人手不足の時代、ポテンシャルは非正規雇用社員

「人手不足倒産」が、20238月以降、前年同月を大幅に上回る水準で推移しています。担い手がいないため工事を受注できない、契約を継続できない、営業日時が確保できないことで倒産に至るケースです。労働者が企業を選ぶ時代になり、初任給の上昇、賃金ベースアップなどに対応して人材を確保できる企業と、対応できない企業の差が顕著になってきました。

一方で、労働人口そのものは減っているものの、シニア層の雇用継続や女性の就労の増加によって、就業者数は増加しています。正規社員は増えていないものの、非正規雇用は増えているのです。全体の35%になっている非正規雇用社員の比率は、今後、バブル入社50代が定年退職を迎え、嘱託社員に転換するとさらに高まることが予想されます。

今後の人材確保は、新卒正社員だけではなく、非正規雇用を含めて考えていくことが必須ですが、非正規雇用の社員を十分に活用できている企業は未だ少ないと感じています。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の推移

出所)「労働力調査」総務省

私事になりますが、5年前に転職活動をしていたとき、「非正規雇用」という経歴の厳しさを実感したことがあります。私は出産時にコンサルティング会社を辞め、しばらくの間社会保険労務士の資格や人事コンサルタントとしての経験をつかって、業務委託や短時間勤務の契約社員で仕事をしていました。いわゆる非正規雇用で働いていました。子どもも大きくなってきたのでフルタイムで働きたいと思い人材紹介会社に登録しようとすると、「貴殿の経歴と適合する仕事を紹介できません」という回答で登録すらできない。また、直接経歴書を送付した企業はすべて書類選考で落ちるという状況でした。年齢のわりには経験が少ないなどの要因もあると思いますが、非正規での期間はほぼブランクとして認識され、「40代 女性 契約社員」では、書類審査は通らないということを目の当たりにしました。

人手不足の時代と言われていますが、非正規の身分の労働者は「もっと働きたいのに働けない」状況も続いています。このようなミスマッチの多くは、画一的な企業の人事制度や「非正規雇用」に対する固定観念が原因ではないかと感じています。

そもそも正社員って何?

「正社員」とは、「就業規則●●条の採用プロセスを経て採用されたもの」となっている企業が多いと思います。それ以外に明確な区分で定義されていることはなく、メンバーシップ型で雇用してきた日本企業では、「新卒(もしくは第二新卒)で入社した社員」「管理職になる可能性のある社員」「会社の都合にあわせて、どこでも、いつでも働ける社員」などとイメージされているのではないでしょうか。

そして「おそらく長く勤務するから」「会社都合でどこでも働ける(転勤できる)、いつでも働ける(残業できる)から」正社員には各種手当を払い、賞与や退職金もあり、給与も少し高いというロジックになっています。それが最近は、ジョブ型で「職種毎」に採用し、「転勤なし」「テレワーク」「副業可」など多様な働き方の結果、正社員であってもなんらかの限定性があり、会社都合で異動ローテーションを実施できなくなってきています。転職が一般的になり、特に若年層では、「定年まで勤務する」ことを前提にはしていません。

そうすると、「そもそも正社員って何?」ということになります。また、非定型の難しい仕事ができる人が正社員で、定型的な代替可能な業務を担うのが非正規社員という構図も崩れています。小売業、サービス業の現場では、経験の長いパート社員が新人の正社員を教えているということは以前からあった現象です。しかし、専門性の高い契約社員や派遣社員も増えてきたため、特定の職務においては非正規社員の方が難易度の高い仕事をしていることも、珍しくなくなってきています。

同一労働同一賃金の潮流の中で、一部正社員と同様の職務を担っている非正規社員については「準社員」「専門契約社員」「パートリーダー」など区分して、賞与を支給し、役職手当で他の非正規社員よりも時給を高く設定しています。その結果、非正規社員の種類がどんどん増えて、ほぼ個別対応、制度があってないようなものになり、分かりにくさが不透明さになり、不満にもつながるという状態に陥ってしまうのです。

正社員と非正規社員の区分があいまいになり、非正規社員も様々な名称になっている

「正社員とは何か?」改めて考えると、処遇の基軸が「人」から「職務」に移ってきていること、労働者の多様な働き方のニーズに対応しなければならない状況になっているため、目先の職務内容だけで区分することが困難になっています。会社にとってもたらす中長期的な価値という観点で整理し、その定義に沿った運用を行うことが必要になっています。

以下のような条件で契約する社員を、正社員と定義することができます。
•全国に拠点がありコンプライアンスの観点から一定のローテーションが必須の業態において、転勤できることが組織運営にとって非常に重要なため、「転居を伴う異動を前提にした雇用条件」の社員
•経営幹部候補として職種をまたぐ異動ローテーションがあり、「組織横断の経営課題への取組も付加的に担う(タスクチームに参画)」社員
•基幹業務を安定的に運営するために一定期間勤務することを前提として「社内の人的ネットワーク、社外顧客との関係を構築する役割を担う」社員

多様な人材を活用するための雇用プラットフォーム

人手不足の状態でパート・アルバイトや契約社員の採用を増やしていかなければなりませんが、今いる非正規社員をリテンションして退職を減らし、活躍できる組織にすることを合わせて考えていくことも必須です。

非正規社員の制度として、以下の状態にすることが目指す姿だと思っています。
•職務内容に応じて適切な処遇になっている。正社員との処遇差がある場合は、それに納得感がある。
•個別の社員の能力や希望に合わせて、職務内容や役割を見直せる。会社と対象とする社員の意向があえば、正社員に転換することも可能。

非正規社員の制度を整備するためには、正社員側の人事制度は、「仕事もしくは役割によって等級区分される」「年齢で決まる処遇の要素がない」ことが、最低限必要になってきます。また、正社員と非正規社員の処遇差で問題になることが多い家族手当や住宅手当、賞与、退職金については、正社員の定義と連動して合理的に説明できる状態にしておくことです。例えば、会社命で転勤があるので住宅手当は正社員のみ対象にする、長期的に勤めることを求めているために退職金を支給するなどです。

処遇を検討する際に考慮しなければならない正社員と非正規社員の本質的な違いは、年齢と経験年数やスキルの相関性が高いか、低いかということです。正社員は、学校卒業後に就業を継続している人が多いため、年齢でおおよその経験年数と知識やスキルが相関しています。多くの非正規社員は、年齢、就業期間、経験年数、知識やスキルがその人によって大きく異なります。就業期間が長くても、十分な教育を受けてこなかったため、エンプロイアビリティが低いということもあるかもしれません。したがって、正社員は年齢でおおよそ処遇を決定しても、処遇とそれに見合うアウトプットとの差に大きく乖離しないですが、非正規社員の場合は、その人の経験やスキルを評価してその上で処遇を決めなければ、アウトプットに見合った処遇にならずに、その結果人件費が膨らむという現象が起きてしまうのです。

たくさんのパート・契約社員を雇用している企業では、「正社員にすると人件費がもたない」という理由で正社員への転換を躊躇、抑制していると聞きます。正社員がなかなか採用できない業界においては、むしろ正社員への転換を活発に促すのが良いのではと思うのですが、その人の経験や能力ではなく、属性年齢の場合には年齢にあった処遇をすることを前提にしているため、正社員に求める基準に達していないという印象で、現実ではなかなか難しいようです。

非正規社員を活用するには、対象者の年齢、性別といった属性ではなく、その人の経験やスキルを正しく評価する力、個別に対応できる柔軟さが求められます。属性でおおよそ区分し処遇していた制度そのものを、担う職務とその人の能力や経験がマッチしているのか評価し、外部水準を考慮した適切な処遇水準で処遇する力そのものが問われています。そして、それは、非正規社員の雇用だけではなく、人手不足の時代に限られた人的資源を有効に活用するために求められていることなのだと思います。

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