当社は、組織活性化のコンサルティング業を謳っており、組織・人事に関する相談が多く寄せられます。特に、組織を活性化させるために、人事制度の構築を依頼されます。ただ、人事制度構築の支援をしますが、実際のところ人事制度を構築しただけでは、組織は活性化しない場合も多くあります。
では、 “組織活性化のティッピングポイント(転換点)”はどこにあるのか、このコラムでは、これまで実際にあった実例を用いて組織見聞録として表していきます。あるX社の事例を紹介します。
プロジェクトスタート前
ある時、X社からコンサルティング(人事制度構築)の提案の依頼がありました。提案に向けて、午後1時のアポイントで先方社長のところへヒアリングに行きました。社長室に案内されると、先方の社長はかなり面倒くさそうに立ち上がり、眉間にしわを寄せながら、応接のソファに座りました。そして、タバコに火をつけて「で、あなたたちは何しに来たの?」と言わんばかりの目つきをしていました。アポイントの時間を私が間違えたのかと思い確認しましたが、間違ってはいませんでした。あまり気にせずに、ヒアリングを始めてみると、“幹部がどんどん辞めてしまう”、“先日も管理部門の人間が4人同時に辞めた”、“店長が不正行為をした”、“営業コンサル入れたがだめだった”、“管理職研修をやったが効果なかった”、“理念の策定をやったがだめだった”といった話がいろいろ出てきました。私は、会話の最中に心の中で“絶対こんな社長とは仕事をしたくない”って思っている自分がいました。
その後も、延々と否定的な話が続きました。1時間ほど経っていました。会話を続けているうちに、腹を立てている自分がいました。徐々に腹が立ってきて、とうとう抑えきれず、思わず、“社長、社長がそんなネガティブだから組織が良くならないんですよ。あなたが原因なんです。”と言い放つ自分がいました。(※この話は十数年前の話で、その前もその後も、そのようなことを言い放ったことはこの時だけです。)
その場は一通りヒアリングを終えて、別室で他の幹部のヒアリングの予定がありましたので、別室に移動しました。そして幹部ヒアリングも一通り終えて、帰り際に先方社長へ報告に社長室へ行きました。そこには、姿勢を正しくした、礼儀正しい社長がいました。なんとなく嬉しくも、複雑な心境でした。その時はそれで終わりましたが、私は社長を叱ってしまったので、コンサルティング契約を結ぶことはまずないだろうと思っていました。ところが、後日、その社長からコンサルティングの依頼が来ました。
プロジェクトスタート時
コンサルティングを開始するにあたり、社長と私の相互紹介をやりました。まずは、私から幼少期の頃から、小中高大時代のこと、社会人になってからのこと、様々な出来事とその時感じたことをお伝えしました。次に社長から生い立ちを話していただきました。幼少期の時から今に至るまでを一通り聞きました。聞いてみての感想は、“何も情熱のようなものを感じない”というものでした。私としては、生い立ちの話を通じて、人となりや何を大事にしているか肌で感じようとしたのですが。その時、一緒にいた仲間にも社長の生い立ちの感想を後で聞いたところ「何も感じなかった。ただボンボン(創業社長の息子)だったんだなあということだけ」とのことでした。
この印象は、生い立ちの話だけにとどまらず、会社の中で社長が社員からどう見られているかも現していました。案の定、その会社の幹部にヒアリングをした際に、幹部が言っていたことは「社長はもっと先のことを考えていただいて、日常の細々としたことにいちいち口出しをしてほしくない」とのことでした。こう聞くと、社長の仕事ぶりの一端が垣間見えます。幹部は社長の仕事ぶりを見て、“この人は社長としての働きをしていない。海外留学から帰ってきて、自分の父親の会社に入社していきなり役員になったから、現場の人のことなんか判らない人だ。この人はたいした人ではない。”と見下していました。これでは組織が良くなるはずがありません。
社長ご自身はいろいろと勉強をされています。経営戦略やマーケティング、コーチング等。更にこれまで様々なコンサルティング会社を活用してこられました。でも、良い状態になっていません。
これまで営業のコンサルティングをやろうが、理念策定のコンサルティングをやろうが、朝礼のコンサルティングをやろうが、接客の研修をやろうが、管理職の研修をやろうが、何も変わりませんでした。これがプロジェクトのスタート時点の状況でした。
プロジェクトその後
プロジェクトがスタートして1年半後のプロジェクト終了時に経営計画発表会を実施しました。社長と幹部が経営計画書に書いてあることではなく、今の自分の“想いの丈”を語っていました。社長と幹部の意気込みが充分過ぎるほど伝わってきました。私はオブザーバーとして参加しましたが、話を聞いていて感動してしまいました。社員の方々から自然と盛大な拍手が湧き起こりました。その場から立ち去りたくない気持ちになっていました。ずっとその場にいたいと思いました。空港に行く用事があったため、中座しましたが、余韻は覚めやらず、空港に向かうリムジンバスの中で胸からこみ上げてくるものがありました。
結果的にX社は、幹部も辞めなくなり、社員の定着率も上がり、新規出店も実現し、業績も上がりました。そして、社長は、お茶を出してくれる事務の女性社員に自然な笑顔で「ありがとう」と言う様になりました。初めてお会いした時に、面倒くさそうに立ち上がるような対応をしていた時と雰囲気が変わりました。
組織活性化のティッピングポイント
X社の場合、組織を良くするために様々な取組をしていましたが、なぜ変わらなかったのでしょうか?それは、トップが原因だったにもかかわらず、トップを変えずに社員を変えようと必死になっていたからにほかなりません。トップが原因とは、具体的に言うとトップの「あり方」に問題があったとういことです。
ここで述べているトップの「あり方」とは、
- 経営に対する考え方
- 経営のやり方
- 考えの伝え方
- 意見の聴き方
です。X社社長の場合、
- 経営に対する考え方が社員から賛同を得られていない
- 経営のやり方に社員から不満の声が挙がっている
- 自身の考えの伝え方は威圧的になっている
- 社員の意見を聞くことはほとんどない
といった状況でした。この状況を変えなければ、社員が会社を良くしていこうと自主的に動くようにはなりません。では、上記の状況を生み出す要因は何か。トップの持つ「事業観」「人間観」にあると捉えました。組織を変えるには、戦略のコンサルティングや人事のコンサルティングや管理職研修をやることではなく、上記の1~4を社員から共感を得られるようにすることが肝要と考えました。
具体的には、トップの「事業観」「人間観」を社員の共感が得られるように変えていき、その上で、理念・ビジョン・行動指針・経営計画を“幹部と共に”作り上げていきました。そして、上で述べたような経営計画発表会を実施しました。X社の場合の組織活性化のティッピングポイントは人事制度構築ではなく“トップの在り方”にありました。私自身とても遣り甲斐を感じた事例でした。何かの参考になれば幸いです。
※具体的取り組み内容について知りたい方はこちらから
https://www.aand.co.jp/moonshot/
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