この記事はシリーズです。前回分は以下リンクから確認できます。

「年功的な人事制度を変えたい」といったお問い合わせは当社にもよく寄せられるご相談の一つです。現在の人事制度のトレンドは「成果主義」に代表される年齢や勤続年数に関わらず、実力や業績によって処遇を決定する制度です。そのため、年功序列は現在「時代遅れ」の「悪しき制度」であるといった風潮になっております。特にご相談をいただく多くの企業から「年功的な制度のせいで若手が離職してしまう」といった声が上がっております。本主張は、一度年功的な「文化」のある企業を4年目に辞めてしまった筆者としても一定の理解はするものの、人事コンサルタントとしては「年功的な制度=若手が定着しない」とすることについては果たしてそうなのだろうか、といった疑問がわいてきました。

そこで本コラムでは、年功序列は本当に「悪しき制度」なのか考えたいと思います。第1回、第2回では年功序列の成り立ちから時代の変化に合わせてどの様に年功序列の制度の立ち位置が変化したか、そして第3回では、現在も年功序列の要素を持った人材マネジメントを行っている企業を紹介しました。連載最後となる第4回では、年功序列が向いている企業について紹介します。

年功序列のメリットとリスク

年功序列は年齢(時には在籍年数)にもとづき緩やかに報酬が上がり続ける仕組みであり、従業員の長期の定着を狙う仕組みです。同様に、結果や能力によって処遇にメリハリがつかないため、競争原理が働きにくく、企業という一つのチームで成果を出すことを目指していく風土が醸成されます。対して年功序列 の考え方にもとづき年齢が上がるにつれて報酬が必ず高まる事へのリスクは、事業成長や売上とは関連せず人件費が上がってしまう事や従業員に対してのモチベーションを競争といった文脈では喚起できない事です。また、年功序列によって報酬が上がる前提として、経験期間によってスキル、能力が高まっていく事があるため、ITスキルのように技術革新が速いものについては相性が悪いとも考えられます。現在多くの企業では、従業員の定着が課題となっているため、年功序列をうまく組み込む事で従業員の定着につなげることは可能であると考えます。

年功序列と相性がいい業態

チームによって収益を上げる

年功序列の利点は従業員同士がライバルではなく、チームあるいはファミリーの様な一体感を創り出すことが出来る事です。従って、一つの案件、顧客を多くのメンバーで推進する形式とは相性が大変良いです。従って、営業・販売 担当者が個人で売り上げを作っていく事がメインとなる企業とは相性が悪く、対して製造業といったお客様に商品を届けるまでに多くの部署、メンバーが関わる企業とは相性が良いと言えます。

必要となるスキルが大きく変わることがない/経験によってスキルが醸成される

年功序列 は前提として終身雇用を目的とした制度であり、年齢に応じて報酬が高まる仕組みです。年齢が上がるにつれて報酬が高まる根拠は積上げた経験により、スキルが高まる事を前提としております。従って、経験値によって技術力が高まる職種においては親和性が高いと言えます。例えば製造現場のような一般的なイメージとして「手に職」が就く職種や士業や福祉の領域といった専門資格を求められる職種とは相性がいいと言えます。

地域に根差した企業を目指し、周りに競合他社がいない/大手企業が少ない

年功序列は従業員を長く留めるために効果的であるが、離職者をゼロにすることは難しいです。そのため、緩やかに報酬が高まっていく状況が受け入れられない従業員は離職の可能性が高まります。そのため、同地域内に同職種でより高い報酬を提示する企業があったり、同業界にて大手企業が存在したりすると、処遇差から従業員が転職してしまう可能性があります。従って、ニッチな商材・サービスを取り扱っており、大きな企業や競合が周りに少ない企業においてはリテンション効果がより高まるため、相性が良いと言えます。

年功序列の制度構築時の留意点

年功序列と親和性が高い企業について述べてきましたが、年功序列の持つリスクも考慮した上での設計が必要になります。

報酬レンジの上限を設ける

これまで繰り返し述べてきた通り、在籍年数や年齢によって昇給する事を基本とするため、売上や企業成長と人件費が連動しない状況となります。従って、各等級における報酬額の上限値を厳格化し、間違っても上限を超えて昇給しないようにする必要があります。また、等級の昇格や役職任用については年齢や在籍年数ではない指標において選抜する仕組みが必要になります。

賞与原資・退職金原資を基本 給連動としない

賞与や退職金の原資を決定する際に、多くの企業では「基本給の○○か月分を賞与とする」といった考え方を取っている企業が多く存在します。ここで注意すべき点は、○○カ月が変わらずとも、毎年基本給が上がっていくため、賞与や退職金の原資も年々増えていく事となり、人件費が圧迫するリスクが上がります。従って、原資の決定においては、業績と連動する形で変動できるようにし、従業員に対しては「現在の業績/これまでの業績から考慮すると結果として支給額が○○カ月となります」といった分配を行えるようにしておかなければ、人件費総額のコントロールが効かない状況になります。

従業員をモチベートする理念/ビジョンを掲げ、実践する

年功序列では個人の働き、成果によって処遇にメリハリが付かないため、処遇によって従業員をモチベートする事が難しいです。従って、従業員を引き付ける企業理念やビジョンが必要となります。安心して働けるだけではなく、従業員自身の日々の仕事がどんな価値を世の中に提供しているのかを明確にし、やりがいを喚起させる必要があります。年功序列とは全く異なる考えを持ち、日本以上に転職頻度が高い欧米諸国の企業も、理念やビジョンによって従業員をとどめることを試みており、この点においては処遇決定の考え方は真逆であっても、従業員へのリテンションには効果が高い事がわかります。

終わりに~令和における年功序列とは~

4回にわたり、年功序列について紹介してきましたが、皆様の年功序列の考えに変化はありましたでしょうか。年功序列の制度であっても、成果主義やJOB型の制度であっても、良し悪しがあり、そのリスクを把握した上での制度設計が求められると共に、自社の環境や社員の属性、事業戦略を加味した上で人事戦略の方針を決める必要があります。その上で、年功序列を取り入れる際には、近年トレンドとなっている「業績連動賞与」や「パーパス経営」といった考え方、仕組みを取り入れていく事が「令和の時代の年功序列制度」であると考えます。

本コラムが、皆様の人事戦略を検討する一助となればうれしく思います。

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