1on1は、企業に対する従業員のエンゲージメントを高めるための有効な手段の一つですが、その目的が正しく伝わっていないと単に従業員にとっての苦痛の時間になりかねません。せっかく貴重な時間を費やして1on1を行ったのに、それがかえって従業員に悪影響を及ぼしてしまっては元も子もありませんので、今回はそうならないようにするために、その目的について詳しく見ていきます。

1on1とは?

まず初めに、1on1とは人事の世界における専門用語の一つで、その名の通り「従業員が一対一でミーティング」をするというものです。1on1の場合、通常は上司と部下との間で行われるケースが多いですが、必ずしもそれだけではなく同僚間で実施することもあり得ます。かつても「部長面談」や「課長面談」といった形で上司と部下との対話の機会は設けられていましたが、2010年代に入ってから導入する企業が増えてきた1on1は主に目的の面で、そういった昔ながらの面談とは一線を画したものとなっています。

1on1の目的とは?

では、1on1を行う目的とは何なのでしょうか。それは「上司と部下の間の心理的安全性を高めることによって、組織のパフォーマンスの最大化を図る」というものです。ここで、心理的安全性というのは、組織の中で従業員が自らの考えや気持ちなどを誰に対してでも安心して発言できる状態を言います。この心理的安全性が確保されていない組織では、従業員は「例え自分の意見を述べても誰も取り上げてくれない」、「下手に意見をすると上司に目を付けられてしまって面倒なことになる」などと考えがちであり、その結果としてせっかく優秀な人材がいたとしてもその能力を最大限に発揮させることは困難でしょう。上司と部下との信頼を醸成し、従業員が誰でも遠慮せずに自分の意見を言い合える環境を作り出すことこそが1on1を行う目的であり、それが主に部下の評価を目的とした従来型の面談との大きな違いです。

また、1on1は心理的安全性を高めるだけでなく、従業員のエンゲージメントを高めたり、マネジメントのクオリティアップを図るためにも行われます。まず、上司が部下に関わる機会を増やすことによって、組織に対する部下のエンゲージメントを高められるという考え方が背景にあります。このエンゲージメントというのは、組織に対する愛着心や帰属意識を表す言葉で、基本的にはエンゲージメントが高くなればなるほど、その従業員は持てる能力を使って貢献しようと考えるため、結果的に組織の生産性の向上につながるとされています。そのため、1on1はエンゲージメントを高めることによって、労働生産性の向上を図るための手法であるとも言えるでしょう。

次に、1on1は上司が部下への接し方を振り返る機会となります。コミュニケーションの場を設けて部下の考え方や思いを聞けるようにすることによって、上司に内省を促し、マネージャーとしての成長を図るきっかけにできます。社内において優秀なマネージャーを複数育成できるようになれば、企業全体のマネジメント力の向上へとつながるでしょう。

1on1を実施するメリットとは?

ここからは、1on1を実施することでどのようなメリットが得られるのかについて見ていきましょう。まず1つ目のメリットは、コミュニケーションを通じて上司と部下の相互理解が進むという点です。一度ミーティングをしただけではお互いをよく知るのは難しいかもしれませんが、定期的に1on1を繰り返すうちに相手がどういったことを考えているかや自分についてどういった印象を持っているのかといった点が分かるようになってくるはずです。1on1を通じて相互理解が進み、それに伴って心理的安全性が確保されるようになれば、自然と部下が上司に自分の意見を伝えたり、仕事の悩みなどを相談できるようになりますので、それによって組織のパフォーマンスは大きく向上するでしょう。

また、2つ目のメリットとして、離職率の低減につながるという点も見逃せません。前述の通り、1on1によって従業員のエンゲージメントを向上させることができれば、勤めている企業への愛着心や忠誠心が高まりますので、それによって退職したいと考える従業員は少なくなるでしょう。民間の調査でも、心理的安全性が高い企業ほど従業員の離職率が低くなる傾向が示されていますので、それを見ても1on1は従業員を長く自社に繋ぎとめるために有効な方法であると考えられます。

さらに、3つ目のメリットとして挙げられるのが、1on1によって上司が部下の仕事の進捗状況をタイムリーに把握できるようになるという点です。例えば、月次で1on1ミーティングを行うようにすれば、少なくともその頻度で仕事の状況を直接聞くことができますし、1on1によって心理的安全性が高まれば、わざわざ上司が聞かなくても部下の方から積極的に進捗を報告するようになってくるでしょう。

効果的な1on1のやり方とは?

1on1を苦痛に感じる従業員の中には、そもそもそれが何のために行われているのか分からないが故にストレスを感じてしまっている人が少なくありません。そういった従業員に少しでも前向きに1on1に臨んでもらうようにするためには、まず最初に1on1によって心理的安全性を高め、組織としてのパフォーマンスを向上させるという目的を明確に伝えるようにするのがおすすめです。

もっとも、それだけでは必ずしもすべての従業員が積極的な姿勢で1on1に臨んでくれるようにはならないのが現実です。そこで、様々なやり方を駆使する必要が出てきますが、従業員の置かれた環境や考え方は一人ひとり異なりますので、「これをやれば大丈夫」という決まったやり方は存在しないという点を頭に入れておくようにしましょう。ただし、だからと言って効果的な1on1が全くないわけではありません。例えば、毎回のミーティングの時間をただ何となく二人で話して終わるのではなく、そこで出た内容をメモに残し、次回はそれを踏まえて続きの話をするようにすれば、上司と部下の相互の理解をより深めやすくなるはずです。

それ以外にも、上司が部下のパーパスを問うて考えてもらうというやり方も効果的です。経営学では企業としてのパーパスが重視されますが、1on1では個々の従業員にとってのパーパス、すなわち何のために働いているのかという点を掘り下げていくことによって、今の仕事や勤務先への思いを新たにし、エンゲージメントの向上につなげられます。なお、ここで注意しなければならないのは、いきなり上司からパーパスについて聞かれても、多くの従業員はすぐには本音で応えてくれないという点です。パーパスについての会話はお互いの信頼があって初めてできるようになりますので、まずは上司の方から自分にとってのパーパスとは何かを語り掛けてみるなどして、部下が話しやすくなる環境を作るように努めるのが肝要です。

この他に、1on1において部下が話しているときは、上司はなるべく口を挟まないようにしましょう。口を挟んでしまうと、自分の考えが否定されたと考えて心を閉ざしてしまう従業員が少なくないからです。上司としては自分の考えを伝えたいと思って、つい部下の話を遮ってしまいがちですが、そこはぐっとこらえて利き手に徹した方が良いでしょう。

1on1を活用して企業を良い方向に変えていこう

ここまで見てきたように、1on1の目的は上司と部下の間の心理的安全性を醸成することによって、組織としてのパフォーマンスの向上を図るという点にあります。それだけでなく、従業員のエンゲージメントを高めて離職率を低下させたり、上司のマネジメントスキルを磨くといったメリットもありますので、企業を良い方向に換えていきたい場合に1on1は非常に有効な手段です。

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