投資を通じて社会をよくしたいと考えたことはありませんか。「SRI」とは、よりよい社会を実現させるための、投資活動の1つです。近年では日本の投資環境においてもSRIは注目されるようになってきました。SRIとはどんな投資活動のことなのでしょうか。この記事ではSRIについて、その意味、発生の歴史、SRIと類似する概念であるESGとの違いについて説明します。
投資活動SRI!その意味やメリットについて
SRI(Socially Responsible Investment)とは、企業の社会的責任(CSR)を考慮した投資活動のことを意味します。日本語では「社会的責任投資」と呼びます。投資は基本的に資本増加を目指すため、企業の将来性・企業の市場価値・サービスや商品の需要など、財務的な価値や成長性といったものを、投資先選定の判断材料とするのが一般的です。しかし、SRIでは財務的な価値や成長性だけで投資先を選びません。企業がいかなる社会的責任を果たしている(あるいは果たそうとしている)かを、社会的・倫理的側面から判断して、投資先を決定します。
CSRとは?
CSRとは「Corporate Social Responsibility」を略したもので、企業の社会的責任を意味します。経済産業省ではCSRを「企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻く様々なステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方」と定義付けています。例えば、労働環境の適正化・地域社会への貢献・環境保全・コンプライアンス(法令遵守)といったものへの取組みは、社会的責任を果たしているものと捉えることができるでしょう。
なお、自発的にCSRへの取組みに注力したい場合には、経済産業省が発表しているCSRあるいは人権啓発に関する資料や冊子を参考にするとよいでしょう。
SRIに取り組むメリットは?
企業がSRI投資の呼び込みに注力することには、さまざまなメリットがあります。以下に主なメリットを紹介します。
- 顧客や投資家からの信頼が得られやすくなる。
- リスク管理がしやすくなる。
- ブランド力が向上する。
- 従業員との関係性が強化される。
- 人材募集において好影響が得られる。
いつSRIは生まれたの?SRIの歴史について
SRIは100年以上の歴史がある投資についての考え方です。この考え方が生まれたのは1920年代のアメリカであるとされています。
1920年:SRIの誕生
1920年当時のキリスト教の教会では、集めた寄付金を用いて、投資などにあてていました。しかし、宗教団体である以上は、利益だけを求めて自由に投資するのは、好ましいこととはいえません。当時のキリスト教会においても、教義と相反するものへの投資は倫理的ではないと判断しました。その結果、武器・たばこ・アルコール・ギャンブルに関わるものは、投資対象から外すという取り決めがなされました。このネガティブ・スクリーニング(Negative Screening)こそが、SRIの始まりであると考えられています。
1960年:世界に広まるSRI
SRIの考え方は、欧米を中心に世界へと広まっていきました。1960年代にはベトナム戦争がSRIの広まりに大きな影響を与えます。戦争に用いられた枯葉剤やナパーム弾の製造に関わる先へ投資をすることが倫理的な問題として捉えられたからです。また、1966年に南アフリカのアパルトヘイト政策が「人道に対する罪」として国連から非難された後には、南アフリカおよびアパルトヘイト政策を支持したり、人種差別を助長したりする企業への投資は、倫理的な問題とされました。
1990年:SRIの変遷
1990年代になると、世界における環境問題が社会においての関心事項となります。例えば、オゾン層破壊問題・二酸化炭素排出問題・気候変動問題・森林や生態系の保護などです。一企業だけでは対処しきれない社会全体で立ち向かうべき問題が、投資先として注視されるようになりました。
なお、1990年代のSRIからは「環境的側面」「社会的側面」「経済的側面」という3つの軸(Triple Bottom Line, トリプルボトムライン)によって企業を評価し、優れた企業に対して率先して投資が行われるようになりました。60年代と比較して90年代からのSRIは、評価軸に対してポジティブな企業を選別するポジティブ・スクリーニング(Positive Screening)が採用されるようになったといえるでしょう。90年代に生まれたSRIの考え方は、基本スキームとして2000年代にも引き継がれています。
2000年以降のSRIの動向
2000年代からは、企業活動によって引き起こされたさまざまな社会問題が注目を集めるようになり、問題可決に寄与する手法としてSRIが再認識されるようになりました。特に2006年、国連において国連事務総長コフィー・アナン氏が中心となって策定した「責任投資原則ガイドライン(PRI:Principles for Responsible Investment)」の発表は、SRIが加速する契機となったといえるでしょう。これは投資家に責任ある投資を行わせるための原則であり指針でもあります。機関投資家を主な対象として、社会課題を考慮しながら「環境(Environment)」「社会(Society)」「ガバナンス(Governance)」に取り組む企業を投資先に選ぶように促しました。なお、2020年代においては、この考え方はより積極的な投資を行うためのポジティブ・スクリーニングへと進歩しています。
日本におけるSRIの広まり
日本でSRIと呼べる考え方が登場したのは比較的近年のことで、1989年に福島第二原発3号機で起きた事故がきっかけであるとされています。この事故の国際原子力事象評価尺度による影響度はレベル2でした。この事故を契機として脱原発を掲げる株主運動や、企業への投資が盛んとなりました。1996年には、ISO14001(環境マネジメントシステムの国際規格)が発行されたことで、企業や投資家の間で環境への関心度が高まっていきます。1999年には環境問題への対処を盛り込んだ金融商品「日興エコファンド」が登場し、本格的にSRIが開始しました。
SRIとESGの違いについて解説
SRIと類似する概念でESGというものがあります。この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。以下において、ESGとは何かを説明した上で、2つの違いについて解説します。
ESGとはなに?
ESG(Environmental, Social, Corporate Governance)とは、持続可能な経済性と社会課題を考慮した投資活動のことを意味します。投資の検討に用いられる3つの要素「環境(Environment)」「社会(Society)」「企業統治(ガバナンス, Governance)」の頭文字を合わせて「ESG」と呼ばれるようになりました。ESGという言葉が初めて登場したのは2004年のことです。国連の呼びかけによって金融機関が共同で作成した報告書「Who Cares Wins」において用いられました。
基本的には同じ?SRIとESGの違いとは
SRIとESGは、倫理的・社会的に適切な企業を選択する投資活動であるという点ではどちらも同じであることから、ほぼ同義として用いられています。しかし、SRIとESGには次のような点で違いがあります。
SRIはキリスト教文化が元となった社会運動の1つとしてスタートした、社会的課題の解決を目的とする考え方です。言うなれば「企業への期待」を社会に反映させるための投資です。言葉を返せば、SRIにおいては、期待を社会に反映させられるだけの力を持った優れた企業だけを投資の対象とすれば事足ります。したがって、社会への影響が小さな企業に対して、積極的に投資をする必要性はないといえます。
一方でESGは、企業の経営に大切な「環境問題」「社会的課題」「企業統治」といった3つの要素への取組みを考慮することで、社会的に有用な企業を投資先として選択する投資活動です。ESGはいわば「投資のフレームワーク」といえるでしょう。3つの要素を元にしたフレームワークに適合するのであれば、ESGにおける投資先はどのようなものでもかまいません。つまりはESGであれば、社会への影響が小さな企業であっても、積極的に投資対象として選択することが可能となります。
社会的責任を評価するSRI!現代の課題解決にも効果的
SRIは企業の社会的責任を評価して投資先を選択する投資活動です。ESGと類似していますが、SRIは企業への期待を社会に反映させる投資活動で、ESGは社会的・倫理的な投資先を選択するためのフレームワークであるといえるでしょう。さまざまな社会的な課題を抱える現代においても、SRIが持つ社会的・倫理的な正しさは、課題解決の有用な手段となり得ます。そのため、これからも多くの企業がSRI投資に注力することでしょう。
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