この記事は後編です。前編は以下リンクから確認できます。

多様な人材が適切に評価され活躍できるためのD&I

2段階目の「多様な人材が適切に評価され活躍できる」状態を形成するためのD&I推進とは何か。2段階目では、D&I推進の前提として必要となる知識の啓蒙が進み、個人の在り様は多様であるということを理解した状態である。ただし、多様な人材が存在するということは、就業時間、場所、職務内容において多様な働き方が想定されるため、従来のオフィス内で且つ、フルタイムで働く状態の社員が多数であるという状態ではなくなる。つまり、評価の際、今までは上司の目に入るところで部下の働きぶりを見て評価することが難しくなる(インクルージョン由来の課題)。また、「たくさん残業をした人は良い評価が出る」といった業務量を基準とした評価が適切ではないという価値観が醸成されることになるため、改めて多様な人材に対して求める人材像を設定した上で、評価基準も改める必要性が出てくる可能性がある(ダイバーシティ由来の課題)。2段階目では、様々な働き方をしている多様な人材が適切に評価され、公平に活躍できるチャンスが与えられるための仕組みとコミュニケーションについて検討する。

2022年4月に女性活躍推進法が改定され、101人以上の社員がいる企業には、「一般事業主行動計画」を策定し、社員へ周知、労働局へ届出ることが義務化された。策定した計画に基づいて行動し、実際に効果の検証を行うことで、女性従業員が基幹的な業務を担い、意思決定等に関わることを目的としている。令和3年男女共同参画白書における管理的職業従事者に占める女性の割合は13.3%12か国中最も低い傾向がある。実際、女性活躍推進法が出す「えるぼし」に認定された企業において採用、継続就業、労働時間等の働き方、管理職比率、多様なキャリアコースの5つの項目の中で、継続就業と管理職比率が未達成の企業が多く見受けられた。

(出所)平成29年度 男女共同参画白書

多様な人材が適切に評価されるためには、まず、様々な働き方をしている多様な人材の貢献を現行の人事制度で適切に評価できるか見直す必要がある。

評価制度

評価制度はいくら仕組みが整っていたとしても評価者の捉え方によって評価結果は変わり得る。例えば、評価者の中には「頑張った社員に報いたい」と考える人もいる。しかしここでいう「頑張った」ということが、「業務時間内に求められる業務を終わらせられるように効率化を図って取り組む」ことなのか、「他の人よりも残業もしながら時間をかけて取り組む」ことなのかによって評価の基準も変わってくる。後者の基準の場合、残業時間が長い人は評価されるが、育児等で時短勤務をしている人は「時間をかけていない」という理由で評価がつけにくくなる可能性がある。様々な働き方をしている多様な人材に対して適切に評価するためには、適切な目標設定が鍵となる。その人の働き方を踏まえ、適切なレベル感で目標と達成基準を事前に設定すれば、あとは、目標を達成できたかできなかったかという判断で済む。設定した目標のレベル感に不安があれば、事前に組織内で一次評価者が集まり、設定した目標のレベル感の擦り合わせを行うことをお勧めする。等級や働き方等あらゆる角度からすり合わせることで、適切な目標設定の精度も向上していく。

等級制度

適切に評価できるようになったとしても、評価に基づいて適切な格付けが行われなければ、等級の昇格だけではなく、役職の登用機会も得られない可能性がある。等級の昇格や役職者の任命は長期的に社員の働きぶりや素質、性格も踏まえて判断される。目標管理で一定期間の成果と行動を評価するだけでは、判断するのが難しい場合は、等級定義・役職定義に見合っているかどうか、会社の理念や方針を体現しているかどうかといった判断も評価とは別で組み込むことをお勧めする。そのためには、等級定義・役職定義に見合った人材、会社の理念や方針を体現している人材とはどのような人材か改めて確認するのが良いだろう。特にD&I推進を行おうとしている企業においては、D&Iが成功した状態は何か明確にしておくことが社員への浸透を図る上でも重要である。企業にもともとない新たな価値観を取り入れ、イノベーションを生み出すために多様な人材を採用するのか、労働力不足を解決するため多様な人材を採用するのか、社会への貢献を目的とするのか、社員を大事にするという社長の想いがあるからなのか。多様な人材を採用する目的はその企業の特性や環境によって様々であると想定される。世間に要請されてD&I推進を始めようとしているのであれば、それは手段が目的となっている状況である。そのような状況で多様な人材を適切に評価し、格付けすることは難しいだろう。

報酬制度

基本給や退職金の決定に「勤続年数」の要素が大きく反映されるような制度の場合、継続就業が難しい社員はいくら短期間で業績に貢献していたとしても、報酬に反映されない可能性がある。多様性を促進しやすい報酬制度は勤続年数の要素が少なく、一定期間の成果や貢献に応じて、報酬が支給される制度である。ただし注意する必要があるのは、「女性のために」人事制度を変えた、または「LGBTを受け入れるため」に環境を整備したという、特定のマイノリティへの配慮をあえて前面に押し出すやり方である。それは配慮の押し売りであり、「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」になる可能性がある。ダイバーシティ由来の課題を解決する上で重要なのは、様々な働き方を行う多様な人材を受け入れられる仕組みを作ることであり、いわば、「誰もが」活躍できるような仕組みを作ることであるということを忘れてはいけない。

制度を整えたからと言って、社員が制度を使いこなし、部下に的確に指示を与えることができなければ意味がない。特に上司の目に入るところに部下がいた状態に慣れている人は、テレワークの普及により部下とのコミュニケーションができなくなったと悩んでいるのではないだろうか。また、多様な人材の中には、抽象的な表現を嫌い、察することを苦手とする人や日本語が得意とは言えない人もいるだろう。多様な人材がいる状況下の中で、言葉ですべて説明しなくても意思疎通ができ、間接的な表現や「空気を読む」こと、「察する力」が求められる「ハイコンテクスト」なコミュニケーションは不可能である。上司と部下を問わず、多様な人材が働く組織では、曖昧な表現をなるべく使わず、言語化して正確に意図を伝えようとする「ローコンテクスト」なコミュニケーションが求められる。1段階目では啓蒙を通した「認知」や「否定をしないこと」が中心として挙げられていたが、2段階目では、コミュニケーションスタイルを変えて、相手の意見を知ることができるようになることで、「共感」することができる。ここでいう共感は、他者の感情を自分のことのように感じる情動的共感ではなく、他者の視点から相手を理解しようとする認知的共感のことである。

多様な意見が交わされ組織が動くためのD&I

3段階目の「多様な意見が交わされ組織が動く」状態を形成するためのD&I推進とは何か。この段階では、多様な人材は適切に評価され、活躍していることが前提となる。3段階目に至るとダイバーシティはすでに担保されていると想定される。仕組みが整っていないと、多様な意見など出てこないからである。VUCAの時代ということもあり、変化に対しての早急な意思決定や対応が求められるようになった。そして変化に対応できる企業は持続的に成長できる企業として認められ、投資の対象となる。あらゆる変化に対応できるためには、様々なあり方、特性に由来する様々な価値観で戦略を策定する合意形成ができる組織であることが求められる。ここでは、多様な人材が在籍し、活躍していることを前提とし、誰もが意見を発し、合意形成に至れるまでに必要なインクルージョンを見ていこう。

多様な人材が組織にいれば、多様な意見が出てくるわけではないというのは、1段階目の相談窓口の設定において理解できるのではないだろうか。意見を頭ごなしに否定される場合、信頼関係を構築することはできない。また、失敗することを恐れて誰も発言しない、反対意見が出てこないような組織の場合は、同調圧力が働いている場合がある。同調圧力が働いているような組織は少数意見を持つ人を異質とみなし、排除するようになる。次第に同質の価値観や経験しか持たない組織へと逆行し、偏った情報で集団思考のように浅い意思決定が行われるようになる。多様な人材が在籍しながらも、意見が出てこないのであれば、それは組織そのものに問題がある。多様な意見で組織が動いている状態は、失敗への恐れや対人関係の悪化を恐れず、気兼ねなく発言できる状態が前提にあり、目的や目標の達成に向けて、議論を交わしながら、自主的に動き、結果を導けるような状態のことである。いわゆる心理的安全性の高い組織のことである。

心理的安全性の高い組織を形成するために必要なことの1つとして、意見を主張する際のスタイルを見直すことが挙げられる。自己主張にはアグレッシブタイプ、パッシブタイプ、アサーティブタイプの3つのタイプが存在する。

アグレッシブタイプ

アグレッシブタイプは、相手よりも自分を主張するタイプである。相手を決めつけ否定し、相手の話を聞かない内にさえぎって批判や否定をしてしまう。このようなスタイルの背景には、自分の間違いを指摘されたくない、自分が負けたくないといった自己防衛心理が働いていると言われる。

パッシブタイプ

パッシブ対応は自分よりも相手を優先してしまうタイプである。自分に自信がなく、相手の反応をうかがい、意見をいう際もはっきりしない場合が多い。このスタイルは相手中心と見えるものの、背景には自分が傷つきたくない、嫌われたくないといった心理が働いており、あくまでも自分を基準としているスタイルである。

アサーティブタイプ

自分の意見を表現し、なおかつ相手の意見も尊重できるタイプのことである。相手の意見を聞きながらもはっきりと自分の意見も言え、且つ相手の意見を指摘する時も褒める時も前向きに発言できるようなスタイルである。

安全に且つ活発に意見を交わすためには、アサーションタイプの自己主張を心がける必要がある。いくら2段階目のように共感し、相手の視点から理解しようとしても、自己主張の仕方に問題があると、「本当に自分のことを理解しているのか」と疑念を抱いてしまう可能性がある。アサーションタイプの自己主張を行う際にどのようなことを心がける必要があるのか見ていこう。

 アサーションタイプの自己主張を行う前にまず擦り合わせておく必要があるのは、話し合いの本来の目的は何か明確にしておくことである。多様な意見は出ても合意形成が取れないのであれば意味がないため、話し合いの中で目指すゴールを決める必要がある。その上でアサーティブタイプの自己主張を行う。アサーションタイプになるために心がけることとして挙げられるのは、感情の処理の仕方、批判・指定の仕方、自分の意識の3点である。それぞれ見ていこう。

①:感情の処理の仕方

意見が白熱すると、感情的になる人がいると思う。重要なのは、「感情的になる」ことと、「感情を言葉にする」ことは全く別物であるということだ。「感情的になる」場合、自分の感情に向き合わないまま流されている状態を指すため、話に耳を傾けないで一方的に相手を責めるまたは、自分を責める行動も感情的な振る舞いと言える。一方、「感情を言葉にする」というのは、自分の感情が怒りなのか、悲しみなのか、嬉しいのか、寂しいのか言語化して認識するところから始まる。“もやもや”するというのはよく聞かれるが、この“もやもや”を表現することが大切である。もちろん感情は、きれいに切り分けられるものではないため、腹が立っているのに落ち込んでいるとか、愛情はあるが、同時に寂しさもあるといったように複合的である。この複合的な感情も一つ一つ言語化し、認識することができて初めて相手に対して、感情を表現するかどうか「考えて決める」ことができる。「感情的になる」ことは、感情を考えて決めて表現しているわけではなく、そのまま外に出している状態だと言える。

 感情を言語化し、認知することは難しいとされている。理由として感情的ではなく、理性的であることを求められることが多い場合、感情、特に怒りのようなネガティブな感情は、「感じてはいけないもの」として打ち消してしまうことがあるからである。とはいえ感情というのは生理的な現象であり、自身で完全に管理できるものではない。自分の中で納得のいかないまま打ち消してしまった感情は蓄積され、爆発する可能性もある。重要なのは、感情を打ち消そうと努めることではなく、抱いた感情を言語化し、自身で行動を決めることである。

②:批判・指摘の仕方

白熱した議論により感情的になると、次第に意見に対する批判ではなく、相手の人格への批判に入ることがある。また、相手の意見に批判や指摘をすると、「嫌な気持ちになるのでは」とか、「厳しいことを言って辞められたらどうしよう」とか、「パワハラで訴えられたらどうしよう」と思われるのではないかと、批判や指摘を避けることがある。批判や指摘を行う目的は何か振り返ってほしい。批判や指摘を行うのは「相手に非を認めさせて、自分の正当性を証明すること」ではなく、「話し合いの目的に対して、お互いが合意できる解決策や案を提示できること」である。あとは伝え方の問題である。頭ごなしに否定から入っていないか、責任を相手のみに求めていないか、1つ目のように感情を処理していないまま話していないか。改めて振り返る必要がある。

③:自分の意識

 どんなに相手に対して感情を言語化し、否定から入らず話したとしても、相手を対等な人間として尊重できていないのであれば、意味がない。「いい加減」、「やる気がない」、「こんな人だから」と心では相手のことを見下していたり、レッテルを貼ったりしながら話していると、声のトーンや態度から自ずと伝わってしまう。相手のことを尊重し、且つ自分はどうしたいのかという望みを持つことで、対等な話し合いを行うことができるのである。

最後に

組織が多様であるという状態は、今後、会社が持続的に成長できるかを判断する際の1つの評価基準として注目されるであろう。しかしただ、多様である=ダイバーシティが実現できれば良いというわけではなく、多様な人材を受け入れるインクルージョンの重要性が叫ばれるようになっている。だからこそ啓蒙で知識を得て、傾聴を通して共感し、相手の意見を尊重しつつも、自分の意見も言えるような合意形成が求められる。

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