日本では長らく賃上げに対して消極的な態度をとってきました。しかし、2023年ではその状況が一変したようです。なんと6割もの中小企業が賃上げを予定しているからです。なぜ多くの中小企業が賃上げを予定しているのでしょうか。以下ではその理由について解説するとともに、賃上げを検討している中小企業におすすめの各種施策の紹介をします。賃上げに興味がある経営者や人事担当の方は、ぜひ一読ください。

2023年は多くの中小企業が賃上げを予定!賃上げの理由トップ3について解説

日本商工会議所と東京商工会議所がまとめた「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」(調査対象:全国47都道府県の中小企業6,013社、調査期間:2023年2月1日から2月28日、回答割合:55.0%)では、2023年度に賃金アップを予定している企業は全体のおよそ58.2%(前年度から12.4ポイント増)でした。一見すると、まるで日本全体の景気が良くなったかのような回答ですが、その多くは防衛的賃上げを狙ってのことです。

防衛的賃上げとは、消極的な理由から行われる、利益の還元とはいえない賃上げのことです。実際、防衛的な賃上げを予定していると答えた中小企業は全体の6割を超えました。では、賃上げの理由にはどのようなものがあるのでしょうか。以下で具体的な賃上げの理由トップ3を見ていきましょう。

3位 物価上昇対策:約51.1%

2022年から2023年にかけて、世界では物価高が顕著になっています。日本もまた物価高による強い影響を受けています。日経新聞の調べ(2023年1月20日「消費者物価、22年12月4.0%上昇41年ぶり上げ幅」)によれば、2022年12月までの期間で物価上昇は連続16カ月続きました。その上昇率はおよそ4.0%。日本銀行が目標としてあげていた物価上昇率2%の2倍です。消費税の増税時期以外では、31年ぶりの物価上昇率と言われています。当然のことながら物価上昇は従業員の生活に影響を与えます。従来通りの給与では不安に感じることもあるでしょう。そのため、中小企業も従業員の生活を守るために賃上げを検討するようになりました。

「インフレ手当」の支給で乗り切る中小企業も

すべての中小企業が基本給の賃上げができるわけではありません。そこで注目を集めているのが一時金としての「インフレ手当」です。「インフレ手当」とは、物価上昇の影響を受けた従業員の生活支援を目的にした特別手当のことです。「物価上昇対策費」「物価上昇応援手当」などと呼ばれることもあります。基本給を賃上げする場合、税務処理などで事務処理が煩雑になりがちです。また、就業規則を改定しなければなりません。一時金として「インフレ手当て」を支給する場合、事務処理が簡単・就業規則の改定が不用・継続的な支給をしなくてよい、といったメリットがあります。

帝国データバンクがまとめた「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」(対象:期間:2022年11月11日から11月15日、有効回答数:1248社)によれば、物価上昇対策にインフレ手当の支給あるいは支給を検討している企業の数(支給:6.6%、支給予定:14.1%、支給検討:14.1%)は、全体の26.4%にのぼりました。その約66.6%の企業が一時金による支給を選択しています。なお、一時金による平均支給額は54,700円でした。

2位 人材確保:約58.8%

日本は少子高齢化が進んでおり、労働人口が年々減少しています。このような状況の中で優秀な人材の確保は中小企業にとって喫緊の課題といえるでしょう。特にデジタル分野における人材確保は争奪戦が激しくなっています。また、長年のデフレーションによって、日本の給与はけっして高いとはいえない水準です。そのため、海外への人材流出が増加しており、さらに人材確保は難しくなっています。中小企業においても人材争奪競争に勝ち抜くために、賃上げが余儀なくされています。

1位 従業員のモチベーションアップ:約77.7%

賃上げは古くから多くの企業において用いられてきた、モチベーションアップのための方法です。人材流出を防ぐためにも効果的とされています。また、収入の増加は安心につながります。物価高や経済不況など従業員の心理的負担が多い時代には、高い効果が見込める手法といえるでしょう。

ただし、賃上げが必ずしもモチベーションアップに直結するかといえば、そうではありません。人間には大別すると生理的欲求・安全欲求・所属欲求・承認欲求・自己実現欲求の5つの欲求があるとされています。賃金アップはこれらの欲求すべてを満たす答えにはなり得ないからです。そのため、モチベーションアップを検討する場合には、賃上げと同時に、社内環境の整備や働き方の改善にも手を加えることをおすすめします。

経済産業省の施策を利用

日本の中小企業には上述のような賃上げをしなければならない理由があります。しかし、現在の企業状況では「賃上げは無理」という会社も少なくないでしょう。そのような中小企業は補助金や助成金といった政府の施策を利用してみてはいかがでしょうか。経済産業省では賃金引上げにつなげるための施策をいくつか用意しています。これらをうまく使えば、賃上げによる負担を大きく緩和させられるでしょう。

中小企業向け「賃上げ促進税制」の利用

2022年度の税制改正により、中小企業が雇用者給与などを増額した場合、一定の税控除が受けられます。2023年時点で対象となるのは、2022年4月1日以降に開始する事業年度で、2024年3月31日までのものです。制度の適用要件は「雇用者などの給与等支払額が前年より1.5%上昇」させることです。達成することで増加させた額の15%を法人税より控除できるようになります。なお、「賃上げ促進税制」は要件を上乗せすることが可能です。2.5%以上給与支払額を増加させた場合は税額控除率を15%、教育訓練費の額を10%以上増やした場合は税額控除率を10%上乗せできます。

中小企業向け補助金の利用

従業員の賃上げを検討する際に、やはり気になるのが自社の収益性ではないでしょうか。設備投資などで収益性の向上が図れる場合には各種補助金の利用をおすすめします。

例えば、中小企業の新分野展開あるいは業務転換など、構造変化を促すための補助金である「事業再構築補助金」、革新的な製品やサービスの開発や、業務プロセスの改善を促すことを目的に支給される「ものづくり・商業・サービス補助金」が、収益性の向上に結びつく主な補助金制度の例として挙げられます。上手く使えば、賃上げ対策として利用することも可能です。ただし、あくまでもこれらの補助金は「賃上げ」を直接の目的にはしていません。補助金の目的外利用とならないように注意が必要です。

団結

厚生労働省の施策を利用

中小企業の賃上げは国家としても積極的に働きかけたい事柄です。そのため、経済産業省に協力する形で厚生労働省も賃上げ支援に乗り出しています。支援は主に「専門家派遣および相談支援事業の開設」「事業改善助成金」「働き方改革推進支援助成金」の3つです。

専門家派遣および相談支援事業の開設

生産性の向上が見込めなければ、中小企業における賃上げは難しいものです。中小企業の多くが賃上げに対して消極的になってしまう大きな理由です。厚生労働省は中小企業庁の支援事業と連携しながら、経営改善をバックアップしようという施策を行っています。ワン・ストップ型の相談窓口が設けられているので、経営改善に興味がある企業は相談してみるとよいでしょう。

事業改善助成金

生産性向上のための事業改善をしたくとも、資金がなければうまくいきません。そこで厚生労働省は中小企業へ業務改善助成金を支出することで、生産性向上のための設備投資などを促し、事業内最低賃金の引き上げを図っています。この助成金は設備投資にかかった費用の一部を助成します。現在、設備投資の予定があるのならば「事業改善助成金」の利用を検討してみるとよいでしょう。

働き方改革推進支援助成金

働き方改革推進支援助成金には5つのコースがあります。その1つである「団体推進コース」は、中小企業などが時間外労働の削減や賃金引き上げの取組みをした場合に、事業者団体などに対して支払われる助成金のことです。事業者団体を構成するすべての者が利益を享受できる施策です。ただし、助成を受けるには、事前に支援対象となる取組みを決め、目標を設定しておく必要があります。支給額は対象経費の合計額あるいは総事業費から収入額を控除した額です。なお、上限額は500万円となっています。

賃上げは中小企業にとって差し迫った問題!うまく施策を利用して会社の成長につなげよう

2023年の日本は防衛的な意味合いの賃上げが求められている状況にあるといえます。そのなかでライバル企業より一歩先に行くためには、行政機関が行っている施策の利用が欠かせないといえるでしょう。施策には生産性や収益性の向上を目的とするものや、相談窓口となるもの、あるいは専門家派遣など、さまざまなタイプがあります。ぜひ、施策を上手に利用して、賃上げを成功させるとともに会社を成長させてください。

 

 

 

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