしまっているために話す内容が定まらなくなっている事に原因があります。即ち、1on1のミーティングの目的を理解することで、自ずと話す内容も決まってくるのです。
1on1ミーティングを実施する目的は、会社外で業務をしている場合でもメンバー各員のモチベーションを適切に維持し、生産性の向上に努めることであり、同時に上司が部下のコンディションをこまめにチェックしながら、部下のマネジメントと育成を効率的に行うことでもあります。であるならば、この目的に従った話題で1on1ミーティングを進めると良いでしょう。
まず、現在のタスク状況の確認と棚卸しです。どんな仕事を抱えていて、今はどのような状況になっているのかを部下に説明させましょう。抱えているタスクを棚卸ししていく中で、進捗が芳しくないものについて、今後どうしたら良いのかを一緒に考えていくと良いでしょう。もちろん、その際は決して部下の考えを無碍に否定するのではなく、むしろ部下の考えを尊重する形で話を進めていくことをおすすめします。
プライベートのことについても話をすると良いでしょう。もちろん、踏み込んだ話を無理にする必要はありません。テレワーク環境になって何か生活上変わったことはないか、ちゃんと休めているかといった、仕事上の負担がプライベートに及んでいないかどうかの確認を行う程度で十分です。その中で、プライベートの時間をどう作るか、どう過ごすか等といったことを部下と共に考えていくようにしましょう。
部下のコンディションを把握するという目的を達成するためには、仕事に対するモチベーションや心身の健康に関する話題は避けては通れません。難しい業務はないか、タスクに着手するにあたって不安に思っていることはあるか、心や身体に不調を感じてはいないかなどを聞き出しましょう。短いスパンで1on1ミーティングを行い、信頼を深めていくうちに、自然と部下からタスクの疑問点や心身の健康に関する不安について相談してくれるようになる場合も少なくありません。相談を持ちかけられた時は、単に頭ごなしにアドバイスを送るのではなく、一緒に考えながら答えを見つけ出していくことを心がけましょう。
テレワーク環境下の1on1コミュニケーションで得られる成果
テレワーク環境下で1on1でのコミュニケーションを繰り返していくことで、様々な成果を得られます。回数を重ねていくごとに、より多くの成果が得られるのが1on1コミュニケーションの特徴です。以下では、1on1コミュニケーションによって得られる成果を、3段階に分けて説明します。
第1段階では、短いスパンで部下との密なコミュニケーションを繰り返すことで、部下のコンディションの正確な把握が可能となります。テレワーク環境下では部下と顔を合わせる機会が減少するため、コンディションの把握は対面での仕事に比べて困難です。定期的な1on1コミュニケーションは、テレワークで減少した対面の機会を補い、部下のコンディションを確認する機会を確保することが可能になります。
第2段階は、部下との信頼関係の構築です。1on1ミーティングの回数を重ねていき、部下のコンディションを正確に掴めば、部下も上司がしっかり自分のコンディションを把握してくれているということを実感するようになります。理解のある上司は部下の信頼を勝ち得やすいものです。特にテレワークは基本的に周囲に同僚も上司もいない環境で一人黙々と仕事をすることになりますから、部下は寂しさや疎外感を感じます。その寂しさや疎外感を、定期的な1on1ミーティングで解消できれば、部下も上司を信頼できる話し相手として認識するでしょう。
第3段階に至ると、部下の自律が促進されます。定期的なミーティングの中で、部下は自分で判断する能力や、経験学習のサイクルを回す力を養います。この訓練に上司が関わっていくことで、部下の成長を促し、自律行動できる能力を身につけることができるようになります。先述したように、テレワークは一人孤独に仕事をするため、自律性が強く求められる環境です。自律性を身に着けた部下が効率よく仕事をこなしていけば、部署全体の生産性は大きく向上することでしょう。
1on1のコミュニケーションは短期間のサイクルで実施し、上司は聞き役に徹するべし
1on1のミーティングを頻繁に行うことは、テレワークで顔がなかなか見えない環境下では極めて重要です。そして、1on1ミーティングは上司側の「聞き役に徹する」スタイルも、部下の自律性の成長と信頼関係の構築という2つの恩恵を得られます。1on1のコミュニケーションを重ねることは、巡り巡って部署の生産性の向上へと繋がっていくのです。そのためにも、適切な方法で1on1ミーティングを実施するようにしましょう。
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