人材も資本であるという人的資本という考えから、その価値を高める人的資本経営が企業に求められています。人的資本経営では、人材の成長につながる研修や労働環境の改善など多くのことをやらなければいけません。そこで注目したいのが、人的資本経営の実践に役立つISO30414というガイドラインです。今回の記事では、ISO30414についての基本的な知識から、ISO30414リードコンサルタントのこと、開示項目と指標の計算式などを解説していきます。

ISO30414とは何か

ISO30414とは、国際標準化機構が2018年2月に発表した人的資本に関する情報開示のガイドラインです。ISO30414では、人的資本に関する情報の規格を11領域58指標で分類しています。規格を作ることで、世界中の企業が統一した基準で社内・社外に情報開示できるようになります。人的資本は定量化することが難しく、明確なデータを開示しにくい面がありましたが、ISO30414というガイドラインができたことで定量化しやすくなりました。ISO30414が制定された目的のひとつは、公開企業で人的資本がどうなっているのかを組織や投資家に把握してもらうことです。開示された情報から人的資本の向上、ひいては企業の成長が見られるときには多くの資金を集めることができるでしょう。

他にもISO30414制定の目的として、企業の持続的な成長を促すということが挙げられます。人的資本を見える形にすれば、現状の問題が明らかになり、問題解決のために何をするべきかを考えることができます。ISO30414に沿って人的資本の情報開示をすれば人材及び企業の価値は向上し、持続的な成長が可能となるでしょう。また、人的資本の価値を引き出す企業になれば、転職先として選ばれることも多くなるため、優秀な人材を確保しやすくなります。優秀な人材が集まれば人的資本は一段と高まり、企業は大きく成長します。

企業に多くの恩恵をもたらす人的資本の情報開示は、アメリカでは上場企業に義務付けられています。日本では、人的資本の情報開示を義務付ける法律はありません。しかし、2021年6月に改定された東京証券取引所のガバナンスコードで義務化が盛り込まれたことで、上場企業は避けて通ることができなくなりました。その流れを受けて、法制化されることも予想されます。これまでの事情を踏まえて、多くの企業がISO30414の認証取得を目指しています。2022年3月に日本初となる認証企業が誕生しており、今後その数は増えていくでしょう。

ISO30414の認証を取得するための審査とリードコンサルタント

ISO30414の認証を取得するための審査

ISO30414の認証は、認証機関の実施する審査に合格すれば取得できます。審査を受けることを決めた企業は、まずISO30414の開示項目をよく理解して必要な情報を集め、整理していきましょう。次に情報を読み解き、人的資本の現状や人的資本に関する取組の状況などを確認して整理します。情報の整理を終えたら、戦略の策定です。情報開示をするときに提示する人的資本の向上・企業の成長につながる戦略を練り、それに合わせて開示項目の優先順位をつけて情報開示を行います。最後に開示された情報が、認証機関による第三者認証を受けて合格したら、認証取得です。

ISO30414の審査では、開示情報が適切に取得できているのかの確認、経営者や人事責任者へのインタビューと従業員への確認などを調べられます。情報を取りまとめれば終わりというわけではありませんので、準備は入念にしなければいけません。また、認証を取得するためには、過去3年分の情報開示が必要です。扱う情報量が多くなれば、準備にそれだけ時間がかかります。認証取得を目指すのであれば、すぐに動き始めた方が良いでしょう。

無事に認証取得ができても、それで終わりではありません。ISOには、3年間の有効期限が設けられています。取得の翌年と2年目には維持審査を、3年目には更新審査を受けなければいけません。維持審査よりも更新審査は厳しく、通過しなければ更新できない仕組みです。取得できただけで満足すると、維持審査・更新審査に落ちてしまう可能性がありますので、ISO30414を常に意識して必要とされる施策を行う必要があります。

頼りになるISO30414リードコンサルタント

ISO30414に関連した資格として、ISO30414リードコンサルタントがあります。ISO30414リードコンサルタントは、ISO30414導入に関してコンサルティング・審査・監査を行えるだけの知識・能力を持つ人が取得できる資格です。プロフェッショナル認証講座を受講して、ISO30414の内容を理解して試験に合格すれば、ISO30414リードコンサルタントの個人認証を得ることができます。企業は、ISO30414リードコンサルタントの資格保有者がいるコンサルティング会社に導入支援を頼んだり、自社の従業員に資格を取らせることで、ISO30414の認証企業となるために必要な準備を円滑に行うことができるでしょう。

ISO30414の開示項目一覧

ISO30414の開示項目は、11領域58指標です。領域の場合、次のような内容になっています。

  1. 倫理とコンプライアンス
  2. コスト
  3. ダイバーシティ(多様性)
  4. 組織風土
  5. 健康・安全・幸福
  6. 生産性
  7. 採用・異動・退職
  8. スキルと能力
  9. 後継者計画
  10. 労働力

これらの領域の下には複数の指標があり、「1.倫理とコンプライアンス」の場合には次のような内容があります。

  • 提起された苦情の種類と件数
  • 懲戒処分の種類と件数
  • 倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合
  • 第三者に解決を委ねられた紛争
  • 外部監査で指摘された事項の数と種類

開示項目として挙げられている領域と指標ですが、全てを開示しなければならないというわけではありません。例えば、「提起された苦情の種類と件数」や「懲戒処分の種類と件数」は大企業が対外開示を推奨されている指標であり、「倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合」は大企業・中小企業ともに対外開示を推奨される指標です。対外開示を推奨されていない指標については、内部だけに開示して議論を進めるという選択肢もあります。このように開示する情報は、企業ごとの事情を考慮して選ぶことになるでしょう。

ISO30414の指標に使われる計算式

ISO30414に沿って情報開示をするためには、人的資本を計算して定量化する必要があります。そこで使われる計算式は指標ごとに異なりますので、よく調べておかなければいけません。例えば、7番目の領域である「生産性」には「人的資本ROI」という指標があります。「人的資本ROI」は人的資本投資の収益貢献度を示しており、数値を見れば人件費や研修費といった投資に効果があったのかを確認できます。その「人的資本ROI」を数値化する計算式は次のようになります。

人的資本ROI=[売上高-(総経費-人件費)÷人件費]-1

計算で求めた人的資本ROIが高いほど、人的資本投資の効果が出ているということになります。人的資本ROIが低いときには、無駄になっている部分を削るなどの施策が必要です。

ISO30414で使われる計算式を他にも挙げるとすれば、8番目の領域である「採用・異動・離職」の「離職率」の計算式ですが、一般的な企業で用いられるのは次の計算式です。

企業が定める一定期間内の退職者数÷起算日の在籍者数×100(%)

「離職率」は、大企業・中小企業ともに対外開示を推奨される重要な数字です。企業が人的資本の価値を引き出そうとしているのであれば、「離職率」は低くなります。逆に「離職率」が高いときには、企業が人材を大事にしていないことがわかります。そのような企業は成長する可能性が低く、投資家から見放されてしまうでしょう。

時代の流れに乗り遅れないようISO30414の認証企業になろう

ISO30414に沿った情報開示は、日本企業も積極的に行わなければいけない時代になっています。経営者・人事担当者は時代の流れに乗り遅れないため、人的資本を高めて企業の成長を促すために、ISO30414の認証企業を目指して審査に必要な準備を進めましょう。開示項目や指標に使う計算式のことでわからないことがあれば、ISO30414リードコンサルタントのような専門家に相談をすれば解決できます。

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