この記事はインタビュー記事の後編になります。前編は以下リンクから確認できます。

「高度ネットワーク社会」で求められる人材マネジメント

―― 「高度ネットワーク社会」に向け、求められる人材マネジメントとはどのようなものでしょうか?

全ての仕事がネットワークによってつながっていく時代が来ます。ここでは、意図的にネットワークをどう使うのかということを意識することが重要です。
「ネットワーク」というと、近年はデジタルの「ネットワーク」をイメージします。ある意味それは正しい面がありますが、これまでのアナログなネットワークの概念がなくなることは意味しません。これまでのアナログな人的ネットワークも、デジタル空間の中では成立します。その意味で広く「ネットワーク」をどう定義して活用するかが重要になるのです。

これまでは、「ネットワークの活用」といった類のものは、社会(会社組織)で過ごしていく過程で、自然と育まれました。しかし現在は、ネットワークの幅(種類)が非常に広くなっています。地球の裏側にいる人とすぐ連絡が取れる状況下では、自分が意図的に「対象者」や「対象物」にアクセスするかしないかで、ネットワークの量と質が大きく変わってきます。

現代は、いかに有益なネットワークを自分で選んで、使っていくかが問われる時代となってきています。企業人材にとってもネットワークを選別する巧拙が、その後の活動やキャリアなどにも大きく影響を与える世の中になってきています。

これは会社側も同様です。会社というネットワークコミュニティをどう使っていくのか、どう選んでいくのかが求められるようになります。高度ネットワークのある会社は、その会社に集う社員にとってもキャリア創造にあたって非常に魅力的になります。そうすることで、リテンションにもなりますし、外部人材も集まってきます。自社内にそのようなネットワークコミュニティが無ければ、人は辞め、採用も厳しくなります。会社側が考えなくてはならないのは、「選ばれる会社」となっているかどうか、ということになります。

選ばれる会社にならなければ、人は集まりません。人が集まらなければ、金もビジネスも集まりません。ですから、どうやって人から選ばれる会社となるか、そのための「人的リソースマネジメント」の一つとして「ネットワーク」といった概念が重要になるのです。

例えば、「うちの会社に来ればこういうリターンがあります」という時に、お金だけではなく非金銭的なものを用意することです。具体的には、経験値、仕事のスキル、周囲からの称賛、キャリアへのつながり、あるいは、うちの会社でなければ得られない仲間との関係性などです。これはすべてその会社で得られる「ネットワーク」そのものです。そういった「ネットワーク資産」はお金では買えない有益なメリットになり得るのです。

ビジネススクールは、この「ネットワーク」の典型です。そこで学んだ知識も大事ですが、もっと有益な点はそこでできたネットワークです。ビジネススクールに集う世界有数な高度人材たちとの高密度な関係性こそが有益なネットワーク資産なのです。このような形で、人材が会社に集うことで、得られるものを明確にしていくことが人材を獲得・維持していく競争力になっていきます。

なぜ「ワークスタイル変革」が必要とされるのか

ワークスタイル変革が必要
―― 「高度ネットワーク社会」において、なぜ「ワークスタイル変革」が必要とされるのでしょうか?

これからは、法で守られる時代ではなくなってきます。前述したように、会社から与えられるのではなく、自分で選んでいく時代です。だからこそ、人材としても自ら能動的に選択し、変えていくスタイルに変わらなくてはいけません。

会社もこれまでのように仕事や教育の場を与えてくれなくなります。高いリターンがある人材にしか投資しなくなります。受動的に機会を待つのではなく、自分で仕事や教育の場を得ていくといった積極的な機会創造が必要になります。「当社にはどんな育成体系があり、人材をどう育成してくれるのでしょうか?」といった受け身人材は淘汰される運命にあります。今までとは真逆のスタイルで自己の機会創造、キャリアの選択、会社の選択が必要となります。それが、「ワークスタイル変革」です。

ワークスタイル変革と言うと、モバイルワーク、スマートワークのようなもの、あるいはそれに付随した働くオフィスやインフラの環境変化であると認識している人が多いように思いますが、これらはあくまで手法や一部の話です。それだけでなく、仕事に対する自分のスタンスを変えることが、本当のワークスタイル変革なのです。このことを認識しているかどうか、その点が大きく問われるようになります。
この認識が、この先、生き残れる人材になるか否かの分かれ道になると考えます。

「働き方改革」と「ワークスタイル変革」との違い

―― 近年、「働き方改革」が叫ばれていますが、「ワークスタイル変革」との違いは何でしょうか?

「働き方改革」は、世の中の求めに応じて環境整備していくもの。例えば、女性や障がい者など、社会的弱者も同じ環境で働けるようにしていく、といったことです。長時間労働ができない人にも、同じ仕事を与えられるようにするにはどうすればいいのか。社会的な弱者も平等に機会を得られる環境をどのように作り上げるべきか。

こうしたことを実現し、機会の平等を求めていくのが働き方改革です。社会的な取り組みですので、社会全体に影響を与える行政によるリードは必要な取り組みです。

「ワークスタイル変革」の場合、まず機会の平等が前提としてあります。重要なのは、その中で自らの意思で生活とのバランスやキャリアを勘案して仕事を取っていくことです。自分のスタイルを貫いて、キャリアを作っていくことを指します。つまり、自らの働き方を確立することが、ワークスタイル変革が求める本質です。働き方改革はそういう機会を環境整備と共に与えていくものであり、両者は全く別のものと考えなくてはなりません。

「ワークスタイル変革」を推進していく際のハードル

ワークスタイル変革を推進していく際のハードル
―― 「ワークスタイル変革」を推進していくために、ハードルとなっていることは何でしょうか?

現在の労働法や関連法規です。長期雇用や時間による管理が前提となっている法律自体が、様々な意味で不具合を招いていると考えます。もちろん、不利益変更を許すようなことはあってはいけません。ただそれが全て、時間ベースで対応していくものなのでしょうか…。

労働において時間で測れないものが増えている環境変化に追いついていません。仕事をアウトプットで評価し、処遇していくという本当の意味での成果主義に対応できていません。もちろん、働く人の生活を守っていくことも大事ですので長時間労働を是正するための「労働時間管理」は必要だと考えます。

ただそれは、前提として守るべきもので、評価するものではありません。一方で、「同一労働・同一賃金」など、非正規社員に関しては実質的にジョブ型を推進するなど、行政の対応も非常にチグハグになっています。

また、現在、蔓延しているコロナウイルスへの対応のように、準備不足のまま、テレワークなど様々な働き方を入れなければならないという状況になった時、まさに会社側の対応力が試されているのだと思います。事業承継としてのBCP対応を含めて、何を止めて何を継続していくのか、取捨選択を迫られている局面であると考えます。

今後、何を自分たちのコアとして何を残すべきか。企業側にとっても、従業員側にとっても、これを再考し明確にする、良い機会だと思います。加えて、危機が去った時に、どういう回復施策を講じていくのか、再起動をしていくか、このことをしっかりと考えていく必要があります。

いずれにしても、今回のようなケースは予測不能なもの。したがって、会社として、柔軟に変化させながら、判断していくことが大事です。実際、その意思決定が間違うこともあるでしょう。もし間違ったとしても、それを速やかに修正し、対応することを前提としていくこと。経営者は、このような勇気と柔軟性を持たなければなりません。

加えて、「覆水盆に返らず」ではないですが、コロナの蔓延した前の経済環境や労働環境に戻ることはありません。テレワーク・モバイルワークは当然でしょうし、オフィスを持たない、ホームオフィス型ビジネスも市民権を得たものになるでしょう。その中で、企業も従業員もどのように機会を選択していくかを考え行動していかなければ、市場に残っていくことができなくなります。

これからの企業・人事が取るべき姿勢

―― 少子高齢化、労働力人口の減少など、今後、予想される労働・雇用に関するさまざまな事象に対して、人事はどのように備え、どういう姿勢で臨むべきでしょうか?

人事としての機能が変わっていかなくてはなりません。これまでは、「人事機能=ピープル・マネジメント機能」という位置づけでしたが、これからは本当の意味での「ヒューマン・リソース・マネジメント機能」へと、変わっていく必要があります。

人材の労働管理・処遇管理・経験管理・育成管理といったピープルマネジメントだけでなく、ヒト・モノ・カネ・情報・時間という経営資源をどのように最適配分していくか。その際に、ヒトといった「人材」に同のような投資をしていくべきか、その投資の質をどのように判定して、経営資源の最適化を図るかを的確に判断していくエージェント機能がまさに不可欠となっています。

その結果、やるべき施策も変わってきます。例えば、今までの人事では「人を守るためにどうするか」ということに注力していました。しかし、リソースマネジメントの視点では全く異なります。

「人に1万円を投資して3万円のリターンがあるとしたところ、ITに1万円投資したら10万円のリターンがあったとしたら、どうでしょうか?」

経営判断として考えた場合、ITに投資することが合理的なのは言うまでもありません。そうした時に、人をどのように配置・配属していくことがベストなのか、対応策を人事は考えなくてはなりません。経営を最適化するための人的施策を講じることこそが必要になるのです。結果としてそのことが、「企業が成長を維持し労働力としての人材を活用する機会を創出する」ことにつながるのです。

このように、これからの時代、人事は経営戦略を踏まえ、そのために最適な人事戦略を考え、対応していかなくてはなりません。人を採用し、働く場を提供したことによって、いかに事業が継続し、成長していくか。財務戦略でいうROI(Return On Investment)、ROE(Return on Equity)のような考え方を、人事領域に流用して、言わば「ROHR」(Return on Human Resources)といった考え方も人事に必要となるのです。

戦略人事をどう行うか

―― 経営を取り巻く環境変化が著しい中、経営戦略と連動した人事(戦略人事)を進めていくには、どうすればいいのでしょうか?

重要なのは人事が「for 人」だけでなく、「for ビジネス」になっているかどうかです。会社は、今後とも同じ業種・業態で存続していかなければならないという縛りはありません。忘れてはならないのは、ビジネスが継続していくことです。

そこには当然、人が関与する場が醸成されます。仮に業種・業態や会社名が変わっても、人の働く場のきちんと確保がされれば、事業承継(BCP)の観点からも、それは素晴らしいこととも言えます。

「会社名を残すことを是とするのか?」「同じ組織で残っていくのか?」「同じ業種・業態で残っていくのか?」「同じメンバーや人材で残っていくのか?」会社を存続、あるいは成長させる方法はいくつもあります。どの方法で成長・拡大していくかを考えることが重要となります。このような仕組みを明確にイメージし、「for ビジネス」で考え続けることができるかどうか。この点が人事と経営が本当に連動し、戦略人事を行えるかどうかの分かれ目となるように思います。

まとめ

―― 最後に、「人生100年時代」に対応するため、経営者に向けてメッセージをお願いします。

これから100年、同じ会社・企業体であり続ける必要ありません。それは、同じような雇用形態を維持することについても同様です。何より、ビジネスを続けていく中、社会に価値を提供し続けていくこと。そして、そのための仕掛けを創出し、コントロールしていくことが、まさに経営者の仕事と言えます。

結果として、人を雇用、あるいは労働者に活躍の場を提供し、社会に価値を貢献する存在として、存続していくことができれば、経済活動に貢献することになり、日本のGDPの向上、社会の繁栄へとつながっていきます。このような形で実践行動へと移していくことが、今、経営者に求められている使命(ミッション)ではないでしょうか。

この記事はインタビュー記事の後編になります。前編は以下リンクから確認できます。

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