エンゲージメントサーベイとは、会社と従業員との精神的なつながりや一体感を調査するものです。エンゲージメントの傾向を分析し、課題に対する対策を行うことで、会社と従業員双方に成長の相乗効果をもたらすことから、人事の分野で注目を集めている施策です。しかし進め方を間違えると「やっても意味がない」と敬遠される恐れもあります。この記事では、導入事例なども紹介しながらエンゲージメントサーベイについて解説します。

エンゲージメントサーベイとは?

従業員は、勤めている会社に対して常にある思いを抱いています。人材が定着しなかったり、従業員の士気が感じられなかったりするようなことがあれば、それは会社に対する従業員の感情があまりよいものではないという傾向の表れかもしれません。会社に対するこのような従業員の愛着度や信頼度を計って数値化するのが「従業員エンゲージメントサーベイ」という手法です。

エンゲージメント(engagement)とは、「約束」「契約」「婚約」などと訳され、このほかにも「(歯車などの)かみ合い」といった意味があります。これがビジネスの上で使用されると、従業員の気持ちが会社の理念とかみ合った際の「一体感」「愛着」「絆」などという意味に変わり、「会社への貢献の意欲」といったニュアンスの表現で用いられることになるのです。そしてサーベイ(survey)は「調査」や「測定」という意味ですから、従業員エンゲージメントサーベイとはつまり「従業員が会社へ貢献する意欲を調査、分析する」ことになります。

従業員エンゲージメントサーベイは、「ワーク・エンゲージメント」という学術的な理論に裏付けられています。ワーク・エンゲージメントとは、仕事をする際のポジティブで充実した心理状態として、「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」こと全てが揃った状態として定義され、ワーク・エンゲージメントが高ければ、仕事にやりがいを感じて、生き生きと熱意を持って取り組める状態にあるとされています。つまり従業員エンゲージメントが高ければ自身のスキルアップにつながり、一方で仕事の生産性も上がるという結果が期待されることになるのです。

従業員エンゲージメントサーベイに似た調査方法に「従業員満足度調査」がありますが、両者は内容が異なります。従業員満足度調査は労働環境の改善を主な目的に、働きやすさや福利厚生、ワークライフバランスの観点から職場環境や就労制度などについての満足度を調べるものですが、エンゲージメントサーベイの目的は離職防止や生産性の向上などであり、組織への貢献意欲や職場の人間関係、社内コミュニケーションなどの観点から従業員個々の会社への愛着度を調べるものです。すなわち職場の環境や待遇、制度への満足度ではなく、会社でのやりがいを調べるもので、そこで出てきた課題に対して何らかの対策を行うのがエンゲージメントサーベイであるといえます。

エンゲージメントサーベイはなぜ行う必要があるのか?

終身雇用制や年功序列制の見直しを背景に、ビジネスの世界では人材の流動性がますます高まってきています。企業としては、せっかく育てた優秀な人材をみすみす流出させてしまうことは大きな損失につながってしまいます。優秀な人材を確保するためには、労働条件を整備するだけでは十分といえず、「この会社が好きだ」という愛着心に基づいた情緒的な一体感が必要であるため、どうすれば従業員がやりがいをもって働いてくれるかを考えるのが重要なポイントとなってくるのです。

従業員のやりがいや愛着度のアップ、つまりエンゲージメントを向上させるためには、まず組織の状況を客観的に把握しなくてはなりません。調査項目を効果的に設定し、エンゲージメントを適切に指標化することで、組織が今どのような課題を抱えているのか、従業員が何にやりにくさを感じているのかといった問題点などが浮き彫りにされてきます。このような問題点の可視化は、原因を客観的に分析し必要な対策を的確に施せるという点で、エンゲージメントサーベイを行うメリットの一つになります。

さらに匿名で調査が行えることも利点として挙げることができます。特に部署の人間関係に関することなどは実名では相談しにくいケースもあるでしょう。匿名で答えるのであれば、言いにくい内容も具体的に伝えられるので、配置転換や各種のハラスメント対策への貴重な材料とすることができます。

エンゲージメントサーベイを通じて得られたデータは、人事をはじめとした各種の施策に生かすことが可能です。まず会社と従業員との意識のギャップが埋められる点で有効です。会社の課していたミッションが十分に浸透していなかったり、従業員のキャパシティーを超えているものであったりした場合、その溝を埋めるための材料となるでしょう。人事評価に関して、従業員が不満に思っている点などが発見できるかもしれません。社内でのコミュニケーションに何らかの風通しが悪い障害が見つかるケースもあります。これらはすべて原因を調査して、正すべき点はすぐに正すといった是正策を施すことができます。

エンゲージメントサーベイによって得られたデータを基に、このような施策を迅速に行うことで、従業員のマインドが改善され、モチベーションのアップにつながることが期待されます。モチベーションが上がると仕事への意欲がわいて生産性の向上につながります。仕事へのやる気が生まれれば、優秀な人材の流出を食い止めることにもつながり離職率も改善が見られるようになります。エンゲージメントサーベイを行うことにはこのような数多くのメリットがあるのです。

エンゲージメントサーベイの具体的な手法と実際の取り組み事例は?

エンゲージメントサーベイは内製化することもできますし、専門業者に依頼することもできます。内製化はコストがかからないのがメリットですが、設問の作成や回答の分析をすべて自前で行わなければならず、ポイントがずれると自社の実情にそぐわないぼやけた調査になってしまう恐れがありますので要注意です。業者に依頼すれば専門的ノウハウに基づいて核心を突いた調査を行うことができますが、コストがかかるというデメリットもあります。

エンゲージメントサーベイの具体的な方法としてよく知られているものに、「eNPS」があります。これは「親しい間柄の知人や友人に自分の職場をどれくらいの強さで勧めたいか」という質問を行って、その結果を数値化したもので、職場への愛着度を相対的に捉えることができる調査方法です。ほかにも「Q12」という手法が有名です。これは調査項目を12に絞り、職場での人間関係ややりがいが感じられる機会の有無、職場における自己成長などに関して各項目を5段階評価で回答するものです。いずれもエンゲージメントサーベイとして定評があるものですので、内製化する場合は参考にしてみてください。

従業員エンゲージメントサーベイに取り組んで実際に成果を上げている事例としては、スターバックスの施策を挙げることができます。同社には接客に対するマニュアルがなく、店員一人ひとりの創意工夫によるサービス方法で来店者の満足度を引き出しています。マニュアルがなくても質の高いサービスが提供きるのは、会社が従業員を信頼し、対等の立場でブランドの価値を作りだすパートナーとしてそのやり方を尊重しているからであり、従業員は会社に信頼されているという自信の中で、自らのスキルアップもはかろうと意欲的に業務に取り組むことで、会社と従業員双方にウィンウィンの関係が生まれるからだとされています。

方法としては、まず従業員の入社時に会社の理念を理解してもらうところからスタートし、個人の成長目標を設定してもらいます。そして、それとともに会社が掲げる理念の実現に向けて何をすればよいかについても言語化し、人事考課の際に、定期的に目標達成度のフィードバックを受けるというものです。この取り組みにより従業員は常に自分の成長度合いを確認でき、そのスキルアップが接客に生きて業務の生産性も同時に向上するという好循環を生んでいます。これは社員エンゲージメントサーベイを適切に応用した好例といえるでしょう。

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「エンゲージメントサーベイは意味がない」といわれないための注意点は?

数多くのメリットを持つエンゲージメントサーベイですが、運用を間違えると「意味ない」というレッテルを貼られ、従業員の協力を得られなくなることもあるので注意が必要です。そもそもエンゲージメントサーベイは、業務には直接関係のないもので、回答する従業員にとっては手間に感じられる作業として捉えられることもあります。そのため、エンゲージメントサーベイを導入する際は、その趣旨について事前に従業員に十分な説明を行って、理解を得たうえで実施する必要があります。そうしなければ、エンゲージメントサーベイが業務に支障を来す単なる邪魔者として捉えられてしまう恐れも生じてしまいます。

また、エンゲージメントサーベイについて説明する際には、決して従業員の不利益にはならないことや匿名性が担保されていることなどを説明して従業員の警戒心を解くことも大切です。回答作業はなるべく簡潔に終わるように質問を設定し、従業員の負担にならないような配慮をすることも必要でしょう。そして最も大切な点は、エンゲージメントサーベイは定期的に行わなくてはならないということです。決して1回きりで終わらせるべきではありません。定期的に行ってフィードバックを繰り返してこそはじめて従業員も調査の成果を実感できるようになるからで、単発で終われば従業員の徒労感と失望を招くだけの結果になってしまうでしょう。

成功事例を参考に自社状況を分析し「意味ない人事対策」とならないためのエンゲージメントサーベイの活用を

エンゲージメントサーベイは社員のモチベーションアップや離職率の抑制、生産性の向上などに有効な手段ですが、導入や実施の方法を間違えると、「やっても意味がない施策」として社員の協力を得られなくなってしまう恐れもあります。そのためエンゲージメントサーベイを活用するにあたっては、先行している成功事例などを参考にしながら自社の状況を分析し、運用に向けた対策をしっかりと立てたうえで進めることが大切です。

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