当社の提供する人事・組織領域のコンサルティングサービスの中で、最も多いご依頼は人事制度の構築・改定になります。これまで多くの企業の人事制度を策定してまいりましたが、その際に必ず生じる問題として、新制度が従業員にとって必ずしもポジティブに受け入れられるわけではない事が挙げられます。これは新制度に対する従業員の「不安」といった感情から生じるものであることがほとんどです。本コラムでは、上記問題に対してどの様に向き合うか考えていこうと思います。

改定が必要な人事制度は「サイズの合わない布団」

私は人事制度を変える時に、「人事制度改定はひとつの布団を従業員皆で使う事 をイメージしてください。サイズが合わない布団では手や足がはみ出す従業員が出てしまい、寒いと感じてしまいます。その上で、サイズの合う布団はどんなものか考えていきましょう」とお伝えしています(この例えがうまいかどうかは別ですが・・・)。人事制度は企業の基本方針に則り、一貫性を持って組み立てていくため、制度の仕組みは論理的に説明することが出来ます。そして、策定した制度の仕組みについては、従業員にとっては「理解」してもらえる場合が多いです。

しかし、従業員の理解が「納得・共感」へ変わるためには論理的な説明だけでは不十分になります。何故なら、新制度によって従業員個人の役割、責任、処遇、キャリアがそ れぞれ変わる事になり、それが受け入れられるかどうかは従業員の感情によるからです。布団の機能や大きさは分かっても、その布団が自分にとって快適かどうかは個人差があります。

例えば、制度改定によって、従業員の報酬が基本給中心から売上成績によるインセンティブ中心に変わったとします。そして経営者は「業績に貢献してくれている人に多く支払う仕組みに変えた」と説明します。この説明に違和感を抱く従業員は少ないですが、実際に制度導入後に、「今貰っている報酬を維持する売上が挙げられるか」と従業員が不安になってしまう事は大いにあり得ます。これが制度改定時に生じる「総論賛成、各論反対」といった状況になり、その要因は従業員の不安によるものです。そして、この不安を論理的な説明で解消する事は難しいです。

新制度説明時に必要となる大義名分

制度変更に伴う従業員の不安を「企業として○○である」「仕組みとして○○だから」と説明したとしても、これは論理vs感情の戦いになり、平行線になります。勿論、論理的に正しいからと従業員感情を考慮せず「強行」し、それに伴う離職も致し方ない、と腹をくくって進めることも可能ですが、なるべく軋轢を生じさせずに新制度へ移行していくためには、企業は従業員個々人に合わせた説明に加えて、想いの側面からも説明していく事が必要になると考えます 。

そもそもどうして企業は制度を変えるのか、その理由は従業員がどの様な成長、活躍を期待しているのかといった企業の想いがあると考えます。そして、その想いを仕組み化した結果がこの制度である、といった説明を繰り返していく事が求められます。制度を変えるのは処遇を調整するためではなく、これからの企業の成長と従業員の生活を豊かにしていくために行うのであるといった「大義名分」のもと、本来であれば全員に喜んでもらえるようにしたいが、経営資源が限られている中で透明性と公平性を持って分配するために、制度が必要なのであるといった説明になると思っています。勿論、一回の説明だけでは、共感を得られるわけではないので、繰り返しその想いを伝えていく事と策定した新制度に則り可能な限り例外は排除して、組織運営をしていく事で、人事制度が定着していきます。この感情の部分をないがしろにしてしまうと、制度改定によって成長が止まってしまう、経営と従業員との間に亀裂が生じるといった事が起こってしまうリスクがあります。

制度改定は経営者の想いを伝えるチャンス

この問題を考える際に、私は学生時代の経験を思い出します。私は学生時代に小学生のサッカーチームでコーチをしていました。試合に出られる人数はルールで決まっていますので、その人数を超えた数の選手がいる時には、一定の基準を持って出場するメンバーを決めていきます。多い時で1チーム20人以上の子供たちがいましたので、それぞれに納得してもらうために「○○な選手になって欲しい」「○○を頑張れば試合に出られるよ」といった事を伝えていました。しかし、子供たちの保護者は「なぜうちの子は試合に出られないのか」「あの子ばかり試合に出ているので贔屓しているのではないか」といった想いを持たれていたかと思います(直接伝えられる場面は殆どなかったですが、きっとそんな思いを持つだろうと私も親になって感じています)。コーチである私にとって子供たち「20分の1」であり、全員に同じ基準で平等に接していかなければならないですが、保護者にとっては自身の子供は「1分の1」です。この立場の違いからくる想いの差は必ず生じます。

経営者と従業員も同じような関係ではないかと思います。経営者は全従業員を大切に思っているので、全体に対してどうするかを考えていますが、従業員個人にとっては自身のキャリアや生活が大切です。この状況では「何故分かってくれないんだ」とお互いが思っていてはこの溝が埋まる事はありません。そのため、制度を施行できる立場である経営者が歩み寄り、理論だけはなく感情の部分も伝えていく事が新制度の始まりになると感じています。

貴社の人事制度を見た時に、「なぜその制度になっているのか」という意味・意義を見出す事は出来るでしょうか。また、制度改定をご検討の際には、「なぜ制度を変えたいのか」明確になっているか、一度立ち止まり、考えてみてはいかがでしょうか。

本コラムが、皆様にとって何かの気づきになっていれば大変うれしく思います。

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