日本はG7諸国の中で最も自殺率が高い国ですが、その中には仕事上のストレスが原因となっているものもあります。政府独自の統計でも、不安やうつなど業務に関連した精神障害が増加しており、社会情勢から見ても状況はさらに深刻になるでしょう。リーダーがより大きな組織改革に取り組まなければ、事態は一層悪化する可能性があります。この記事では、従業員のストレスチェックについて解説します。
ストレスチェックとは何か?
日本の法律では、特定の企業が従業員に対して、業務に関連するメンタルヘルスの問題を特定し、その問題にできるだけ早く、効果的に対処することを目的とした「ストレスチェック」の受検の機会を提供することを義務付けています。
ストレスチェックとは、従業員の心の健康状態を把握するために、年1回、従業員にアンケートに回答してもらう制度です。ストレスチェックが適用されるのは、同じ職場で働く従業員が50人以上いる場合のみで、それ以外の場合は適用されません。例えば、50人の従業員がいる1つの事業所はストレスチェック法の対象となりますが、25人ずついる2つの事業所は対象外となります。また、東京本社の従業員70人にはストレスチェックの義務が適用されますが、名古屋支社の従業員30人には適用されないといったケースもあります。多数のパートタイマーや派遣社員がいる場合は、50人要件に含まれます。職場で誰もストレスチェックの話をしていなかったり、アンケートを求めていなかったりする場合、つまり、従業員からの申し出がない場合でも、ストレスチェックの質問票を提供することが義務付けられています。
また、義務ではありませんが、事業主はストレス調査のデータをチーム単位で分析し、分析結果に基づいて心理社会的な職場環境の改善(労働時間の短縮、働き方の改善、職場のコミュニケーションの改善など)を行うことが推奨されています。2017年の政府への報告によると、ストレスチェック制度は対象事業場の82.9%で実施され、これらの事業場の従業員の78.0%がストレス調査に参加し、78.3%の事業場がストレス調査データのチームによる分析を実施しました。
ストレスチェック・プログラムには、労働者のメンタルヘルス不調を1次予防するための2つの主要な構成要素があります。1つ目は、年1回のストレス調査での定期的な調査とフィードバックにより、労働者自身のストレスに対する意識を高めることで、労働者のメンタルヘルス不調のリスクを低減することを目的としています。もう1つは、集団ストレス調査結果を分析し、業務上のストレス要因を特定した上で、心理社会的な職場環境の改善に積極的に取り組むことです。ストレスチェック制度において労働者の心理的苦痛の軽減や作業パフォーマンスの向上などの効果を高めるためには、調査で収集したデータの集団分析に基づく心理社会的な職場環境改善をより強力に推進することが必要とされています。
ストレスチェックの流れ
雇用主はまず、ストレスチェックの要件を満たすために、医師やその他の資格を持った医療専門家(以下「医師」)にサービスを依頼し、ストレスチェックの質問票に記入する機会を従業員に提供する必要があります。医師は、雇用主の費用負担で質問票を確認します。その結果、従業員のストレスレベルやメンタルヘルスに懸念がある場合、医師は従業員にメンタルヘルス評価を受けることを推奨することがあります。従業員がその勧めを望む場合、従業員は診断の費用を負担しなければなりません。
なぜストレスチェックが必要?
自社がメンタルヘルス診断の費用を負担しなければならないのであれば、なぜその診断が必要なのかを知りたいと思うことでしょう。法律は、企業がアンケート結果へのアクセスを要求することを許可することで、企業のニーズと従業員のプライバシー利益のバランスを取ろうとしています。つまり、評価のための費用を負担しなければならない雇用主は、当該従業員が評価のための資格要件を満たしていることを確認することができるはずだという考え方です。しかし、従業員が評価を要求しない場合、質問票の結果は極秘にされます。
質問票の結果を閲覧できるのは、従業員と審査する医師だけです(医師は従業員に直接結果を開示します)。従業員の同意がない限り、雇用主はコピーを入手することはできません。ただし、個人を特定できない場合は、同意なくアンケート結果を入手することができます。その場合、自社はこの匿名の結果を職場の分析や改善に役立てることが可能です。雇用主は、診察した医師が従業員のメンタルヘルスを改善する方法を提案した場合、雇用主はそのための合理的な措置を講じる必要があります。例えば、所定労働時間や残業の削減、出張の制限、業務量の軽減などが考えられます。
実施のポイント
ストレスチェックの質問票は、国から提供される場合と提供されない場合があります。政府は、企業が利用できる選択式質問票を2種類用意しており、大半の企業はそのいずれかを利用する意向を示しています。また、企業が独自に質問票を作成することも可能です。しかし、実際には、雇用主はそのようにするインセンティブをほとんど持っていません。なぜなら、政府発行の質問票を使えば、ストレスチェックの要求事項を確実に満たせるからです。また、一から作成する手間も省けます。
従業員にかかるプレッシャーの大きい業界で事業を展開している場合、従業員のメンタルヘルスを守るためにできる限りのことをしたいと考える雇用主も多いでしょう。その場合、ストレスチェックの質問票を政府より詳細なものにすることもできます。ただし、最も安全な方法は、政府のアンケートに追加質問を加えることです。質問票の内容は、仕事上のストレスの原因、仕事上のストレスに悩む従業員の身体状況、同僚からのサポート度合いの3つの項目について、アンケートを実施する必要があります。そして、分析結果を認識するだけでなく、職場を改善し、そのプロセスに労働者を積極的に参加させる要素を加えると、心理的苦痛が大きく改善されるようです。
注意点
雇用主は、従業員にアンケートの記入を義務づけることはできず、アンケートはあくまで任意です。つまり、雇用主が就業規則でアンケートの実施を義務付けることは、禁止されています。また、以下のような従業員に対して、雇用主が罰則を課すこともできません。
(1)ストレスチェックに参加しないことを選択した場合
(2)アンケートの結果に基づくメンタルヘルス評価を要求または拒否した場合
(3)アンケート結果の開示を拒否した場合
企業がストレスチェックを適切に実施していることを政府が把握するため、事業主は、毎年ストレスチェック実施報告書を所轄の労働局に提出することが義務付けられています。ストレスチェック報告書を提出しなかった場合、違反として最高で50万円の罰金が科せられます。ばれることはないだろうと安易に判断すると今後の自社の信用問題にも関わるため、注意が必要です。複雑で手間がかかると判断した場合、アウトソーシングすることも可能です。雇用主は、ストレスチェックの義務の全部または一部を処理するために、外部の会社に依頼することができます。
効果的なストレスチェックの実施を
多くの雇用主は、健康な労働者が会社の生産性と全体的なビジネスパフォーマンスを高めることに気付き始めています。このような理由からも、ストレスチェックの実施は単なる義務というだけでなく、自社にとって有益なものでもあります。より効果的に行うべく、ストレスチェックの制度や流れを正しく理解して実施することが重要です。
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