国民に毎月決まった金額を支給する制度があります。それが「ベーシックインカム」です。支給には年齢や学歴などの条件はありません。日本でも導入に向けた様々な意見が専門家の間で交わされています。ところがその導入には、色々な壁が立ちはだかっているのです。ここではベーシックインカム導入のメリットとデメリットを紹介します。

ベーシックインカムの起源

ベーシックインカムとは、そもそも日本が起源ではありません。今から200年以上前の18世紀の末、イギリス人の「トマス・ペイン」という社会思想家によって提唱された事が始まりと言われています。現代のヨーロッパ諸国では試験的に「ベーシックインカム」を導入している国もあります。しかし、ベーシックインカム発祥の地であるイギリスも含めて、その他の諸外国では現在のところ、国家的なレベルでのベーシックインカムの導入国はありません。

ところで日本でも、このベーシックインカムの導入について、議論がなされることが増えてきました。この制度に似たものとしては、65歳以上の人が受け取ることのできる「年金制度」があります。ただし年金は現役時代に、一定以上の国民年金保険料を支払った人のみが受け取れる制度です。他にも失業した場合に支給される「失業保険」という制度もあります。これも雇用保険料を支払っているという条件で、支給されるものです。

ところがベーシックインカムというものは、上記のような保険料を支払っていなくても、支給される制度なのです。ですから生活困窮者に支給されることのある「生活保護」とやや似ている側面があります。しかし、生活保護は、一定の条件を満たしている時のみ適用される制度です。ですから、健康で働くことが出来るような人であったり、それなりの資産を所有しているような人の場合には、基本的には支給の対象にはならないのです。

このように、ベーシックインカムと生活保護や年金、失業保険とは、大きく異なる点があります。それはどのような状態であっても関係なく「無条件」ですべての国民に、一定の金額を毎月給付するという制度であるということです。このように、すべての国民に毎月一定の給付をすれば、年金制度や失業保険等もあまり意味をなさなくなる為、廃止することもできそうです。そうすれば国にとっては、財源上のメリットが有りそうな感じもします。

しかし、もともと財政上の厳しい問題を抱えている日本国にとって、すべての国民にお金を給付するベーシックインカムの実現は、大きな負担になることは言うまでもありません。前述のように諸外国でも、いまだに国レベルで本格的に導入しているところがないことから考えても、日本での導入は難しいのではないかという意見もあります。

ベーシックインカム導入のメリット

ベーシックインカムを導入することによるメリットには、様々なものがあります。まず考えられるのは「少子化対策になる」ということです。終身雇用制度や年功序列制度が昔のように機能しなくなっているため、正社員であっても安定した将来があるとは限りません。ましてや派遣社員などでは正社員と同じ仕事内容でも、給料が安く抑えられています。そのような人たちは収入が少ないために、結婚をせずに生涯独身で過ごすという人も増えています。その結果、少子化がさらに進行していくことになるのです。ところがベーシックインカムがあれば、いわゆる「ワーキングプア」状態の人であっても、仕事の収入に加えてベーシックインカムの収入がダブルで入ります。両方があれば生活が楽になり、結婚や子育てが出来る可能性が広がります。

他にも「労働環境問題の解決」にもつながると考えられます。日本には数百万社の会社があるといわれています。その中の一部には労働環境が悪いいわゆる「ブラック企業」も存在しています。そのような会社に勤めている人の中には金銭的な問題を抱えて、辞めたくてもやめられない状況に陥っている人も少なからずいるものです。ですが、ベーシックインカムがあれば、職場を辞めても収入が「ゼロ」になることがありません。ですからブラック企業に嫌気がさして、退職したい場合にはスムーズに辞められる可能性が高まります。

それ以外であれば「働き方も多様化する」メリットもあります。収入を増やしたいのであれば正社員として働き、さらに時間外労働などをこなす必要があります。ところが毎月のベーシックインカムがあれば、なにも正社員にこだわる必要はありません。アルバイトやパート、契約社員などの時間給労働であっても「ダブルインカム」を得ることができます。それゆえ自分の時間を確保することが出来るというメリットもあります。その時間を使って自分の趣味や子育て、あるいは副業などをすることも可能です。

ベーシックインカム導入のデメリット

ベーシックインカムが導入された場合、まず想定されるデメリットは「国の財源に大きな負担が掛かる」ということです。ベーシックインカム導入の中でも一番の問題点がこの「財源の確保」なのです。もしも日本でベーシックインカムが導入された場合、毎月どのくらいの負担が国の財政にかかるのでしょうか。例えば、日本人は1億2,000万人として、毎月7万円の支給をすると考えます。すると、毎月の予算が8兆円プラスされることになるのです。年間では96兆円程の負担が国の財政にのしかかります。この財源はどこから確保するべきかが大きな議論になってしまうのです。一番考えられるのは消費税等の増税などにより財源を確保する方法で、国民の負担が大きくなることも考えられます。

他にも「労働意欲が落ちる人が出る」こともありえます。前述のとおり、毎月ベーシックインカムの収入があると、非正社員でもある程度は安定した生活が出来るようになるというメリットが有ります。その反面、ベーシックインカムだけの収入に頼り、労働意欲を失う人が出るのではないかという事も考えられます。ベーシックインカムの収入だけで生活できる場合には、働く必要性が基本的になくなりますので、正社員を目指す人が減少したり、入社してもすぐにやめてしまう人が増えるのではないかという意見もあるのです。

それ以外にも、企業の中に「生き残れない会社が出る」ことも考えられます。ベーシックインカムによる収入があれば、働く人たちが職場を選ぶことが出来るようになります。上記のようにブラック企業であれば、すぐにやめることも出来ます。ですがブラック企業でなくても、元々普段から人気のない職種には、さらに人材が集まらなくなるのではないかという懸念もあるのです。そのため、そのような企業は良い人材を求めて時給を上げたりするために、それが会社の経営を圧迫することがあります。それが原因で事業の縮小や、倒産等が増加するという事も考えられるのです。

そしてもし、日本にベーシックインカムが導入されたとしても、いったい国民一人あたりにいくら支給したらよいのか、大変難しい判断を迫られます。人によっては5万円でも満足できる人もいれば、10万円以上ほしい人もいることでしょう。中には20万円以上が理想という人もいるかもしれません。仮にもしも導入されるようなことがあれば、最低限の生活が営めるような金額になるかもしれませんが、人によって価値観が違うこともあり、国民の大半が納得できるような金額に落ち着かせるのは困難でしょう。

ベーシックインカム導入ならば議論と準備が必要

ベーシックインカムとは、全国民に条件なしで毎月現金を支給するという制度です。少子化対策等に対してメリットがあります。ですが、その財源はどこから生み出すのかということは、ますます議論を重ねる必要がありそうです。これから、日本でもさらに「ベーシックインカム」が注目されていき、ひょっとしたら導入される可能性があるかもしれません。その前にはしっかりと導入に向けた準備を行う必要があります。

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