4月を迎え、今年も新しいスーツに身を包んだ新入社員が街中に現れました。弊社も6名の新卒社員が入社し、フレッシュな雰囲気が社内に広がりました。昨今の日本では転職が当たり前になっています。社員における中途採用者の割合も一昔に比べかなり増え、若年社員でも2社以上の勤務経験があることも珍しくない時代となっています。そんな中でも日本ではいまだ多くの企業が依然として新卒社員を迎え入れています。

新卒社員は、会社の理念や考えが浸透しやすいといった特徴があります。将来の幹部候補・コア人財として育成するのに適しており、企業の中長期的な価値向上に寄与する可能性を存分に秘めています。また、高い潜在能力を持っており、その後の育成で会社に大きな利益をもたらすことが期待できます。

終身雇用、年功賃金、企業別労働組合など日本は世界でも独特の雇用慣行が成り立っているといわれています。新規学卒者を短期間で複数人採用する新卒一括採用も同じく、日本固有の雇用慣行といえるでしょう。経団連が定める「就活ルール」に則り、多くの企業が一斉に学生を採用するという慣習が継続されています。また、初任給額に着目しても多くの会社の初任給は22~26万前後と、学歴別に差はありますが、概ね横並びとなっているといった特徴もあります。歴史を振り返ると、新卒一括採用や、初任給が一律水準となった経緯が見えてきます。

1870年代、日本の大学は現在でいう旧帝大でした。卒業後の進路は現在のように殆どの卒業生が事業会社に就職するのではなく、学術界や官僚の道に進む人が大多数でした。そんな中で、三菱などの財閥系の大企業が学卒者を幹部候補生として引き抜き採用するということが起き始めました。1920年代、政府が「大学令」を交付したことで大学が大幅に増え、大卒の就職希望者が増加しました。同時期にはじまった第一次世界大戦の特需で一時「売り手市場」となるも、戦争の終結や関東大震災による不況で、採用数に対する就職希望の学生数が多い、「買い手市場」となりました。このころから各社が入社選考によって志望者を選抜するようになり、現在に続く新卒一括採用の形になってきたといわれています。

その後、日中戦争が激化し、再度、特需による「売り手市場」が訪れ、初任給の高騰や、一部の大企業に学生が集中することになりました。戦況が悪化してくると政府は、新卒者を企業に割り当てる制度(1938)や初任給の一律化(1940)などの施策を実行しました。これが現在まで影響し、新卒初任給は横並びという形が形成されました。

戦後、貧困で多くの人が苦しむ中、まず生活の安定と保障を求めました。政府や企業側は、新卒一括採用や終身雇用、定期昇給を設けるとともに、不当な解雇も規制しこれに応えました。高度経済成長を迎えると、上記施策が安価な労働力でハイクオリティな製品を生産することに寄与し、新卒採用と一律の初任給をはじめとした日本型雇用慣行が普及・定着していくことになります。つまり、日本的雇用慣行は1870年第から1940年前後の戦時経済下に形成され、高度経済成長期に普及・定着したといえるでしょう。

2022年末頃からロシアウクライナ侵攻など政治的背景もあり、日本で徐々に物価が上昇しました。企業の間でも人材を投資対象である資本と考える、人的資本経営の概念が広がりを見せつつあったこともあり、賃上げの機運が高まりました。ベース給や賞与はもちろんですが、特筆すべきこととして新卒初任給の引き上げもあるでしょう。

現在、少子高齢化により大卒の人数が減少する中で企業の新卒採用競争は激化しています。特に初任給は学生の会社選びの一つの大きな要素となっており、数ある採用施策の中でも、初任給の引き上げはどの企業にも効果のある施策だと結論づける調査もあります。中には初任給の引き上げ額が賃金全体の賃上げ率を上回る企業や、初任給40万を提示する企業も現れ、これまで概ね一律の水準だった横並びの初任給の常識が崩れ始めています。

一方で初任給の引き上げには、賃金カーブの不整合や総額人件費との兼ね合い、新卒との賃金差が縮小する既存社員のモチベーション維持など、解決しなければならない課題がいくつかあります。初任給が転換点を迎える昨今、各社の工夫が求められています。

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