この記事は後編です。前編は以下リンクから確認できます。

筆者のもやもや おさらい

本稿は、コンサルタント三上が送るもやもや第3弾の後編である。数多あふれる○○リーダーシップに目を回している筆者は、前編で、リーダーシップの考え方の歴史について整理し、そこから以下の3つのもやもやを設定した。

    1. 行動理論では左下の象限もリーダーとして見なされ、時代を経るごとに右上に移動していく傾向がある。なぜこのような傾向が見られるのか。部下との相互関係も関係するのか。
    2. 部下を信頼し支援型に特化したリーダーが時代を経るごとに良しとされてきているが、現代におけるリーダーシップはどこに当てはまるのか。
    3. リーダーに合う組織の条件は、状況適応理論で述べられていたもののその条件はかなり抽象的である。組織の経営体制だけでなく、組織そのものが多様なのか同質なのか、別コラムでも書いたが平等・公平のバランスはどうなのかによっても、良しとされるリーダーは異なってくるはずである。

    後編に当たる本稿では、上記3点のもやもやについて論文やコンサルタントの経験を踏まえて考察する。1点目のもやもやにある象限とは、前編でリーダーシップの歴史をまとめた際に出てきたリーダーシップの類型を、「部下への信頼」、「リーダーのスタンス」を軸に整理した四象限のことである(図1)。

    【図1】リーダーシップの類別の四象限

    四象限から窺える特徴として、
    ・比較的古い時代は左下に〇があり、時代を経るにつれて部下を信頼しない類型はなくなっていること
    ・右上の象限はどの時代も多く、特に時代を経るにつれて部下を信頼し、支援型に寄っていく傾向が強まっていること

    が挙げられる。これらの特徴を踏まえ、もやもやとして、なぜ時代を経るにつれて支援型で且つ部下を信頼する右上のリーダーシップに移っているのか検討する。

    直接型から支援型へリーダーシップが移った背景

      1. 行動理論では左下の象限もリーダーとして見なされ、時代を経るごとに右上に移動していく傾向がある。なぜこのような傾向が見られるのか。部下との相互関係も関係するのか。

    行動理論の時代(1940~1960年代)では、リーダーシップの類型に参加型や民主型、相談型といった比較的支援型に該当する型とともに、専制型や温情的権威といった比較的直接型に含まれる型も、リーダーシップの在り方として示されていた。しかし、行動理論から状況適応理論(1960年代~1980年代)、コンセプト理論(1980年代~1990年代)に移行するにあたり、参加型のリーダーが増えていった。この背景にあるのは、リーダーシップ研究の対象範囲の変化が挙げられる。

    大きく変わったのは、1960年代以降からの状況適応理論より、“メンバー(フォロワー)の視点”がリーダーシップの研究の中に追加されたことである。行動理論は、組織の特徴を踏まえ、リーダーの行動を具体的に設定していることが特徴であり、理想とされるリーダーの行動パターンを導き出した。しかし、リーダーの行動と部下の行動は分離して記載され、相互の関係性については注目されることはなかった。一方、状況適応理論において、最初に取り上げられるフィドラーのコンティンジェンシー・モデルは、独自の基準によるLPCスコアを算出し、関係志向のリーダーなのかタスク志向のリーダーなのか明確にする。高スコアの場合は、良い関係を構築することや、事が上手く進むように衝突を管理する関係志向のリーダーとなり、低いスコアの場合、低LPCリーダーとしてことが上手く進むようにチームやプロジェクトを組織するタスク志向のリーダーとなる(図2)。

    【図2】コンティンジェンシー・モデル

    コンティンジェンシー・モデルでは、リーダーとメンバーの関係性、仕事の構造、リーダーの権限の強さがどの状態にあるかによって、有効とされるリーダーが関係志向かタスク志向どちらかになる。メンバー(フォロワー)の視点は、この3つの条件の内、リーダーとメンバーの関係性という条件に表れている。また、ハウスのパス・ゴール理論では、メンバーをゴールに導くための道筋(パス)の示し方を経営責任の体制やチームの組織といった環境的な条件だけでなく、部下の特性にも着目して示す。これらの理論は、リーダーの類型を検討するにあたり、条件の1つとしてメンバー(フォロワー)の視点を入れており、この視点が、リーダーの類型に変化をもたらした可能性があると捉えることができる。ただし、状況適応理論の時代におけるメンバー(フォロワー)は、リーダーが能動的に働きかけて発生した影響を受ける対象という位置づけである。

    コンセプト理論の時代は、状況適応理論の考えを引き継ぎながら、よりリーダーとリーダーを取り巻く環境の関係性に焦点を当てている。変革型リーダーシップは、ビジョンを提示し、社員との関係構築の中で動機付けを促す。「動機付け」の時点で、変革型リーダーシップになり得るためには、「部下に仕事の意味を理解させ、チャレンジを与えることで動機づける」という、リーダーとメンバー(フォロワー)の関係構築が前提となっていることが窺える。後述するが、現代におけるリーダーシップに、サーバントリーダーシップやハンブルリーダーシップ等々挙げられるが、どのリーダーシップの特徴も、メンバー(フォロワー)の能動的な行動を喚起することに重きを置かれている。行動理論の時代におけるリーダーシップ理論は、リーダーがメンバー(フォロワー)に対して指示を出すことで成果を出し、その貢献を報酬という形で与える上で適切なリーダーシップは何かという視点でリーダーシップを捉えている。もちろんこの捉え方は時代を経ようとも変わらないものであるが、状況適応理論の時代以降、新たに能動的に組織やリーダーに貢献するメンバー(フォロワー)への変化を促すことも、リーダーシップの在り方として求められるようになったことは注目できるだろう。

    では、なぜリーダーは、メンバー(フォロワー)の能動的な行動を喚起する必要が出てきたのだろうか。想定される理由として3点挙げられる。

    仕事の変化

    現代における仕事は、肉体労働を伴う物理労働が技術の進化により効率化され、工程にかける人員もロボットによる代替に伴い減っている。そしてITの発展は、多様な知識労働が生まれている。知識労働は、知識をクライアントに合わせて扱うため、主体的で創造的な働き方が求められる。また、物理労働においても、決められたことをただこなすのではなく、いかにコスト削減できるのか、不良品を出さずに済むのか等、主体的な改善・改良が求められるようになっている。筆者の肌感覚であるが、製造業のクライアントにおいても、メンバーに求める要素として主体性を掲げている会社が増えているように感じる。

    多様性の重視

    少子高齢化は、労働人口の不足を伴う。今までのようにフルタイムで働ける人が減ってくる中で求められるのは、制限があろうとも働いてくれる人々がいかに働きやすく、また少数であっても能力を最大効率で発揮できる環境を形成できるかといった、多様性の担保である。様々なバックグラウンドや価値観を持つメンバーで成り立つ組織において、彼らの強みを引き出し、ビジョンの実現に向けて推進していくためには、リーダーの柔軟なリーダーシップやマネジメントもさることながら、メンバーが自ら意見を主張し、すり合わせを行うことができる主体性を身に着ける必要がある。ただの仲良しこよしな集団で、アイデアが生まれない組織では、多様性を担保していたとしても、ビジネスとして求める成果が生み出されない。

    仕事に対する価値観の変化

    仕事に対する価値観、例えば、仕事に対して求めること、重視することの変化は、メンバー(フォロワー)の意識の変化であり、その変化に対応したリーダーシップとして、主体的な行動を促すことも重視するリーダーシップが出てきたと想定することもできる。メンバー(フォロワー)の仕事に対する価値観の変化として分かりやすいデータが、厚生労働省から出ているため見てみよう。

    【表1】平成20年版 労働経済の分析―働く人の意識と雇用管理の動向 第2章第2節世代別にみた意識と就業行動 厚生労働省

    【表2】平成23年版 労働経済の分析―世代ごとにみた働き方と雇用管理の動向 第2章第3節世代ごとにみた働き方と企業における対応 厚生労働省

    1は、新入社員がどのような理由で会社選択を示しているのか、1987年、1997年、2007年の年代別にそれぞれ示したものである。特徴として、
    ・「自分の能力、個性が生かせるから」については、どの年代も高めである。
    ・「会社の将来性を考えて」については、1987年は高めであるものの、時代を経るごとに下がっている。
    ・「技術が覚えられるから」、「仕事がおもしろいから」は時代を経るごとに高まっている。

    上記から、新入社員の会社の選択理由は、個人の能力や技術、興味に関連する項目が高くなり、会社を選ぶ意識から職業を選ぶという意識に変化していることが窺える。表2も年数ごとの会社の選択理由を示している。勤務先の企業に関することよりも、自らの適性や興味に関することが重視される傾向の場合、企業の発展に自らの人生を預けるのではなく、いかに自分がやりがいを感じ、能力形成できるかどうかが重視される。エンゲージメントという言葉が、この後ぐらいから注目されるようになったのも、働くメンバー(フォロワー)の価値観の変化が関係しているのだろう。キャリアパスの重要視も、自身の能力形成の道筋がその会社においてはどのように示されるのかという点で、メンバー(フォロワー)には関心がある事項となる。会社の選択理由が自身に関すること中心であるということは、その会社に対しての貢献意欲は低いと想定される。つまり、自身の成長に関することであれば主体的に取り組むが、会社の貢献を求められることに対しては主体的に行動する意識が希薄であるということである。そこでリーダーに求められるのが、メンバー(フォロワー)自身の興味や能力を、いかにして会社と結びつけるか、働きがいや自己重要感を示すかといったように、会社におけるメンバー(フォロワー)の役割を明確にし、メンバー(フォロワー)の関心事を広げるなり再解釈行うなりし、会社に対する主体性を醸成することである。そのため、昨今のリーダーシップでは、メンバー(フォロワー)に対する主体性の喚起が含まれるようになったと想定される。

    現代におけるリーダーシップ

    2.部下を信頼し支援型に特化したリーダーが時代を経るごとに良しとされてきているが、現代におけるリーダーシップはどこに当てはまるのか。

    前章の話では、能動的に組織やリーダーに貢献するメンバー(フォロワー)への変化を促すことも、リーダーシップの在り方として求められるようになった背景として、仕事の変化や多様性の重視、仕事に対する価値観の変化を取り上げ検討した。特に仕事に対する価値観の変化において、会社の選択理由の比重が自己の成長や関心に振られていることが想定される。自己の比重が高いということは、会社に対する貢献意欲は希薄である可能性があり、会社と個人の結びつきを示す上で、主体性を喚起するリーダーシップが現れるようになってきたと考察している。多様な組織、外部環境の激しい変化により、現代のリーダーシップは様々であるが、共通点はあるのかどうかも含めて、現代のリーダーシップの特徴を検討する。

    現代のリーダーシップにおいて影響を与えているのは3点あるとされる。

    • モラル
    • ITの発達
    • 組織のグローバル化

    以上である。ITの発展や組織のグローバル化は、異なる文化や価値観を持つ多様な人材が、リモートで様々な働き方をする形態を生み出した。このような多様な人材が働く組織にて、どのようなリーダーシップが求められるのか問われると共に、1番目のモラルに対する視点も重要視された。リーダーシップの研究において、1930年代にはモラルの重要性が説かれていたが、それ以降から最近までリーダーはモラルをあまり大切にしていない、またはその必要がないと考えられてきた。しかし90年代以降の信頼を失いかねない危機管理のない企業の不祥事が見受けられることから、コーポレートガバナンスを強化すると共に、オーセンティックリーダーシップやスピリチュアルリーダーシップ、サーバントリーダーシップといった新たなリーダーシップ形態が提唱されている。それぞれの定義を見ていこう。

    オーセンティックリーダーシップ

    日本語では、「本物のリーダーシップ」となるが、何が本物なのかについては定義を見ていこう。オーセンティックリーダーシップは、自分が律するあるいは自分が信じる価値観に基づいて行動することを重視し、透明性があり倫理的なリーダーシップである。透明性や倫理的という言葉から察せられるように、モラルが高いことを想定している。このリーダーシップで重要なのは、自己を知り、受け入れて、自己に対して忠実であることである。このリーダーシップでは、他のリーダーシップのように、このスタイルが良い!という示し方ではなく、一定程度の倫理観やモラルは持ちつつも、「自分らしさ」を重視している点が特徴である。

    スピリチュアルリーダーシップ

    スピリチュアルリーダーシップの特徴は、ビジョンを生み出し、利他的な愛があり、希望を持ち誠実に対応することである。ビジョンを生み出し戦略的に組織を回すだけでなく、相手のための思いやりや誠実をもってチームをエンパワーしていくことで、組織のコミットメントや生産性を高めていく。スピリチュアルの定義について記載すると、かなり頁を割く必要が出てくるので割愛するが、簡単にビジネス分野におけるスピリチュアリティを言うのであれば、自己と自己を超越した外部の崇高なものの一体化や融合、あるいは自己利益と他社利益の統合化の状態である。わかりやすく言えば、スピリチュアルリーダーシップのもとで働いている社員は、スピリチュアルリーダーによって創造されたビジョンに共感し、個人の目標の実現のために働いているのではなく、共感したビジョンの実現に向かって働いている状態になっていることを意味する。

    サーバントリーダーシップ

    上記2つのリーダーシップより前から提唱されており、メンバー(フォロワー)の話に耳を傾け、共感を示し、相手に奉仕し成長へのコミットメントを高めていくリーダーシップである。特徴として、サーバントや奉仕という言葉が示すように自己犠牲的である。変革型リーダーシップや他のリーダーシップのようにメンバー(フォロワー)に働きかけるという点は共通している。しかし、サーバントリーダーシップ以外のリーダーシップは、あくまでも組織目標やミッションの達成・実現に向けてメンバー(フォロワー)の変化を促すことに焦点がある。一方、サーバントリーダーシップの焦点はメンバー(フォロワー)であり、組織目標やミッションの達成・実現は副次的なものとして捉えられる。

    また、上記3つのリーダーシップはモラルを重視し提起されたリーダーシップであるが、ITの発達や組織のグローバル化により、場所を選ばない働き方や多様な人材との関わりが重視される中で提示されたリーダーシップもある。特に昨今のコロナ禍においては、リモートワークの推奨により、新たなメンバー(フォロワー)との関係構築が求められるようになった。そのような状況下で出てきたリーダーシップとして2点紹介する。

    ハンブルリーダーシップ

    ハンブルリーダーシップにおけるハンブルHumbleとは、「謙虚な」を意味する言葉である。その言葉通り、ハンブルリーダーシップの特徴は、リーダー自身がすべて理解しているわけではない、またはすべてできるわけではないという自分自身の脆さを謙虚に受け止めるところにある。今まで出てきたリーダーシップのように、部下に教示したり、変化を促したりするリーダーシップにおけるリーダーは、オーセンティックリーダーシップのように、一部、自分を理解することを重視するリーダーシップもあるが、どちらかというと、理解して得た自分のスタイルに忠実であることを求めていた。しかし、ハンブルリーダーシップの場合、「自分ができないこともある」というのを理解し、メンバー(フォロワー)に示すことによって、信頼関係を構築するやり方である。技術が発展し、外部環境の変化が激しくなる中、今までのように一つの戦略に従って行うといったやり方は機能しなくなっており、状況に応じて戦略を変更・修正しながら取り組むことが求められている。正解は一つに限らないため、各々の専門性や能力を活かすといった意味でも、メンバー(フォロワー)の相互依存関係が増していき、協働が必要な場合も想定される。リモートワークの推進は、特に顔が見えない状況下の中で、前述のようなことを行う必要があるという点で、メンバー(フォロワー)との信頼関係の構築に苦戦されたリーダーもいることだろう。ハンブルリーダーは、個別にメンバー(フォロワー)に対して、苦手なことも含めて自己開示を行うことで、信頼関係を構築するリーダーシップである。

    ポジティブリーダーシップ

    ネガティブな状況だからこそ、あえてポジティブになるように促すことで、パフォーマンスを上げようとするリーダーシップである。前章では、メンバー(フォロワー)の主体的姿勢を醸成するような姿勢がリーダーシップとして求められるようになったことを示したが、ポジティブリーダーシップはその前提を重視したリーダーシップである。危機的状況に企業が陥った際、または会社の変革を求められる状況になった際、社員に変革を、あるいはチャレンジマインドを呼び掛けたところで、リーダーとメンバー(フォロワー)の繋がりが希薄だったり、信頼関係が構築できていなかったりするのであれば、変化を促すことは難しいだろう。ポジティブリーダーシップは、その前提となる信頼関係を構築することを主としている。

    以上、現代におけるリーダーシップを紹介した。他にもシェアドリーダーシップやセキュアベースリーダーシップ等々、リーダーシップを挙げるとなると枚挙にいとまがないが、ここでは頁の都合で割愛する。今まで挙げてきたリーダーシップから、現代におけるリーダーシップについて考察する。

    現代におけるリーダーシップにおいて影響を与えている要素として、モラル、ITの発達、組織のグローバル化の3点を挙げた。モラルからはオーセンティックリーダーシップ、スピリチュアルリーダーシップ、サーバントリーダーシップ、ITの発達や組織のグローバル化からは、ハンブルリーダーシップやポジティブリーダーシップが提示されている。現代のリーダーシップが前編や後編の序盤に示した四象限でどこに当てはまるのかに関しては、読者も察している通り、支援型且つ部下を信頼する象限に振り切っていると捉えることができる(図3

    【図3】現代におけるリーダーシップも加えた類別の四象限

    しかしこのような結果は、働く人々の価値観の変化も踏まえると想定内の結果であり、コラムの内容としてはいささか面白さに欠ける。そこでさらに深掘りをして、現代におけるリーダーシップだからこそ表れている特徴を考察してみたい。

    現代におけるリーダーシップは、状況適応理論以降にリーダーシップの在り方として加わったメンバー(フォロワー)に対する変化を促す点については継承されている。しかし、変化を促すにあたり、リーダーとメンバー(フォロワー)の関係構築の距離は、より密接に構築されていると言えるだろう。サーバントリーダーシップは、奉仕という言葉が出ている時点で言わずもがなであるが、やはり対面での関係構築が難しくなったり、多様な人材のいる組織で関係構築をしたりする中で、いかにメンバー(フォロワー)と信頼関係を構築するかといった点で、ハンブルリーダーシップやポジティブリーダーシップが提唱されているところからも窺える。また、特に現代のリーダーシップとして特徴的なのは、「自己」 への注目である。わかりやすくそれぞれの時代のリーダーシップが何を重視していたかおさらいしてみよう。

    特性理論・行動理論の時代

    この時代におけるリーダーシップ理論は、リーダーにのみ注目されていた。そのため、メンバー(フォロワー)は、リーダーシップ理論の中では重視されることはなく、観察可能な特性や行動から良いリーダーを明らかにしようとしていた(図4)。

    【図4】特性理論・行動理論の時代におけるリーダーシップの特徴

    状況適応理論・コンセプト理論の時代

    この時代における理論から、リーダーだけでなく、メンバー(フォロワー)との相互関係も注目されるようになった。リーダーは、状況に応じて柔軟にリーダーシップスタイルを変化させ、メンバー(フォロワー)に対して、主体的な行動といった変化を促すことを重視している(図5)。

    【図5】状況適応理論・コンセプト理論の時代におけるリーダーシップの特徴

    現代におけるリーダーシップ

    現代におけるリーダーシップでは、先ほども述べたように変化をメンバー(フォロワー)に対して促すだけでなく、リーダー自身の自己の在り方も重視していることが挙げられる(図6)。

    【図6】現代におけるリーダーシップ

    例えば、オーセンティックリーダーシップでは、自己を知り、受容し、自身のリーダーシップスタイルを忠実に実行することで、モラルを担保しつつ、「自分らしさ」も重視している。また、スピリチュアルリーダーシップにおいては、自己を超越した外部の崇高なものとの一体化や融合が求められるが、その際の、自己と超越したものとの切り分けは欠かせない。ハンブルリーダーシップは、自己の弱い部分を理解・受容するだけでなく、開始することも求められている。メンバー(フォロワー)との密接な信頼関係を構築するにあたり、または、外部環境や状況の変化が激しい中リーダーとして対応するにあたり、自己理解や受容、開示は現代のリーダーシップにおいて重要な要素であると捉えることができる。

    組織において求められるリーダーシップの検討

    3.リーダーに合う組織の条件は、状況適応理論で述べられていたもののその条件はかなり抽象的である。組織の経営体制だけでなく、組織そのものが多様なのか同質なのか、別コラムでも書いたが平等・公平のバランスはどうなのかによっても、良しとされるリーダーは異なってくるはずである。

    今まで、時代ごとのリーダーシップ理論の特徴や現代におけるリーダーシップの在り方についてまとめてきた。現代におけるリーダーシップだけでも多様なリーダーシップがあることは、理解頂けていると思う。次に疑問として浮かぶのは、自分たちの組織ではどのリーダーシップがいったい適合するのかといったことではないだろうか。そこで、組織の類型別に求められるリーダーシップの在り方を整理してみようと思う。

    組織の類型は、弊社の事業コンセプトでもある「アクティベーションマネジメント」の考え方に基づいて整理する。アクティベーションマネジメントとは、弊社独自の言葉であり、組織の真の活性化を示した言葉である(図7)。

    【図7】アクティベーションマネジメント

    人的資源管理と組織行動学に基づいて、組織活性化に必要な要素の補完及び強化を行い、組織内外に対してアプローチを行うコンサルティング方法でもある。活性化とはいえ、何をもって活性化している組織であるとみなすかどうかは、組織の類型によって異なる。そこで活性化の種類に応じて4つの組織類型を設定した(図8)。

    【図8】活性化に基づく組織類型

    活性化に基づく組織類型は、ヒエラルキー型、仕組み主導型、個主導型、ワンチーム型にそれぞれ整理される。

    ヒエラルキー型

    会社の方針に共感した同質な人材が集まり、会社統一の仕組み・環境により組織が活性化している状態である。メンバーシップ型雇用が中心であり、基本的に事業の展開スタイルはトップダウンである。マニュアル通りに物を大量に作ることが求められる製造業や、単純業務が中心となる組織は、このような組織が多い。

    仕組み主導型

    多様な人材にとって働きやすい環境があり、その会社の方針や仕組み・環境に共感した多様な人材が集まり、仕組み・環境を柔軟に整備し続けることにより組織が活性化している状態である。この組織もメンバーシップ型雇用が中心であるが、柔軟な働き方を推奨しているため、非正規雇用や業務委託も対応している。

    個主導型

    個のテーマの成熟に向けて専門性が高い人材が集まり、個の活性状態の総和の結果により、組織が活性化している状態である。ジョブ型雇用が中心であり、専門性が高い人事が各々、成果を出すことによって成立している組織である。士業の事務所等々、専門性が求められるような組織に多い形態である。個主導型の社員は、基本、一つの組織に留まることは考えておらず、よりスキルを高めるために転職をしたり、自分の専門性を活かして独立したりする傾向がある。

    ワンチーム型

    個のテーマを超越した共感性のあるチームのゴールの達成に向けてプロフェッショナル性が高い人材が集まり、個の活性化状態の相乗効果の結果により組織が活性化している状態である。この組織もジョブ型雇用であるが、個主導型と異なるのは、その組織のビジョンや目標を実現・達成するために多様な専門性を持つ人材が、チーム単位、プロジェクト単位で動いているという点である。

    組織の性質が異なれば、状況適応理論でも示しているように、求められるリーダーシップも異なる。どのようなリーダーシップが適応するのか、マネジメントの内容も踏まえつつ見てみよう。

    ヒエラルキー型
    【マネジメント】 目標達成に向けた仕組み通りのマネジメント
    【リーダーシップ】カリスマ型リーダーシップ、スピリチュアルリーダーシップ

    ヒエラルキー型の場合、会社統一の仕組みや環境があるため、マネジメントとしては、目標達成に向けて、統一された仕組みを適切に運用できるマネジメントが求められる。想定される人事制度も、全社統一型の等級制度であり、比較的年功序列的な報酬の運用が成されていると想定される(図9)。

    【図9】ヒエラルキー型組織の人事制度イメージ

    そして、このような組織では、会社として掲げている方針に共感・納得している人材が求められる。とはいえ、ワンチーム型の共感の在り方とは異なることに留意する必要がある。ワンチーム型は、ビジョンや目標にさえ共感すれば、あとはその実現に向けて各々の専門性を協力しながら活かしていくだけであり、実現するプロセスというのは柔軟である。一方、ヒエラルキー型は、方針への共感は納得の要素が強く、真に方針に共感していなくとも、内容が合理的だと判断している状態が多く、また、リーダーから実現に向けてどのように動いていけばいいのか、その導きが必要である。そのためワンチーム型は、共感した人が各々自己の役割を明確にさせ、行動するが、ヒエラルキー型は、メンバーに対して役割の付与や必要であれば自己重要感の向上が求められる。そのため、筆者としては、ヒエラルキー型に適応するリーダーシップとして、スピリチュアルリーダーシップやカリスマ型リーダーシップを挙げる。どちらのリーダーもビジョンを生み出し、組織を回すことが特徴である。

    仕組み主導型
    【マネジメント】仕組み・環境の整備を重視したマネジメント
    【リーダーシップ】サーバントリーダーシップ、ハンブルリーダーシップ、セキュアベースリーダーシップ

    仕組み主導型の場合、働きやすさや何らかの障害や困難がある人への配慮を重要視するため、マネジメントとしては、仕組みの運用や環境の整備において柔軟に対応できるマネジメントが求められている。想定される人事制度も、ハイブリッド型の等級制度であり、評価制度や報酬制度は職種や等級に応じて柔軟に設定されている(図10)。評価制度において求める成果は等級や職種に応じて統一されているため、評価する際に、例えば時短勤務者や何らかの障害を抱えている人に対しての配慮が必要となる。そのため、目標すり合わせ会議や評価すり合わせ会議といった目標や評価のレベル感の統一を図る会議が行われることがあるが、比較的仕組み主導型組織はそのような会議を重視する傾向がある。

    【図10】仕組み主導型組織の人事制度イメージ

    このような組織では、個人の事情に合わせて柔軟にマネジメントを行うため、リーダーシップとして、サーバントリーダーシップや、ハンブルリーダーシップのような個人との関係構築を重視するようなリーダーシップが求められる。また、セキュアベースリーダーシップは、前章では明記していないが簡単に言えば、リーダーがメンバー(フォロワー)の安全基地(セキュアベース)になることによってメンバー(フォロワー)の心理的安全性や帰属意識を担保し、メンバー(フォロワー)の挑戦を促すリーダーシップである。

    個主導型
    【マネジメント】原則マネジメントなし(結果管理)
    【リーダーシップ】他者に対するリーダーシップではなく、自身に向けたものを想定

    個主導型の場合、個人がそれぞれの成果を出すため、熱心に育成や管理を行うことはない。あくまでもリーダーは、それぞれの設定された目標が達成されているかどうかを管理するのみである。リーダーシップは、企業のため、チームのために発揮されるというよりは、自分自身をより高めていくため、あるいは他者を巻き込む中で発揮される場合がある。○○リーダーシップと明確に言われるわけではないが、自分自身を率いる、自分をリードするという意味を込めて、リード・ザ・セルフと呼ばれることもある。もともとこの組織は、何らかのリーダーシップを持つ人材が集まっている集団でもあるため、シェアドリーダーシップのようになることもあるが、明確にこの人が・・・という固定的なリーダーが存在するわけではなく、分野や領域、局面に応じて流動的にリーダーは変わる。想定される人事制度は完全にジョブ型であり、評価制度も個人によって求める成果が異なるため、個人別に設定する。報酬は、実力に応じて報いるため、メリハリがかなり効いている場合が多い(図11)。

    【図11】個主導型組織の人事制度イメージ

    ワンチーム型
    【マネジメント】原則マネジメントなし(信頼・信用による委任)
    【リーダーシップ】シェアドリーダーシップ、ポジティブリーダーシップ

    ワンチーム型も同様に、マネジメントは原則ない。個主導型のように結果を管理するが、個主導型の比べ、ワンチーム型は、それぞれの力量ややり方に任せているからという信頼・信用の色が強い。想定される人事制度は、個主導型同様ジョブ型人事制度であり、評価や報酬体系も同様であるが、プロジェクト評価やチーム評価のような組織評価も重視する場合もある(図12)。

    【図12】ジョブ型組織の人事制度のイメージ

    個主導型は個人で動くが、ワンチーム型はチームやプロジェクトで動くため、リーダーシップは必要である。ワンチーム型の場合は、シェアドリーダーシップやポジティブリーダーシップが想定される。シェアドリーダーシップは、前章では明記していないが簡単に言えば、特定の人物がリーダーをするのではなく、チームのメンバー(フォロワー)それぞれがリーダーシップを発揮している状態である。個人に合うリーダーシップで得意領域の範囲からリーダーシップを発揮するものの、チームのビジョンや目標は共有されている。また、ポジティブリーダーシップは逆境に置かれた環境下の中で、メンバー(フォロワー)の感情をポジティブに切り替えてチーム一丸となって仕事を進める上で重要である。ネガティブになると、チームの士気が下がってしまうので、ワンチーム型の場合は重要である。

    以上が、組織において求められるリーダーシップの在り方である。リーダーシップ理論の歴史を振り返ると、現代のリーダーシップは、支援型且つメンバー(フォロワー)に変化を促すようなアプローチが求められていることが本稿で明らかになった。とはいえ、リーダーシップにおける変化を促すアプローチの仕方は様々であり、組織のタイプに応じて適応するリーダーシップは異なる。組織類型として、弊社のアクティベーションマネジメントのフレームに基づく4種類の組織タイプを挙げた。読者の中には、自身が所属する組織タイプがどのタイプなのかわからない人もいるだろう。マネジメントもリーダーシップも人事制度も同じ軸を通した組織はなかなかない。例えば、組織としての目標の性質はワンチーム型でありながら、人事制度は古い制度を使っているためヒエラルキー型であり、その矛盾に対して社員が不満を感じているというのはよくあることである。組織の状態を把握するにあたり、会社として報いたい人材はどのような人材なのか、人事制度において何を平等・公平とみなして運営されているのか、現時点における組織の状態を調べてみてほしい。組織の現状を明らかにした上で、今後組織は何を目指すのか、それを踏まえて人事制度やマネジメント、リーダーシップを再整理することが望ましい。

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