労働者の多くは、強いストレスを感じつつも生活のために働き続けなければいけません。日々蓄積されていくストレスが限界を超えた時、労働者は精神的・肉体的な不調に悩まされることになります。そのような事態を防ぐため、求められているのが使用者によるメンタルヘルス・マネジメントです。今回は、メンタルヘルス・マネジメントを行う上で役立つ知識を紹介しましょう

メンタルヘルス・マネジメントとは何か

メンタルヘルス・マネジメントとは、労働者一人ひとりのメンタルヘルス、日本語で言うならば「心の健康」を把握して不調を引き起こすことがないように、使用者が職場環境を整えることです。なぜ使用者が労働者のメンタルヘルスに気を配らなければならないのかというと、労働基準法や労働安全衛生法等の法律が存在することが理由の一つです。それらの法律では、使用者が労働者の安全や健康を守ることを内容に盛り込んでいます。例えば労働契約法第5条で規定されているのは、使用者が労働者の安全に配慮することを義務付ける「安全配慮義務」です。「安全配慮義務」における労働者の安全を確保するということは、心の健康に配慮することも含まれます。

法に違反してメンタルヘルス・マネジメントを怠ればどうなるのかというと、使用者は罰則を受ける可能性があります。あるいは、労働者か過労死した労働者の遺族から損害賠償を請求されることもあるでしょう。それに加えて、法で罰せられたり訴訟を起こされたりした事実が表沙汰になれば、労働者の健康状態に配慮しない使用者だと世間から見なされます。いわゆる「ブラック企業」の一つとして認識されるようになれば、企業や商品のブランドイメージを大きく損なうことになるでしょう。法に違反しても、得られるものはデメリットばかりです。

法律以外にメンタルヘルス・マネジメントを行う理由を挙げるとすれば、労働者に高いパフォーマンスを発揮してもらうためです。ストレスを抱えた状態では、誰もがパフォーマンスの低下を免れません。普段と同じことをやっていても作業が遅くなりますし、ミスの回数も増加します。さらにストレスが限界を超えて、うつ病となり休職すると一切仕事ができなくなります。メンタルヘルスの不調は、生産性を著しく落ち込ませる原因であることがわかるでしょう。適切なメンタルヘルス・マネジメントを行えば、労働者は常に高いパフォーマンスを発揮できます。高いパフォーマンスは、生産性を向上させ収益を増やすことができるので、結果として使用者に大きな恩恵をもたらします。

悩み

メンタルヘルス・マネジメントが注目されている背景と現状

近年になりメンタルヘルス・マネジメントが注目されているのは、平成11年に厚生労働省が労災の心理的負荷による精神障害の認定基準を改正したことがきっかけのひとつです。認定基準の改正は、事案の処理を円滑にすることが狙いでした。その結果として何が起きたのかというと、精神障害による労災の請求件数と認定件数の増加です。このことで、今まで隠れていた過労死・過労自殺が労災の認定と言う形で表にでて社会問題になりました。この認定基準の改正以降、メンタルヘルス・マネジメントを導入する企業が増加しています。

多くの使用者がメンタルヘルス・マネジメントに取り組むようになりましたが、完全に労働者のメンタル問題が解決したわけではありません。大企業であれば、メンタルヘルスの不調を訴えた労働者が休職をして治療できるように制度を整備できます。しかしながら、規模の小さい中小企業では、人手が足りないので簡単に休職できないのが実情です。中小企業でも、適切なメンタルヘルス・マネジメントができるような制度を考えなければならないでしょう。

メンタルヘルスケアの三本柱

メンタルヘルス・マネジメントでは、メンタルヘルスケアが重要なポイントです。メンタルヘルスケアは、一次予防・二次予防・三次予防という3つの段階に区分できます。まず一次予防は、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことが目的です。一般的に一次予防では、ストレスチェックが行われます。ストレスチェックは、ストレスに関係した働き方や健康状態を問う質問に労働者が回答することで、現在のストレスの状態を確認する検査です。労働衛生法では、労働者が50人以上いる事業所に対して年に1回のストレスチェックを義務付けています。このストレスチェックの結果は、労働基準監督署に提出しなければいけません。報告をしなかったり報告の内容を偽れば罰則を受けます。

ストレスチェックが制度として導入されていれば、使用者は労働者のメンタルヘルスを把握できます。もし、多くの労働者がストレスを抱えているようであれば、労働環境改善などの対策を講じることで問題の解決ができるでしょう。また、労働者は結果が通知されるので、高ストレスを抱えているのかどうかを自身で確認できます。ストレスを自覚できれば、セルフケアも可能です。例えば休憩中にストレッチの習慣をつくることで、ストレスの軽減を試みることができます。セルフケアでは対処できない状態ならば、医師による面談指導が行われます。その面談指導を経て医師から職場に出された意見が、労働環境改善で参考にされるでしょう。

ストレスチェックを実施するにあたって、制度の計画を考えたり管理を行うのは一般的に人事を担当する人事部員です。計画を元にストレスチェックを実施する実施者になるのは、産業医・保健師・厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健看護師です。実施者より指示を受けてデータ入力などの事務に従事するのが、実施事務従事者です。この実施事務従事者ですが、人事権を持つ人間はなれないというルールがあります。ストレスチェックの結果を使い、労働者に不利益をもたらす可能性があるためです。したがって、人事権を持つ人事部長や事業者である社長は、除外されます。制度担当者は、人事権を持っていなければ実施事務従事者を兼ねても問題ありません。

続いて二次予防では、メンタルヘルスの不調を早期に発見し、早期に治療することが目的です。二次予防を正しく行うためには、労働者本人や管理監督者がメンタルヘルスに関する知識を学ばなければいけません。知識を持っていれば、労働者に変化が見られるときにメンタルヘルスの不調を疑えます。また、メンタルヘルスの不調を発見したときに、管理監督責任者や相談窓口への連絡を円滑に行えるような制度設計および周知も二次予防には必要です。経営者や人事担当者は、必要とされる支援を行いましょう。メンタルヘルスの不調が報告されたあとは、管理監督責任者から産業医への相談が行われたり、外部の医療機関を受診させたりすることで早期に治療が行えるようにします。

最後の三次予防は、メンタルヘルスの不調により休職してしまった労働者の復帰を支援すること、再発しないような取り組みをすることが目的です。例えば、職場復帰支援プログラムの策定が具体的な三次予防になります。職場復帰支援プログラムには、休職中に労働者が感じる不安を取り除くためのケアや復帰を認める基準、復帰後に知識や技術を学ぶ研修制度などが盛り込まれています。労働者の状態にあわせてプログラムを進めていけば、三次予防の目的を果たすことができるでしょう。しかしながら、治療で回復したように見えて、復帰をした途端に再発することもあります。労働者本人に復帰したいという気持ちが強くあっても、焦りは禁物です。

チェック

外部の専門業者に力を借りる

労働者をメンタルヘルスの不調から守るためのメンタルヘルス・マネジメントですが、一つの問題があります。中心となり携わる経営者や人事担当者が、メンタルヘルスの専門家ではないので十分な知識を持っていない可能性があることです。知識がないと、労働者に必要な制度づくりや抱えている問題を相談されたとき、誤った対応をすることもあります。メンタルヘルスの知識がないことに悩むのであれば、外部の専門業者に力を借りるのも一つの手です。

企業向けのメンタルヘルス対策をサポートしている業者は、ストレスチェック制度の導入・実施や職場環境改善、職場復帰支援プログラムの策定などに関するコンサルティングを行っています。経営者や人事担当者に向けた相談にも対応している業者もいるので、休職している労働者の復帰判断などで迷っているならば助言を求めてみましょう。また、経営者や人事担当者自身の悩みも相談できる業者を探せば、メンタルヘルス・マネジメントを行う側がストレスを溜め込んで不調を起こさずに済みます。

適切なメンタルヘルス・マネジメントを考えよう

今回は、メンタルヘルス・マネジメントに関する情報を紹介しました。メンタルヘルス・マネジメントに携わる経営者や人事担当者にとって、必要となる情報です。紹介した情報を参考に、労働者の心と関連法を守るためにしなければならないことを考えてみましょう。適切なメンタルヘルス・マネジメントを行うことができれば、メンタルヘルスの不調を理由とする休職者や退職者を減らす効果も期待できます。

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