外国人社員採用の背景
近年、外国人社員を積極的に採用する動きが目立っています。LINEやメルカリでは外国人社員を数十名単位で採用するなど、国外からの優秀人材の獲得を進めています。
外国人採用は単に人材不足を補う施策ではなく、ダイバーシティマネジメントの一環といえます。日本ではダイバーシティマネジメントを、女性活躍推進、シニア社員の活用、障がい者雇用、働き方改革などの施策で実践してきました。
しかしながら、これらの施策は、「これからはダイバーシティマネジメントが重要である」という、世の中の風潮に対する形式的な対応に留まるケースも散見されました。
ダイバーシティマネジメントの本来の目的は、均一ではなく多様な人材のアイディアをビジネスに活かすことで、多様化する社会ニーズに対して付加価値を提供することにあります。特にグローバル化が急速に進み、マーケットがボーダレスとなる現代においては、多様な社員のアイディアを戦略に活かすことが、ビジネスでの競争力強化の必須要件と考えられます。
外国人社員の定着施策のポイント
外国人社員のアイディアをビジネス創造へつなげるための施策と、日本の人事慣習によるビジネス創造阻害要因ついて考えてみます。
人事戦略の確認
第一に、人事戦略の確認です。企業理念やビジョンの実現や事業戦略へ対応するために、どんな人材(考え方・技術力)が必要なのか、その人材にどんな成果を出してもらいたいのか、組織はどうあるべきか、を明確にした人事戦略を持ち、それ社員にも明示することが必要だと考えます。日本の企業では人事戦略が不明確であるか、人事戦略から落とし込まれる期待役割と成果を社員へ明示していない場合が多いと感じます。
例えば職務分掌を例に挙げると、日本では「属人主義」に則って職務分掌を持たない場合が多く、社員は入社後、担当業務などが示されるまで自分の業務内容が分からない、他部署へのジョブローテーション、マルチタスクをこなす、という慣習があります。一方海外では「職務主義」により、職務分掌を明確に社員へ提示し、社員は自分の役割や業務、果たすべき成果を理解している状態から就業をスタートさせています。このような日本と海外での人事慣習の違いを理解し、外国人社員が日本での就業に対して違和感を持たないような人事施策を実行し、人事戦略と外国人社員の行動・成果が結びつくように工夫することが重要です。
人材マネジメントポリシーの決定
第二に、人材マネジメントポリシーの決定です。人材マネジメントポリシーとは、人事戦略を行動指針や方針に落とし込んだものです。外国人社員を活かすためには、外国人社員だけにフォーカスしてもうまくいきません。外国人社員を取り巻く各階層の役割・姿勢を定義し実践することで、組織全体がダイバーシティ実現に向けて動き出すことができます。各階層の中で特に重要なのは経営層になります。労働者の均一性を正としてきた日本社会において、経営層には日本人男性(均一)と外国人(多様)を完全に同じ扱いとするのか、という方針を明確にしてもらうことが重要です。
ある大手企業の事例を紹介します。技術力があり日本語のできる外国人社員を採用しまし外国人社員は管理職までのキャリアパスはあるが、人事部では外国人社員に日本人の部下は付けない、という方針を持っていました。この方針は人事戦略と合っているのでしょうか。人材マネジメントポリシーに経営層の取組み姿勢も明記することで、人事戦略と合った方針策定ができます。
Input-Throughput-Output施策の明確化
第三に、Input-Throughput-Output施策の明確化です。外国人社員のアイディアを活かすことは、「イノベーションの創出」を生み出します。外国人社員によるイノベーションとは、「開発」と「市場開拓」が挙げられます。それを踏まえた上で、Input-Throughput-Outputそれぞれについて見ていきます。
Input:【外国人社員の採用】
- 海外大学へのアプローチ
- 日本在留の留学生へのアプローチ
- 自社海外子会社からの転籍や研修による渡日
Throughput:【商品開発】
- 能力の把握:社員の保有資格、スキル、能力、経験内容を収集することで、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取組みにつなげる、など。
- 日本生活と日本文化への理解を深めるサポート、宗教上の慣習への配慮、生活トラブルへのサポート、社内で円滑な交流ができるようなサポート、など。
- 能力開発:技術習得プログラムの確立、ジョブローテーションを通しての交流と事業理解、経営企画や商品開発への参画、など。
Output:【新価値の拡販】
- Uターンにより自国コミュニティを活かした拡販、技術を海外拠点へ伝達し商品クオリティ改善による拡販、など。
一つポイントとなることは、日本語教育支援を入れていないことです。日本語教育は生活サポートの一環として必要施策ではありますが、重点施策には入らないと考えます。以前日本で就業している外国人へヒアリングしたところ、「優秀な外国人は日本就業の目的を、仕事ができるようになり、ポジションを上げていくこと。日本語教育に魅力は感じていない」と話していました。日本語教育は行うものの、主軸は自社技術を伝承することとして、早い段階でイノベーション創出を促すことが得策と考えます。例えば、メルカリの生活サポート施策では、言語や文化の壁を取り除くべく「グローバルオペレーションズチーム」を設置し、外国人社員が円滑に業務ができるようサポート体制を整えています。
外国人社員受入れ現場の意識転換
最後に、外国人社員受入れ現場の意識転換です。人事戦略、人材マネジメントポリシーが明確になっても、それが現場マネジメントに正確に伝わっていなければ、外国人社員を活かすことは難しくなります。日本人と外国人では育った環境や文化が大きく異なるため、「私の常識はあなたの非常識」という場面が日々発生します。いわゆる「阿吽の呼吸」は通用しないと考えた方がいいでしょう。現場マネジメントには自分の持つ思い込みや常識を排除し、相手の考え方や理解度を見極めて適切に対応する、という姿勢を持って人材マネジメントポリシーを実践してもらう必要があります。
また人はそれぞれ、アンコシャス・バイアス(無意識の偏見)を持っています。例えば以下のようなことが挙げられます。
- 外国人は仕事の期日を守らない
- 最近の若者は根性がない
- シニアはITに弱い
- 女性は管理職に向かない
無意識の偏見を持つことで、状況を正確に理解しないまま、相手のことを判断し能力開発を阻害する、機会を逃す、ということはよくあります。アンコシャス・バイアス研修の実施により、現場マネジメントが外国人社員を活かせるような取組みができるよう、サポートする必要があります。
グローバル社会で生き残るためには、企業は外国人社員はじめ多様な能力の掛け合わせによるイノベーション創出を促すことが求められます。それを実現するために人事部は、人事戦略、人材マネジメントポリシー、当該社員の能力開発、現場マネジメントへの理解促進を一気通貫で実施することが重要です。
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