私たちは「ただ座る」ということができなくなっています。多くの人が5分も瞑想するのが難しく感じると思います。現代人のマインドは、情報が溢れる環境の中で慌ただしく日常に追われ、「あれをやって、これをやって」と頭が常にフル稼働していている状態です。何か行動してないと安心できない、時間が空いたらすぐに携帯を見て何かをチェックして、空いた時間を外からの情報で埋めようとします。外にばかり意識が向き、自分の内側に意識を向けることは少なく、無意識に物事をこなすことに慣れてしまっていると言えます。
心と体を「今」に置き、あるがままに受け入れ存在する時間は実はとても大きな意味を持っています。外の情報に頼るのではなく、自分の内側に意識を向ける事になるからです。人の行動はその人が大切にしている「価値観」や「想い」に影響を受けています。その自分の内側存在する「軸」となるものに意識を向けることが、思考や感情に振り回されずに意志を持って選択や行動することや、自分らしくリーダーシップを発揮することに繋がります。
マインドフルネスとは?
日本でも「マインドフルネス」という言葉を最近耳にすることが多くなりました。欧米で注目を浴びた「マインドフルネス」は、ストレス解消法やリラックスの手法としての効果だけでなく、パフォーマンスに繋がるものとしてビジネスの世界で取り入れられ広がりをみせました。GoogleやFacebookなど大手外国企業で社員研修として導入され、膨大な情報を扱いプレッシャー下で働く知的エリートたちが自分を統御する術としてマインドフルネスを取り入れたと言われています。このコロナの不安な状況が続く今、日本のビジネスの世界でも注目を浴びYahoo、楽天、メルカリ等様々な企業で取り入れられています。
「マインドフルネス」とは、禅の考え方や心の状態がルーツになっています。より多くの方に受け入れられるために宗教的な要素を排除して、脳科学等の科学的な根拠を示してメソッド化したものです。ここ25年くらいで脳科学の進化と共に瞑想やセラピーの効果が脳に与える影響が科学的に証明されてきました。「マインドフルネス」を広めた人物でありMSRP(マインドフルネスストレス低減法)を開発したマサチューセッツ大学医学大学院教授であるジョン・カバットジン博士はマインドフルネスをこのように定義しています。
<マインドフルネスの定義>
「今この瞬間に、意図的に、評価判断なく、注意を向けること」
(The awareness that arises from paying attention, on purpose, in the present moment and non-judgmentally)
―ジョン・カバットジン博士
人は1日に7万回思考していて、私たちの心は妄想することが仕事です。心が「今この瞬間」に起こっている事に注意を向けないで、目の前の関係ない事を考えて彷徨う状態をマインドワンダリングと言います。このマインドワンダリングが私たち人間の脳のデフォルトモードであり、私たちのマインドは今でなく「過去の後悔」や「未来への不安」を彷徨うことが多く、思考や感情に振り回されます。「あの時の失敗が…」「明日のプレゼンが…」「あれやらなきゃ、これやらなきゃ」とたくさんの思考が数珠繋ぎで繰り返されます。私たちはマインドを意識的にマニュアルで操縦するのでなく、マインドが無意識に自動操縦で運転されている状態(オートパイロット状態)にあります。
マインドフルネスでは、マインドを未来でも過去でもなく「今この瞬間」に存在させ、無意識なオートパイロット状態でなく「意図的に」、思考の癖や固定観念を外し「評価判断なく」ただありのままに今を受け入れ「注意を払う」ことを行います。マインドフルネスが「心の筋トレ」と言われるのは、無意識に思考や感情に振り回されてしまう状態から、自分が今意識を向けたい方向に自分自身の力で意識を向ける心の筋肉を養うからです。マインドフルネスの実践を繰り返す事で感情や思考に振り回されない「レジリエンス」が養われます。
マインドフルネスで養われるレジリエンスとは?
レジリエンスとは「反発性」「弾力性」「回復力」などと訳されるのですが、「難しい状況、タフな状況、変化からすぐに回復できる能力」のような意味で使われます。現在のコロナウィルスのパンデミックの状況、変化の時代に求められるものが、この「しなやかな強さ」を持ち合わせたメンタルだと思います。
人間なので何か予測できない嫌な出来事や変化が起きた時、プレッシャーのかかる大事な場面で心が反応してしまうのは当たり前のことです。しかしその心の反応に引きずられ続けるのでなく、たとえ一度心が乱れたり揺らいだとしてもその状態に速やかに気づき自分の望む状態に素早く回復させる事が大切です。どんな衝撃にも耐えられる「折れない心」ではなく、困難な事や予想できない衝撃に打ちのめされてもすぐにしなやかに回復できる柔軟な強さ、それが今の時代に求められる「レジリエンス」です。レジリエンスの概念は、人だけでなく組織という観点でも使われます。
<レジリエンス―再起力―とは>
人々の精神と魂に深くきざまれた反射能力であり、世界と向き合い、理解する能力である。レジリエンスの高い人や企業は、現実に毅然と目を向け、困難な状況を悲観することなく、前向きな意味を見出し、啓示を得たかの様に解決策を生み出していく。
出典:ハーバードビジネスレビュー EIシリーズ レジリエンス
困難な状況でも、現実をありのままに受け入れ、その上で前向きな意味を見出すパワーです。コロナのようにコントロールできない現実をありのままに受け入れ、その上で今自分にできることに集中する事が前進に繋がります。
マインドフルネス実践の3つの「A」とは?
マインドフルネス=瞑想と思われがちですが、マインドフルネスはもっと広義です。「動く瞑想」と呼ばれるYOGA、「書く瞑想」と言われるジャーナリング、その他「食べる瞑想」「歩く瞑想」などもあります。マインドフルネスは日常の中のどんな場面でも実践することができます。例えばミーティングとミーティングの間に、「今」起きている自分の呼吸(吸う息・吐く息)に意識を集中してゆっくりと3呼吸することもマインドフルネスです。このマインドフルネスの実践は「今」をありのままに受け止める心の土台になり、しなやかな強さを養い、自分らしさを発揮してチームの中で自分らしく生き生きと輝く在り方に繋がります。
①ATTENTION
注意を向けること。自分の望む方向に注意を向け続ける力、そして意識が外れた時に注意を向け直す力、それらの集中力を養います。自分の意志で自分のマインドを望む方向に向けさせる事に繋がります。
②AWARENESS
気づくこと。自分の心や体の状態、思考や感情に気づく力や深く読み取る洞察力を養います。気づくことで、無意識に自分の思考や感情に振り回されることなく自分の意志で選択し行動する事に繋がります。
③ACCEPTANCE
ありのままに受け入れること。主観的な判断や固定的な見方で決めつけるのでなく、俯瞰的にありのままに現実を受ける受容力を養います。受け入れることで、意味を見出し今ここから前進する力に繋がります。
「マインドフルネス」と「リーダーシップ」の関係性
リーダーシップとは、組織のリーダーだけに必要な要素ではなく、全ての人が自分の人生を主導するのに必要なものです。自分の人生のハンドルを握りリーダーシップを執ることで自分らしく人生を歩む事ができます。組織においても、どんなポジションであってもそれぞれの役割において一人一人がリーダーシップを発揮することが求められます。
近年自分らしいリーダーシップという意味である「オーセンティックリーダーシップ」が注目を浴びています。固定の型にはめるのでなく、誰かのスタイルを真似るのでなく、自分自身を深く考察し自分の大切にしている価値観に沿って自分らしさを発揮するリーダーシップのスタイルです。マインドフルネスは、このオーセンティックリーダーシップの発揮に役立ちます。
「自分らしさ」と言っても、「自分らしさ」をすらすらと簡単に答えられる方は少ないと思います。だからこそ、自己を洞察し本当の自分を認識していく事が大切になります。周りの情報に意識を向け続ける日常の中で、マインドフルな状態で心静かに自分の内側に意識を向けることで自分の「思考」「感情」「価値観」「想い」「本音」が見えてきます。
またマインドフルな受容を持って「強み」だけでなく「弱い自分」をありのままに受け止められるようになります。本当の自分を受け止めることで、外に自分の「軸」を置くのでなく、自分の内側に「軸」を持つことができるようになります。
<自己認識とは>
自己認識とは、要するに、自分自身のことを明確に理解する力 -自分とは何者であり、他人からどう見られ、いかに世界へ適合しているかを理解する能力だ
出典:ターシャ・ユーリック「insight - いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」
自己認識には、単に内的な自己認識だけではなく、自分が周りに与える影響や周りとの関係の中でどんな存在であるかという自己への洞察も含まれます。自己認識と自己受容が深まることにより周りとの関係性の中での「自分らしさ」が認識され、自分らしいリーダーシップの発揮に繋がります。そして一人一人がマインドフルにオーセンティックリーダーシップを発揮することは、組織の力になります。
マインドフルネスによる3つのエンパワメント領域
マインドフルネスを取り入れる事で下記の3つの領域「WELL-BEING(心と体のウェルビーイング」「AUTHENTICITY(自分らしさの発揮)」「CONNECTEDNESS(繋がりの強化)」が高まると考えています。マインドフルネスは、単に癒しや心の安定のものではなく、1人1人が自分らしさを軸にしなやかに強くリーダーシップを発揮し、チームとの繋がりの中で可能性を広げる土台になり、個人そしてチームがエンパワーされるのです。
①WELL-BEING(心と体のウェルビーイング)
まずは、自分の思考や感情、心や体の状態に気づくことから始まります。思考や感情を押し殺すのでなくありのままに受け入れる事で自分の意志で選択し行動できるようになります。どんな状況でも自分の感情や思考に振り回される事なく、自分自身をニュートラルに保ち、変化やストレスにも対応できるしなやかな強さ「レジリエンス」が養われます。
②AUTHENTICITY (自分らしさを軸にリーダーシップを発揮)
心と体が整った状態でオープンに自分の内側に意識を向けると、自分の軸となる「価値観」「強み」「想い」「モチベーション」に気づく事ができます。そして自分の「弱さ」もありのままに受け入れ、隠すことにエネルギーを使う事なく、自分らしさを武器にリーダーシップを発揮することに繋がります。
③CONNECTEDNESS(チームの繋がりの強化)
マインドフルネスで面白いのが、自分に意識を向けることでそこから周りの繋がりを感じるようになる事です。自分をありのままに受け止められるようになると、周りもありのままに受け止められるようになり、共感や思いやりが生まれてきます。それは自分に大切な価値観があるように相手にも大切な価値観があると共感力が高まるからです。そこからチームの繋がりが強化されます。
マインドフルネスオフサイトで一人一人の自分らしさが発揮される環境を整える
マインドフルネスを企業に導入するにあたり、この3つの柱「WELL-BEING」「AUTHENTICITY」「CONNECTEDNESS」で総体的に個人とチームをエンパワーしていくことが効果的だと考えます。自己認知を高め自分らしさを発見し、自己開示を通して相互理解を深め、そこに共感や思いやりが生まれ、チームやコミュニティの中でより一層自分らしさを発揮することに繋がるからです。その点でマインドフルネスをベースにしたオフサイトはとても効果的です。
マインドフルネスオフサイトでは、仕事の場から物理的に離れ非日常な空間に身を置き「今この瞬間に、意図的に、評価判断なく、注意を向けること」というマインドフルネスの概念をベースにした場が創造されます。これこそ個人とチームが成長するために必要な環境です。失敗する不安や弱さを隠す事にエネルギーを費やすのでなく、安心して自分の力を最大限に発揮できるような安心安全な環境です。この「心理的安全性」は会社が提供するものでなく、そこに関わる人全員で作るものです。マインドフルネスオフサイトでは、自己も他者も評価判断する事なくありのままに受け止めるマインドフルネスの概念を大切にする事で、参加者全員でそのような場を作ります。
手法に関しても知識やアクションを落とし込むティーチング方式のセッションではなく、個々の可能性を信じその人の内側に既に存在しているリソースや個性を引き出すコーチング方式のインタラクティブなセッションは、自発的な内側からの気づきに繋がります。新たな考え方に触れる「学び」や実際の「体験」を通して、体感から得られる内側からの気づきが促されます。そしてその自分への気づき、周りへの気づきこそ自分らしいリーダーシップの発揮に繋がります。
まとめ
マインドフルネスという在り方を取り入れることで、個人とチームのエンパワメントに繋がります。個人とチームのレジリエンスが高まり、自己の洞察から自分らしいリーダーシップが発揮されます。マインドフルネスによる受容から心理的安全な場が創出され、更にチームとの関わりの中で個々の自分らしさが発揮されるという、個人とチームの相互の好循環が生まれます。マインドフルネスは、1人1人が自分らしさを軸にしなやかに強くリーダーシップを発揮し、チームとの繋がりの中で可能性を広げる土台になります。今この変化の時代だからこそ求められる個人・チームの在り方です。個人やチームの成長に是非マインドフルネスを取り入れてみてください。
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