2022年10月26日、厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会の分科会において、デジタル給与払いについての省令改正案が了承されました。これによって、日本でもデジタル給与払いの解禁が決定しました。そこで今回はデジタル給与払いとは何かを解説します。実際にデジタル給与払いはいつから解禁されるのか、導入した場合にどのようなメリットやデメリットがあるのかなど、以下でみていきましょう。

デジタル給与払いとは?

デジタル給与払い(デジタル・ペイロール)は、電子決済などによる給与支払制度のことです。この制度によって、現金手渡しや口座振込以外の給与振込が可能になります。例えば、二次元コード(QRコード)決済に使っているデジタルアカウントへの給与支払いができるようになります。

いつから制度が開始されるの?

デジタル給与払いの制度は、2023年4月からの開始が予定されています。ただし、開始前後は、業者の指定や手続きの許諾などで手間取ることが予想されます。デジタル給与払いの利用を検討しているなら、なるべく早く準備しておいた方がよいでしょう。

デジタル給与払いを利用する際の注意点は?

デジタル給与払いを用いるには給与支払いを受ける者から「本人の同意」を得ることが必要です。デジタル振込できる金額の上限は100万円(2022年12月の時点)となっています。楽天ポイント・LINEポイントなど、現金化できない電子マネーやポイントでの支払いはできません。あるいは暗号資産(仮想通貨)の支払いも許されていません。また、条件によってはデジタルマネーでの振込が認められないケースもあるので、注意してください。なお、給与振込を手がけるデジタルマネーの資金移動業者は、厚生労働省が定める要件を満たした上で、指定を受けたものでなければなりません。デジタル給与払いを検討している場合には、これらの点をチェックしておくようにしてください。

デジタル給与払いを解禁する理由とは?

デジタル給与払いを解禁した主な理由として「キャッシュレス化の推進」が挙げられます。現在(2022年12月の時点)日本ではキャッシュレス化を浸透させたキャッシュレス社会を目指している途中です。キャッシュレス化を目指す理由は、現金の送金などのコストを排し、生産性を向上させることで、消費拡大が期待できるためです。特に訪日外国人による消費は、キャッシュレス化によって大きく成長すると言われています。

政府は2025年にはキャッシュレス決済の比率を4割まで向上させることを目指し、キャンペーンなどを打ち出してきました。しかし、経済産業省の調査によると、2021年におけるキャッシュレス決済の比率は32.5%(内訳:クレジットカード 27.7%、デビットカード 0.92%、電子マネー 2.0%、コード決済 1.8%)でしかありませんでした。他国のキャッシュレス化は日本よりも進んでいることが多いのが現状です。例えば、韓国ではおよそ9割が、イギリスや中国では7割ほどの決済がキャッシュレス化しています。

キャッシュレス化を進めるためには、クレジットカード決済・二次元コード決済・プリペイド式のICカードを用いた決済など、現金を直接用いない決済方式を多様化させるだけでなく、キャッシュレス決済の利用頻度そのものを向上させなければなりません。デジタル給与払いは、キャッシュレス用のデジタルアカウントに直接お金が入金されるようになるため、キャッシュレス決済の利用頻度を向上させる効果が期待されています。それゆえにデジタル給与払いが解禁されるようになったと考えられています。

デジタル給与払いで得られる4つのメリット

デジタル給与払いにはどのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットとしては次の4つが考えられます。

振込手数料の削減

2022年時点における日本のほとんどの企業は、銀行振込で給与支払いをしています。多くの従業員を抱えている企業では、給与支払の際に発生する振込手数料が年間で数億円にのぼることもあり、大きな負担になっています。ですが、デジタル給与払いならば、このコストがおさえられるかもしれません。デジタルマネーでの送金は、銀行振込ほどコストが高くない場合が多いからです。

利便性の向上

デジタル給与払いは給与支払いのコストが低くなるため、週払い・日払い・隔週払い・前払いなど、さまざまな給与支払方法を検討しやすくなります。受取側はキャッシュレス口座への振込やアプリへのチャージの手間がなくなるため、利便性が向上するでしょう。日ごろからキャッシュレス決済を利用している方にとって、特に大きなメリットではないでしょうか。また、電子マネーの利用は、キャッシュバックやポイント還元などの、直接的なメリットも存在します。デジタルマネーの資金移動業者が企画するキャンペーンなどを利用すれば、給与に大きな付加価値を付けられる可能性があります。

銀行口座開設が難しい人への給与支払いが可能になる

デジタル給与払いを用いれば銀行口座を介さずとも給与の支払が可能です。そのため、銀行口座の開設が難しい立場の方であっても、労働者として採用しやすくなります。日払い労働者や外国人労働者など、銀行口座開設がハードルとなっている方にとって、利便性が高い制度と言えるでしょう。また、外国人労働者にとっては、海外送金が簡単になるといったメリットもあります。ただし、振込上限である100万円を超える場合、お金を銀行口座へ移動させなければならないため、銀行口座が必要です。

企業イメージやエンゲージメントの向上

デジタル給与払い制度を導入することで、デジタル化が進む社会の潮流を先取りしている企業であるというイメージ作りができるようになります。さらに、デジタル給与払いを採用しているということが、他社との差別化にもなるでしょう。また、若い世代になるほどに、キャッシュレス決済の利用率は高くなっています。デジタル給与払い制度は、彼らにとって利便性が高い制度です。若い世代における採用面や従業員のエンゲージメントの点で、デジタル給与払いは優位に働くでしょう。

デジタル給与払いにはデメリットもある?

メリットが多いデジタル給与払いにもデメリットは存在します。代表的なデメリットは以下のとおりです。

経営リスクの問題

従来、給与振込に用いられてきた銀行や信用金庫といった金融機関は、資産要件などの厳しい条件をクリアーした上でその営業を執り行っています。しかし、デジタルマネーの資金移動業者は基本的に登録要件を満たせば営業が可能です。厚生労働省が定める要件も金融機関に課せられた条件ほどにハードルが高い物ではありません。そのため、破綻や支払いが滞るなどのリスクが発生する可能性があります。

不正利用のリスク

デジタル給与払いを導入すると、サイバー攻撃などの不正アクセスによって、払い込まれた給与が不正に引き出されるリスクが高くなります。銀行などの金融機関を利用している場合、預金者保護法により預金者(給与受取口座の名義人)は保護されています。しかし、デジタルマネーの資金移動業者の補償は、各企業の規定に任されているのが現状です。また、給与情報をはじめとする個人情報が、デジタルマネーの資金移動業者から漏えいするリスクも存在します。

事務手続きが煩雑になる

複数の支払方法(現金手渡し・口座振込・デジタル給与払い)が併存する場合、事務手続きが煩雑になるおそれがあります。管理業務が増加し、担当者の負担が増すので、人員調整などが必要になることがあります。

給与支払額に上限が存在する

デジタル給与払いの制度を用いた給与の支払には上限があります。100万円を超える支払いには用いることができません。高額給与者への支払いに不向きなので注意してください。

2023年4月から開始!デジタル給与払いを検討する場合はメリット・デメリットをよく比較しよう

デジタル給与払いの開始予定は2023年4月です。これによって二次元コード決済などの電子決済による給与支払いが可能になります。2022年における日本はキャッシュレス社会への過渡期にあります。そのため、デジタル給与払いは、すぐには広まらないかもしれません。ですが、将来的には一般的になると予想されています。なお、デジタル給与払いにはメリットだけでなくデメリットも存在します。よく検討した上で導入するようにしましょう。

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