これまでの人事評価は、上司が部下の職務遂行能力や勤怠状況などを評価するのが一般的でした。しかし、働き方改革や職務環境の多様化などを背景に、360度評価を導入する企業も増えています。適切に導入できれば様々な効果を望めますが、デメリットもある評価制度です。「導入しても意味がなかった」とならないように、事前にメリットとデメリットを検証しましょう。ここでは、360度評価について詳しくご紹介します。

360度評価とは

360度評価とは、「360度フィードバック」や「多面評価」とも呼ばれる評価制度です。元々はアメリカで考案された能力を開発する手法のひとつでしたが、日本では人材育成の手法であると同時に人事評価制度として浸透していきました。360度評価の大きな特徴は「上司が部下を評価する」という一面的な評価と異なり、「上司・同僚・部下・取引先などが評価する」という多面的な評価であるという点です。働き方改革や職務環境の多様化を受けてマネジメント人材の不足、上下関係のないフラットな組織、一人の人材が様々なプロジェクトに参加する複雑な人間関係など、企業の組織体制は大きく変化しました。このような状況下でも妥当性のある人事評価をすることを目的として、360度評価を導入する企業が増えています。

360度評価のメリット

360度評価には多様なメリットがあります。1つ目は、評価の公平性や客観性が高まるという点です。上司が部下を評価するという評価制度では、「上司に気に入られている」など上司の主観的な価値基準によって評価が左右されることがありました。しかし、360度評価は上司・同僚・部下、場合によっては他部署・取引先など様々な人が評価をするため、評価の妥当性が増すことになります。

2つ目は、円滑なコミュニケーションが促進されるという点です。お互いが評価をするという関係では「良好な職場環境を作ろう」、「チームの雰囲気を良くしよう」という心理が働きます。このような職場環境は良好な人間関係を築くために重要ですし、従業員の満足度を高めることにも役立ちます。また、評価する人は評価対象になっている人をよく観察することになるため、それまで気付かなかった相手の特性に気付くことがあります。相手の長所や欠点を知ることで上手にコミュニケーションを取ることが可能になり、チームとしての力を向上させることにも効果が期待できます。

3つ目は、人材育成に有効という点です。多面的に評価された内容についてフィードバックを受けることで、それまでは気付かなかった自身の特性を知ることができます。そのため、自分の強みを生かした業務に従事して業務成績を伸ばしたり、自分の欠点を改善できるように行動することができるようになります。360度評価の結果を社内公表する場合は、上司やプロジェクトリーダーからも自身の特性に応じて適切な指導を受けられることが期待できるため、人材育成に有効だと言えます。

360度評価のデメリット

360度評価にはデメリットもあります。ただし、デメリットばかりが目立つと「360度評価は意味ない」と従業員の不満感が増すことになりますので、デメリットを解消する方法を考えておくことが大切です。デメリットの1つ目は、個人的な人間関係に左右されるという点です。例えば、仲の良い同僚には良い評価をして、ライバル関係のある同僚には悪い評価をするというように、主観的な評価になる恐れがあります。また、記名式や社内公表式の評価制度にしている場合は忖度や談合が起きるリスクもあります。

2つ目は、健全な人間関係が形成できない可能性があるという点です。例えば、自分の評価を良くするために他の従業員に迎合する人が増えることが考えられます。また、悪い評価になることを避けるために、上司から部下に適切な指導が入らないという懸念もあります。特に評価結果が給与や待遇に影響する場合は、この傾向が強くなる可能性がありますので注意が必要です。

3つ目は、導入するコストがかかるという点です。360度評価を導入するまでには目的設定、評価シートの作成、社員研修などが必要になり、時間的コストがかかります。新しく人事評価ソフトを導入する場合は、経済的コストも必要です。また、これまで評価を担当していなかった従業員が評価を担当することになるため、時間的コスト・肉体的コスト・精神的コストがかかります。評価が低かった従業員は精神的コストが増大することが懸念され、従業員のモチベーション低下や社内の人間関係悪化などのリスクを抱えることになります。

360度評価を取り入れたトヨタ自動車の事例

トヨタ自動車株式会社では、過重労働と上司からのパワーハラスメントで従業員が自殺するという痛ましい事件が起きました。この事件を受け、再発防止に向けた方策として360度評価を導入したという経緯があります。マネジメント層のリーダシップ能力や人間性を評価するという大きな目的があったため、課長級以上の管理職に対して360度評価を実施しています。評価の結果、管理職としての適性がないと判断された場合は、人事異動や昇格の見送りが行われました。

360度評価で失敗しない方法

360度評価で失敗しないためには、次のポイントを押さえておくことが大切です。

1つ目は、360度評価の目的を周知徹底することです。ガイドラインを策定したり、社員研修を実施して「何のために360度評価を行っているのか」という理念を共有しておくことが大切です。この理念や目的が明確になっていれば、個人の価値観に左右される、従業員のモチベーションが下がるなどのデメリットを回避することができるでしょう。

2つ目は、中・長期的な視点に立ったスケジュールを策定することです。360度評価は、1回の評価で大幅な改善が見込める評価ではありませんので、短期間での成果を期待しすぎないようにしましょう。360度評価にはメリットもデメリットもあるため、常により良い評価制度になるように改善のサイクルを回していくことが大切です。

3つ目は、企業の実態に合った評価方法を採用することです。例えば、設問の内容・設問数・評価対象者・評価者の範囲・記入方式・記名の有無など、決めなければいけないことがたくさんあります。評価対象者を管理職に限定する場合は、設問の内容を「マネジメント能力」「コミュニケーション能力」に主眼を置いて設定すると良いでしょう。もし、評価対象者を全従業員に広げる場合は、評価者の負担が増えすぎないように設問数を少なめに設定したり、記入方式をマーク式にするなどの配慮が求められます。また、360度評価だけでは人事評価が不十分だと判断した場合は、他の人事評価を併用することも検討しましょう。

4つ目は、丁寧にフィードバックや分析を行うことです。個別面談やグループワークなどを実施して評価結果をフィードバックし、適切なフォローアップをすることで360度評価の結果を業務改善に生かせるようにしましょう。研修時間等を利用して、従業員が個人で改善指標を立てる時間を設けるなどしても効果的です。また、企業全体の評価結果を分析することも大切です。俯瞰的に評価結果を捉えることで、組織としての特性や強みが明らかになることがあります。評価をやりっぱなしにせず、結果を業務に生かしていけるようにフィードバックと分析を丁寧に行う必要があります。

360度評価を導入する流れ

360度評価を導入する場合、次のような手順を踏むと良いでしょう。導入が失敗しないように、一つひとつのステップを慎重かつ丁寧に行う必要があります。

360度評価を導入する目的の明確化

まずは、経営陣レベルで導入の目的を確認・整理します。必要に応じて、社内アンケートを実施するのも良いでしょう。

プロジェクトメンバーの選定

人事部の人材を中心にプロジェクトメンバーを選定して、360度評価の方法や内容について検討しましょう。

導入の効果とリスクの検証

導入の効果とリスクを比較・検討して、メリットの方が大きいことが分かれば次のステップに進みましょう。

スケジュールの立案

実施時期や方法、フィードバックの時期などの計画を立て、見通しを持って評価ができるようにします。短期的な計画はもちろん、中・長期的な視点に立ったスケジュールも立案しましょう。

ガイドラインの策定・従業員への周知

ガイドラインを策定したら、スケジュールとともに社員に周知します。必要に応じて研修会を開くなどして、評価の目的を共有できるようにしましょう。

評価者・評価対象者の選定

360度評価の目的に合わせて、評価する人と評価される人を選定します。評価する人の負担が大きくならないように配慮しましょう。

評価の実施

ガイドラインに沿って、評価を実施します。不明点への対応などはプロジェクトメンバーを中心に行いましょう。

フィードバック

面談を行うなどして、丁寧にフィードバックを行います。評価された人のモチベーションが上がるようなフィードバックになるように努めましょう。

評価結果の分析

組織としての特性を分析して、企業風土や業務改善に役立てましょう。

フォローアップ

フィードバックした内容をもとに、適切なフォローアップを継続的に行いましょう。

評価の見直し

1から10までのステップを見直し、次の評価に生かせるようにしましょう。

このように、評価のサイクルを回していくことで、より良い評価体制を作ることができるようになります。

360度評価を活用して組織風土の醸成や業務の改善につなげよう

360度評価は評価の公平性を高めたり、人材育成に役立てるのに有効な評価制度です。デメリットもある一方で、適切に評価を行うことができれば、従業員のモチベーションが向上したり、パワーハラスメントの被害を事前に防ぐことができます。現在、企業で行っている評価方法が合わなくなってきていると感じている場合は、360度評価の導入を検討してみましょう。

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